それぞれの思い 1
「ちゅきむね」
小さなおててに箱を抱えた涼風が言う。
なんの装飾もない、プレゼントらしくない薄い木の箱。
テーブルの上のプレゼントの山はいつもどおり種族ごとに分かれていて、笹音さんと恭からの物だ。
八咫烏の紋章の入った山が無かったので、あぁ、そうか、と思った矢先の出来事だった。
薄い、木の箱。
必ずあったリボンもない。
重い体を起こして受け取ると、涼風が膝の上に入り込んで早く開けろとせがむ。
「何だろう……」
おそるおそる桐の蓋を開けると涼風の小さな頭が覗き込む。
「っ……、これ………………」
ママの宝物。ここぞという時に使う、長い飾り尾がついた扇子。
ピンクの不揃い珊瑚のビーズと幾重もの長いリボンが上品で、ママがくるりと回るとフワリと体の周りを舞う飾り尾。
ママが亡くなった時、取られた拍子に繋いだ糸がちぎられて珊瑚は殆ど残ってなかったはず。なのに。
「修繕、されてる……?」
リボンも新品みたいに綺麗だし、金メッキの剥げかけていた扇子の要部分は見違えるほど美しくなっている。
「ゔぅ…………」
ボロボロと涙が落ちて、涼風の頭に落ちる。
オロオロとした涼風が私のほっぺをペタペタと触り、涙を拭う。
嫌いになれない。
もうならなくても良い。
私の初恋。
「お礼を……言いに行こうか」
明日の朝にはまた狛犬の里にかえる。
その前に。
彼の役に立ちたかった。
桜子みたいに。
必要とされたかった。
————大好きだった。
◇◆◇
レレさんもマキノさんも見当たらない。
涼風を抱いてフラフラと階段を下ると、踊り場で桜子と出くわした。
桜子の天衛が涼風に頭を下げるのを、怪訝な目で見ている。
「出てこないで」
私に向き合った桜子が言う。
「私と兄様の邪魔をしないで」
「っ……邪魔なんて……」
私は何もしていない。
悠君の事は好きでも何でもないのに。
「カラスの里にいれば朔の日以外でも会えるからって兄様が言ってくださった。やっと私を見て下さったの」
「………………??」
「出ていってくれてよかったわ?兄様との邪魔をしないならいい事をおしえてあげる。カラスの当主はね、あんたのそれを取り戻すために私にキスしたのよ。馬鹿みたい。そんなもののために」
私の腕の中で涼風が持つ扇を見て桜子が言う。
———ああ、本当にあの人は。
「だからって帰ってこないでよね。まぁどうせ八咫烏は私を選ぶしか無いんでしょう?私の邪魔はしないで。
せっかく兄様が私に会いたいといってくださったのだから。これからみんなで飲むの。あんたはこないでよね」
涼風に頭を下げ続ける382番をぐいと引っ張り去っていく。
へなへなとその場に座り込んだ私を心配そうに覗き込む涼風が、移転の神術を使ったのがわかった。
次の瞬間にはもう自室のベッドの上にいた。
熱と涙で頭がぐちゃぐちゃになる。
「お嬢様…………………??」
ドアからレレさんが顔を出し、慌てた彼女によってまたベッドに寝かされた。
あの人に会いたいけれど、役には立てない事が辛い。
八咫烏の事情に力を貸せる桜子の様になりたかった。
———あの人の、役に立ちたかった。




