『運命の赤い糸』
オープニング曲「トキメキってください」
https://x.com/HanashioKikei/status/2040632557730193424?s=20
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言葉とは裏腹に天城は微笑んでいた。しかしそれは人らしさを失った、冷たく硬いもの。ただでさえ色白の天城が、今は殊更蒼白く見えた。眠っている澪の傍らにしゃがむと彼女の左手の薬指から赤いひも状のものを引き出す。
「禁忌構文って知ってるかい?」
天城はおもむろに立ち上がり、やはり冷ややかに微笑みながら大樹に問いかけた。
「だから構文とか魔導とかそういうの知らねぇって」
「そうか。それは残念だ。なら教えてあげよう。魔導の『ま』の字も知らない愚か者にね。魔導の構文の中には法律で禁じられたものがある。それらは『禁忌構文』って呼ばれてるのさ。いくつかある系統のうち、今ここにあるのは運命操作系。名を『運命の赤い糸』っていう。ククッ、ロマンチックだろ? おまじないで有名だが、おまじないが先だったのか構文が先だったのか、ともかくそれは実在する。見なよ、糸の先は今澪の薬指に結ばれているだろ? 結ぶと言っても物理的なものじゃなくて、澪の未来を司る要素と繋がっているのさ。そしてもう片方。この、ボクが持っている方は術者の思い通りにもう片方の先、つまり澪の運命をコントロールすることができる」
「それで白鷺を思い通りにでもするってのか?」
「話はそう簡単じゃない。コイツは術者側に膨大な魔力消費を要求する厄介なモノでね。正直このボクでも手に余る。そこで考えたのさ。この構文に少々手を加えてね、魔力の供給者と構文の制御者を分けた。ほら」
天城の右に手に握られている糸の端とは別に、左手の薬指には赤い糸が結ばれている。
「分かるかい? ボクはもう、すでに澪とは『運命』で繋がっているのさ。あとは魔力を注ぎ込むだけでいい。構文はすでに発動済み。キミがここに足を踏み込んだ時点で『運命』は始まっているんだ」
「それって最初から使う気マンマンだったってことじゃねぇか」
「ちょっと手違いでね。キミをコテンパンに潰してからじっくりと繋ぐつもりだったんだが、どうも一筋縄ではいかないみたいでね。でももうキミも『運命』からは逃れられない。なんたって構文にはターゲットをプリインストールしてあるから。この糸の先は…キミにつながることになっているッ!」
天城の右手から放たれた赤い糸は、糸と呼ぶにはあまりにも鋭利に真っすぐに、大樹目掛けて突き進む。赤いレーザービームのごとく。
飛んだ糸は雷撃と変わらぬ速さで大樹に達し
「な…何でだよ…」
何を起こすでもなく、文字通り『糸』らしく、ふわりと地面へ落下した。
「何でだよ…禁忌構文は無属性だぞ…それが何で通らないんだ…」
「だからよぉ、オレにはそういうのが通じねぇんだって。散々電気ブッ放しといてそんくらいのこと分かんねぇのかよ」
「雷属性だけじゃないのか…」
「そうらしいぞ。今見た通りだ」
「な…マズい、マズいぞ、早く、早く取らないと…ッ⁈ 取れない、取れないィッ⁈」
天城は自分の薬指を何度も強くしごくが赤い糸は『約束』を果たすためかその場所を離れない。
「さてお前の御託はもう終わりか? そんならこっちの用事を済ますまでだ」
「やめろッ! 来るなッ! 来るなッ!」
大樹は一歩二歩と天城へと近づく。
「お望み通り、右ストレートをお見舞いしてやる。白鷺を!」
バキィィィッ
「返せッ!」
振り下ろされた大樹の右こぶしは的確に天城の顔を捉えた。それは…初対面の再現のようで一つ違いが。今度は吹き飛ぶのではなく
ダアンッ
背後のロッカーへと叩き付けられた。ひしゃげたドアからは白い下着がひらりと舞い落ち、白目を剥いた天城の顔を覆い隠した。まるで憐れむように。
◆
「ハアッ ハアッ ハアッ 」
いかに大樹がケンカ慣れしているとはいえ全力で相手をブン殴れば息も上がろうというもの。それはさておき
