祝い
私はすごくめかしこんでいるのに月宗様は着流し姿だ。
身体中からめんどくさいオーラを出しまくっているから大した用事でもないのだろうと安心していたら、ガヤガヤとした声が聞こえる。
「何?大広間に行くの?」
「俺とお前に客が来てる」
「お客様?」
「客の中に紫波もいるから安心していい」
おじ様もお客様として来てるのか。
よくわからないけれど、久しぶりにお話しできそう。
月宗様が大広間へと歩を進めるにつれて、喧騒がおさまってゆく。
八雲おじ様達の時みたいにまた誰かの首を取るとか言ったらそれこそ殴ってやろう。
私を羽根で隠した月宗様が広間に入っていく。
今度は屏風の御簾ではなく天井から布が垂らされていて、煌びやかな刺繍が美しく向こうがぼんやり透けて見える。すぐそばに贈り物の山が見えて、その奥に並ぶ先頭のうちの一人が八雲おじ様だなとシルエットで分かった。
「お嬢様、あちら側からは全く見えませんのでご安心を」
後ろに付いてきたじいやが言う。
いつか涼風が遊んだ小さな滑り台がそばに用意されていて、涼風がそちらと八雲おじ様の方をキョロキョロとせわしなく視線を行ったり来たりさせる。
どちらに飛びついて行こうか迷っているのが見て取れて笑ってしまう。
私を布のある席に通して月宗様が奥に座ると、八雲おじ様の声がした。
「ご婚約、誠におめでとう存じます。この佳き日を迎えられましたこと、蛇一族心より慶賀申し上げる。黒翼御家門の威光ますます輝き、一族の繁栄が末永く続きますこと、謹んでお祈り申し上げる」
おお、おじ様が真面目だ。
おじ様の声に我慢できなかったのか、涼風が飛び出していく。
「坊やこら!いまおいちゃんいいとこ!!」
あ、やっぱりおじ様はおじ様だ。
涼風はそのままおじ様の隣に真似をしてちょこんと座りいい子にしているので放っておこう。
おじ様に続いて似たような挨拶が鵺一族とか、天狗一族とかファンタジーな名前で続く。
皆心から嬉しそうな声でお祝いを述べてくれるので友好関係の一族なのかもしれない。
ふと、ここにいる全員に私が月宗様に抱かれたことが知れ渡っていると気づき、穴があったら入りたいほど恥ずかしくなった。
「最悪だ…………」
呟くと月宗様がチラとこちらを見る。
悶絶していると、少し堅めのトーンのお祝い挨拶が聞こえた。
八雲おじ様の隣、頭に犬耳のシルエットの方が話す。
他の方と同じようにあぐらをかいて座っているけれど頭は下げていない。
「ご婚約の由、承り及びました。まずは慶事として、祝意を表させていただく。
貴殿の御威光をいよいよ強め、一族の繁栄へと繋がるものとお見受けいたす。
狛犬一族は良き隣人として、此度の御縁が末永く安寧と調和をもたらされますことを静かにお祈り申し上げる」
狛犬の使者さんだ。
「心遣い痛み入る、感謝する」
月宗様が短く答えると、今度はさらにその横にいる方が話し出した。
「貴殿の御威光さぞや盤石のものとなられることでしょう。
同じ眷属神として、その御力の広がりはつぶさに見定めさせていただきたく存じます。…………我らの均衡が崩れることなきよう、隣人として、相応の務めを果たすまでにございます」
わぁ…………棘がいっぱいな祝辞…………これは祝辞と言えるのか……
三角のお耳と二股の尻尾のシルエット。
笹音さんの所の使者だなぁ。
「祓いの花嫁は息災か」
桜子の事だ。
あの後どうなったのか、私は知らない。
「我らが里にいまだ滞在しておられる。それについては一度三当主で話し合いたいとの事」
「承知した」
「失礼する」
そう言って妖狐の使者さんが立ち去ると、狛犬の使者さんもそれに続く。
2人の使者が立ち去ると、宴席の用意が運び込まれて一気に場が騒がしくなっていく。
月宗様がそばに来てひょいと私を抱き抱えて座る。
「なんだ、不満そうだな?」
「公開処刑だよ!みんなにバレてる!!」
「は!諦めろ」
「悠君は、どうなったの?」
気になっていた事。
意識を失った彼はあの後どうしたのだろう。
「うちのグループの病院に入院させた。本当に結衣の事だけ綺麗さっぱり忘れている様だな。お前の部屋も引き上げさせるがいいか?」
「うん。教科書は持って来てるし、あちらに必要な物はもうないから大丈夫」
「戸籍やなんやらは変えられないが、思い出すこともないだろう」
良かった。
悠君には、きっとそれがいい。
「桜子は?妖狐の里を追い出されるの?」
「どうだろうな。資格だけを取られたのか、力そのものが無くなったのか……結衣と桜子は既に神籍に移っているから扱いが難しい」
「そうなの?私、負けたら即現世に返されるんだと思ってた」
「神籍を抜かれているのかは会ってみないと分からん。神々がどこまでの采配をふるったのか確認しないと桜子の進退は決められない。笹音もそれを話し合いたいんだろ」
「ふぅん?現世に帰れるなら悠君とこんどこそ頑張ればいいし、帰れないなら笹音さんに嫁げればいいのにね?」
私の腰にあった手をはなし、後ろに両手をついてだるそうにした月宗様が呆れた様な顔をする。
「結衣は桜子が憎いんじゃないのか?」
憎い?憎いとは違う気がする。
私とは交わらない場所でうまくやってほしいと思う。
「月宗様が取られないなら、気にならない」
ふわっと眩しそうな目で彼が笑う。
「一度とられたもん」
「!?やぶ蛇!!」




