紗々羅がいるから澪がいる。
オープニング曲「トキメキってください」
https://x.com/HanashioKikei/status/2040632557730193424?s=20
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澪と大樹の二人は、パトカー内で簡単な事情聴取の後、そのまま学校へ。パトカーで来たので生徒もご近所も一時は騒然となった。
学校に着いた澪は保健室へ。足の痛みは捻挫と診断され、簡単な固定と湿布、あとは包帯グルグル巻きで済んだ。保健室の後には校長室へ来るようにと言われていたので杉崎に付き添われて向かう。
包帯のせいで上履きが履けないので来賓用のスリッパを履き、ペタペタと音を立てて歩く澪。校長室前まで来るとドアのそばで大樹が待っていた。壁に寄りかかり腕を組んで。遠巻きには仏頂面に見えたが、澪が近づくにつれその姿を確認すると穏やかな表情に変わったような。
(…なんか、コンビニの入り口で繋がれたお散歩途中のワンちゃんみたい…)
校長室前まで来ると
「それじゃ澪ちゃん、私はここまで。私は保健室に戻るから。あとは周りにでも手伝ってもらいなさい。折れてはいないと思うんだけど、体温が上がったり患部がまだ痛むようならお医者さんへ行った方がいいわよ」
杉崎はそう告げて自分の持ち場へ戻った。
「はい、ありがとうございました。それじゃ神代君、行くわよ」
「ああ」
澪は杉崎に一礼するとドアをノック。
〈入りたまえ〉
「失礼します」
「失礼しまーす」
澪を先頭に大樹がそのあとについて入る。澪はいつも通りではあるが、不慣れな場所へ入る大樹の声は小さかった。
◆
校長室では文弥がポケットに手を突っ込み、まだ雨が残る校庭の景色を眺めていた。二人が入室しても窓際に立ち、背を向けたままだ。
「警察の方から連絡が入った。二人とも大変だったな」
「はい。お騒がせしました」
防音消音の効いた校長室。二人の声は反響することもなくただ言葉だけが行き交う。まるで事務的なやり取りのような会話。静かに淡々と話す澪の声には慣れているが、明るい大きな窓にある黒い人影もまた同じ調子で話していることに大樹は違和感を持った。
「まぁ本人の意思とは関係のない話だ、そこは仕方ないとして、君たちが遭遇した『魔導狩り』と呼ばれる連中、警察の聴取では5人と言ったそうだね?」
「はい」
「だが君たちを保護した後、現場に踏み込んだ警官の報告によれば、確保したのは3人だったそうだ」
「でも確かに…」
「そこに嘘があるという話ではなく、2人に逃げられた、と考えるのが妥当だろう。現場に関しては向こうの方に土地勘もあるだろうからね。確保した3人の供述次第では、警察から君たちの証言が要求されるかもしれない。それは心得ていてくれ」
「はい。わかりました」
「それで神代君。君は学校側への報告、あるいは許可もなく現場へ向かったということだが、間違いないかな?」
「ええ、まぁ」
少なくとも大樹の中では褒められないにしても咎められるようなことをした覚えはない、という思いがあった。それゆえに諌めるような言い方にはカチンときた。
「『強悍という言葉がある。圧倒的な強さを誇るが荒々しく粗野な者、という意味だ。あまりいい意味ではない。生徒が独断で危険な場所へ赴くというのはいささか浅慮だったのではないかな? まさに強悍だった、と言えよう」
「何ッ⁈」
「お父様っ!?」
「澪は黙ってなさい」
固く握られた大樹の両こぶしが震えている。おそらくいつもならすでに殴りかかっていたところだろう。ただし相手が校長、しかも澪の父親で本人の前ともなればさすがの大樹も自重はする。
「なぁ…お前の親父っていつもこんななのか?」
大樹の声は低く重い。
「そう…ではないはずなんだけど…」
澪もまた文弥の態度に戸惑いを隠せない。
二人の視線を集めている文弥の背中が翻った。同時に二人は息を呑む。
「だが…ひとりの娘の父親として、神代君には感謝している。ありがとう」
文弥の目には光るもの。そして彼は静かに頭を下げた。
「あ、いえ、大したことじゃ…」
心に満ちた気持ちがどこかへプスンと抜け出し、大樹はなんとも間の抜けた返事しかできない。
(…よかった…)
隣で澪は胸を撫で下ろした。
いつの間にか雨が止んだ空からは陽の光が校長室の窓にへと降り注ぐ。明日の陸上競技会は決行で間違いない。
◆
「失礼しました」
澪と大樹が校長室を退出すると
「澪ーッ!」
「出待ち」で待機していた紗々羅が抱きついてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁん、心配したんだよぉぉぉぉっ!」
抱きつきながら号泣である。
「ごめんね、心配かけちゃったね。ッ⁈ 痛ッ!」
「どったのっ⁈ 何その足! ケガ⁈」
「うん、ちょっと捻っちゃったみたい」
「何してくれやがったーっ⁈ ウチも澪くらいAMIがあったらあんなヤツら【ウォーターカッター】でバラバラにしてやるのにぃぃぃぃ!」
「物騒なこと言わないでっ⁈」
「うわぁぁぁぁぁぁん、でも無事でよかったよー」
しっかり抱きついて離れない紗々羅を、澪はそっと抱きしめて、子供をあやすように頭を撫でてやる。
「ほらほら。教室行こうよ。お昼休み、なくなっちゃうよ?」
「うん…」
まだグズグズと泣いている紗々羅の手を引き、澪は教室へと向かった。 …その3歩後ろを大樹がついていく。
(…女ってよく手をつなぐよな…なんでだ?)
