百鬼議 2
百鬼議は夜からなのに、私は朝からレレさんとマキノさんに隅々まで磨かれている。
涼風までピカピカにされて、ギリギリまで狩衣を着たくない涼風はすっぽんぽんのまま獅子丸に乗って逃げ出してしまった。
裸ん坊にポシェットを付けて逃げる涼風を類君が慌てて追いかけて行く。
「涼風は後で捕まえますんでまずはお嬢様ですね!」
桜柄の大振袖を着せ付けてもらう。
淡いピンクと銀のグラデーションの絹織物で、うっとりするほど美しい。
本物の桜でできた房飾りを髪の左右に飾られて、繊細な花に頭が動かせなくなる。
「若の妖力で狂い咲いた桜から作ったらしいです!若がこのまま時を止めてくれたんで壊れないですよ!めっっっちゃ可愛いです!!お似合いです!!」
「す、すごい……満開のままで止まってるの??本当に可愛い……」
「涼風も同じ淡い桜色の狩衣にしましょう!お揃いなら素直に着てくれるんで!!」
涼風の扱いに慣れすぎなレレさんに笑ってしまう。
婚約者としての初仕事で緊張するけれど、みんながいればきっと大丈夫という気がする。
「花嫁と婚約してこんなにも力を付けた当主は初めてなんで皆興味津々でしょうけど、若がいれば誰も近寄れないんで大丈夫ですよ!」
目尻に赤いポイントアイシャドウをノリノリでつけながらレレさんが言う。
「あ、うん……」
レレさんやじいやも来てくれるらしいけれど控え室までで、会場は四つ守さん達が影から護衛に就くだけだという。
「立食ですが、何があるかわかりませんので飲食は控え室だけにして下さいね?控え室の食事はうちから持って行くのでオッケーです!」
「そんなに怖い場所なの……?」
「一応です!!!若が過保護なのもあります!!」
なんだか落ち着かないので、涼風を探しに廊下に出たところで奥から歩いてくる月宗様が見えた。
しっとりとした紋付袴姿。
黒い袴がまるで夜そのものみたいに深い。
凛とした姿に見惚れてしまう。
涼風を小脇に抱えた彼がこちらに気づき目を細めて笑う。
「桜の精かと思った。結衣」
「お着物も、桜の飾りも、ありがとう。嬉しい」
「…………見せたくない…………結衣お前笹音達との内談の時は絶対控えの間にいろよ!?」
「??分かったよ、待ってるね」
「四つ守だけじゃ足りん……一番隊から十番隊まで全部配置させるか…………?」
ブツブツ言い出した月宗様から涼風を受け取ってレレさんに引き渡す。
「護衛の人数は決められております」
月宗様の後ろには四つ守さん達もいて、光久さんが冷静に突っ込む。
「めっっっっちゃ綺麗っスね!ご宗主の気持ちも分かるっス!!」
「いや~~~どんどん綺麗になるねぇ。お兄さんびっくりしちゃう」
「もともと可愛らしおしたけど、うちのご宗主にこないに愛されて、すっかり花開かはった感じやなぁ」
「くっそ!!!!」
バサっと羽根が私を隠す。
「認識阻害かけるか…………」
「妖の宗主達に効くとは思えませんが」
お、おう、光久さん冷静につっこむな。
「涼風出来上がりでーーす!」
淡い桜色の狩衣を着たよそいき涼風は、白の差し色が春らしく可愛らしい。
ポシェットだけは許してもらえたのか、まんまるの宝物入れを堂々とかけている姿につい笑みがこぼれる。
「坊ちゃん、時間ですぞ」
じいやが涼風のお昼寝バスケットを持って現れ、腕の中の涼風がじいやに両手をあげて抱っこをせがむ。
本当に涼風が自由だ。
皆の中で安心しきって楽しそう。
「行くか」
「うん」
月宗様が私と涼風に安心をくれる。
泣きたくなる程狂おしく、焦がれてやまない彼の手を取る。
研ぎ澄まされた気配。彼がそこに居るだけで、皆の視線を奪う。
静かな自信と、奥に秘めた熱に目が離せなくなる。
隣にいるだけで、息があがる。
指先が触れるだけで思いが溢れて涙が出そう。
じいやに抱かれ前を行く涼風が肩越しに私に大きく手を振る。
それに笑顔で手を振りかえし、幸せだな、とふと思う。
恋してやまない彼の隣に、大切な人達に見守られながら立てている事に。