「白鷺っ!」
澪の元へ駆け寄り、その体を抱きかかえ、起こした。
「白鷺っ! 白鷺っ! オイっ、白鷺っ!」
声を掛けても体を揺すっても澪は反応しない。ただ力なく揺すられるに任せるまま。
「白鷺っ!」
そこへ。
ダーン
「はいなー。どうもー、お待たせしましたー!」
「ジンダーイ、助けに来たーよ」
ガラガラっと威勢よく戸を開けて入ってきたのが松尾と安倍。
「な、なんでお前らがここにっ⁈」
大樹が驚いたのは当然だが、マズいところを見られた、という気持ちがなかったわけではない。
「いやな、ワシら『任務』がありまっしゃろ?」
「知らん」
「あんねん、そういうのんが。まぁじんだいはんにはゆーとってもええんかな、ようしらんけど、この学園のどこかに『ウラ構文』ってのが仕掛けられてましてな、ワシらはそれ探しとったんよ」
「なんかそういう組織なのか? 二人とも」
「違いまーす。ボクとマツーオは違う組織、調査中にばったり会ったときにはおどろいたーよ」
「敵か思てな。危うく殺してまうところやったわ」
「殺すぅ⁈」
「同じものを探してるって分かったのでお互い協力することになりまーした」
「ん? それで更衣室を覗こうとしてたのか?」
「そういうことや。まぁ任務もこなしてパンツも見れて一石二鳥や。役得やな」
「もっともパンツは見れたことありませーんが」
「大佐と風紀の監視が厳しくてのう」
「しかーし今日は陸上競技会で校舎内は誰もいませーん。お仕事ラクショーよ」
「で? ここでノビとるんは誰なん? …うわっやっぱコイツやったんか!」
「なんだ? 知ってたのか?」
「いや、知っとるというか、今日は朝から校舎内を探し回ってたんやけどな、みんなグラウンドにおるのにコイツだけが校舎内をウロウロしとってな。後をつけてみたら女子更衣室へ来たやないか。ははぁん、天城先輩もスキモンやな、同好の士や、そのうち壁の穴開け隊にスカウトでもと思ったんや」
「それでお前らここに来たのか?」
「それとは別件でーす。急に異常な魔力の流れを感じたーんで来てみたーよ」
「で? 白鷺はんはなんで寝とりますの?」
「分からねぇ。ソイツが変なモン使ったって」
「変なモーン?」
「確か、禁忌構文、とか」
「キンキッ⁈」
「あいたー、そらけったいなモン使われましたな」
「…マズいのか?」
「マズいもなにもアンタ、白鷺はんが生きるも死ぬも自由自在でんがな」
「マジか」
「マジでーす」
「やすべぇ、ちと調べてもらおか」
「スィ。Manus Luminis, umbram hic latentem revela. Veritatem ostende, oculis meis affer ――【Signum Sanctum Revelare】!」
「…なんて?」
「分かりますかいな。やすべぇはそもそも悪魔祓いやねん」
「おー、マツーオ、エクソシストと呼んでほしーね」
「それや。そのエグゾーストってヤツや」
「マツーオ、あとで呪い掛けまーす」
「冗談やて。で、なんか分かりましたかいな?」
スッ――――と安部が真顔になる。
「うん。これ、禁忌構文を飲まされてるね。早くしないとマズい」
しかも日本語で標準語で落ち着いた口調で。
「そうか。で、どうすればいい?」
松尾まで。
「口から飲まされてるってことだから口から吸い出してやればいい。つまり…」
松尾と安倍、そろって大樹の顔を見る。
「ジンダイの出番でーす」
戻った。
「オレかっ? 何をすればいいっ?」
「お姫様のお目覚めには王子様のキスって決まっとるやろ」
一瞬キョトンと固まる大樹。
「いやいやいや。それはダメだろう。許可なくそんなことしちゃ」
「じんだいはん、照れてる場合とちゃいまっせ? 白鷺嬢の命に係わる話やからの」
「マジか」
「姫には黙っておきますので。安心してイタしてくださーい。ただーし、吸い取って出てきたものを飲み込まないように気を付けてくださーい」
「マジか…いやでも」
「はやーく!」