自分たちの教室へ行くには階段を昇らねばならないのだが。
「澪、階段だけど大丈夫?」
「うん、へーきへーき。 …ッ⁈ 痛ッ!」
平地では大したことのなかった足痛みは、無意識に普段と同様に力を掛けた瞬間その存在を主張するようになった。
「ほーらー、言わんこっちゃなーい。ひろっちー、階段上るの手伝ってあげて!」
「わかった。お安い御用だ」
後ろで様子を見ていた大樹、澪の元へやって来て
「よっ!」
ひょいっとお姫様抱っこ。
「おおおおっ! ひろっちってばヤル~! オトコだねぇ」
「ひぃぃぃぃぃっ⁉ 下ろして! 下ろしてよっ!」
「いや、この方が運びやすいだろ」
「そういう問題じゃないのよっ!」
「それじゃおんぶにするか?」
「それも恥ずかしいんだけど…」
「でもおんぶだとおぱんつ見えね?」
「いいっ⁈」
目立つこと覚悟でお姫様抱っこか。サービス満点のおんぶか。澪はこんな場所で究極の選択を迫られた。
そして。
「おおっ!」
「すげー!」
お姫様抱っこを選んだ澪はもちろん注目の的に。階段を登っていくたびに周囲からどよめきが起こる。
(うひぃぃぃ、目立ってるぅぅぅ…あとで保健室で松葉杖借りてこよう…)
もちろん耳まで真っ赤だ。
◆
「ここでいい! ここでいいから!」
と、澪は2-Bのあるフロアに着くや否や大樹に下ろすよう懇願した。
さて、教室へ着き、弁当箱のフタを開けピーマンが入ってないことに安堵したのも束の間。
「しまった、ついでに買いに行けばよかった…」
普段澪は昼食時の飲み物を紗々羅と一緒に購買へ買いに行っているのだが、もちろん今日は捻挫のため行けない。
「そっか、ついでに行けばよかったね。 …あ、そっか。ちょっと待ってな」
席を立った紗々羅、カレーパンの袋を開けようとしていた大樹のところへ、何やら耳打ち。
「ほら。行っといで!」
と、大樹の背中をバンッ!と叩く。それに圧されよろめくように澪の席まで行った大樹。
「お、おう。よ、よう、白鷺。昼メシの飲みもん、オレ、買ってこようか?」
「ん? いいよ別に。紗々羅に頼むから」
その様子を遠くで見ていた紗々羅、ドドドドとオノマトペ付きで突進してきた。
「澪のバカーっ!」
「いいいいいいっ?」
「せーっかくひろっちが気を利かせてくれてるんだから! そこは『はい、お願いね♡』って頼むことでしょーがーっ!」
紗々羅がスゴイ剣幕。澪の鼻っ面先までグイグイとよるものだから、さすがの澪もこれには後ずさる。
「いえ、別に…紗々羅に頼めばいいし」
「そうじゃなくってー! ケガして不自由なときくらい、お世話されなって!」
「いや、だって、神代君のお世話係って私の役目だよ?」
「そのお世話係がネンザで動けないってハナシでしょーがー!」
「うぐぅっ⁈ た、たしかにそうなんだけど…」
「男の子なんてね、『お願い♡』って言えば、大体言うこと聞いてくれるんだからさー」
「あ。そういうのはズルだと思うな。なんだか男の子を利用しようとしてるみたいじゃない」
「そうじゃなくてー! ズルとかじゃなくって、甘え方を覚えなさいって言ってんのー。甘え方って言い方が気に入らないなら『他人に頼る』ってこと。なんでも自分一人でやろうって思わない。いつかパンクするよ?」
「うううぅぅぅぅ…あの、それじゃ、神代君、お願いできる、かな?」
「構わねぇぞ。何が欲しい?」
「あの、イチゴミルクを…」
「ウチはコーヒー牛乳!」
「あれ? 便乗するの? それはズルじゃない?」
「いいっていいって。ね、ひろっち」
「ああ、一つも二つも大して変わんねぇよ。イチゴミルクとコーヒー牛乳だな。分かった。ちょっと待ってろ」
と大樹は教室を飛び出していった。
「ね? ひろっち楽しそうに行ったじゃない。そうやってたまには誰かに甘えて」
「待たせた。これでよかったか?」
「なんぼ何でも早過ぎないィっ⁈」
「ありがとう。これ、お金ね」
