ワーキング
彼女のオフィスに一通の指示書が届く
(でっ。結局こうなるのね)
<627号開発案件を006-A案件とし、キャミャエル博士を筆頭とし対応する>
社長からの直々の指示になる。
『あの開発案件を下に付け、対応させる気ですね』
「後釜ではなく、下に付けるとはね。 そんなに給料もらっていないんだけど」
『7000億ヴィールの案件のリーダーですからねー何か対価が欲しいところですね』
「確かに……セレンその辺りお願いできるかしら? 」
『了解です』
「あと“ナンバー案件”の筆頭よね。権限が広がるって事でいいのかしら? 」
『はい』
「そう……であれば、この会社内での例の関連資料をかき集めて頂戴。 “ナンバー案件”の許可が下りたのであれば怪しまれないでしょう」
『了解です。 理由は? 』
「トークンの遠隔利用でいいんじゃない? 遠隔でも運用できるために必要な機構であるとか。 実際に搭載する予定だし」
『承知しました。 開始します』
まずの指示をセレンに出す。
机の上のカップに手を伸ばし、一口、お茶を口に含む。
フレーバーティーだけあって、何かの花のような香りが嗅覚と味覚を刺激する。
(まずは、第一関門突破。 信頼を得ること。そしてある程度の中枢情報に触れられること……か)
「さてと。やりますか。 で? 開発場所はどこなの。 できれば、ここから動きたくないんだけど」
『627号開発との同時業務になります。 故にあの古い建物の場所になりますね』
「えー。じゃぁ引っ越しなの? 」
『ええ。直に業者がきますので。まぁ私物と言えばコンバットスーツぐらいでしょうか? 本当に何もないですね』
「別に必要ないでしょう。データは、端末かセレンの中、それに私の頭の中で十分よ」
サナエさんが自身の頭を指さす。
ドアがノックされる。
『来たようですね』
「どーぞー」
ドアが開き、秘書のローラさんが登場する。
「ナンバー案件 筆頭 おめでとうございます! 」
「別にめでたくは無いでしょう。 仕事と責任が増えただけよ」
サナエさんが、だるそうに回答する。
「ご謙遜を。サナエさんの才能ですよ!! 皆さんお願いします!! 」
引っ越し業者が入ってくる。
「それにしても、サナエさんのオフィスは、物がないですね」
「まぁね」
「引っ越し料金も安上がりですよ」
「それは結構」
運送業者に指示を出し、デバイス・デスク・応接セットが運び出されていく。
もともと者が少なかったためか、部屋の雰囲気は大して変わっていない。
ここでの引っ越し業務も終わり、006号開発室へ向かう。もちろん徒歩である。
「因みにあそこの場所にオフィスがあるの? 」
「ええ。後釜は嫌だとのことですので、完了した案件の部屋を改修しましたのでご心配なく」
「へー」
「スタッフも“627号案件”(新型コンバットスーツ開発案件)の人材も対応できる仕組みになっていますので」
「随分と柔軟性に富んでいるのね」
「それだけ開発の重要性が高いとの判断だと思います」
「まっ。あの社長のことだからね。それなりの判断をしたんでしょう。 それにしても、なかなかのイケメンね」
「ですよねー。 仕事もできて、凄いですよ」
「人気もあるんでしょう? 」
「それはもう。 サナエさん。 どうです? 」
「あー私は無理ね。 結婚しているし」
「……噓でしょ? 」
「ホントよ」
「またまた」
『サナエの発言は、事実です。 タツマが配偶者になっております』
「タツマ……サナエさんを歩かせた男ですね。 どんな奴なんですか? そのタツマっていう人は? 」
(何かとげがある発言があるが、取り敢えず、流しましょう)
「えー。どんな人ねー。 一言では難しいわね」
『ヘタレです』
「あー。 あっているかも。 たしかにヘタレね」
「ダメな男に引っかかるタイプですか」
秘書が小声でつぶやく。
「まー。あの社長ならモテまくっているでしょう。 金があって、カッコよければ、女性に不自由しないでしょう。 うちのは鉄砲玉のようで困っちゃうのようねー」
『たしかに。 鉄砲玉ですか。 言い得て妙ですね』
そうはいっていても、タツマの事を話しているサナエさんは、笑顔で話している。
それだけ信頼しているのだろうか。
「会ってみたいですね。そのタツマ氏に」
