陸上競技会の裏で蠢くモノ
オープニング曲「トキメキってください」
https://x.com/HanashioKikei/status/2040632557730193424?s=20
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挿絵はAI生成のモノ(場合により手直しアリ)
絵は描けませんので…
昨日の雨がウソのように、陸上競技会当時は青空が広がった。心配されたのはグラウンドのコンディションだったが、先日澪が魔導でグラウンド表面の土を削ぎ取った件で、かねてよりの懸案だった水はけ工事が同時におこなわれたおかげで上々となった。あるいは澪様々かもしれない。
予定通り9:20から競技開始。滞りなく次々と競技がおこなわれ、そして午前の競技、最後の種目は男子100m走。クラスの威信を背負って選ばれたのはやはり大樹。期待通りぶっちぎりのタイムで1位となる。ゴール後、2-Bのブロックに戻ってきた大樹の周りには黒山のひとだかり。クラスメイトが次々と称賛の言葉を容赦なく浴びせた。女子も…紗々羅を筆頭に集まりはじめ、PM星人(いつの間にか宇宙規模にグレードアップしていた)の『称号』も返上できたかもしれない。
ただし…その人の輪の中に澪の姿はなかった。
◆
時は戻り11:00前。澪は女子更衣棟へと向かっていた。
今朝の登校時のことである。靴箱に白い封筒が1つ。中には便箋が1枚。それにはMS明朝でこう書かれていた。
〈今日の11:00に2-Bの神代が女子更衣棟に忍び込んで盗撮用のカメラを設置するとの情報がありました。ぜひ対処をお願いします。
風紀委員会 白鷺澪様〉
「まったくっ!」
澪、お怒りの御様子である。
朝のHR中も大樹を観察していたが、いつもの通りボケーっと特別変わった様子はない。
(でも用心しなきゃね。前もって言っても否定されたらそこまでだから、やっぱり現行犯で捕まえないと)
タレこみがあったとはいえ今日は陸上競技会。風紀委員で動けるのは自分一人しかいない。そこで澪は先回りして更衣棟の中に潜んで待つことにした。
時刻は10:40。ケガをしているとはいえクラスの仲間たちの応援はしたい。だから2-Bのブロックにいたのだが、ふと見回せば大樹がボケーっと座っているのは見えたが例の二人、松尾と安倍の姿が見えない。
(あの二人、いつの間に⁈ 怪しいわね…また神代君をそそのかしてやらかすつもりね? しかも盗撮だなんて…バレたら退学モノよ? っていうか犯罪よ、犯罪。ちゃんと止めてあげないと)
澪は席を離れ更衣棟へ向かった。松葉杖を使っての移動は儘ならないので早めの行動を心がける。こんなところまで時間厳守なのが澪らしい。
「まったく! 足が不自由なの知っててやろうなんて最っ低ね。脳みそ凍らせてやろうかしら!」
間もなく11:00。「犯行予定時刻」はもうすぐだ。競技大会中ということもあり更衣棟の周りには誰もいない。だがそれだけではなかった。
更衣棟の引き戸を開けた瞬間、澪は違和感を持つ。
「…更衣室って太陽光発電で常時点灯じゃなかったっけ?」
消灯され屋内が真っ暗だったのだ。正確には照明が点いていないため、壁面上部の換気窓から入った太陽光が真っ暗な屋内に真っすぐに差し込んで、わずかな明かりと大部分の闇とが強いコントラストを成していた。
「周到ね。これで姿を隠すつもりなのね? …うーん、いつも点いてるからスイッチってどこにあるか分からないなぁ…」
独り言を言いつつ松葉杖を漕ぎながら奥へ進み、様子を伺う。しかし人影はない。
「神代君っ! 隠れてるんでしょ? 松尾君も! 安倍君も! 今なら未遂ってことで許してあげるから、出てきなさい!」
どこかに潜んでいるかもしない3人に呼び掛けた。だが返事はない。松尾の言っていた通り更衣棟の非常に手の込んだ造りのおかげでグラウンドからの歓声も聞こず、屋内は静まり返っていた。
「…まだだった? これから来るのかしら?」
ロッカーとロッカーの間や運動部くらいしか使わないシャワーブースなど、どこかに隠れていないかと確認しながらついに棟最奥部まで来た。それでも見当たらないので今来た道を振り返ってみる。
「もう! 強情ね! そんなに女の子の裸が見たいの? そういうことは大人になってから」
その時だった。
ビシッ…
首筋から身体中を駆け巡る電流。それは気を失うに十分な電力量だった。澪はかすれていく意識の中で思った。
(これ…魔導の…天城先輩の魔力の…)
全身の力が抜ける。松葉づえを握る手は力を失い、支えを失った身体はその場へ崩れ落ちた。