驚く紗々羅と対照的に澪は冷静だ。
「困ったことがあったら言ってくれ」
大樹はそう言って自分の机に戻り、カレーパンの袋を開けた。だた加減を間違えたか勢い良すぎて袋が破れ、カレーパンは机の上に落ちる。大樹の動きが止まり、呆然とそれを見つめる。
「…たまにはこういうのもいいかな…」
「…早過ぎた件はスルーでいいワケ…?」
「うん。慣れればどうってことないよ」
「そういう問題…なん?」
◆
5・6時間目をつつがなく過ごし、LHR。
ところで2-Bはノリがいい。
現在、未だ戻らぬさくらに代わりクラス委員の羽川が仕切っている。
2年にクラス替えの際、クラス委員の選出で澪も候補に挙がっていた。
(ひえぇぇぇぇ⁈ ムリぃぃぃぃぃ⁉)
そこへ紗々羅が挙手。
「澪がクラス委員やるんなら風紀は誰がやるワケ? 澪と同じかそれ以上のことができる人って、誰かいる?」
この問いに答えられる者は一人としていなかった。そこへお調子者の羽川が手を挙げる。
「それじゃパパ、クラス委員やっちゃおっかなー」
「「「「「「「「「「どうぞ、どうぞ」」」」」」」」」」
羽川の立候補を妨げる者は一人としていなかった。そして現在に至る。だが第3実技室での冷静な誘導を見る限り、いざというときには頼りになる男のようではあるが。
「諸君。白鷺さんは明日の陸上競技会の出場を断念する。ナゼだ⁈」
「ケガしたからでしょー?」
「見ればわかるじゃん」
そしてクラスメイトのツッコミは容赦ない。だが羽川は怯まない。
「だが、いいのか諸君。これで我々2-Bが敗北を喫するようなことがあれば、志半ばに倒れた白鷺さんの魂にどう申し訳するのか。今ここで我々は誓おう。これは弔い合戦である! 全力で戦い、2-Bの勝利を白鷺さんに捧げるために!」
(いや、私そもそも戦力になってないんだけど! それに魂とか弔い合戦って、私死んでないんだけど!)
「ジーク・ミオッ!」
「「「「「「「「「「ジーク・ミオッ!」」」」」」」」」」
2-Bは非常にノリがいい。羽川に合わせ、クラス全員がこぶしを突き上げシュプレヒコールを上げる。30名ほどの教室内がまるで満員の武道館ライブかのごとく。 …一人を除いては。
(これって悪質な洗脳じゃないっ⁈ あーもう、みんななんでこう目立つようなことをしたがるんだろう…)
いや、もう一人いた。
(みんなイカレてんな…)
◆
その夜、天城自室。真っ暗な部屋の中、スマホの明かりだけが天城の顔を青白く照らす。
「なんて使えないヤツらなんだッ!」
スマホに入ったメールを見るや否やそれを壁に投げつけた。メールの送り主はジョー。例の魔導狩り一味の一人である。
「クソォォォ…神代とかいうクソガキを徹底的にブッ潰せってあれほどキツく言ったのにッ! …アイツらに澪をマワさせれば、澪の魔力の成長は止まる。傷心の澪をボクが慰めて…インターハイもこのボクに決まってたハズだ… クソッ! クソッ! …他人なんかに任せたのがいけなかったか! クソォッ!」
拾い上げたスマホはバンパーケースを貫いた衝撃でガラスがバリバリに割れていた。その蜘蛛の巣のようにヒビが広がった画面にメールの着信。
「…なんだこれは…添付データ? 怪しいな。こんなモノにダマされるボクじゃ…これ…『禁忌構文』じゃないか。なぜこんなヤバイものが…いや…そうか。そういうことか。わかったぞ、使える、使えるぞ」
ザラザラの画面をスクロールしながら引き攣ったようにニヤつく天城。
「見てろォ、神代ォッ! オマエにすべての責任を負わせてやる。二度と澪に顔向けできないようにな。元々澪はボクのモノなんだから、そのくらいは当然さ。 …ククク…クァハハハハハハハハ!」
◆
エンディング曲「厚底サンダル」
https://x.com/HanashioKikei/status/2050184791463743534?s=20




