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眷属神の花嫁  作者: 雨香
第二章 お見合い編

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茶室 1


 茶室にはもうレレさんはおらず、釜の湯がしゅうしゅうと沸く音が微かに聞こえるだけだった。

 

 炉の前に座り釜の湯の具合を確かめてから柄杓を置くと、私の下に薄青い防御陣が描かれた。


涼風(すずかぜ)、ありがとうね」


 私の横にぺたんと座りおりこうにしている。

類くんは丸くくり抜かれたはめ殺しの窓枠にとまり、こちらをじっと見ている。


 ほどなくして、玉砂利敷きの露地(ろじ)から足音が重なって聞こえてきた。


 丸窓の障子の向こうに、順に人影が映る。

 最初の客がにじり口から入り、続いて二人目、三人目と、静かに身をかがめて茶室へ入って来た。三人がそれぞれ一礼し、定められた席に座っていく。


 さっきまで平伏していた蛇の宗主さんを先頭に、息子さん二人。


 ご宗主さんはアッシュグレーの柔らかくウェーブする髪を緩くオールバックにしていて、息子さんは二人とも美しいサラサラの白髪。白衣の下に赤銅色の袴のご宗主と、水色の袴の息子二人。


 ご宗主さんは切長の目のイケオジで、息子二人はまつ毛の長い垂れ糸目の美人顔。


花柳院(かりゅういん)結衣と申します。突然の申し出にも拘わらずおいで下さってありがとうございます」


 実際には来ざるを得なかったんだろうけれど、礼儀は大切だもんね。


「当主の紫波(しなみ)八雲(やくも)と申します。こちらは息子のハクとヨダカ。ご無礼を、重ねてお詫び申し上げる」


 それには答えずににっこり笑って見せると、三人が揃って頭を下げた。


涼風(すずかぜ)?お客様にお茶菓子を運んでくれる?お作法は気にしなくていいから、お行儀良くね?」


 雲雀(ひばり)君に言われ防御陣を金縛りにも対応したものに変えた涼風(すずかぜ)は警戒を解いているので、お手伝いをお願いすると嬉しそうに茶菓子のお皿をてとてとと上手に運んでくれた。


第一天衛(てんえい)にお茶菓子を運ばれて動揺した三人だったけれど、可愛らしい涼風(すずかぜ)の様子に少しだけ緊張を解いた様だった。


 お客様がお菓子を口にする間、茶室には私の着物の(たもと)で遊ぶ涼風(すずかぜ)の出す小さな衣擦れの音だけが残る。


 三人が菓子を食べ終えたのを確かめてから炉に向き直り柄杓で湯を汲み、茶碗に注ぐ。


 白に近いグレーの艶のある茶碗は、縁にかかる青い釉薬(ゆうやく)が美しく、一目で良い物だと分かる。


 茶筅(ちゃせん)を振ると、白い泡が静かに立ち上がりふんわりとしたお抹茶の良い香りが茶室に香り涼風(すずかぜ)がくんくんと鼻をならす。


 一碗目の茶を整え蛇のご宗主の前に運ぶと、「お先に」


と作法にのっとった挨拶を息子二人にし、彼らも小さく「どうぞ」と答えた。


「お手前……ちょうだい致します」

カジュアルなお茶室が増えた今、この様な正式な挨拶を返されると思わずに驚いていると、ふっと優しく笑った様な気がした。


 長男さんは25歳ほどで、下の息子さんは人間で言えば中学生くらいだろうか。子どもらしさが残るお顔が蒼白に歪んでる。


「誠に結構なお手前でした」


 ご宗主さんが私の手の届く様に茶碗を置いて、私は静かに引き寄せる。


 丁寧にハクさんの分を()てると彼も同じ様にお作法にのっとった挨拶を返してくれた。


 三人目、まだあどけなさの残るヨダカ君。

可哀想な程蒼白な彼に茶碗を出すと、震える手で押し飲み、途切れ途切れの挨拶を返す。


 三人分()て終えて、時間はあまり残っていない。


 俯いたままの息子さん二人とは違い、真っ直ぐに私に向き合うご宗主に話しかける。


 普段は人見知りだけれど、ここは私のお茶室だ。私がお客様を楽しませないといけない役回り。


「どうすればあなた達三人と乳母さんの命が助かるのか話し合いましょうか」


「は………………?」


 ポカンと口の空いた宗主さんとご長男、乳母(うば)と聞いてボロボロと泣き出したヨダカ君ににっこり笑って見せる。


「ご覧の通り、私にはこの子が付いております。特に怪我はしておりませんし、その様な罪を望んでおりません。けれど私はこちらの常識には疎いですし、月宗様はなんだか怒ってますし……どうしましょう?」


「は……はは、わははははは!!姫様におかれましてはなんと豪胆な」


「敬語も外してもらって構いません。普段通りお話し下さい」


 蛇の宗主は目を見開いて私を見る。何となく、この方は無理をしてるように思う。私の茶室で無理は不要だ。


「……え?いいの……?」


「父上っ!」


 ボソッとこぼした独り言に長男のハクさんが焦って窘める。


「ふふ、全然かまいません。私もその方がはなしやすいので」


「え?姫ちゃんいい子すぎない?」


「父上っ!」


 慌てるハクさんと、涙が引っ込んで目を丸くして私を見るヨダカ君。

正座を崩してあぐらをかき、なんか普通の親戚のおじさんみたいになったご宗主さんがガバッと顔を覆いガチ泣きする。


「こわかったよぉおおおおお!!!!おいちゃん今日だけで600回くらい死んでる!!!」


あ、こういう感じかぁ。ワイルドなイケオジなのに……。


「私が許したって言っても無理そうで…………」


「死にたくないぃぃい!!おたくの旦那怖い!!!!」


「まだ旦那じゃないです!!!彼氏!!!」


「どっちでも怖い!!目付きだけで人殺せるんじゃないあれ!!!」


「時間ないの!考えて!!」




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