キャンパスデート
新学期まではまだ一ヶ月ほどあるけれど、学生証の更新と必須単位の教科書を買いに今日は大学に来ている。
月宗様に買ってもらった新しいスマホを使い、カフェテリアの券売機で支払いをする。
「紙…………?」
八咫烏のご宗主様は券売機を知らなかったようで、トートバッグにインされたクマさんも物珍しそうに出てきた食券を見ている。
「ふふ、今日は混んでるね、あ!あっちの丸テーブルがちょうど空いたからとっていて?」
うちの大学は文系特化で女子が多いのでカフェテリアはスイーツ系も充実している。
ケーキセットを二つ受け取って席に戻ると涼風を肩に乗せた月宗様が席を立ち、私の椅子を引いてくれた。
赤い星型のサングラスをかけたクマさんがぴょんと私の膝におさまり楽しそうに揺れる。
「涼風のサングラスコレクションかな?すごく似合うよ」
本人も気に入っているようでご機嫌だ。
「完全にレレが遊んでるな」
——『見て!超イケメンがいる!』
——『本当だ…………でも女連れだね……いいなぁ恋人かな?色気やば。声かけてみる?』
——『待って待って、あれ……無理だって』
——『うわぁ……あんな顔で見つめられたい…………』
女の子達の熱い視線を完全に無視して月宗様が足を組んで座り直す。
珍しくラフな洋装の月宗様は破壊力がすごい。
雲雀君や涼さんもすごく目立ったけれど、月宗様はその上をいく。
チラチラとした視線ではなくガン見レベルで見られている。
周りを一瞥した月宗様がパチンと指を鳴らすと途端に不快な視線がなくなり、別の話題に花を咲かせる女の子達の声で普段通りの喧騒が戻ってきた。
涼風がムニムニのおててで真似をしようと指を合わせるのが可愛くて笑うと、私を見て目を細める彼と視線がぶつかる。
「大学でデートなんて、嬉しい」
「ああ」
誰の視線も感じないのをいい事に、ケーキを彼の口に運ぶと嬉しそうにパクついて笑う。
「無理してないか?御台の教育が始まっただろ」
「うん。神代文字の勉強と、妖の世界の常識をかすみさんに習い始めたところ。先生がかすみさんだから、難しくても楽しくやれてるよ?」
「ならいい。卒業までは学業を優先すれば良いし、結衣は元々母御の影響で作法はピカイチなんだ。あとは適当にやればいい」
適当、とはいっても宗主の奥さんをやるのは大変そうだ。特に、八咫烏の里は。
狛犬の里や妖狐の里ならばまた違ったのだと思う。
それでも、私はこの人の隣にいたい。
モリモリとケーキを頬張る、彼の横に。
大好きで焦がれて苦しい彼のそばにいたくて、無理やり背伸びをしている感じはあるけれど、私は今の私が好きだ。
「悠君……退院したんだって?」
「ああ、日常に戻したよ。完全に結衣の事は記憶になさそうだな。神々が縁切りしたんだ、もう未来永劫交わる事はない」
そうか、縁切りの神様だっているもんね。
そういうのは得意そう。
「桜子は、どうなった?」
「あ~~……………それについては今度の百鬼議で笹音達と話す手筈になってる」
「ヒャッキギ??」
取り出した積み木で1人遊びをする涼風のサラサラの髪を撫でながら、聞きなれない言葉に戸惑い首を傾げた。
「妖当主が集まる会合だ。結衣の披露目にもなるから連れて行きたいけどいいか?」
「あ、うん……」
「それまでは笹音が預かるだろ」
あの時、唖然とする桜子と話はせずに別れた。
言いたい事は言えたし、不幸になって欲しいわけではない。
「どうなるんだろう…………」
「さぁな?俺には恋女房がいるし関係ねぇな」
まだ婚約者だというのに、サラリと奥さん扱いされて顔に熱が集まっていく。
既に私を御台様、と呼ぶ人まで出る始末だ。
「江戸時代みたいだね、御台って…………」
「その時代あたりに八咫烏勢力が一番盛んだった名残だな」
秒でケーキを食べ終えた月宗様が物足りなさそうにフォークを咥えながら言う。
「そういえば、婚約して月宗様の妖力は増えたけれど八咫烏の里は何か変わった?」
「いや?本来婚姻がメインだからな。過去に嫁取りができてない俺らもよく分からん」
「そういう事、今度笹音さん達に聞けるといいね。花嫁を迎えた事のある里ならわかるかも…………」
「どうだかな?あいつらは花嫁の力を正しく理解してはいない。本当に花嫁を愛した当主はいなかったということだ」
そっか。何か涼風を残すヒントがあればと思ったのだけれど。
「涼風の事は全力で調べる。必ずなんとかするから待ってろ」
顔に出てたかな。
幸せの先に、この子との別れがあるのは耐えられない。
「うん…………」
「うおぃ!なぜお前はいつも顔に貼り付く!?邪魔だろクソガキ!!」
ぺとっと虫のように張り付く涼風は、きっと笑顔なのだろう。




