実験
レレさんにお風呂に入れてもらい、ベッドに寝かされる。
頑なに診察を断ったので八雲おじ様達が帰ったのか、涼風は部屋の隅で類君と積み木で遊んでいる。
うとうととまどろむような浅い眠りを繰り返し、やっと目を開けた時にはもう日は暮れかかっていた。
硬い感触に顔を上げると目の前に月宗様の寝顔がある。
いつも精悍なお顔が幼く見えて笑ってしまう。
腕枕のはずなのに、抱き枕になった気分。
がっちりホールドされていて身動きが取れない。
すりすりと首元にすり寄ると、寝ぼけた彼がギュッと抱きしめてくる。
「勝ってくれて、ありがとう」
起こさないよう囁いて、隙間なく身体をくっ付けて安心を貰う。
こんなかっこいい人が婚約者なんて信じられない。
そういえば、私に妖力の自覚はないけれど送ろうと思ってキスしたらどうなるんだろ。
「……………実験あるのみ」
息を入れる?のも何か違う。
何だろう、勝ってくれてありがとうの感謝と……大好きの気持ちを送ろう。
ちゅーっと薄い唇にキスをして思いを送る。
彼が好きすぎて苦しいほどの思いを。
「のわっっっっ!?!?は!?」
ガバッと起きた月宗様がつつつーっと鼻血を出したまま大混乱している。
成功したのかな?
「ふふ、おはよ」
「なん!?は!?」
「妖力、来た?」
「!?」
口元を隠したまま、信じられないものを見るような目で私を見つめる月宗様は、言葉を失っている。
「あれ?来なかった??」
「………………結衣さん、これはもう一度っておねだりだと思ってイイスカ?」
「??」
「こんな爆弾みてぇな妖力送っといて何も無し!?」
「妖力と関係あるの??」
「………………」
「そういえば、神様に仲を認めてもらったって事は婚約できたってことだよね?わざわざ抱かなくても、もう婚約者だったんじゃない??」
「ソレハソウデスケド……」
「???」
いつのまにか涼風がいない。
いつもドレッサーに置いてあるポシェットが無いのでどこかに遊びに行ったのだろう。
「ふふ、ここにいる涼風は自由で楽しそう」
「そうか?いつも変わらんだろ」
手の甲で鼻血を拭きながらブツブツ文句を言う。
月宗さまは狛犬の里での生活を聞いてはこない。どう過ごしていたとか、何を思っていたとか。
帰った時に何があったか聞いただけ。
「私は、ここにいる涼風が好き」
「ふぅん?」
「ここにいられて良かった」
優しく髪を撫でられて、唇が触れ合う。
「あっま……」とつぶやいて溶けるようなキスに変わっていく。
月宗さまの大きな手が着物の帯に触れた時、ドアがバーーーーンと開いて、上機嫌の涼風が獅子丸にのって駆け込んで来た。
「……………………クソガキが楽しくても俺は全然楽しくない…………」
「月宗様!兄様がお呼びです!お支度を!」
恐竜涼風の頭には乗りづらかったのか、パタパタと飛んで付いてきた類君が言う。
「クソガキ共…………」
「お仕事?」
「あ~…………仕事じゃねぇけど、お前も来る?抱いて行ってやるから」
「行ってもいいの?」
「いいぞ。類、レレを呼んでこい」
「承知です!」
なんとなく今日は一緒にいたくてぎゅっと抱きつくと、真似をした涼風が月宗様のお顔にペタっとくっ付いた。
◇◆◇
首元の痕が隠れるスタンドカラーのアイラインドレス。
腕とデコルテ部分はレースで、ビスチェタイプで大人っぽい。
「真っ黒だねぇ。ちょっと大人っぽすぎない?」
「最高です!!色気を出し始めたお嬢様にみんな釘付けです!!」
色気はわからないけれど、レレさんが鼻血を出しながら親指を立てるのでまぁ良いのだろう。
本人の支度が終わって迎えに来た月宗様も「最高か……」と呟いてる。
横に流した髪に沢山の銀の花飾りを付けておしまい。
長いドレープの裾で涼風が遊ぶのを捕まえると、涼風ごと抱き上げられてクスクスと笑い合う。
涼風の声はしないけれど、なんとなく笑っている————そんな気がする。