「いっ⁈ じゃ、じゃあ失礼して…スマンっ! 白鷺っ!」
大樹は澪の頭を優しく抱きかかえ、そして唇を重ねる。
「それでは強く吸ってくださーい! 吸い出してくださーい!」
「うむ…」
大樹は安倍の指示通り、澪の体の奥に潜む何ものかを引き出すため強く吸い付く。やがて澪の喉に球体のコブが上がり、そして。
「う…ウムグぅッ⁈」
吸う力が強過ぎた。球体のコブは喉を過ぎた途端に急加速、吸い付いた大樹の喉目掛けて飛び込んでいった。
「ゴクン… …飲んじゃった…」
「バカーっ! 吐き出しなさーいっ!」
「そんなこと言われても…おぇっ…う、出てこないぜ?」
「あんさん、それで何ともないんか…?」
「どう…なんだろ…別に変ったところは」
「…なんでなんでもないのかわかりませーん。それは非常に」
バシュゥゥゥッ
安倍の言葉を遮って天井から轟音。
「なッ⁈」
驚いて見上げれば、スプリンクラーの放水口から炎のシャワーが噴き出していた。
「なんやぁっ⁈」
「マツーオ、アレ!」
安倍が指し示した方向、出入り口の上で炎が上がり、壁には『ᛋ』が燃え盛って浮かび上がる。
「なんやの、アレ」
「Sowilo。炎を意味するルーン文字です。そしてあれがウラ構文…」
「やすべぇが標準語ということは…」
「非常にヤバいヤツ、です」
「やっぱり更衣室が怪しかったやないか! せかやら様子をうかがってたっちゅうのに」
「う…うう…」
「白鷺ッ⁉」
澪が目を覚ました。
「あれ…たしか更衣室へ行ってから…な、なああああああああああああああッ⁈」
が、あお向けの彼女の目に最初に飛び込んだのは、炎のシャワーで燃える天井だった。
「気が付いたか」
「え…? 神代君んんんんんんんんんッ⁈」
「よかった…」
「あ、れ? 神代君…? ん、神代君ッ⁉」
俯いた大樹の腕が澪を強く抱きしめた。ただ
「ごめん、神代君、ちょっと痛い…」
「あ、すまん…」
「ラブコメしとる場合とちゃうでぇ、ご両人」
「松尾君? 安倍君も… あ、そういえば…」
気を失う前に感じた天城の気配。気配の主を探して見回すと、ロッカーにめり込むように倒れたその姿があった。
「…天城先輩は…」
薄々澪も気付いている。自分を背後から襲ったのは天城だということを。それを確かめずにはいられなかった、が。
「白鷺はん、その話はあとでええか? まずはここから脱出せんと、みんなここで火葬要らずの丸焼きやで?」
「あ…はい、そうね。それじゃ、よっ…ウッ⁈」
一度は浮かせた腰だが足首の痛みがそれを許さず、足首を押さえ再び地面へ腰を落とした。
「白鷺。オレが抱きかかえてここを出るけど、それでいいか?」
「あ…うん…ごめん、お願いします…」
「よし、行くぞっ!」
大樹はお姫様抱っこで軽々と澪を持ち上げる。そして澪は大樹の首に両腕を巻き付けた。それは――――まるで澪が小さくなったかのように、大樹の胸にすっぽりと収まった。
「さて、コイツもこのまま放っとくわけにもいかんさかいな。よいしょっと、あん? なんや、軽っ⁉」
松尾は天城の腕を引っ張り体を起こすがそれが想定よりも随分と軽く、後ろに転びそうになるほどだった。
「魔力を吸われてまーすね。あの構文のせいでしょー」
「さよか。まぁ軽い方が楽でええわな。ほな行きましょか」
松尾が天城を背負い、出口へ向かったところで異変が起きた。燃えていた『ᛋ』の隣に『ᚦ』が燃えて浮かび上がる。
ゴボッ ゴボォッ …
燃える『ᚦ』から真っ赤な炎が血のように滲み、滴り、そして一気に噴き出し、地面に垂れ重なりヒトのカタチへと変貌していく。
「…なんだよ、これ」
「Purisaz…巨人を意味するルーン…本命はこっちか」
「やすべぇが標準語ということは」
「そういうことです」
出口を塞ぐように現れたヒト型の炎は、徐々にその姿を大きく変え、大樹たちの前に立ちはだかった――――
◆
エンディング曲「厚底サンダル」
https://x.com/HanashioKikei/status/2050184791463743534?s=20




