恭の人気 2
「楽しそうだな?」
類君と涼風が楽しそうに踊り、その周りを獅子丸がぐるぐる回るのを見た恭が言う。
今日は昼食に誘われていたので迎えに来たのだろう。
エルシアさんがスッと一礼した後壁際に下がる。恭から話しかけない限りは下の者から話す事はない。
「今日はバラ園に用意させた。歩けるか?」
そう言って楽しそうに笑う。
恭のエスコートは柔らかい。私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれているのが分かる。
お城はわりと沢山の貴族が出入りしているけれど、このお庭は人が少ない。
位の高い人専用なのかもしれない。
「素敵ですね」
満開のオレンジのバラ。
柔らかいオレンジ色が珍しく、大ぶりな花はとても可愛らしい。
「切花は苦手と聞いた。これならばどうかなと思った」
「ふふ、ありがとうございます」
「第一天衛、隣にバラの迷路があるぞ。獅子丸を連れて遊んでこい」
獅子丸に乗った涼風は恭をジッと見てからプイッとそっぽを向いた。
「駄目か。二人きりになりたかったのだが」
そう言ってケラケラと笑う。笑うととても幼く見える人だ。
小道の奥にガゼボが見えてきた時に、女の子の集団と行き合った。
皆頭を下げて脇に寄る中、1人だけ堂々とその場でカーテシーをする淑女がいる。
薄い金髪の綺麗な人で、儚い系美人。
「アリア嬢、貴殿の庭を使わせていただく」
「まぁ恭様。この庭は主筋である貴方の物ですわ?私は管理を任されているだけにございます。花嫁様との逢瀬の場に選んでいただけるなど光栄でございます」
「ならば遠慮なく。行こう、ゆい」
恭は私以外にはかなりそっけないと思う。
隙も優しさも見せない感じ。
歩き出す恭に慌てて着いて行きながらチラと後ろを振り返ると焦がれる様な視線で恭を見ている。
それは私達が角を曲がり見えなくなるまで続いた。
「彼女とは、お友達ですか?」
「いや?知り合いという程度だな。彼女は従兄弟だが、特段親しいというわけではない」
「へぇ」
「俺の事を気にしてくれたのなら、嬉しい」
「えっと……恭はモテるのだなぁと、思って」
またカラカラと笑い私の頭を撫でる。
腕の中でウトウトとする涼風がピクリとする。
「モテるかどうかは分からんが……今から全力で口説きたいと思っている女性はいるぞ?」
答えになっていない答えを返された気分だ。
曖昧に笑って見せる。
花嫁とはとても残酷だと思う。
愛情の真偽が分からない。
ここに桜子が来たら、彼も桜子を優先するのだろうか。
「思い悩んだ顔だな?また同じ事が起こるとでも?」
「…………」
そんなに顔に出ていただろうか。
「今ここに桜子殿が来ても、俺はゆいを選ぶ。狛犬の里は八咫烏ほど困ってはいない」
ガゼボの柵に止まった類君が何か言いそうになって悔しそうに言葉を飲み込んだ。
「辛い事を思い出させたか?そういう環境やタイミングも含めての嫁取り合戦なんだよ。俺の元で時間をかけて療養したらいい。俺もゆっくりゆいを知って行きたい」
「…………はい」
八咫烏には八咫烏の事情があった。
狛犬にはそういう困った事情はないから、自分の気持ちを優先できるという事だろう。
地位の高い人達とのお見合いは、取り巻く環境もものを言う。
神様達のエンタメとはよく言ったものだ。
今もどこかで面白おかしく見ているのかもしれない。
キャアキャアと奥の方からまた女の子達の声が聞こえる。
人通りは少なかったはずなのに、遠巻きに恭を見る女の子達がどんどん増えて行く。
彼は慣れているのか飄々としているけれど私は落ち着かない。
「気にしなくていい。そのうち飽きる」
「はい」
「二週間後のパーティーで俺達が踊れば、少しは大人しくなるだろう」
私と恭が踊ると女の子達が大人しくなる理由がよくわからないけれど、狛犬の里ではいつもこうだ。
私をよく知らない人は、自分と同じ、私も恭の事が大好きだと思ってる。
私の事を少しでも見かけたりした人は何故恭にもっと愛情を返さないのかと訝しむ。
要するに皆恭が好きなのだ。
憧れであって皆が好きになる次期宗主。
私は八咫烏の当主に振られ恭という王子様に助けられたシンデレラであるべきなのに、私の態度が皆を困惑させる。
恭はきっと生まれた時からこうだったんだと思う。皆の憧れ、みんなの王子様。
本人はケロリとしていて慣れっこになってる。
種族によって、本当に何もかもが違う。
国の形も問題も、当主の在り方も。




