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日常

月日は流れ、一か月ほど経過する。 予算が下りた通知が、ローラを通じて彼女に届く。


「これで、新造コンバットスーツが、試験機から試作機へ開発が、進みますね」

ローラ(秘書官)が、サナエさんに話しかける。


「そうねー―“006-A”の開発主任を責任者にして頂戴。 彼に試作機の開発を任せるわ」


「承知しましたが、あの開発主任で大丈夫ですか? 」

「ここまで完成しているのに、失敗は無いでしょう。 それに彼も大人でしょう? 」


「そうですよね。 では対応を実施します」

彼女が執務室を出ていく。


セレンが話しかけてくる。


『これでようやく主要案件に移れますね』

「全く余計な案件を付けられたけど、これでこちらへの信頼も上がったでしょう」


サナエさんは、例のトークンの開発・製作の方が重要である。

自分の好奇心? 改良した人工筋の評価? 本命は新型トークンの視覚センサーである。


すでに人工義眼あるがどうしても肉眼と義眼の処理の落差がある。

それが元凶となり、タツマは義眼酔いが発生して無理だと今でも眼帯をしている。


日常生活には支障が無いが、何かしら荒事に巻き込まれているため継続時間、メンテナンスを考えると高性能な義眼を必要としていた。


彼の目の損傷は、彼女の責任ではないものの、やはり気になっているようだ。


彼に高性能な義眼を提供するには、技術の蓄積があるウェヌス(金星)の軍事コンツェルンに入るのが最短である。


アーサ・ブカブ社であれば、ルベェリエ工機との関係もあるため、ルベェリエ工機の契約社員として、製品を売り込んだ経緯がある。


「それで、視覚センサーの特許を含めた技術はどんな感じ? 」


『流石ですね。 かなりの水準に達しています。軍事用ですので市場には出回らない技術ですよ。 といっても視覚センサーですので機密レベルが低いのが、更なる好都合です』


「了解。 早速、開発に入るわよ。 それにトークンも作らないと疑われるしね」

『了解です』


ようやく“006-A”案件が手を離れた。

レシピもあり、基礎構想もできている、ここまでくれば順序通り組み立てるだけだ。


成果などくれてやればいい。 こちらは、寄り道したようなものだから。


                ・

                ・

                ・


暫くして問題が発生する。


サナエさんが、顔を引きらせている。

「何よ……これ? 」


ローラから試作品の仮組みの報告に関して相談があると言って来たので、聞いているところである。

報告書の試作品の仮組の機動レベルが、想定を大幅に下回る結果になっている。


「その……開発主任が、当初の制御フローに戻してしまい……」


「あれは制御項目が多すぎて、遅延問題が解決できなかったでしょう? 」


「しかし、そのー。自分の方針を捨てられないというかー。プライド? のようなものでしょうか? 」

ローラも苦笑いをするしかない。


「“006-A”の開発責任者でしょ? 失敗してどうするの? 普通に製作すれば成功する案件でしょ! 」


「はい。 周りも意見や説得をしているようですが、これでいいんだ!! の一点張りで。どうにもならなくて、まずは私の所に相談がきました」


『配置転換ではないでしょうか? 無理して予算を取ってこのありさまでは面目が立ちませんよ』

セレンからの指摘が入る。


「面目何てどうでもいいの! 」

サナエさんが心配しているのは、主要案件が止められることになる。


「彼と副開発主任を呼んで。 今後の方針を聞くわ」


「承知しました」

ローラが執務室を出ていく。


まさか自分がこんな立場になるとは。 今まで自由奔放に動き回っていたのに、いつの間にか小言を言う立場になるとは。


                *


担当の責任者二人が、彼女のオフィスに入ってくる。

オフィスには、セレンとローラ(秘書)もいる。


「呼び出された理由は分かっているわよね? 」


「ええ」

「はい」


「内容は確認させてもらったわ。 別に実験的に実施したというのであればそれでもいいわ。多少の寄り道も開発にはつきものだし。 でっ? これからどうする気? 」

サナエさんの眼がきつくなる。


「この案で進める」

