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眷属神の花嫁  作者: 雨香
第二章 お見合い編

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花柳院 悠貴 2


————「兄様!!」


 さっと月宗様の影に隠れると、チラと私を見てから後ろ手に手を繋いでくれた。


悠君が繋がれた手を見たのが分かったけれど、嬉しくて心強くて涙が出そうになる。


 いつのまにか涼風(すずかぜ)が私のドレスの足元にぺたんと座ってドレスの長い裾で遊んでいて、この子も私を守ろうと戻ってきたんだと分かった。


「兄様!いらしてたなら言ってくだされば良かったのに!!」


 ピンクのミニドレスを着た桜子が走って来る。

前のめりになって、高揚した顔で。


「やぁ桜子、両手に花、じゃなくて両手にイケメンだねぇ」


 桜子の後からゆったりとやってきた笹音(ささね)さんと恭さんを見て悠君が言う。


霧森(きりもり)笹音(ささね)と申します。以後、お見知り置きを」


「天道寺恭という。兄君とご挨拶できて光栄に思う」


「あ、2人とも桜子をよろしくね?よかったね、桜子。良さそうな方たちじゃないか」


 悠君はここでも自分のペースを崩さない。マイペースなんて可愛い言葉じゃ当てはまらない、興味のないものを徹底的に無視する、ザワザワと肌を刺すこの感じ。


「兄様!私のドレスどうですか!?兄様のポケットチーフをお揃いで用意したの…………付けて、くれますか?」


「あとでね」 


 桜子の変わり様に2人とも固まっている。いつも冷たい笑みを崩さない笹音(ささね)さんまで驚きを隠せないでいる。


「桜子、お友達が待ってるよ?イケメン2人を連れて行っておいでよ」


「兄様と一緒がいいです。せっかく、お会いできたのに…………」


「僕は結衣ちゃんと話しがあるんだよね」


 悠君はいつもどおり。桜子の溢れるほどの好意をさらりと流す。流した上で私に構うのもいつもと同じ。だから、この人たちに会いたくはない。



————「結衣、踊るか」


「へ!?わわっ!」


ひょいと片手に抱かれて踵を返した月宗様に運ばれる。


「……ふぅん?ちょっと、やっかいそうだねぇ」


 後ろで悠君の呟く声がした気がしたけれど、桜子のキャアキャアとした声にかき消されてよく聞こえなかった。




◇◆◇




「なんだあれ」


 月宗様がつれてきてくれた広いテラスはガラス張りになっていて、羽根の中にいなくても暖かい。


私を抱いたままどかっと大きなガーデンソファーに座った月宗様は不機嫌そうに言う。


「嫌な気持ちにさせて、ごめんね」


「いや?俺はいいが…………いつもああなのか」


「あ…………うん」


 ステンドグラスがはめ込まれた会場に続くおおきな扉の外に雲雀(ひばり)君と小四郎くんが立っている。小四郎くんの腕にコアラの様にひっついて楽しそうな涼風(すずかぜ)が見えた。


「桜子が私を嫌う大きな理由は、これ」


「だろうな」


 最初はただただ急に家にはいってきた私が気に食わなかっただけだっただろう桜子が、いつからか明確に悪意を向ける様になったのは悠君が跡取りに内定して花柳院(かりゅういん)にやってきてからだ。


 私達が小学校に入学した頃だと思う。

急にやって来た7歳上の悠くんは紺色の男子校の学ランが似合う可愛らしい青年で、花柳院(かりゅういん)に通う生徒さん達にキャアキャアと騒がれていた記憶がある。

そんな悠君に一目惚れした桜子は、以来ずっとあの調子なのだ。


「父君がいなかったな」


花柳院(かりゅういん)さんは…………悠君が田舎に追いやった」


「どっからつっこんでいいかわかんねぇ……」


「あはは、変……でしょう?お義父さんと呼んだ事はないの。自分も花柳院(かりゅういん)って苗字だけれど、花柳院(かりゅういん)さんっていつも呼んでた。そのぐらいには、他人」


「んで?田舎にいんのは?」


 月宗様は呆れた様にソファの背に両腕をかけてしまう。膝にいる私は腕で支えてもらえずに不安定になって、月宗様の首に腕をまわす。


こんな話をしていなければ、ずっとこうしていたいと思う。


「あ、えと…………花柳院(かりゅういん)さんは良くも悪くも芸術家で…………お花の才能はあるんだけれどお金の使い道とか女の人とかにだらしなくて…………」


 芸術家は援助されて然るべきという考えのもと、私を養女にしたといっても過言ではない。

そういう人だった。


「あの兄貴が入ってすぐに追い出されたのか」


「最初の何年かはつきっきりで、それこそ付き人みたいに花柳院(かりゅういん)さんのそばにいたの」


「ふぅん?」


「悠君が大学を卒業した歳にね、京都で開かれた華道展で最優秀賞をとったの。その作品が……花柳院(かりゅういん)さんのコピーから上手に応用したって感じで…………」


「才能を盗んだのか」


「うん、普通はそんな事できないんだろうけど、悠君は神童って呼ばれてて、大学も東大で……」


 大きな手が私の頭を撫でてくれる。

思わず手のひらに擦り寄りたくなる。


「そこからはあっという間で…………花柳院(かりゅういん)の別荘地に閉じ込めて、お酒と女の人をたくさんあてがって…………もうお花を触ってすら、いないと思う」


「へぇ」


 悠君が跡取りとして立つようになって花柳院(かりゅういん)の財政は持ち直した。今や眷属の援助なんていらないぐらいには。


こんな事、今は考えたくないのに。あの二人と同じ空間にいると消えてしまいたくなる。


「…………………………せっかくきれいにしてもらって、月宗様とパーティーにいたのに」


こうなるだろうとは思っていたけれど。


「結衣…………そういうとこだぞ」


「??」


「……………………無自覚……………………」


ガバッと天を仰いだ月宗様は呆れた様にそう言った。



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