とりあえずブン殴る。
壁から滴り落ちる液状の炎。それは地面で垂れ重なるとヒト型へと姿を作り上げていく。ドロッと垂れ落ちるたびにヒト型は成長し、瞬く間に2m超の巨人になった。
「…なんやの、コレ。やすべぇ、ちと調べてくれんか」
「スィ。Lux Divina, naturam huius entis revela. Originem ostende, verum nomen affer ――【Signum Ignis Revelare】!」
安倍は炎の巨人に左の掌を翳し、それが何たるかを読み取るのに集中。その様子をみんなで注視しているのだが…あまりにも澪が大樹の胸の中にへすっぽりと自然に収まっているせいか、誰もお姫様抱っこに突っ込む者はいない。
「…相変わらず何言ってんだか分かんねぇ」
「ねぇ、神代君。この人、本当に安倍君なの?」
澪の両腕は落ちないようにと無意識にも大樹の首の周りにぐるっと巻かれている。見上げればすぐそこにある大樹の頭へと問いかけた。
「そうだが、何でだ?」
「え? だってすごく賢そう…」
「…白鷺はんも大概失礼なやっちゃな」
「あ⁈ ごめんなさいっ!」
と謝罪の言葉と同時に大樹の胸へと顔を伏せた。何しろ両腕が塞がっているので。
「で? 賢いやすべぇ。分かったんか?」
「スィ。これは『炎の情報体』、でーすね。魔法や魔術で使われるモノでーす」
「…なにそれ? 白鷺、分かるか?」
「私、魔導ならともかく魔法や魔術はちょっと…」
「あー、せやな、お二人はんに分かるように説明すると、熱の塊、ってとこやな。何かが燃えてるわけやないが触ればあっちいがな。やけどじゃ済まんシロモノや。しっかり熱いから物に触れれば温度上昇でいずれは燃え上がる。キケン極まりないやっちゃ」
「すごいな、松尾君も。すごく分かりやすかった…」
「お褒めにあずかり、どーも。で、あのけったいなヤツに名前つけとこか」
「要るか? 名前」
「じんだいはんも『うすらデカい無愛想面のん』呼ばれ続けたら嫌やろ」
「ぷっ!」
「…そんな風に思われてたのか…」
「…私だけじゃなかったんだな…」
「え? 何?」
「んッ⁈ 何でもないっ!」
「Oh、北欧神話のラストは炎の巨人スルトが登場しまーす。そちらの『彼』は小さいのでスルトJr。いかがでーす?」
「ああ、それでええわ」
「そんな適当なら名前つけなくても良くね?」
「ええねん、気分の問題や。さて、漫才はこのくらいにしてさっさとここから出ますかいの。出口はスルトのJrがおるさかい、非常口やな。で、白鷺はん、出口はどこ?」
「…あそこ」
と澪が指さした方向。それはまるで資源ごみ置き場か不法投棄の跡かと見間違わんばかりに、ひしゃげたロッカーが山積みとなり非常口のドアを塞いでいた。
「あー⁉ これはアカンわ」
「文字通りでーす」
「そこはネタに乗っかるところやないで…ってことは『ぼっちゃん』のおるところから出なアカンちゅうこっちゃ」
「アイツをおびき出してそのすきに出るってのは?」
「あれが歩けるように見えますかいな」
確かに。スルトJrと名付けられた炎の巨人、その足は、まるで溶けたロウソクのように地面へとへばりついていた。
「ってことはあれを倒さないことには」
「そういうこっちゃ。ほなやすべぇ。いっちょやったりますかいね」
「スィ。いっちょやったりまーす」
「勝ったあかつきには白鷺はんのたわわに実った果実でも触らせてもらいますかいの」
「何でそうなるのよっ⁉」
「何事もご褒美があればがんばれますやろ?」
「うっ…ちょ、ちょっとだけなら…」
「聞いたか! やすべぇ!」
「ヒャッハー! ヤル気出まーす!」
