オリエンテーション 1
夕ご飯もそこそこに寝てしまった私が起きたのは次の日の朝だった。
昨日は立派な日本家屋だなと思っていたけれど、起きたお部屋は大正ロマン風に洋風が混ざったお部屋で、板張りの床に絨毯、アンティークの家具とシャンデリアが目に飛び込んできた。
「お嬢様~~~おきましたかー!?涼風と一緒に朝風呂にしましょう!大浴場と、お部屋のとどちらでも!!」
レレさんがお水をつぎながら言う。
「ここは?私がこれから泊まるお部屋?昨日私あのまま寝ちゃって……」
「ここはお嬢様のお部屋ですの。何か足りないものがありましたら何なりとお申し付けくださいね」
マキノさんもいる。
着ぐるみを外着にしてしまう涼風に新しく買ったのか、モコモコ素材のパジャマを着てベッドにぺたんと座る涼風におはようと声をかけるとすぐに腕の中に来た。
新しいパジャマはロンパース型で繋がっていて、足まで包まれているのであったかそう。三角フードの先についたポンポンが可愛い。薄いレモン色で星の妖精みたい。
ベッドから降りて窓を見ると、日本家屋らしくないテラスになっていた。
脇のドアから出られる様で、広いテラスの奥には大きな木がありその下にテーブルセットまである。
ちょっとしたカフェの中庭みたいな。
昨夜降り立ったお庭は荘厳な日本庭園だったのに、ここは素朴な感じ。
涼風と遊べる、小さな公園の様。
「あ、涼風!あれ枇杷の木だよ!あったかい季節になったら美味しい実がなるよ!」
腕の中の涼風に言う。
きっと全て私の為に用意してくれたんだと思う。
私が過ごしやすい様に、喜ぶ様に。
「お嬢様~~~用意できましたよ~~~!」
猫足のお風呂にたっぷりの泡で涼風ごと洗われて、ピカピカにされた。
パックの後にしっかりお化粧までされて、髪もゆるく巻いてフワフワになった。
何か用事があるわけでもないのにと苦笑して、はたと気付いてスマホのカレンダーをみて驚いた。
「やばい!!今日大学の登校日!!!!」
キョトンとした侍女2人と涼風を横目に慌ててクローゼットを覗く。
デニムにカーディガンみたいな大学生のユニフォームが無い!!
ワタワタしながらもシンプルな黒のワンピースを引っ張り出し、荷物の中から筆記用具を探る。
「お嬢様?もしかしてもしかしなくても、どこか向こうに行きたい場所が??」
「今日は大学の研究室説明会で!私、行かなきゃ!!!」
慌ててワンピースに着替える私をビックリ顔で見つめる三人に事情を手早く説明する。
うちの大学は三年進学時には仮の研究室を決める。何個もまわる子もいれば一つに絞る子もいるけれど、諸々の説明と希望提出が今日だった。
「ど、どうやって戻れます?またあの千本鳥居を通らなきゃ無理ですか?」
出かける風なのを察したのか肌着姿の涼風がクマの着ぐるみを引っ張り出す。
「お嬢様落ち着いてください!今こそ四つ守を呼び寄せる時です!!やってみたかったー!!涼風!やっちゃって!!」
レレさんがワックワクに叫ぶとリーンという澄んだ鐘の音が聞こえた。
「庭でしょうかねぇ」
マキノさんがおっとりと言い、外に続くドアを開ける。
「四つ守、参上致しました」
光久さんの声がして、慌ててドアから出ると4人が跪いて頭を下げている。
「お、大げさだよ…………」
「はぁ~~~やってみたかったんです!最高です!!」
————「おいっっっ!!!!」
バンっと部屋のドアが開いて息を切らせた月宗様がいて、もうどこを見たらいいのかわからない。
「ど、どうしたの!?」
「何で俺を呼ばねえ」
「ええ……」
「仕事がありますので却下です。本日結衣様とは夕餉を共にする予定でございます。夜臣殿が首を長くしてお待ちですよ?」
光久さんが言い、立ち上がる。
夜臣って誰だろう。
「どこかへ行きたいのか」
「あ、うん大学に……今日だけ」
「雲雀と涼殿がいれば困ることは無いかと」
「ジャリ坊がおるさかい、2人もいらへんかもやけど……最初やし牽制しとかんとなぁ」
「お兄さん張り切っちゃう!」
「次俺で!!!」
楽しそうな雲雀君と涼さんが言い、小四郎君が次回に立候補する。
「………………俺が…………」
「却下です」
お、おう、光久さん強い。
「結衣………………帰りは…………」
「夕方ぐらいかな?」
「早く終わらせる。スマホ出せ」
「スマホ?」
「迎えに行くから連絡先、入れる」
八咫烏、スマホもってんのか。
渡すと慣れた手つきで自分の連絡先を入れるカラスの当主がいる。
「いつでも何でも言ってこい」
「うん、ありがとう」
文明の利器を使いこなす眷属神…………
まぁ会社をおこすぐらいなのだから、人間界に溶け込んでいるのだろう。
それよりも……
「あの、お着物は目立つので、洋装でお願いします…………」




