茶室 2
私とおじさまの掛け合いに、真面目そうなハクさんと泣き腫らしたヨダカ君がオロオロとうろたえ、類君は目を見開いたまま固まっているし、涼風は空間から積み木を出して遊び始めるしでカオスになってきた。
「一族根絶やしにされても文句を言えない事をしたんだよ!蛇がワンチャン狙いを考えるのも烏滸がましいの!!!」
「申し、もうし、わけ……」
「あぁもう!おじ様のせいでヨダカ君がまた泣いちゃったじゃないですか!!」
糸目のにっこり顔が悲しく歪んでる。長いまつ毛が涙に濡れて、もう私に謝ってるのか、父親とお兄さんに申し訳なくて謝ってるのか本人もぐっちゃぐちゃになっちゃってる。
「おいちゃんのせい!?」
号泣しながら畳に額を擦り付けて平伏するヨダカ君に涼風が近づき、積み木を渡す。
「ヨダカくん、涼風っていうの。一緒に遊んでくれる?」
「あ、……えっと……はい」
私のセリフに涼風が手を叩いて喜び、我に返った類くんが心配して涼風の肩にとまる。
「あ、やばい。あと5分だ…………」
「あと五分って何!!!おいちゃんの命の灯火の話!?」
「月宗様、30分しか許してくれなくて……踏み込むって…………」
「こっわ!!!最強の殺し屋来ちゃう!!!!おいちゃん死んだ!!!ハク!どうしよう!!!」
「………………自害が正しいかと…………姫様と長時間個室に入るなど……その時点で命はもう無かったのです」
「長時間って、30分だよ?」
「姫ちゃん、おいちゃん死ぬ前に姫ちゃんに大切な事教えておくね!!漢は30分あれば2回フィニッシュできる!!!」
「??」
「父上…………黙って下さい…………」
部屋の隅で空に浮いた青い炎のリース群の中を、いっぺんに投げた積み木を上手に全ての輪に潜らせる謎の遊びが繰り広げられている。
「あ、これおわった」
おじさまが入り口の方を見て言う。
ヒュンっと音がして、横開きのにじり口が斜めにズルズルズルっと壁ごと上半分が崩れて無くなった。
涼風が足袋のまま走って出て、外にいた月宗様に体当たりしに行く。
瓦礫と化したにじり口を超えて慌てて外に出ると、涼風を小脇に抱えた月宗様の後ろに四つ守さん達、そのまた後ろに八咫烏の剣士達が大勢。皆抜刀している。
「結衣、無事か」
「無事だよ?お点前しただけだもん。ってゆーか月宗様がお茶室壊した!!!素敵だったのに!!!」
「……………………」
月宗様の元に駆け寄った私の後ろでおじ様達三人が跪く。
「約束より早い!!!」
「……………………何を話した」
「話す前に月宗様が来ちゃったんでしょ!!?あ、涼風のお友達がまた増えたの!!」
「は?」
「ねーヨダカ君?」
「ひっ!…………は、はいっ!!」
「また遊びに来てくれる?あ、私達がお邪魔してもいい?蛇のお里も見てみたい!」
私の言葉に小脇に抱えられたままの涼風が手を叩いて喜ぶ。
「…………………………」
「ね!?おじ様!いいでしょう!?」
「…………ぶっっっはっっ!!!」
吹き出したおじ様がお腹を抱えて笑い、何故か地面にあぐらをかいて背筋を伸ばす。
私と目が合いニヤッと笑ったかと思ったら、右の拳を前方の地面に綺麗な所作で置くと頭を下げた。
「蛇一族宗主紫波八雲、今代当主として八咫烏当主へ盟鎖の盃を献上奉る」
ザワザワザワっと八咫烏の剣士達のどよめきが聞こえ、四つ守さん達も驚いている。
「諾。」
低い声で月宗様が答え、ヒュンと音をたてて刀をしまった。
じいやが一礼してから涼風を抱っこして脇に下がってゆく。
————「急ぎ準備整えております」
光久さんが言う。
「結衣、茶室を貸してくれ」
いや私の茶室じゃないけど、と思ったけれど深く考えない様にしよう。
「いいよ?月宗様もお茶飲む?」
「いや、場所だけでいい」
なんなのか。月宗様も仲良くなりたくなった…………?とかはあり得なさそうな雰囲気。
私をひょいと片手で抱き上げ、ズンズンと茶室に入って行く。
にじり口が破壊されて上の壁ごとないので、背の高い月宗様も入りやすくなったなと意味のないことを考えて苦笑する。
心配かけたかな、とか怒ってるかな、とか考えなきゃいけなかったのに、月宗様の腕の中は幸せすぎてぼんやりしてしまう。
私が茶室に戻るのを見て、涼風がこちらを指差しじいやに行く方向を示す。
それに鼻の下が伸びまくったじいやが応えている。
お茶室だから上座や下座の概念はないけれど、お客様が一番の上座に座るのが普通。
お点前を立てる亭主は手前座といって役割席に座る。
月宗様は迷いもせずに上座にあたる床の間の前に私を抱いて座った。
「結衣、マジで何しゃべった」
「?だから何かしゃべる前に誰かさんが来ちゃったんだってば!!!」
「……………………」
「坊ちゃま、失礼致します」
「ああ」
じいやが片手に涼風を抱き、もう一方の手に金のトレイを持って来て私達の前に置いた。
トレイの中を興味深そうに眺める涼風が可愛い。
筆と巻物みたいに巻かれた半紙、白い盃が一つ。それだけ。
「四つ守は四方に配置」
月宗様が短く命令をする。
「承知致しました」
じいやが答えると、涼風が私の腕の中に戻って来た。暖かい体温と、この中で一人だけ元気一杯って感じの涼風を抱いて安心をもらった。