「主任いい加減諦めてくださいよ。 無理だと言っているじゃないですか」


「私は自分の案に絶対の自信がある。 中途半端な監視項目でコンバットスーツは制御できない。 完璧な制御が必要なんだ」


「全てを管理するねー。 首は360°回らないし、手足の稼働にも限界がある。 必要ない制御を省いて、簡略化しているの。 それにあのデータは実戦データよ」


「もしもの場合がある! 」


「もしもの時は、制御がマニュアルになる設定よ。 あれを装備する人間が、ただの素人ではないでしょう? 考えを変える気はないの? 」


「ないな」


サナエさんは、その言葉を聞き、決心する。

「ローラ。 彼を配置転換する。少し頭を冷やしてきなさい。 副開発主任。 明日から貴方が主任よ。 遅れた工程を取り戻して」


その言葉を聞き、開発主任はさらに熱くなる。

「私は必ず戻ってくる。お前の開発なんぞ見返してやるからな!! 」


彼はその言葉を吐き捨て、オフィスを出て行った。

彼女は天井を見上げる。 組織に属するややこしさを痛感する。


しかし、組織でいるからの人的資源、技術的資源の豊富さも実感はしている。


「配置場所は、如何しましょうか? 」

まだ彼はここの所属のため、出て行かせるのであれば、配置転換場所が必要となる。


「中央研究所……」

サナエさんが行先を告げると一旦黙る。


「なんか……わかったわ。 あそこの使い方」


「はい。 ここの開発者や研究者はプライドの高い人が多いですから、頑固で周囲を乱す者も多いんです。 彼らに一度頭を冷やさせる場所は必要との処置ですね。 プライドも傷つかない配慮です」


ローラがサナエさんに回答していると脇から副主任が入ってくる。

「あ……あのー」


副主任の言葉に直ぐにサナエさんが反応する。

「貴方にこの案件を引き継いでもらうわ」

「私程度では…… 」


「できるでしょ? データはあって、基本モデルもある」

「そうですよね。何とかなりますよね」


「ああ、追加コンセプトがあるの。これも付けておいて」

彼女から副主任に一枚の紙を渡す


「……なんですかこれ。 無理です。 新たに稼働部の変更が発生するじゃないですか 」

「このぐらいやり遂げなさい! 」

サナエさんの声が室内に響く。


「その追加制御は……」


「貴方の基本給は、私より遥かに高いのよ? 捻りだして案をもってきなさい! 」

「了解です! 失礼します」


副開発主任は逃げるように部屋を出ていく。


「サナエさん。 低いんですか? 」

「バックヤードクラスよ」


「噓でしょ? えっルベェリエ工機の研究員じゃないんですか!! 」

「臨時職員よ。あなた人事部だったじゃないの? 」


「ルベェリエ工機からの契約型研究員と言う意味で臨時職員と認識していましたよ!! バックヤードの臨時職員だとは、思いませんよ!! あそこの会社おかしいんじゃないですか!! 」


「まー色々あるのよ」


その後、開発主任は会社を辞めることになる。

ライバル企業にいったともウェヌス(金星)を出ていったとも憶測が流れる。


月日は流れるのは、年齢が上がるほど早くなるらしい。 もっとも個人としての時間の流れであり感覚でしかないが。 驚きや発見が少なくなるからとの理由らしい。


そうなると常に好奇心をもって人生を歩んでいる者は、他の者より主観的に人生が長く感じられるのだろうか? であれば、好奇心の塊である彼らの人生は、さぞ長いのであろう。


そこからさらに“3カ月”の月日が流れる。

さてさて色々が進んだ状態から、日常生活が進みだす。


---3ヵ月後


「できたようね」

サナエさんが満足そうに成果物を見ている。


「なんとかですよ」

副主任もサナエさんにかなりやり込めながらここまで作り上げた。


“006-A”開発室内のハンガーには、試作機のコンバットスーツが吊り下げられている。


「シミュレーション上の性能は、試験機を遥かに凌ぐレベルです」

副主任が、サナエさんに最終的な試験結果を示す資料を渡す。


資料の示す値は、全てのスコアでデータ取得用の試験機を圧倒している。


「凄いわね」


「特に殲滅能力が異常に高いのが特徴です」

「例のオプション? 」


「ええ。このコンセプトは異質ですよ。この制御を可能にしたのも新型AIの処理能力があってできたようなものです。 しかし、可動部が増えるため保守効率の問題が、新たに発生しているので対応が必要かと」