「あったところで、普通の一般人よ? 社長みたいな、カリスマ性も感じないしね」
『しかし、特徴はありますよね』
「あー。確かに。まったく義眼を入れなさいといっているのに」
サナエさん達の内輪ネタには、外部の者は入りにくい。
そんな惚気とも愚痴とも分からない内輪ネタを聞かされながら目的地に到着する。
---006号室(旧627号)の研究棟
「またここが職場になるとは」
「そうですか? 社内の皆さんは、このエリアの開発案件への参加を希望して日夜がんばっているんですけどね」
「へー。 私はあそこの場所で十分……」
『十分ではなかったでしょ? 暇とか言っていたじゃないですか』
「……」
『時間を与えるとろくなことを考えない典型ですね』
「ちょっと! なにを……」
「はいはい。 行きますよ。 業者さんも待っていますから」
セレンが、アルプに似た言動をし始めている。
棟の中に入る。 再び彼女に案内されるがまま後を付いていく。
今回は3階に上がっていく。
部屋の周りを囲むように廊下がはしっている。建物が大きい割に窓がない。明かりといえば電灯のみである。
「3階のフロアって……なんか静かね」」
「ええ。 ちょうど最近、案件が解散したばかりで、丸っと消えた感じですね」
「ふーん。 解散した案件って、その後どうなっているの? 」
「一般的ですが、基幹項目で目途や成功などの一定の成果が立つとその部屋から解散する仕組みになっています。
製品化など細かい開発や検証は、担当リーダーを決めて郊外の開発局に移行するといった具合です。規模が大きければ、研究棟をまるまるその開発だけに割り当てることもしますね。
そうなると、ナンバー案件の開発主任は、研究棟の所長にクラスアップという訳です」
「へー」
「解散後は、多くの人が詳細の検証や開発に携わりますので、その際に番号から、具体的な名称が、つくんですよ」
「ほー。因みにここの研究は何だったの? 機密情報なら別にいいけど」
「まぁいいでしょうか。 名称は開示されていますので。※1単独跳躍航法との名が付けられました」
「……嘘でしょう? セレン。可能なの? 」
『異空間内で通常時空間座標を確認する方法を見つけた。と見るべきでしょうね。 おおよそその辺りの研究でしょう』
「そうなると具体的なシステムの開発に移行しているね。 うーん。 恐らく弩級艦以上の宇宙船を建造しての理論の証明段階かー。 凄いわね。面白そう」
「……私も詳しくは、知りませんので。もちろん知っていても超重要機密事項ですから、お教えするわけにはいきませんが」
「でしょうね。 はー。 天才がいるのねー」
サナエさんは、心底感嘆している様子である。
「あなたも大概ですけどね」
ローラがボソッとつぶやく。
「いやーその後の開発室とは光栄ね。 こんな玩具の実験に提供してくれるなんて」
“社長室を倉庫にした技術を玩具と言い切るか”とローサさんも顔が引きつる
フロアの廊下に沿って歩いていくと、業者の人がある部屋の前で待っている。
電灯が付いて明るいモノのこのフロアでは昼か夜かの区別がつかなくなりそうである。
部屋の扉をIDカードで開けると広いオフィス空間が、広がっている。
運送業者が荷物を運び入れ、デスクなどや応接セットの家具も入れていく。
場所はおおよその位置にセットしていく。
前のオフィスと大して代わり映えのない模様になっている。
引っ越しが一通り終わり、業者が出ていく。
満足げにその様子を見ている秘書が、サナエさんに話しかけてくる。
「後、何か必要なものはありますか? 」
「取り敢えず、リストを作ったから見ておいて」
リストと呼ばれる、ファイルが渡される。
「……これが必要……? 」
「そう。お願いね」
リスト内のおおよそは、コンバットスーツ・トークンやジャガーノート・トークンを中心にキャミャエル型有機AIとそれにハンガー設備など多岐にわたっている。
「この量を一度にですか? 」
「ようやく予算が下りたんだから、さっさと揃えないとね。 頼んだわよー」
そう言い残して彼女はオフィスから出て行く。
「凄い量なんですけど……承知しました」
ローラは、その量に圧倒されながらも発注手配をすることになる。
※1:ポータルを用いずに空間跳躍を行う方法になる。 エネルギーの関係もあるが、出口の構築方法が問題となっている。




