迎えは突然やってくる。右ストレートと共に。
オープニング曲「トキメキってください」
https://x.com/HanashioKikei/status/2040632557730193424?s=20
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挿絵はAI生成のモノ(場合により手直しアリ)
絵は描けませんので…
再び廃工場。
「まだ来ないっすね」
「ん? 誰か神代ってガキには連絡してあんのか?」
「え? お前がしたんじゃねぇの?」
「あん? 俺は知らねぇぞ。誰か連絡してねぇのか?」
「いやいや、そこはお前がやることだろ」
「なんだぁ? 俺に責任押し付けるつもりか?」
「シッ。誰か来た!」
内輪もめしていた魔導狩りたちが一斉に口を閉じる。
「誰だ?」
「分からねぇ。学ランを着たボウズだ」
見張っているマルキチは今目にしていた景色に違和感を持った。自分は確かにずっと見張っていた。だが彼の視界の中でゆらりと現れた輪郭のない黒い人影は雨の中をこちらへ近づいてくることが気のせいではないことを証明する。建物の前には駐車場だったスペース。舗装されていないため今では草がボウボウに生い茂っている。高いものでも50cmほどで、身を隠せるようなものではなかった。
〈なんだここ…ここにいんのか?〉
雨の音に混じり工場入り口の鉄扉の向こうから声がする。
(この声…神代君…?)
ガチャガチャガチャ
無造作にドアノブを回す音。そして接近した者のブツブツ独り言の声。屋内に緊張が満ち鉄扉に注目が集まる。
〈なんだこれ、開かねぇぞ… とりあえず開けやっ!〉
ダガァン ドゴォ…ズザァ
彼らは一部始終を見た。大きな音とともに鉄扉は「く」の字に曲がって反対側の壁まで一直線でブッ飛ぶ。壁にに当たって止まることでようやく勢いを失った鉄扉「だった」ものは地面へとゆっくり落下し、積もりに積もった埃を捲き上げた。
扉のあった場所から屋内へ差し込む外の光。そしてその光を背負った黒い影がゆっくりと建物へ侵入する。中に人がいることに気付き、水を滴らせながらそちらへ向かって歩き始めた。
「テメェ、何モンだっ⁈」
ジョーを筆頭に魔導狩りたちが一斉に立ち上がった。
「神代 大樹。ここに高校生の女がいねぇか?」
なおも進むことで部屋奥にいた澪の姿を認めた。
「なるほど。テメェらが白鷺を攫ったヤツらか。とりまソイツを返せ」
「何ネゴト言ってやがる。制服が違ってんがオメェ、望陵の生徒か?」
「もちろんだ。オレは今や望陵の一員だ」
「そうかい。なら、タク!」
「分かってんよ。コイツを食らえ!」
例の懐中電灯のようなもの、すなわちディストーターから何かが照射された。
「ザマァ。これで手も足も出せねぇぜ」
「デブはそこで女が逃げねぇか見張ってろ。ヤんぞッ!」
「オオッ!」
タク、マルキチ、ワッパの三人は、足元にあった鉄パイプや角材を掴み大樹を囲む。
「恨みはねぇがオメェを潰せって言われてんでなあ。おとなしく食らえっ!」
大樹よりもひと回り程大きいマルキチが2mはある鉄パイプで殴りかかった。しかし。
ブンッ
「あン?」
間違いなく確実に頭を狙ったはずのパイプは空を切る。
「何やってんだ、マルキチ! そこをどけッ!」
今度はタクが鉄パイプで殴りに行く。しかしまたもパイプは空を切り、依然大樹は彼らの前に立ったまま。
「なんだ、こりゃ…」
「オレは平和主義者なんだよ。けど売られたケンカなら高値で買い取るのが信条だからな。先に手を出したのはオマエたちだ。やるってぇんなら話が早ぇッ!」
バコッ
言い終わるや大樹の右ストレートがマルキチの顔面へ炸裂。大きな体が半回転して地面へとうつ伏せに落ちる。
