花柳院 悠貴 1
月宗様から贈られた腰に尾を引く大きなリボンのついた黒のシルクサテンのドレス。裾が長いトレーンドレスなんて初めて着た。
首に巻いてリボン結びにしてもらった紺のリボンの端には八咫烏の刺繍とラインストーンが付いている。
「よし結衣このまま里に来い。荷造りさせる。涼風も丸ごとカバンにいれろ!」
腕の中の涼風はキョトンとしてる。今日はパーティーなのでマキノさんによって薄レモン色の狩衣を着ていて可愛らしい。中の合わせは桜色で、レモン色の着物からチラリとのぞく淡いピンクがなかなかにおしゃれ。
「ふふふ、そうしたい」
明日から私は八咫烏の里に行く事になっている。大喜びしたレレさん達が張り切りまくって今日の支度をしてくれた。
濃い闇みたいな、カラス色のドレス。
「ご宗主の機嫌がいいねぇ」
涼さんが言う。パーティーなのに護衛なのか、四つ守さん達もみんなそばにいる。
「待ちすぎてこじらせてはるもんなぁ、ご宗主」
「当主ともあろうお方が、はぁ……」
光久さんがため息をつく。
「良かったですよね!!ダークサイドに落ちた月宗様押さえ込む事にならずに済んで!!」
「ほんまそれやなぁ」
四つ守さん達が何か色々言っているけれど、月宗様は全然聞いてない。
私を見て、褒めてくれて、後れ毛を耳にかけてくれて、また褒められる。
手を取るエスコートではなく腰を優しく引き寄せられて、寄り添う様に歩いてくれる。
「糖分取りに行くか」
「うん」
キャアキャアと声がして振り返ると、会場の入り口付近に10人ほどの女子がかたまってこちらを見ているのに気がついた。
「知り合いか?」
「あ、うん、小中高と、同級生だった子達だよ」
桜子の取り巻き。
桜子と同じ様に私を徹底的に無視し尽くした子達。
月宗様を見て秋波をおくる姿に、俯いて顔を逸らしてしまう。
「俺が挨拶をする必要はあるか?」
「嫌」
あるかないかで聞かれたのに、嫌と答えた自分に狼狽する。あの子達と喋らないで欲しい。優しい声をかけないで欲しい。
「は!」
楽しそうに笑う月宗様は私をスイーツブースに連れて行く。
月宗様と腕の中の小さな涼風がいれば、あの子達も怖くない。
またかしましい声がわき、チラと窺うと桜子が笹音さんと恭さんに両手をそれぞれエスコートされて奥の階段から降りてくるのが見えた。
キャアキャアと楽しそうな声が続き、笹音さんと恭さんの部下達が何人か彼女達をエスコートするために登場した様だった。
今日は皆スーツを着ている。
私達の後ろに控える四つ守さん達も。
「パーティーって、何するの?みんな日本人だし、ダンスはできないよ?」
またあの密着度の高いスローダンスでもするのだろうか。
「笹音んとこがホログラムに似せた幻術と演奏をするらしい」
へぇ。笹音さんらしい。
「天道寺のとこが女どものエスコートと話し相手」
「八咫烏は?」
「女どもの送り。車あんのうちだけだからな。1人一台リムジンだぞ?エスコートの犬っころ付き。死ぬほどだるい役回り」
「月宗様も、行くの?」
「行くわけねぇだろ。四つ守が采配して下の部下達が行くよ。小四郎にはやらせるけど」
「リムジン運転してみたかったんで!!!」
後ろの方で小四郎くんが言い、涼さんと雲雀君がゲラゲラと笑う声がする。
楽しげな声に涼風が小四郎君の肩までふわっと飛んでいき、肩車してもらっているのを苦笑して眺める。
月宗様は冷めた目でキャピキャピとした集団を一瞥し、山盛りにケーキを盛って、チョコレートファウンテンのチョコにケーキごと突っ込み追いチョコソースをかけてからバクバクと食べている。
お、おう、すごいな。
既に女の子には興味がなさそうでホッとする。
「それくれ」
手持ち無沙汰になって持ったシャンパンを、私の手を取り自分の口に持って行く。私が月宗様に飲ませているみたいになって赤面してしまう。
月宗様は私を嬉しい気持ちにさせるのがとても上手い。
————「結衣ちゃん!わあ綺麗だね?」
知った声が聞こえて扉の方を見やると、大きく手を振りながらこちらにズンズンやってくる血の繋がらない兄が見えた。
「悠、くん……」
実子の桜子が花嫁に選ばれたため、花柳院の跡取りとして分家の中から選ばれた人。
優しい垂れ目の人懐こい人だけれど、その実野心家だと思う。そうでなきゃ花柳院の跡取りに選ばれていない。
優しい目の奥はいつも笑っていない様な気がする。
頭のいい、自慢の兄のはずなのに。
「結衣ちゃん、こちらは?」
「あ、八咫烏の……青幽月宗様。月宗様、兄の花柳院悠貴、デス……」
シゴデキな光久さんによってデザート盛り盛りプレートを取り上げられていた月宗様はさっきまでが嘘みたいに堂々と私の隣に立ってる。
「兄君と顔を合わせる機会を得られたこと、ありがたく思う」
「僕もだよ。あれ?結衣ちゃんはこのカラス君に嫁ぐの?」
ニコニコと私に笑いかける悠君に何と答えていいかわからない。
悠くんは私への好意を隠さない人だ。
好意の圧で押してくる感じ。
「まだ何も決まってはいない。お試しで我らの里に迎えるだけだ。心配は無用だ」
「へぇそう?よく知らない男の、ましてや化け物の所に行くんだ。心細いにきまってるよね?」
童顔な顔に似合わず、自分より体の大きな月宗様と一歩も引かずに話す。
早く悠君との会話を切り上げたい。
終わりにしたい。じゃないと。
————「兄様!!」