「おっちゃん漲ってきたでぇ!」
「…いいのか? 白鷺…」
「…まぁ、あの人たちなら直前で断っても火星が爆発とかしないだろうから…」
「何だそれ? で、オレはっ? オレは戦わなくていいのかっ?」
「なにゆーてん。神代はんは姫の守りや」
「それがナイトの役目でーす」
「奥に引っ込んで見とき。さて」
ドサッ
松尾は背負っていた天城を無造作に落とした。気を失っているのにこれほどまでに丁重に扱われない男も珍しいだろう。そして気を失っているがゆえに文句の一つも出てこない。天城はまるでひっくり返ったカエルのように床にあお向けになっている。
「たわわな果実のためにもかっこええとこ見せんとな」
松尾は…いつもそうだが、どこからともなく道具を出す。
「それって…手裏剣?」
松尾の手には長細い刃物、しかし明らかにナイフの類とは違うものが握られていた。
「クナイ、っちゅうんや。男の子はこういうの好きやろ?」
「松尾って何者?」
「忍者とか忍びとかいうヤツや」
「ニンジャカッコイイでーす」
「忍者って本当にいるんだ…」
「まぁその辺はおいおいにってことで。ほなやすべぇ。ワイから行くで」
急に松尾の雰囲気が変わった。クナイを眼前に立てて構え
「爆焔、籠れ――【焔籠】」
シャッ
小さなモーションでスルトJrへ投げつけた。
「焔籠・破ッ!」
ボフォッ
「スゲェっ!」
「すごーいっ!」
投げられたクナイはスルトJrの脇腹へサクッと刺さり、詠唱と同時に爆発、スルトJrの胴に大穴を開ける。
「Oh、姫の評判がウナギノボリねー。負けてられませーん」
安倍もまた顔つきが豹変する。胸の前で十字を切り
「Aqua Divina, purifica et expelle malum――【ボンゴレビアンコ】!」
祈りをささげると右掌をスルトJrへ。
バチッ バチバチバチッ
スルトJrの体表が爆ぜ上がり、毟り取られたかのように「肉体」が奪われた。
「こっちもかよ⁉」
「何それ、すごーい!」
大樹の驚きはともかく、澪はただ驚くだけでなくそれを好奇の目で見ている。
「すごいやろー? おっちゃんたちはな」
フグォワァァァァァ!
松尾と安倍の魔導を食らったスルトJr、雄叫びと共に右腕を振り上げた。
「マツーオ! 逃げまーす!」
「何が、 ! 何ィ? これ、アカンのが来るヤツや!」
「そこの二人も!」
そして振り下ろした。
ボスッ ボス ボスボスボスボスボスボスボス…
たったそれだけのモーションでスルトJrの右腕は細かく切れ飛び、灼熱の赤い球体が床に叩き付けられリノリウムを焼き溶かす。
「おうおう、ぼっちゃん怒っとるで!」
「キキイッパツでーす!」
「なんやあれ、置きモンとちゃうんかい」
「迎撃システム搭載の模様でーす」
「あっ⁈ パイセンは⁈」
天城は先ほど同様あお向けのまま転がっていた。
「死んでると思われたんでしょーか?」
「さぁなぁ。まぁええわ。ほな攻撃第2陣、行くでぇ! 裂風、籠れ――【風籠】! 破ッ!」
「Ignis Sacra, combure tenebras――【ペスカトーレ・アラビアータ】!」
突き刺さったクナイが内部で炸裂し、体表は爆ぜ飛ぶ。攻撃すれば反撃、再び炎の球体が散り飛ばされる。
「へぇ…上手いなぁ」
大樹の腕の中で澪が呟いた。
「何が?」
「松尾君は忍術に魔導を組み合わせて効果的に発動させてる。安倍君は、本来のスタイルが分からないけど、それと魔導を上手く組み合わせてるの。二人ともAMI値は低いのに。だから上手いなぁって」
「AMI値って…お前そんなことも知ってんの?」
「だって私、風紀だよ?」
「風紀委員ってそんなことまで知ってんのかよ」