「クッソッ!」
再びタクが横殴りにパイプを振るがまるで素通りしたかのようにやはり空を切った。
「気合いが足んねぇんだよッ!」
空振った勢いで前へのめったタクの顔へ
バキィ
右ストレート。まともに受けたのだ、おそらく鼻の骨くらいは折れただろう。
バキャッ
「ィッテぇッ⁈」
二人を相手にしている間に後ろへ回ったワッパが角材で大樹の背中を殴りつけた。
「テンメェっ! 何しやがる! イテぇだろっ!」
「あ、あ、あ、」
小柄なワッパへ大樹が迫る。
「寝てろっ!」
バキッ
「ガッ⁈」
ドォジャァァァッ
小柄であるがゆえ、大樹の右ストレートを食らえばふっ飛ばざるを得ない。放置された段ボールのタワーへ飛び込み、中からおびただしい数のネジが雪崩れ落ちた。
3対1なら自分が手を出すまでもないと傍観していたジョーだが、3人がノされるまで2分と掛からなかったことに唖然とする。
「テメェ、望陵の生徒のクセに魔導使わねぇのか?」
「あいにく、そういうオシャレなものは使えねぇんだ」
「そうかい。だったらディストーターはハナッから役に立ってねぇってことかよ。だがコイツはそんなの関係ねぇからな!」
ジョーはナイフを構え
「ウラアアアアッ!」
大樹へ突進した。一番大きい的で外しにくい胴体目掛け、両手持ちで刃を突き出した。
「刺さらなきゃ問題ねぇッ!」
ガッ…
「な…な、な…」
大樹は左手でナイフの刃を掴んでいる。もちろん素手で。
「ザコが」
刃を掴んだまま、ジョーの顔面へ右ストレート。ナイフを握っていたおかげで逆に力の逃げ場がなく、ジョーはまともにパンチを食らい、その場へ膝から崩れ落ちた。
「武器持ちとかセケぇんだよ。拳で語れねぇのか、ザコ」
ポイっとナイフを投げ捨てた大樹の左手は無傷。なんともなっていない。
「白鷺、今、…⁈」
「来るな…来るなよ…」
最後の一人、デブは壁に刺さっていたナイフを引き抜くと澪の長い髪を掴んで引っ張り上げた。
「ンーッ! ンーッ!」
目は痛みから涙を溜め、悲痛な叫び声は猿ぐつわに妨げられくぐもった息だけが漏れる。
「うるせぇよ。黙ってろよ」
デブは鋼色の刃を澪の顔の前へ翳した。ナイフを持つ手はフルフルと震え、震えに合わせ刃がギラギラと光る。
「ンンーッ⁈」
澪は恐怖に顔を背ける。
「ソイツに。白鷺に触れんなよ…」
大樹はゆっくりとその方向へ進む。
「うるせぇ! それ以上近づいてみろ! コイツの顔がどうなるか」
「触んなって言ってんだろッ!」
パキ… …カラン…
ナイフが地に落ちた。それを握っていたはずのデブの右前腕が真ん中からポッキリ折れ、途中からぶらんと垂れ下がっている。
「う、ガァッ⁈ アァッ⁈ 腕がァ⁈ 腕がァ⁈」
「そこをどけってんだよ!」
ボガッ
「ガァッ⁈」
いつの間にか目の前に迫った大樹に右ストレートを顔に叩き込まれたデブは背後の壁に叩き付けられた。澪を放した手から千切れた髪の毛をハラハラと落とし、力なくズルズルと地面へとずり落ちていった。
支えを失った澪はその場へへたり込む。
「大丈夫かっ? 今外してやる」
猿ぐつわを取ると澪はハァハァと荒い呼吸。次いで手錠を外そうと輪や鎖を引っ張ってみるがビクともしない。
「クッソ、とりあえず取れろ!」
大樹の手にあった手錠はパキッという音とともに解錠、その輪をひとりでに開いた。足首も同様に開いて、澪はようやく両手両足の自由を得、地べたにアヒル座り。
「白鷺、もう大丈夫だ」
極度の緊張から解かれ呆然としていた澪だったが、目の前にはよく知っている顔が微笑んでいる。
「あ、 あ、 あ、 ああああああああああああああああああああああああああッ⁈」
