新しい紅
「結衣に泣かれるのは、堪える」
私の涙の目元にキスをする彼にしがみついてしまう。
庭から、類君の楽しそうな声と涼風が手を叩く音が聞こえる。
「ゔ~~~~~~」
「これやるから、泣きやめ」
月宗様はそう言って私に綺麗な箱を渡した。
シフォンのリボンがかかっている。
「なぁに?」
リボンがまた一つ増えて嬉しいな、とぼんやりおもっていると、渡された箱の重みに驚いた。
陶器の箱は九谷焼で、水色の地に桜の絵付けが美しい。陶器の小物入れ?なんだろう。
あけてみると、一つ一つ丁寧に木枠で仕切られた高級チョコレートみたいな胡桃の紅。
いろんな色で模様付けされていて、ひとつひとつ違う。
小さな絹のタッセルが付いたものや、綺麗な水色の組紐で蝶結びされたものまである。
けれど中央に置かれた胡桃だけは、15年前のまま、何の装飾もされていない。私の宝物。
パカっとあけると、当時もらったピンク色の紅が新しく入れられて艶々とひかっている。
「わあっ!ありがとう!」
ずっとお守りにしていた胡桃の紅。
新しい色とセットで入ってる。
私の宝物。
「気に入ったか?」
「うん、凄く嬉しい…………私も、月宗さまに何か贈りたい……」
いつもいつも貰ってばかりだ。
私からも何か贈れたらいいのに。
「特大の贈り物をもうしただろ」
「??何もあげてないよ??」
しぱしぱと眼をしばたたかせると、溜まっていた涙がポロとまた落ちた感覚がした。
「あまり泣くと、宴席に連れて行けなくなる」
残った涙を長い指の背で拭ってくれながら優しく言う。
「私も出るの?」
そういえば、蛇の一族との顔合わせがあると言ってた。
「当たり前だろ。結衣がつれてきたんだぞ」
「私が連れてきたわけじゃないよ?」
よく分からないうちによく分からない儀式をして臣下にしたのは月宗様じゃないか。
「……………………蛇ってのは狡猾で疑り深くプライドが高い。あいつらは強さはなくとも、多種にわたる蛇の毒を使って 禍ツ魂からの傷に効く薬を代々作ってるんだよ」
「へぇ~~~」
おじ様すごい。
「へぇじゃねぇよ。これまで四眷属全てがあの一族と同盟を結びたいと持ちかけたり脅したりしてきたんだぞ。ずっとなしのつぶてだったんだ。同盟すら結んでもらえない。それが丸ごと臣下になったんだぞ」
「へぇ~~~」
「………………お前、分かってんのか。結衣が俺の当主としての格を上げたんだぞ」
「そうなの?困った事になったんじゃなかったなら、良かった」
それに当主としての格なんて、わたしが上げなくても月宗様は高いに決まってる。
「はぁ…………俺が当主になってからは卵で生まれた者の報告はない。だが俺と耀の力の差なんてそんなに大きくはないんだ。いつ生まれてもおかしくはない」
「…………?今回の事で月宗様の格が上がって、また一歩卵の子が生まれづらくなったって事?」
ニヤリと笑う月宗様は私の手の甲にキスをする。
「花嫁の多大なる恩恵に感謝を」
「そういうんじゃないのに……」
私のおかげとは言えないんじゃなかろうか。
お手前しただけだし。
「お前が無自覚なのは分かってるよ。結衣はそれでいい」
「う、うん?」
「贈り物の嵐が来るぞ。覚悟しておけ」
「へ?」
◇◆◇
眠ってしまった涼風と毛玉ちゃんをバスケットにそっと寝かせて部屋を出る。
薄いアイスブルーの打掛は裾を引きずる長さで、合わせを両手で持って歩く私を見た月宗様が力技で抱き上げて私を運ぶ。
背が高く、力持ちだからなせる技だな。
後ろには、ニッコニコでれっでれのじいやがバスケットを抱え、レレさんが続く。
「無礼講にしてある。気負う必要はない。糖分とりにいくぞ」
良かった。この前みたいに平伏した集団の中に行くのはごめんこおむりたい。
わいわいと賑やかな声が聞こえる。




