門前町
伊勢神宮の門前町は沢山の食べ物屋さんで賑わっている。
伊勢海老や貝を網焼きにしたお店や甘味のお店が並び、最近は食べ歩き用のお店が多いみたいで見ているだけで楽しい。
月宗様は既に串に刺さったいちご飴をバリバリ食べている。糖分の補給らしい。
「食う?」
「う、うん」
イチゴを外して私の口に入れてくれる。
パリパリとした飴の甘さと、イチゴの酸っぱさが口に広がっていく。
歩くごとに増えていく甘味に負けずにすごいスピードで平らげていくのが楽しい。
カップに入った大学芋を手渡され、口元に運ぶと嬉しそうに食べてくれた。
涼風にも、と思ったけれど興味がない様でフルフルと首を横に振るだけだった。
本当に涼風は何も食べない。
神様の神力で作られたと言っていた。
私達の様な体ではないのかもしれない。
「何か欲しいもんあったら言え」
「もう十分だよ」
「何かあるだろ」
こんな会話ばかりしてる。
もっとあなたの事が知りたい。
またこうやってデートしてくれる?
涼風も連れていっていい?
喉まで出かかり、恥ずかしくなって俯いてしまう。
生クリームたっぷりのクレープをバクバクと食べる月宗様は、時折私の口にクレープを運ぶ。甘い甘いクレープが胸いっぱいに広がっていく。
「この店のしめ縄は出来がいいな」
神棚やしめ縄の売っているこざっぱりとした小さなお店の前で月宗様がふと止まり呟いた。
「出来がいいとか悪いとかあるの?みんな一緒に見えるけど……」
「祓の力がちゃんと作用している。清浄な職人が手掛けたんだろ」
ふぅん、そんなものなのか。
大きな店構えの立派な神具のお店はいっぱいあったのにスルーだった。
こざっぱりとした小さな店先を覗くと、お店の脇に木で作られた木彫りの作品が数点置いてある。
「あ…………」
「何か気に入ったものがあったか?」
「えと、そうじゃなくて…………あれ、涼風がよろこぶかなって……」
木の木目が温かい積み木。シンプルな積み木セットだけれど、着色のされていない木そのものの色と藍染めされたものが混ざっていてすごく素敵。
「親父、これくれ」
「はいよ!プレゼントにつつむかい?」
「いや、いい。そこの風呂敷もいっしょにして背負わせてやってくれ」
地域のお母さん方のハンドメイド品を売るコーナーにある大判の風呂敷を指す。
店主は心得た様子で積み木を木の箱にしまい、風呂敷で器用に包んだものを私の腕の中にいた涼風の肩に斜めに背負わせてくれた。
涼風は自分の背中と月宗様を交互に見て最後に私の着物の襟元をギュッと握った。
「お部屋に帰ったら、これで一緒に遊ぼうね?月宗様にありがとう言える?」
喋る事ができるのか分からないけれど一応聞いてみると、私の腕からバック宙して降りた涼風が私と月宗様に向かってぺこーっと頭を下げた。
頭が下がる時に両腕が後ろに上がったのがすごく可愛かった。
◇◆◇
「寒くはないか?」
「うん、大丈夫」
幼い頃に会って遊んでもらった記憶があるから気安くはあるけれど、だからといって今の月宗様をよく知るわけではないから会話が上手く続かない。
どきどきして、もどかしくて、
それでも一緒にいたくて。
前を向く彼の横顔ばかりを見つめているのがバレてしまいそうで努めてショーウインドーを覗くふりをする。
神棚専門店や、数珠のお店、幸運グッズのお店に天然石のお店。
ぼんやりと彼越しに見る。いつのまにか涼風を肩車してくれていてご機嫌な涼風が目の端に映る。
「好きなのあったか?」
店先で職人が扇を作っている割と大きな店構えの店で足が止まり、月宗様が私に優しく問う。
「ううん、珍しいものが……売ってるな、と思って」
私の目線の先を見る月宗様は不思議そうにする。
「あれか?普通の扇だろ」
「扇の要の部分にね、装飾があるでしょう?」
「んあ?あぁ、なんかついてんな」
開いた状態で目線の位置に飾られた扇には、要の部分にひらひらと1メートルくらいの組紐とリボンが付いており、床に美しく垂れている。
「普段使いには邪魔だから、あれはディスプレイ用だろうけど…………母がね、特注して作らせた事があって……」
「結衣の母御は踊り子だったか」
「うん。日本舞踊の先生だったの。踊る時にその飾りがすごく綺麗で。母の…………一生で一度の贅沢品だったんだと思う。本当に大切にしてて、特別な時にしか使わなかったくらい。懐かしい」
ウィンドウの前で立ち止まりぼんやりと扇を見つめる。金の波装飾がなされた、高級品。
「今度俺にも見せてくれ」
「…………………………もうないんだ」
「共に燃やしたか」
火葬のことを言ってるんだとわかり、そうだったらどんなに良かっただろうと苦笑する。
「形見分けでね、取られちゃった」
「………………………………」
母の葬儀の最中に桜子と花柳院の分家衆が母の着物や装飾品をごっそりと持っていってしまった。
分家の人達は金目のものが欲しかったのだろうし、桜子は私への嫌がらせだろう。
当時母が亡くなり意気消沈した私には取り返す余力がなく、泣き寝入りするしか無かった。
「私じゃ使いこなせないし持っててもしょうがないんだけどね!凄く綺麗だったんだよ。数珠の代わりに珊瑚が使われててね、シルクの組紐とリボン帯が何本もかかって、鈴が沢山ついてるの!」
持っていても使わない物だからもうとっくに吹っ切れている。
今の今まで思い出さなかった程だ。
「月宗様?」
「俺は…………お前の本当に辛い時に……そばにいてやれなかったんだな」
「え?平気だよ。もう気にしてないし、ただ思い出しただけ」
片手でぐいと抱き寄せられて大きな手が私の髪をなでる。
「俺は……俺は人間に生まれたかったよ。お前のそばで」
ボソッと彼が何かを言ったけれど、あまりにも小さな声でよく聞こえなかった。




