オリエンテーション 2
キャンパスにそのまま移転した私達は見事に浮いてる。
着流しのお着物から洋装に着替えた雲雀君と涼さんはカジュアルに崩した黒いジャケットを着てる。
着てる…………んだけど、雲雀君は中に水色のパーカーをインしていて、センスのいいシルバーのアクセサリーが光ってどこのインスタグラマーかな?という感じだし、第二ボタンまで開けた柄シャツに黒いジャケット姿の涼さんはサングラスをかけているのにイケメンオーラが隠せていない。
涼風はというと、涼さんの持つトートバッグの中に入り込んでいて顔だけ出ている。
何と布面が外されて涼風まで小さなサングラスをしている。
「涼風可愛い!似合ってる!!」
「あぁこれね~、涼風君がお兄さんのサングラス欲しがっちゃって…………レレ君が子供用の渡したら自分で布面とったんだよねぇ」
「名前つけはったし、壱でいる必要ないのんちゃいます?顔を出す事に慣れてもろたら、そのうち普段から外すかもなぁ」
小さなお口が見えて可愛さが隠しきれていないサングラスくまさんが、トートバッグにインされてるのが1番目立つかもしれない。
「二人とも刀…………」
「今は刀だけ認識阻害の術をかけてるよ~物にかける方が楽だし長時間いけるしねぇ。わぁ、でもあの子達カメラ向けてるねぇ。雲雀君、術変えようか」
「了解。ちょっと時間、稼いでほしいわ」
キャアキャアと高い声がする方を向くと、女子が固まってこっちに来ながらスマホを向けてる。
認識阻害じゃ写真には写ってしまうのかも。
「はーい、お嬢さん方。勝手に一般人撮ったらダメだよ~」
「うそぉお兄さん達一般人なんですかぁ!?イケメン過ぎてやばい!!」
「その子も可愛い~~~!まさかお兄さんの子?」
「私達と遊びませんか!?大学横に新しいカフェが出来たんです!今から私達そこでお茶の予定で」
みんな三人のイケメンのどこに目線を合わせていいのか分からずにキョロキョロしちゃってる。
190近くある背の高い涼さんと、175くらいの雲雀君の間を目線が行ったり来たりする。
「仕事中なんだよねぇ。またね、お嬢さん方」
ひらひらと手を振って私の背を優しく押してさりげなく彼女たちから私を離す涼さんは、無遠慮にポケットに何か突っ込まれてる。多分連絡先のIDとかだと思う。用意よすぎない?
雲雀君はジャケットのポケットに両手を突っ込んでニッコリしてガードしてる。
涼風の頭を撫でようと手を出した子を警戒したのか、涼風はバッグの中に潜り込んで隠れてしまった。
「月宗様がいなくて良かった…………」
「おや?今の台詞ご宗主にきかせたいねぇ」
「うかれはって、何も手につかんくなるんと違う?」
「月宗様はもっと目立つもの……私は目立ちたくないし……」
「そっちか~~~~~~」
ケラケラと二人が笑い、講堂へ向かう。
涼さんは講堂前の廊下に、雲雀君はなぜか私と一緒に隣同士で席に座った。
「ここは女子大なん?」
「あ、ううん。文系で女子が多いけど男子もいるよ。だから大丈夫だと思う」
雲雀君にパスされた涼風トートバッグは膨らんだまま動かないので、中で丸まって寝てるのかも。子連れで来るのは流石に目立ちすぎるので良かった。
まだ早いのか広い講堂には人は数人しかおらず、やっとほっと一息ついた。
「面倒なんがおるなぁ。お姫さん、下向いとき、視線あわせたらあかんで」
「え…………?」
バッと隣の雲雀君を見ると、すり鉢状の講堂の前方をニッコリしたまま見つめている。獲物を見つけてワクワクした顔。
真ん中に置いた涼風バックがモゾっと動いたのをトントンと上から落ち着かせているけれど、視線は楽しそうに前を向いたまま。
「ジャリ坊はここで防御陣」
ピキーーーンと氷が貼ったような音がして、椅子の下の足元に薄青く光る魔法陣のような模様が浮かび上がった。
「えらい優秀やなぁ」
またトントンと優しくバッグを叩いてからスッと立ち上がり、刀に手をかけてる。
恐る恐る雲雀君の視線の先を追うと、准教授の若い男の先生がツカツカと講堂の階段席を登ってきた。
テスト中の見回りみたいに自然な歩みなのに俯いた口元が耳まで裂け、チロチロと長い舌が出ていて明らかに普通じゃない。
「ひっ……」
「蛇ごときが。八咫烏に歯向かおうなんて、そないな事よう思いつかはりましたなぁ。普通は思いついても、行動に移しませんわ。へびはんもなかなか大きい夢を見やはるわ、勝てる、思わはったんどすか。それはそれは、毎日お幸せそうでよろしおすなぁ」
「ひぇ…………」
嫌味フルスロットルな雲雀君はますます嬉しそうにニッコリする。
「花嫁………………ヨコセ……」
バッと前を向いた青い眼に、金縛りの様に身体が痺れて動かなくなった。
心臓がバクバクと音を立て、まばたきすらできずに不吉な眼から目が離せない。
「蛇の宗主も承知の事やろか……」
ため息と共にそう呟くと雲雀君が隣から消えた。
普通にひゅんっと消えて、気づいたら准教授の先生の背後にいて刀の柄で肩を強打した。
「カラスの影を見ただけで震えるんが、本来のへびはんやと思いますけど?えらい出来損ないやなぁ」
ズルズルと倒れ込む先生を片手で支えながらなおも何かに向かって話す。
「今回は見逃したげますさかい、蛇の宗主はんによう伝えとくれやす。青幽家当主がだいぶお怒りや、いうこと」




