お客様? 2
「な、何…………?」
月宗様の横には私が座るのであろうふっかふかの錦の座布団が敷いてあり、その前にだけ簾屏風が置かれてる。
座った私の腕の中に移動してきた涼風が常に前方を警戒しているのがわかる。
段下の脇にいる雲雀君まで刀に手をかけて土下座のお客様達を警戒していて、見渡すと四つ守さん達や八咫烏の剣士達がそこかしこに立ってお客様を取り囲んでいる。
————「それで?————言い分はあるのか」
キセルからカコンと灰を出して億劫そうに月宗様が言い、気まずい場の空気がいっそう氷点下のものになる。
「弁明の余地も御座いませぬ。我が次男の配下が起こした不始末、伏してお詫び申し上げる」
「八咫烏への宣戦布告など、大きく出たな《《蛇の》》」
これ、会話噛み合ってるんだろうか。
蛇って?昼間の私を襲った蛇の一族さん!?
「………………蛇一族に反意はございません。お恥ずかしながら後目争いの故の暴挙で御座いますれば…………我が嫡男、次男の両名の首をお持ち致します。何卒……何卒、御怒りをお収めくださいますよう…………!」
「二つしかない首、三眷属全ての当主に送るつもりか?あぁ、龍殿の所もか。」
「私の首も合わせて献上致す所存」
何それ?何でそんな物騒な話になるの!
「花嫁を無理矢理連れて行っても力は得られない。そんな事は周知の事実だか?眷属当主に力が付くのを恐れたか」
「その様な事は!次男の乳母の暴走で御座いますれば……」
お、おう。あの蛇、乳母なのか…………。
平伏したままなので顔は分からないけれど、先頭に蛇の当主さん。その後ろに二人の息子らしき人もいる。乳母があの次男君を後継ぎにしたくて私をさらおうとしたのか。
「私共の首で収めて頂きたい」
なんで?雲雀君も涼風もいて私には傷一つなかった。怖かったけど、雲雀君の嫌味の方が怖かったぐらいなのに。
頭がグラグラする。
何か胃の底から恐怖と共にせり上がってきて、吐き気すらする。
「??姫さま…………!?ご宗主様!姫様への御負担が過ぎます!!い、今一度、御再考を…………!」
いつのまにか私の側に来ていた類くんが私の顔色を見て叫んだ。
この状況で、今の彼に物申すことがどれ程大変かなんて私でもわかる。ふわふわの羽はしぼみ、ブルブルと小刻みに震えているもの。
こんな小さな子が、震えながら私を助けようとしてくれている。
——「涼風、あの人達と涼風はどちらが強い?」
涼風は元気一杯はーいと手を上げ自分だと伝えてくる。
余裕な態度に苦笑して、脇に控えるじいやを呼ぶ。
「じいや、蛇の当主と息子さんをお庭の茶室にご案内して下さい」
「承知致しました」
ここにくる時に見たシンプルだけど趣きのある庭の茶室。
「は!?結衣!?」
慌てた月宗様ににっこりと笑顔で答えて立ち上がる。
レレさんが見当たらないので、きっともう準備に走ってくれているんだろう。
「行こう涼風、類くんをお願いね」
私の為にこの状況で声を上げてくれた毛玉君を涼風の頭にのせて、広間を出る。
花嫁に選ばれた私達は月宗様と同等の立場を持つと言ってた。それならばちゃんと考えないと潰れてしまう。
きっとこれからもこんな事は沢山起こる。
流されていては駄目だ。
けれども私は咄嗟に沢山の事を判断出来るほど強くも優秀でもない。守られているだけでは後悔を生むのは分かっているのに分からないことが多過ぎて直ぐには判断出来ない。
————それなら時間を稼げばいい。
私に出来る事は少ないけれど、お茶は入れられる。何千何万回と生徒さんに出したもの。
「僕も入ったらあかんかなぁ?」
「駄目」
既に庭に待機していた雲雀君が私に聞く。
「ご宗主、固まってはったよ。お姫さんだけやなぁ、あんなご宗主の表情引き出せるんは」
「それでも、駄目」
「守られてるだけの子ぉやと思ったら……茶室の周りは固めるし、座敷に残った奴らは人質になるけどええ?」
「うん、それでいい」
「ジャリ坊、常時防御陣はれるか?」
涼風がまたはーいと手を上げる。
「類、お前今日はもう変化はしたんか」
「はい、ご紹介の時に……役に立たず……申し訳……」
「何かあったら直ぐに声を張り上げぇ。守り方は幾通りもあるさかい、考える癖を付けとけ」
雲雀くんの珍しく嫌味じゃ無いセリフに「はっ!」と真面目な返事をする。
レレさんと数人の使用人がバタバタと茶室に出入りするのが見える。
「お嬢様、じいやも駄目でしょうか」
「駄目」
————「30分だ。それ以上出てこなければ踏み込む」
低いあの人の声。後ろを振り向くと眉間に皺が寄りまくった彼がいる。怒っているのかもしれない。
「うん、分かったよ」
「何で最初のわがままがこれなんだよ……もっとあるだろ、何でも聞いてやるのに……」
「ふふふ、飲み込んでくれてありがとう」
「30分だからな」
何度も念押しされてから茶室に入り準備する。
時間がないのでお客様が来てからでは遅い。
————しっかりしなくては。




