百鬼議 1
「マリーは、百鬼議って知ってる?」
月宗様にいただいた石造りの古城の周囲には、いくつもの浮島が点在している。
建設中の図書館がある島の庭で、スコーンを口に運びながらマリーに尋ねる。
「妖ならみんな知ってるよー。妖の当主達の集まり。眷属神は神籍の末端だけど、妖だからね、妖狐も狛犬も八咫烏もちゃんと出席するよぉー」
マグカップに入れた紅茶を出してくれながらマリーが言う。
今日も赤い丸眼鏡がよく似合う。
「ふぅん?首脳会談みたいなもん?」
「シュノウカイダン?」
「あはは!そうね!そんな感じよ!」
首を傾げたマリーにかすみさんが笑う。
「ご不安ですか?社交の場という意味合いが強い集まりですし、紫波も私もおります故、心配ないかと」
冬乃さんがおっとりと首を傾げる。
そうか、おじ様も蛇一族の宗主様だから出席するんだ。
「最強の妖となられた八咫烏のご宗主の花嫁に皆興味津々ですわよ?私の所にまで繋ぎのお願いが頻繁ですもの」
「えぇ……やだなぁ……目立ちたくないのに……」
「そんなの無理よ!結衣は今や時の人よ!?」
かすみさんは類君を膝に乗せ、時折スコーンをちぎって食べさせる。
くちばしの周りに欠片が付くたびに指先でそっと拭い、類君が気持ちよさそうに目を細める。
「大丈夫でございますよ、ご宗主様が結局は羽根で隠しておしまいになりますし。ふふ、溺愛っぷりが間近で見られて最高ですわ?」
「蛇のご宗主も愛妻家って有名ですよぉー」
マリーが私の膝の涼風の頭を撫で回しながら言う。
されるがままの涼風は満足そうにマリーを見る。
「ふふふ、どうでしょうねぇ」
カンカンという工事の音が遠くで聞こえる。
レンガ造りの赤茶の洋館。マリーの指示でここもどこかの古城を移転して、マリー好みに組み直しているらしい。
赤煉瓦がお洒落で、完成したら壁に蔦を這わせる予定とか。センスのいいマリーらしく素敵な図書館になるのだろう。
「マリーは誰がタイプなの?やっぱり恭?」
「私?うーん、恭様はかっこいいけどタイプではないかなぁ。私が本ばっかり読んでも呆れないでいてくれる人がいい!狛犬族じゃあ無理だな~!」
「頭の良い人がいいの?」
「そうかも?」
「雲雀様ね」
「うちの息子は?」
かすみさんと冬乃さんの言葉が被り、皆で大笑いする。
お友達って、楽しい。
まさか私がこんな楽しい会に参加できるなんて、ここに来るまで考えもしなかった。
私と婚約した事で、かすみさんと月宗様の婚約は白紙になった。
もともと政略だったからかあっさりした婚約破棄でこっちが拍子抜けしたぐらい。
「かすみさんは雲雀君にアタックしないの?っていうか雲雀君って彼女いるのかな?小四郎君は知ってる?」
私のすぐ後ろで護衛を務める小四郎君に振り返って問う。
「雲雀さんッスか?いないと思うっす!めっちゃモテるんですけど塩対応っすね!はっ!まさか男が好きとかですかね!?」
————「小四郎、死にたいん?」
突然現れて、ポンっと小四郎くんの肩に手を乗せる雲雀君はニコニコ顔なのに目が笑っていない。
かすみさんの目が一瞬でハートに変わり、類君の頭にスコーンを押し付けている。
後ろから月宗様と八雲おじ様も歩いてくる。
迎えに来てくれたとわかり、ニヤニヤしてしまう。
涼風が飛びついて行き、抱き上げられているのを見やる。
私の婚約者様は本当にかっこいい。
「冬乃さん、迎えに来たよ~~~」
笑顔だけで答える冬乃さんにどんどん鼻の下が伸びていくおじさまがおかしい。
寒いでしょ!とか疲れてない?とか聞きまくって自分の羽織を冬乃さんの肩にかける。これは想像以上に溺愛だ。
「今日は石城に皆泊まるのか」
「あ、うん。レレさんがね、そうしたらどうかって言ってくれて……」
マリーとお母様、冬乃さんとおじ様、類君とかすみさん、それに後から夜臣さんも来てくれるらしい。
類君が寂しくないように、かすみさんと夜臣さんが沢山愛情を注いでいる。
「涼風には、あとでハクさんとヨダカ君も来てくれるよ。じいやと、四つ守さん達も」
私のセリフに肩車された涼風が手を叩いて喜ぶ。
「邸から料理人が何人も来ていた。レレとじじいがはりきってるな」
「ふふふ、みんなでご飯、楽しみ」
抱き上げられて、涼風とおでこをくっ付けて笑い合う。
呆れた月宗様が羽根を出して空を飛ぶ。
下からマリー達が「あとでねー」と手を振るのが見える。
「迎えに来てくれて、ありがとう」
「おう。俺にも糖分くれ」
お茶会が終わったばかりだけれど、また3人で甘い物を食べよう。
涼風にも、丁寧にお茶を淹れて。




