カラスの里
「涼風君?カラスの子の前でそれ、やっちゃダメだからね?カラスの子がそれやったらおしりぺんぺん案件よ?」
涼さんが笑いながら涼風に言い、周りが一斉にザワザワとしだす。
神事が終わったんだとすぐに分かった。
「結衣、頑張ったな」
またひょいと抱き上げられて、抱きしめてくれる。
鳥居鉄棒から上手に月宗様の肩車に移った涼風は上機嫌だ。
この子は神事が好きだなと思う。
実家の雰囲気でもするのだろうか。
よくわからないけれど。
「これ、終わりが見えないけど、ずっと歩くの?」
「いや?すぐ着くよ。体感だと30メートルぐらいか。実際は何キロも繋がってる」
ワープ機能かな?すごい。
月宗様に抱かれて千本鳥居を通っていく。
「こっからちょっと飛ぶぞ」
「えぇ!?わわっ!」
私を横抱きに抱き変えて、急にふわっと浮いたかと思ったら周りの景色が変わっていた。
鬱蒼とした生い茂る森の中だったのが、急に開けて星空が見える。
「わぁ!すごい星」
「下見ろ結衣」
大きなクレーターの様な窪みの中にキラキラとした灯りが無数に見えて、もっと近づくと沢山の建物が立っているのが見えた。
日本家屋ばかりで、静謐な街並みに洋風な街灯が並んでいて大正ロマン風。
ひときわ大きなお屋敷の中庭に降り立つと、縁側からのぞく開け放たれた大広間にこちらを向いて沢山の人が平伏していた。
「嫁渡りのお戻り、心よりお祝い申し上げます」
先頭にいた執事服のお爺さんが言う。
境目屋敷にいたお爺さんとそっくりでびっくりする。
「双子のジジイにこっちとあっちの執事やらせてんだよ。あっちのジジイは無口でこっちのジジイは口うるさい」
「坊ちゃんまずはご紹介を。ほぅほぅ、最愛の方をお連れになって…………じぃ、泣いちゃう!!!!!」
「口うるさいんじゃなくてウザいの間違いだったわ」
呆気に取られていると月宗様は私を抱いたまま縁側から大広間に入り、上座にどかっと座った。
膝に抱かれたままなのが恥ずかしくてワタワタと横に座り直すと涼風が私の腕の中に戻ってきてくれた。
すぐに皆綺麗な所作でこちらに向き直り平伏していく。
レレさんがささっとやってきて、着物の袂を綺麗に整えてくれた。
「結衣、ここにいる者達は皆信頼できる。何でも言いつけろ」
「え、えぇ…………?か、花柳院、結衣です。宜しくお願い致します」
ぺこっと頭を下げようとすると月宗様に止められた。何?
「結衣の言葉は俺の言葉と思え。傷一つつけることは許さん」
「「「「「 はっ!!!! 」」」」」
えぇ……っと、時代劇かな?
月宗様が出されたお酒に手を付けた途端に皆緊張をといたのかザワザワとし始め、酒宴の支度がどんどんなされて行く。
「お嬢様!お腹が減りましたでしょう?今御膳を運ばせますからねぇ!」
「マキノさん!」
マキノさんが駆け寄ってきて私の顔色をみている。疲れてないか、しんどそうにしていないか、寒くはないか。母の様な気持ちを感じて面映ゆい。
彼女は一足先にこちらに来て私のお部屋を整えていてくれたらしい。
「マキノ!爺にも喋らせて!」
なんだか私の前に行列ができてる…………
人見知りが炸裂するかなと思ったけれど、膝の上の涼風と、繋がれた月宗様の手の温かさが安心をくれる。
「雷蔵と申します!私の事はじいやとお呼びくだされ!坊ちゃん!!可愛すぎてジィやばい!!」
「あ~~~そうだな」
「坊ちゃんが天使を連れて来た!!」
「………………」
「ふふ、あははは」
もはやどこからつっこんでいいか分からないのが可笑しい。
「小さな坊ちゃんにはこれを」
雷蔵さんが涼風に積み木を一つ渡してくれた。
手を叩いて喜ぶ涼風をみてにっこりする顔が優しい。
「五十位以内の天衛など、一生に一度お目にかかれるかどうかですのに…………本当に第一天衛とは……」
「あ、涼風と申します。宜しくお願いします」
「涼風坊ちゃん、ジィですよ。ジジイではなく、ジイですからね」
「何教え込んでんだジジイ……」
「じい」
あ、またみんなの時が止まった。
天衛がしゃべるのって、そんなにも珍しい事なのかな。
涼風しかしらないからよく分からない。
「……………………坊ちゃん………………?涼風坊ちゃんは……天才児…………?」
「あ~~~~そうだな」
月宗様返事がどんどんおざなりに………………
◇◆◇
酒宴が始まるとすぐに月宗様は私を涼風ごと抱いて広間を出た。
「疲れただろ。食事は三人でとろう」
「うん…………ありがとう」
色んなことがありすぎて大冒険の後みたいでふわふわする。