「まあね」
「でも魔導っての、見ただけで分かんのか。お前も大概スゴいな。」
「そんなことないよ。私はまだまだ。でも…そっか…」
澪の心の中で何かが囁く。自分のAMI値は1.7。それは少しだけ良い程度。しかし松尾は1.2で安倍は1.3。自分よりも小さなAMI値の二人が、それぞれ自分の持ち味を生かして戦っている。自分はAMI値という枠に甘えているのでは――――
「ねぇ、神代君。降ろしてくれる?」
「いいのか? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかもだけど、抱っこされたまま見物ってわけにもいかない状況でしょ? よいしょ」
するりと大樹の腕から滑り降り、澪は大地に立つ。
「私も戦うわ」
微笑むように穏やかだが凛と引き締まった顔。そして炎の巨人・スルトJrへと向かった。
「松尾君! 安倍君! 二人とも下がって! 『風』を使うから、巻き込まれたらミンチになるわよっ!」
「マジですかいっ?」
「Oh、それは撤退でーす」
松尾と安倍の二人は澪よりも戦線を下げる。
「お前ら白鷺の後ろに下がっていいのかよ?」
「なにゆーてん。白鷺はんの風魔導はシャレにならんで?」
「シラサギサンのオハコですかーら」
「そうなのか…」
半信半疑で澪の背中へ視線を向ける大樹。心なしか、澪が大きく、そして厳かに見えた。
「風を要素に。猛り狂う炎の巨人へ――万象を断ち裂く刃を。【空裂のアジタート】!」
胸ポケットのボールペンを向けた先、スルトJrは――――音もなくバサバサと斬り裂かれていく。
【空裂】は「かまいたち」のようなもの。空気を対象付近で急激に薄く――――澪の場合剃刀レベルの薄さまで――――圧縮する。圧縮が急な分、その周囲には空気の薄い、限りなく真空に近い状態が発生、それがまずは対象へと接触。真空で傷が入った対象の表面から剃刀厚の圧縮空気が侵入し、内部で元の体積へと戻るのだ。結果、【空裂】が当たればそこは裂けることになる。しかもそれを【アジタート】使うのだ、その効果は御覧の通り、である。
しかし。
「きゃっ⁉」
「白鷺ィッ!」
ケガのこともあるのだが、澪が後ろへよろけて倒れそうに。そこへ大樹がダッシュで駆け付け、倒れ掛かった澪の身体を支えた。
「あ、ありがとう」
「無理すんな」
「気を遣ってくれるんだ。でも…なんだか今日は調子がいいの。まだ…行けるッ!」
不意のことで驚いた澪だったが、再び、いや、先ほどよりも鋭い眼光でスルトJrを見据えた。
「すっご!」
「灼熱のミンチでーす」
先ほど飛び交ったかまいたちは「5匹」ほど。だが今目の前には30を超えるかまいたちが飛び交い、次々とスルトJrを切り刻んでいる。ほどなく、足元の「溶けたロウソク」を残し、スルトJrは細かな破片へとなり、熱を失って消えていった。
「やったか⁈」
松尾が声をあげる。
「マツーオ、それはフラグでーは?」
むしろ安倍の危惧の通りになった。
ゴッパォアッ
壁のルーンからは再び液体炎が噴き出し、「溶けたロウソク」へ注ぎ足され元の炎の巨人へと成長した。
「いわんこっちゃなーい!」
「そんな…あれだけ切り刻んだのに…」
「まぁ炎は切れませんもんなぁ」
「なんだよこれ、キリねぇぞ⁈」
「あ! わかったーよ!」
「あ、あーなるほど」
「何が分かったんだよ⁈」
「ボク見てましーた。ドアの上にルーンが刻まれてまーす。『炎の情報体』はそこから溢れ出てスルトJrを作りましーた。そのルーンを破壊すれば再生を止められまーす」
「そうなんやがな。せやけどあのぼっちゃんには消えてもらわんとあかんねん」
