蛇とカラスの酒宴 光久SIDE
「お!姫ちゃん来たね~~~って、羽根で全然見えない!!何あれ!!」
「すまんすまん、うちのご宗主姫さんのこと他の男に見せるの嫌いなんだよね~~まぁ可愛いしねぇ……分からんでもないけど~」
既に出来上がったからなのか元々この様なたちなのか紫波殿が言い、涼殿が答える。
嬉しさが隠しきれていない我らが宗主の顔を見やり心の底から安堵する。
俺が四つ守筆頭として月宗様にお仕えする事になって五年。
ずっと憧れ続けた方の側に侍る事ができる様になったのも当主交代が頻繁にあったからだ。
先代の没後、耀様の四つ守に志願しようとは思わなかった。
実力で押されるかと思っていたが、耀様の選んだのは三柱出身の者ばかりだった。
そんなものかと思っていたら、卵生をめぐる耀様の方針に月宗様が異を唱えた。
普段鷹揚な月宗様が信じられないほどの怒りをお見せになった。
俺を含め賛同者も多く集まったが月宗様はお育て役だった夜臣殿と2人だけで事を為した。
「妖力の高い者達は里のものを守る為にあれ。俺でなくて良い」
一言そう仰り、お二人だけで簒奪をやり遂げたのだ。
失敗した時に八咫烏の戦力が大幅に削れるのを慮ったのだろうと誰もが分かった。
そんな貴方だから、耀様と違い四つ守の志願に皆が殺到したのだろう。
本来ならば夜臣殿が四つ守筆頭となるべきお方だ。お育て役とは将来の四つ守を約束される。
しかし片翼になった夜臣殿は自ら辞退し、当主になられて直ぐに始められた現世での仕事の補佐についてしまわれた。
俺が彼の方の四つ守筆頭となれたのは、夜臣殿の功績と辞退があったからに過ぎない。
主筋の方にしては信じられないほど鷹揚で、誰からも慕われる。
子ども達がじゃれるのを許されるのなど主筋の中では月宗様しかおられなかった。
凡人にはない何かを持たれた方だと思う。
子どもの時から強く、鷹揚で、餓鬼大将のようだった。憧れて、追いかけて、必死になって鍛錬したのは俺だけではないはずだ。
「ご宗主、また屏風おいてはるわ…………どんだけ見せたないねん。まぁ分からんでもないけど」
「あん中でイチャイチャするか、すぐどっか行くかかけましょう!!俺、すぐどっか行くで!!」
「では私はあの中で一通りいちゃついた後すぐ席を外す、で。」
小四郎の言葉に苦笑して、蛇の次期宗主の台詞におやと、思う。
宗主といい、御嫡男といい、蛇とはもっと狡猾で陰険な一族と思っていたが。
全て姫様のなせる技なのだろう。
蛇の信頼を勝ち取るなど普通ではない。
宗主親子が気を許しているからか、周りを見渡しても八咫烏側と蛇一族側が和やかに酒を酌み交わしている。肩を組む者までいる始末だ。
我らが当主の最愛は何かとてつもない力を秘めた方なのかもしれない。
「流石においちゃんの挨拶ぐらいは聞くでしょ!?」
「わからへんわ。わりと真面目にお姫さん以外どうでもええと思うてはりますやろ、ご宗主」
「あ!それはありますね!姫様来られてからやたら機嫌いいですし!!」
「ええ……おいちゃんめっちゃかっこいい挨拶考えてきたのに…………姫ちゃんに会いたい……」
「わはははは!諦めろ紫波殿!お!やっぱり屏風ん中に入っちまった!挨拶聞く気ないねぇあれ!」
「ジャリ坊の籠、蛇の次男坊に押し付けよったわ。ほんま誰にも邪魔させん気やわ」
「うちの次男坊子守り要員!?」
驚愕の紫波殿に苦笑する。
無理もない。蛇一族の次男坊は妖力が高いと有名だ。なまじ出来がよかったばっかりに、乳母が儚い夢を見たのだろう。よく見れば嫡男の出来の良さも半端ではない。頭の回転が早く落ち着いていて、蛇の当主として適任なのはこちらの方だ。
屏風の中に花嫁ごと隠れてしまった我らが宗主を見やる。
あわよくばどうかこのまま本懐を遂げて欲しい。
八咫烏一族の為に生きてきた月宗様が唯一渇望した宝。
あのお顔を引き出せるのは彼女しかいないのだから。
◇◆◇
「月宗様?おじさまがご挨拶してるっぽいけど…………」
屏風の向こうから八雲おじ様の声が聞こえる。
一応月宗様の席は横にあるのに大きな屏風に囲われた私の席らしき座布団に座ってしまい、私はそのお膝の上にいる。
「酔っ払ってなんか言ってんだろ?気にすんな」
御膳もあるけれど、大きなプリンアラモードも置かれてる。生クリーム盛り盛りで中のプリンもフルーツも何にも見えない。器から、多分プリンアラモードってだけ。
カレーの器っぽいものに追いチョコソースがあったのでそれをかけてから口に運ぶと嬉しそうにぱくついた。
「ご宗主様が、お顔を見せなくてもいいの?」
「無礼講は俺にも適用されんだよ。あいつらも好きに飲むだろ。俺も好きにする」
「ふぅん?」
ペースが早い月宗様の口にせっせと甘味を運ぶ。手首に落とした生クリームをペロリと舐められ「最高か……」と呟く。
「むぐっ!」
大きなスプーンで生クリームを私の口に入れ、唇についたクリームを舐め取り甘い甘いキスに変わる。
「これ俺まじでやばいな。止まれんのか……?」
「月宗様……暑い」
月宗様とキスすると、体温がどんどん上がって溶けてしまいそうになる。羽根があるからなおさら。
「お前ここでそういう事言うな!鬼か!!」
「?」
暑いから暑いって言っただけなのに。
「むぐっ!」
なんで私に生クリーム食べさすの。食べさせてあげるのに。口に入りきらない垂れた生クリームをキスで拭われ脳がビリビリする。
「俺これは新たな扉開きそう…………」
「??」
◇◆◇
「ねぇあれ聞いてた!?絶対聞いてないよね!?めっちゃ考えたかっこいい挨拶!!!」
「お、出てきたよ~~!ってそのまま出て行っちゃったね~~~!!」
涼殿の台詞に前方を見やると姫様を抱き羽根で隠した我らがご宗主様が宴会場を後にする。
「私の勝ちですね、小四郎殿」
「ひぃっ!ここにも怖い人いた!!」
「お、ジャリ坊が起きたわ。お子様三人に邪魔されてキレはるやろなぁあれ」
眷属神の宗主という重荷は本人の希望や意思など無いに等しい。月宗様の命は常に一族の為、神の為にある。
唯一の宝を大事そうに抱く月宗様の安寧を、お守りせねばならぬ。
八雲 『我ら蛇一族、八咫烏当主の御前にて盟鎖の誓いを捧げ奉る。長き時を異なる道で歩んできた我らがこうして杯を交わせる日が訪れたこと、宗主としてこの上ない喜び。
我らは牙と知恵をもって御身に仕え、決して裏切ることなく、影より黒翼を支える存在となりましょう』
八雲『ね!!??ね!!??かっこいいでしょ!?!?』
ハク『はぁ~~~』