副主任の言葉を聞きながら、ハンガーに吊るされている新型コンバットスーツをまじまじと見つめるサナエさん。 背部のランドセルが大きくなっている。


「それで、これから模擬戦に入るのですが、如何しますか? 」

「私にやれって? 」


「ええ。最初に装着して頂こうと思いまして。あそこまでの運動神経の者は、ここにはいませんので」


「良いわよ。準備しておきなさい」

「承知しました」


職員が開発室を出ていく。

「それにしても背部が大きくなり過ぎたかしら? 」


『開発コンセプトを考えれば、よくこの大きさに収まったものです。 この大きさに納めたのは、ここの研究員が優秀である証拠でしょう』


「確かにね。 じゃあ早速装備しましょう。 手伝いなさい」

『了解です』


                ・

                ・

                ・


暫くして試作モデルを装着したサナエさんが、セレンと並んで出てくる。


『如何ですか? 』

「バックパックに重量感があるのは、想定通りね」


可動部を確認しながらサナエさんが回答している。

『動きやすさは、どうでしょうか』

「問題ないわね」


会話をしながら訓練場に近づくと、警備トークン100体が目に入る。

「また集めたわねー」


出入り口で待っていた、開発副主任が話しかけてくる。


「50体では力量不足ですから、倍にしました。 理論上はいい勝負になるはずです。

まずは動いてみてください」


開発主任がバイザーメットをサナエさんに渡してくる。


サナエさんが、バイザーメットを装備すると自動起動が掛かり、バイザーメットの画面に状況パラメータが投影されている。


手、腕部、脚部の稼働を確認する。


「いいじゃない!! 」


そのまま、模擬戦の空間に足を運ぶ。 トークン100体を前にすると、サナエさんであっても多少怖気づきそうになる。


とは言え、これは試験。 今回の目玉開発品を稼働させる。

<トランスフォーム>

の表示が見える。


多腕式コンバットスーツの2つの腕と背部から2本のアームが伸びる。


開発者からカービン銃が2丁投げ込まれる。背部の腕部が問題なく受け取る。

「これもですね」


開発主任から、さらに2丁のカービン銃が渡される。

計4本の4丁の銃火器でのバトルになる。


『やる気ですね』

「もちろん」


銃火器を4丁構えたコンバットスーツに対峙するは、警備用トークン100体


≪開始≫


信号が送られてくると斉射が始まる。

害虫退治用の弾丸であるが100体も揃うと音も凄い、(かわ)すように移動し、反撃しているサナエさんのコンバットスーツの性能も凄い。


左右の動きに群体の内側への侵入での攻撃等、考えられる複数の手を使って反撃を実施している。


決着には、それほど時間を必要としなかった。


<模擬戦終了。 判定 敗北>

「モー。また負けたのー」


<スコア92>

バイザーメットを取り、不満を漏らす。


周囲は唖然としている。


負けたという結果より、画一的な動きであるものの警備用トークンを92体まで削りきる

性能への驚きが大きい。 理論上とはいったものの、本当に実現するとは思っていなかった。


静まる周囲を割くように、サナエさんが声を上げる。


「でっ今後どうするの? 」


「微調整した後に、社長に筆頭から報告なるのですが……」


「筆頭……あーわたしかー。 了解、やっておく。資料できたらお願い」


彼女はコンバットスーツを着たまま開発棟の中に入っていく。

『上手くいきましたね』


「この性能なら上出来でしょう。それにこのアームもいいわね」

アームが、かわいらしく動いている。



--- 報告

現在、社長室に“新型のコンバットスーツ”の報告に来ているサナエさん。 彼に報告書を提出して説明を終えてたところである。 


相変わらずクールな佇まいの社長が、彼女の報告書をその場で読みながら、所々アンダーラインを引いている。


「なるほど、性能は凄まじいな」

「一つ聞いてもいいかしら? 」


「どうした? 」

「なんでこのポスターが、ここにあるのよ! 」

サナエさんは、海辺でのワンピース姿で水遊びのような採用広告ポスターを指さす。


「帝都では、有名とのことでね」

「何? 私を(はずかし)める魂胆なの? 」


「セレンさん。どう考える? 」

『キャンペーンポスターが、重役室にあるのは自然であると判断します』


「だそうだ。 君のAIが述べているんだ。 問題ないだろう」

再び社長は資料に目を落とす。


サナエさんは、プルプル震えている。

「いいだろう。 ではさっそく準備に入るか」


「準備って何よ? 」

「前も言ったかと思うが、帝国の厄介者を排除したいと」


「本気なの? その前に私の研究はどうするの!! 」

「キャミャエル博士には、ヒーローのサポート役をやってもらう」


「サポート役? なに相棒でもやれっていうの? 」


「捜査のための発明品を作り・管理する側だ」


そっちかー。“くれぐれも悪用するじゃないぞ”のアレかー。

ええぇぇぇーーー


「不満そうだな? 」

「ああゆうのってちょっとイっちゃている人が、当たり役でしょう」


「セレンさんどう思う? 」

社長は、今度はセレンに視線を向けて質問を投げかける。


『ピッタリかと』

「だそうだ」


「おい。 待てよ! 」


『サナエ。もういい年ですので言葉に注意した方がよろしいかと』

「私もそう思う」


何故か味方のセレンまで向こうに廻られるとサナエさんであっても分が悪い。


「……分かったわよ。でどこかに秘密基地でもあるっていうの? 」


「秘密ではないが、今いる開発棟は、流石に古くなって痛みも目立ってきている。

なので取り壊す予定で調整に入っている。あの棟の開発部署は移動だ。


新たな別棟を用意してある。 そこに移動してくれ。 そしてこの開発もほぼ完成形だ。 この開発は開発部に移管して終了だ。 開発主任……いや副開発主任に伝えておいてくれ。 君の成果は十二分に見せてもらったと。 慣例通りの対応をしよう」


「また引っ越すの? 」


「そうだ。また引っ越すんだ。セレンさん面倒を頼む」

『承知しました』


どうして、セレンに頼むのよ!!



※1:5.7mmの害虫駆除用の弾丸

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