スルトJrは出口上のルーンを守るかのように立ち塞がっている。全員それを見て絶句――――
――――大樹が沈黙を破った。
「オレがやる」
「何を?」
「あの巨人はオレが倒す」
「じんだいはん、どうするつもりで?」
「ブン殴る」
誰もが我が耳を疑った。一同、間をおいて間の抜けた返事。
「「「…はぁ?」」」
「オレは平和主義者だからな。こういう厄介ゴトを起こすヤツは大っ嫌いなんだよッ!」
「そういう問題ちゃうで! ムチャやがな!」
「ヤケドしまーす!」
「火傷どころじゃ済まないわよ! 服にでも燃え移ったら全身が」
「でもよぉ、このままみんなここで蒸し焼きになりてぇのか?」
「せやけどなぁ」
「まぁ任しとけよ。オレが何とかしてやる。白鷺。オレがコイツを倒したらルーンとかいうヤツをブッ壊せ」
「…うん」
澪は静かに立ち上がった。
「あないゆーとりますけど、大丈夫なんかいの?」
「さぁ?」
「さぁ、て」
「でも、大丈夫。大丈夫な気がするから…大丈夫」
「何ゆうてまんの」
大樹はスルトJrの真正面へ。
「まずはアイツにケンカを売ってもらわねぇとな」
ふと目についた、足元に転がっていた制汗剤のスプレー缶を拾い上げ
「食らえッ!」
炎の巨人へと投げつけた。
バシュ…
体表へ当たるや、スプレー缶が破裂。
ゴォ…ゴアァァァァァァ!
雄叫びと共に炎の巨人は灼熱の右拳を大樹目掛けて振り下ろしてきた。
「とりあえず消え失せろッ! 炎のクソゴミがァッ!」
大樹は右ストレートでそれを迎え打ち
ビキィ…
接触。その空間だけがまるで時が止まったように巨人の進撃は大樹の拳に阻まれる。
ギ…ギギギ…ギギギギギギギギギギギ…
灼熱の巨人は右拳から全身へと黒く色を変えていき、ガラガラと音を立てて砕け、崩れていった。
「白鷺!」
振り返る大樹。
澪は静かに頷き
(…どうしてかな? 胸の奥が熱い。体調が悪いとかじゃなくって…どこまでも無限に力が湧くような…)
静かに息を吐くと、ボールペンの先を再び液体炎を吐き出し始めたᚦへと向けた。
「風を要素に。災厄を生み出す印へ――貫ける一条の堅槍を。【空穿のカデンツァ】!」
ド ゴォァ
ボールペンの先からは圧縮され白く輝く空気塊が放たれる。
反動で澪は後ろへと弾き飛ばされ
「きゃぁっ⁉」
尻もちをつく。
出口の上には確実にボッカリと大穴が開き、その先には青空が顔を覗かせた――――
オープニング曲「トキメキってください」
https://x.com/HanashioKikei/status/2040632557730193424?s=20
ツイッター(現X)に動画があります
コピペで飛んでください
※最終回にオープニングが流れて盛り上がるヤツですね
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トキメキッてください 作詞作曲編曲/花塩樹圭
T・O・K・I・M・E・K・Iって!
眠れない夜には
そっと問いかけるの
胸のずっと奥
弾むこの気持ち何なの?
キミが隣にいると
ココロが震えるの
早く気付いてよ
熱く不安なこのチカラ
本もテレビもスマホでも
未知の物語
トキメキッてください
トキメキをください
風に踊るEmotion
My lover? Prelover?
まだなんだから!
トキメキッてください
トキメいてください
もう独りっきりじゃいられない
キミは未来へ続いてる
ト・キ・メ・キ・って・Love Attention!
ト・キ・メ・キ・って・Notification!
ト・キ・メ・キ・って・Maji-na Tension!
Foooooo!