倒れた澪に代わってその場に立っている男の黒い影。それは澪の横にしゃがみ、ピンポン玉大の赤黒い何かを彼女の口に捻じ込む。球状の物体は澪の体奥へ吸い込まれるように消えていった。黒い影は愛おしそうに澪の顔を撫でまわしながらこう言った。
「澪。キミを『味わう』のはアイツをブッ潰してからにするよ。楽しみだねぇ。ウヒャヒャヒャヒャ!」
◆
《これからお昼の休憩に入ります。午後の競技は13:10からです。全校生徒は時間までにグラウンドへ集合してください》
昼休みを告げるアナウンスが流れ、生徒はみな自分の教室へと引き上げる。大樹は自分の靴箱に『異物』を発見した。それは、薄いピンク色の封筒。
「…なんじゃこりゃ?」
開けてみればその中には
〈女子更衣棟で待ってるよ 澪より〉
とあった。
「…なんじゃこりゃ? 用があんなら教室で言えばいいのによぉ。っていうか、アイツ、『待ってるよ』なんてカワイイ言い方すんか? まぁいいや、とりま行ってみっか」
更衣棟近くへ着いた大樹、まずは遠くから様子を見る。下手に近づいて誤解でもされようものなら堪ったものではない。なにしろつい先日、デコピンと電撃で「めっ!」されたばかり。
「ワナじゃねぇだろうなぁ…」
と疑うのも無理のない話である。とはいえすっぽかしたと言われるのも癪なので棟へと近づいて澪を探すが見当たらない。過ごしやすい陽気のせいで着替えに来る者もないようで、それこそ誰一人いない。
「…まさか…中で待ってるってことじゃねぇだろうなぁ…それは勘弁してほしいんだが…」
それでも今は『招待状』を持っているのだ。これを免罪符にあるいは、と意を決して踏み込むことに。
引き戸はまるで待っていたかのように軽々と開いた。中は真っ暗である。誰がいようがこれでは見えない。
「あのぉ、入りますよぉ。おじゃましまぁす…」
大樹は小声で断りを入れ、中へと恐る恐る足を進めた。
「おーい。白鷺ー」
小声で呼んでみるが返事はない。静まり返った屋内、これでも十分聞こえるはずなのだが。
「おーい。いないのかー」
屋内最奥部まで進んだところで、暗闇に慣れた目が人影を認めた。
「ここにいるよ。神代」
場にそぐわぬ男の声に大樹は驚いた。目を凝らせば見覚えのあるその姿。
「天城、とかいうヤツ…」
「名前を覚えたとは感心だ。望陵の生徒がボクの名前を知らないなんてありえないことだからね。これでキミも望陵の一員、と言いたいところだが、間もなくキミは追い出されることになる」
「どういうことだよ」
「キミは女子更衣棟に侵入した。そして風紀委員とばったり出会った。キミと風紀委員の一騎打ちは相打ちに終わる。尋常じゃない物音に気付いたボクが駆け付け、その風紀委員を保護した。キミは痴漢行為を働いたばかりか風紀委員に傷害を加えた犯人、ということになるんだよ、間もなく」
「何言ってんだ、お前 …ッ⁈」
闇の中天城の目だけが白く光り、その足元には人が倒れていることに気付く。傍らには2本の松葉杖。
「白鷺…ッ? テメェ! 白鷺に何をしたッ⁈」
「そうだな。少し眠ってもらっている、ってところかな」
「ふざけやがって!」
「ふざけているのはキミの方だ! ボクに恥をかかせたばかりかボクの手下まで痛めつけて!」
「手下ってなんだよ…まさか、白鷺を攫ったヤツらってのはッ!」
「肯定も否定もしない。ただキミにはそれだけの恨みがあることは知っていてもらおうかッ!」
天城が大樹へ右手を翳すや否や雷撃が大樹を襲う。しかし。
「…また静電気か?」
まるで効いておらず、大樹はケロッとしている。
「やっぱり効かないのか。【雷罰ノ槍】は雷直撃レベルの魔導なんだけどね。いったいキミはどういう魔導を使っているんだ?」
天城はニヤニヤとしてるが、しかし頬は引き攣っている。
「んなこた知らねぇ。魔導とかそういうのオレは分かんねぇんだ」
「ふざけるなよッ!」
再び天城は右手を翳し、次々と雷撃を放った。一方の大樹、さすがに目の前で何度も使われれば覚えもする。翳された右手から方向を読み、雷撃が出る瞬間を見切って避ける。稀に当たっても大樹は顔色一つ変えない。
「クソッ! 効いてないッ!」
「そんなモン、効かねぇって言ってんだよ!」
それでもめげずに天城は放ち続ける。
カッ ガアンッ
カッ ゴガアンッ
ターゲットを見失った雷撃はそこいら中へ飛び交い、ロッカーを次々とひん曲げなぎ倒した。中に収められていた制服がジャージが下着が宙を舞う。
「天城パイセンよぉ。これってオレにケンカ売ってるってことだよな? オレは平和主義者なんだが売りたいってなら高く買ってやるぜ! 気持ち強めでブン殴るッ!」
大樹は素早く天城へ近づくと右ストレートを放つモーションに入った。
(掛かったっ!)
