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眷属神の花嫁  作者: 雨香
第二章 お見合い編

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図書館

「花嫁がこんな所に入り浸っていいの?」


「いいの。マリーにも会いたいし、ここは落ち着くから」


 赤い丸眼鏡がお洒落な女の子で、鮮やかなオレンジの髪をショートカットにしている。

小さなピンとした犬耳とフサフサの尻尾が可愛い。


マリーはこの植物園みたいな図書館の管理を1人でしている司書兼管理人だ。


 城内のお散歩中にたまたま見つけて気に入り、毎日入り浸っていたら恭が私専用にしてくれた。


最初は恐縮しっぱなしだったマリーは、同じ年だったこともあってすぐにお友達になった。


通い詰めているのは、初めてのお友達に浮かれているのもあると思う。


「それよりここが私専用になっちゃって良かったの?困ってる人はいない?」


「いない。元々利用者なんて全然いないもの。狛犬族はね、勤勉じゃないのよ」


 そんなものなのか。

本棚には木の根が張り、天井から蔓がたれる幻想的なお部屋。

椅子やソファーの間には観葉植物がたくさん置かれ、植物でブースが分けられた素敵な場所。

ところどころ芝生の地面まであって、草の上で寝転んで本も読める。


 類君が涼風(すずかぜ)に絵本を読み、涼風(すずかぜ)は寝そべる獅子丸の上でそれを大人しく聞く。


「まだ緑茶は見つからないの。紅茶をいれてあげるわ?」


「おかまいなく」

涼風(すずかぜ)の為の緑茶をマリーに探してもらっている。

恭に言うと、理由を聞かれてしまいそうだから。


「いいの。どうせ母に出すつもりだもの」


 窓際近くで編み物をする彼女のお母様は、足が弱いらしい。車椅子生活で、いつもマリーが面倒を見てる。


「私はここで働ければ利用者がいようがいまいがどっちでもいいもの」


 元メイドだったマリーが、お母様の衰え始めた足のために退職しようとしていた所を恭がここの仕事を与えたのだという。お母様も、いつもいっしょでいいから、と。


「お洒落な職場、羨ましい」


「ふふ!前はここまでじゃなかったんだけどね!私しかいないし、好きに作り変えてきたの!」


「貴族達に、ここの素敵さがバレてなくて良かった……ゆっくりできるもの」


「また逃げてきたのー?」


 カラスのお里と違ってここは城内に貴族のお嬢さん達が沢山いる。


軍部の訓練を見にきたり、公開されているお庭を散策しにきたり、理由はさまざまなんだろうけれど、そこかしこでドレスアップした女の子の集団に出会う。


 最敬礼らしいカーテシーを受けるけれど、仲間に入れるわけではない。品定めされている目に辟易し、毎日ここに逃げてくるのだ。


「恭様の人気はすごいもの。みんな結衣が羨ましいのよ。あの恭様に、特別に扱われて」


「うん………………そうだね」


 日の当たる1人がけのファブリックソファーに座り、眺めるだけの本を膝に置く。


日がな一日あの人のことを考える。

泣くだけ泣いて、涙が枯れた頃、きっと前を向ける。今はまだじくじくとした胸の痛みすら無くならないけれど。


「涙を出す分、水分補給!」


マグカップで出された紅茶に苦笑してお礼を言う。

花嫁の話題は皆が知りたがる。里の行く末を左右するのだから当然だ。

だから狛犬の里で、私の事情は有名なのだ。


八咫烏(やたがらす)の当主に振られて、恭に助けられた、と。


 皆喜んで迎えてくれたと思う。

パレードの盛り上がりはすごかったと恭が言っていた。

けれど私が恭に思いを返しているわけではないことが貴族の女の子の反感を買っている。

あんなに素敵な恭様に、何故、と。


恭は気にしなくて良いと言う。静かな場所がほしいならと、私にここの鍵をくれたのだ。


 ここにいる分にはとても平和。

ここは穏やかな時間が過ぎる素敵な場所だし、マリーは味方だ。


「初恋は実らないのよ」

と穏やかに笑う。


「初恋があんなにすごい人だったから、もう誰も好きにはなれないよ。花嫁の辞退ができたらいいのに」


「あんたまたそんなこと言って!抹殺されるわよ。貴族の女子達に」


ほんとうにそうだ。

穏やかに過ごせてはいるけれど、何故?何なの、羨ましい、ずるい、という感情は常に感じる。メイドからですら。


「凄さで言ったら恭様だって負けてないもの、似た様なもんよ」


「はは、それはそうだね……」


 当主3人は皆同じくらい地位も高いし強さもあるのだろう。けれど性格も、まとう雰囲気も、全然違う。


あの人の纏う凛とした雰囲気が好きだった。

嫌いになれたら楽なのに、今でも私の頭は彼の事ばかり考えてしまう。


嬉しくて、ふわふわして、幸せだったカラスの里。もう行く事はないけれど忘れないでいたい。


「一月に一度、会えるよ」


「会いたいわけじゃないよ」

むしろ会いたくはない。桜子をエスコートする彼を見るのは辛いだろうと思う。


「行かないって事は出来ないんでしょう?」


「そうみたい。行かないと、狛犬の里が私を監禁してる疑いがかけられるんだって」  


婚姻がなされてしまえば境目屋敷へ行く義務は無くなるけれど、それまでは義務なのだという。


一月に一度、彼に会う。

————どんな顔をして?

————何を話す?


次の(さく)の日が怖い。

笹音(ささね)さんも恭も、個別の昼食があった。

順番から行って次は彼だ。


桜子をエスコートしてやってくる、あの人。


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