SNS
完全に眠ってしまった涼風をベッドに寝かせ、夕方の淡い光が差し込む窓辺のテーブルへ向かう。
その椅子に腰を下ろし、窓の外を眺めた。
しょんぼりとしたレレさんが紅茶を出してくれる。類君は涼風のそばに丸くなってはいるけれど視線は常に私にある。皆に心配をかけている。
溢れる涙を見られたくなくて頑なに景色を見るふりをする。
握りしめたスマホに涙がポタポタと落ちる音が響いてしまって狼狽する。
見たくないと思う。
けれど見ないと安心できない、とも思う。
絶対傷つくのはわかっているのに、指が勝手にSNSアプリを開く。
カフェでフラペチーノが2つ映った写真。
テーブルの向かい側には月宗様の組んだ脚が見える。
2枚目には同じアングルで位置が交換された2つのフラペチーノと、こっちの新作も美味しい♡というコメント。
桜子の細い指先を乗せる、エスコートをする彼の手のアップ。
スーツの袖口からのぞく見覚えのある時計。
プレゼントであろう色とりどりのブランドショップの紙袋達。
綺麗な夜景の写真とディナー。奥に映るスーツのカケラ。
自分から二人のデート情報を拾い、自分で傷付く。さっきからもうずっとこれをくりかえしている。
暗くなった窓の外を見て、ため息をついて電源を切った。
そうでもしないと心が保てない気がする。
ずるずると深みにはまっていくような。
2人のデートを追い、引き裂かれる心でなおも月宗様からのコールを待っている自分がいるのだから。
◇◆◇
「涼風、これを花柳院の私の部屋に送れる?」
起きた涼風にスマホを見せる。
コクンとうなずいた涼風が手をかざすと、ポワッと淡い光が瞬いて、スマホは私の手から消えた。
「ありがとう。ここにいるのも私、駄目になると思うの。八咫烏には桜子が必要だし、これ以上2人を見たくないしね。恭さんの所か…………お会いした事はないけれど、龍さんの所に行ってみようか。涼風は、どっちがいい?」
「お嬢様!!!」
「姫様っ!!!」
レレさんと類くんの悲鳴が重なる。
レレさんが慌てて部屋を飛び出して行く。
涼風はこてんと首を傾げている。
「どうせお家にかえしてもらえないし、順番にまわればいいか…………涼風、恭さんを呼んでくれる?狛犬の里に行きたいの」
キョトンとした涼風は、それでも恭さんを呼んでくれたのかリーーンという美しい鐘の音が辺りに響いた。
「っ姫様!!私もお連れください!!後生でございます!!!」
「それは嬉しいけれど…………類くんは八咫烏一族の子でしょう?」
「っ違います!涼風様と同じ姫様の護衛でございます!死んでも離れるなと直命が出ておりますっ!」
必死な類君が叫ぶ。家族のいない私はこういうのに弱い自覚がある。本当は寂しくて寂しくて仕方がないのを隠して生きてる私には、類くんも涼風も眩しい。
眩しくて、暖かい。
「涼風、類君、私と一緒にいてくれる?」
「はい、どこまでもお供いたします」
類君が言い、涼風は六尺棒の底をタンッと鳴らす。
「月宗様は…………悲しまれると思います……」
「どうかな…………当主としては、いい判断だったと思うよ。八咫烏には、桜子が必要だよ」
「そんなこと!ございません……我らは姫様が大切でございます……」
曖昧に笑顔で返し、部屋を見渡す。
持っていくものなど何もない。もらったプレゼントを持って行っても、辛くなるだけだ。けれど。
高級チョコレートと間違えた、一粒一粒区切られた可愛い箱に入った胡桃の紅。あの人が、私のために用意してくれた。
真ん中の、何の装飾もない胡桃。あの時、あの優しかったお兄ちゃんに貰った私のお守り。
これだけは。
「行こうか」




