四当主の会談 月宗SIDE
「紫波、結衣の容体は」
「疲労と……ストレスか。薬は飲ませたから熱は下がるはずだ。あとはしっかり食べさせてやって欲しい。出された食事のほとんどを、残していたそうだ」
「どういうことだ天道寺」
地を這うような声が出る。
「俺の責任ではない。誰かの里で深く傷ついた彼女はうちで療養している所だ。おおむね穏やかに過ごしている。時間は必要だろうが」
奥歯を噛んで怒りを抑え、言葉を飲み込む。痩せた結衣の姿が脳裏から離れない。
「紫波殿、頑なに同盟すら拒んでいた蛇が、なぜここに来て急に青幽殿に下ったのか聞いても?」
それまで黙っていた笹音が紫波に問う。
「限界が来ていたという事だ。現世からしか得られない植物もあるんでな。八咫烏の元に下るのは都合がよかったまで」
「言っていただければ我らとて現世に兵の派遣はできましたが。まぁ、どうせ喋らないものを無理に聞き出すことはしませんよ」
「他意はない。蛇一族は既に青幽家に忠誠を誓っている。文句はご当主殿に言ってくれ」
「何が有利に働くか分からんな」
結衣が絡んでいると知れば、また面倒な事になる。いつかはバレるとしてもそれまでは平穏でいてほしい。
「兄上は現世に戻られたのか」
天道寺が聞く。こいつの顔を見るだけでイライラする。
「ああ。お前の所に連れて行けと騒いだが、禊の日数が足らんと一蹴したらすぐ帰った」
「桜子殿は何故ここにお戻りにならないのでしょう。兄上にお会いになりに行っただけでしょうに」
笹音が静かに俺に聞く。
こいつは最初から桜子狙いなのが見えている。
「兄貴に何か言われたようだな。うちにいれば会いやすいとかなんとか。一族が浮き足立って、いい迷惑だ」
「そういう環境全てをひっくるめての嫁取りなのですよ。当人同士がどう思おうと上手く行く時もいかない時もある」
「はぁ?お前らと一緒にすんな。八咫烏の執着は3輪廻なんだよ。何のためにお前らと裏で取引したと思ってる。仕事しろよ。放牧してんじゃねぇよ」
「お力の強い桜子様に手を出さない代わりに結衣様の使用人を八咫烏でまとめたというだけの話ですが」
目を閉じたまま優雅に茶を飲む笹音が言う。
「だからしっかりつかまえとけよ」
「我らがゆいに近付かないというわけではない。あくまで侍女の采配の話だけだ」
「んなことは分かってんだよ!!!」
ビリビリと三当主の妖力が牽制し合い、天井のシャンデリアが割れる音がした。
パラパラとガラスの破片が床に落ちていく。
笹音は何ごともなかったかの様にゆったり微笑み、天道寺も飄々と茶を飲んでいる。
「何これ!!!!おいちゃん怖いからもう帰っていいかな!?!!」
◇◆◇
「ストレスだろうな。姫ちゃん可哀想」
ジト目で俺を見る紫波を睨んで黙らせる。
「お会いできないとなれば誤解の解きようもありません」
光久がため息をつく。
「誤解なの!?他の女と接吻した事が!?おいちゃん最近の子の恋愛怖い!!」
「うるせぇぞ紫波」
「ひっ!目が座ってる!!」
「一族の当主いうんは、なかなか骨が折れるもんやな。手の空いた四つ守をあの女につけはらへんのは、まだ諦めてへんからやろ。四つ守はご当主の意思に従うまでやわ」
「俺あの姫様苦手なんで助かります!!ずっと護衛は夜臣さんで!!!」
雲雀と小四郎がごちゃごちゃとうるさい。
「夜臣殿も辟易しているそうですよ。あの姫のわがままっぷりに。それでも、一族の為だと護衛についているのでしょう」
「お兄さんはどっちでもいいよ~~~わがままな子、手懐けてみたい!」
光久のセリフに涼がふざけた答えを返す。
「結衣が桜子に劣っているところなど一つもない。…………だが婚姻が結ばれれば涼風は天に帰るし結衣の力は限定的だ。公表もできんしな」
「花嫁として求められる力いうたら、あっちの姫さんが一番分かりやすう揃えてはるやろ。人となりまで揃えてはったら、文句のつけようもあらしまへんのに。」
「力がどうであろうと、俺は結衣しか見えてない。一族なんて知らんと切り捨てられれば一番楽だが」
そんな事はできない事は俺が一番よくわかっている。俺の心がどうであれ、一族の当主としての行動しか許されていない。
「さぞ楽しいやろなぁ神さんは。こないな嫁取り合戦、上からゆっくり見物しはって。血ぃ流すんは下のもんだけ、勝っても負けても、痛いんは僕らだけやもん。よう出来た芝居を、ええ席で眺めてはる。そら退屈せえへんはずやわ」
「雲雀、口が過ぎますよ。ですが…………本当にそうですね。我らが姫だけでも、お守りしたいのですが……」
守ることすらままならない。
幸せであればいいと思う。
八咫烏の事情に巻き込みたくはないとも思う。
心から渇望する宝に、幸せであってほしい。