大樹の首に抱きつき、大声で泣き始めた。
「白鷺っ?」
「怖かったっ! 怖かったのっ! うわ、あああああああああああああああああああッ!」
「…もう大丈夫だ」
子供のように泣きじゃくる澪を、大樹は困惑しながらもそっと抱きとめた。
◆
「まずはここを出るぞ。立てるか?」
「うん…あっ痛っ!」
立ち上がろうとした澪はすぐさましゃがみ右足首を押さえた。乱雑に扱われた際に挫いてしまったようだ。
「無理すんな。ほれ」
大樹は澪の前に背中を向けてしゃがむ。
「…うん」
澪は僅かに戸惑ったが、大樹の好意に甘えることにした。這うように大樹の背中に捕まると、大樹は澪を軽々と背負った。
「軽っ⁈ お前ちゃんとメシ食ってっか?」
「…余計なことは言わないの」
「いや、重いとは言って」
「そういうのいいから。 …ねぇ、神代君。どうして私がここにいた事、分かったの?」
「なんだろうなぁ…なんか白鷺の匂いがした」
「!?!?!?!?!? わ、私、クサくないわよッ⁈ 今朝だってちゃんとシャワー浴びてから来たし、着替えもして、制服だってちゃんとクリーニングに」
澪は大樹の頭をポカポカと殴る。どう見ても力は入ってないのだが
「イテぇイテぇイテぇ、ゴメン、ゴメンて」
見た目以上に大樹が痛がっている。
「…ねぇ、私ってどんな匂いなの?」
「どんなって言われても困るけど… …良い匂い、かな」
「ふぅん…それなら許してあげる。 …でも…ありがとう…」
「ん? 何?」
「何でもない!」
◆
薄暗い廃工場を出た。小降りになったとはいえ未だ降り注ぐ雨を澪は目の上に手を翳して防ぎ、両手の自由がない大樹は雨粒に目を細める。
「あの人たちは? どうするの?」
「どうもこうもねぇ。ほっとくしかねぇだろ。安全確保が最優先だ。 …で、ここってどこだよ?」
「どこって…どうやって来たの?」
「どうって…いや、白鷺どこだよ、って考えてたら、ドアの前に立ってたんだ」
「…意味わかんない」
「オレも分かんねぇよ」
そこへパトカーが通過。ただこの場所を目標としていたのではないらしく、二人の姿に気が付いて急ブレーキを踏んだ感じだった。
止まるや否やドアが勢いよく開き、さくらが飛び出してきた。
「白鷺っ! 神代っ!」
「ゴメン、ちょっと下ろして」
「大丈夫なのか?」
大樹が腕を緩めるとスルッと澪が地に下り立ち、スカートの崩れを直す。
「うん、平気。でもちょっと袖に捉まらせててね」
澪は大樹の左側に立つと学ランの袖をキュッと掴んだ。
「お前たち! 無事かっ⁈」
雨を厭わず走ってきたさくらは…目の周りだけ水量が多かった。
「心配したんだ! 心配したんだよ!」
そう言って声を震わせ二人まとめて抱きしめる。大樹はもちろんだが、1年生からの付き合いである澪にとっても、さくらの涙は初めて見るものだった。思わず息を呑む。
(さくら先生って泣くんだ…そりゃ人間だからそうだけど…)
普段は常にキリっとして隙のない、さくらの『自衛官先生の顔』ばかり見てきた澪は、何とも不思議な気持ちになった。しっとり濡れた制服越しに伝わるさくらのぬくもり。
(そうだよね。さくら先生は私たちの先生なんだ)
「さぁ、みんなで帰るぞ!」
さくらの元気な声が耳元で聞こえた。
「はいっ!」
「おう」
もう一台のパトカーが到着する。警官たちはホルスターに手を掛け、廃工場へと突入していった。
西の空は徐々に明るさを取り戻していた。間もなく雨が止むのだろう。寂れた工業団地には無機的で規則的なプレス機の音が今日も響き渡っている。
エンディング曲「厚底サンダル」
https://x.com/HanashioKikei/status/2050184791463743534?s=20