◆
昨夜に時は戻り天城の自室。その後、天城はジョーからのメールを読み返していた。彼とてバカではない、自分の策略以前の問題には気付いているのだ。
「確実に禁忌構文を仕掛けるにはヤツの動きを止めなきゃならない。まかり間違ってまたブン殴られりゃ構文が結べなくなるかもしれない… 何なんだったんだろうな、あれ。まるでディストーターでも食らったような… ん? …全員右ストレートで殴られている? そういえばボクを殴ったのも右手だ。何だ、これ…まさか、アイツの右手ってなにか秘密があるのか? ボクの魔導が通らなかったのもそのせいで…ならアイツの右を防げばいいのか。ヤツが右で殴ってくる。それを見越してボクの左手に魔導をプリロードしておく。派手に爆発でもしてくれりゃいい。【雷闇ノ鉄槌】を左手に仕込んでおけば…イケる。イケるぞ。アイツの右さえ防げば確実にやれる!」
◆
「ガハァッッッ⁉」
今、天城の右脇腹に大樹の左の蹴りがめり込んだところだ。右をフェイントに使った分体勢が十分でなかったため蹴りの威力は落ちているが、それでも天城の体は『く』の字に曲げられる。
「なんで…なんで右ストレートじゃないんだ…」
天城は右わき腹を抑え前かがみになりながら苦悶の表情、上目遣いに大樹を睨みつけた。
「ケンカってのは全身でやるモンなんだよっ!」
(クソォ構文が結べない。どういうことだ、アイツの変な能力、右手だけじゃないのかっ?)
「痛い…痛い…」
「蹴られりゃイテぇに決まってるっ! だがそれはお前が仕掛けた代価だ! でも白鷺は違ぁだろ! なんで何も悪くねぇのにケガまでしなきゃならねぇんだっ!」
「ボクを置いてくのが悪いッ! ボクのモノにならないのが悪いッ!」
「何言ってんだ…?」
(天城家の血筋がこれほどまでに屈辱を味あわされるなんて…分かったよ、魔導がダメでもボクには魔術がある!)
天城がゆらりと体を起こした。キッと大樹を見据え、右手を横へと翳す。
「応えろ、天を統べる我が雷。我に徒成す愚物を薙ぎ払い、雷の裁きに跪かせよ、平伏させよ――【天霊雷禍】!」
右腕が前へと振り出されると無数の雷撃が大樹へ向けて、今度は四方八方から飛来する。だがそれも、大樹に触れるや消滅するか跳ね返ってひしゃげたロッカーの数を増やすだけだった。
「まだ懲りねぇのかよっ!」
大樹は右ストレートを放つ構え。大樹の右ストレートはその体格差を利用して下へと叩き下ろす。吹き飛ばされない分その衝突エネルギーが逃げないので食らった相手のダメージが大きい。だがモーションが大きくなる分、一目でそれが来ると分かってしまう。天城は右ストレートを左のプリロード魔導で大樹を爆ぜ飛ばした後に懐へもぐり込んで至近距離で魔術の雷撃を食らわすつもりだった。ガードで左腕を前に出した途端
ドオッ
「ガ…ア…」
右はまたもフェイントだった。左ボディにブローが決まる。
「また右じゃない…ッ⁈」
「お前バカか? そんだけ言われりゃ警戒すんに決まってんだろうが! それから」
五臓六腑を揺るがすような痛み。天城は膝から崩れた。
「腹筋鍛えた方がいいぞ。こんなザコパンチでもモロに入れば極まっちまうからな」
「ガハァッ! ガハッ!」
内臓で感じる痛みから何かを吐き出しそうな衝動を抑えつつ、天城は立ち上がる。
「澪は絶対に…渡さないッ!」
ゴァッ
「だからっ!」
パン ドガァッ
天城の左手から発せられた巨大な雷撃の塊。すなわちプリロードの【雷闇ノ鉄槌】が大樹へ向かっていったがそれも大樹のひとはたきですぐ横のロッカーへと叩き付けられた。無論ロッカーはひしゃげる。
「その辺にしとけよ。オマエ、殴り合いのケンカってしたことねぇだろ? そんな弱っちいの殴ったって意味がねぇ。おとなしく降参しとけよ」
「そうやって…そうやってまだボクをバカにするのかッ! いいさ、まだ手はあるんだ。これだけは使いたくなかったけどね!」
◆
エンディング曲「厚底サンダル」
https://x.com/HanashioKikei/status/2050184791463743534?s=20




