次世代高機動装甲殻
--- 二週間後
変更したコンバットスーツが、ハンガーから吊下がっている。
見た目の変更点は、よくわからないが、内部のソフトはかなり書き変わっている。
5か所のパーツに独立制御機構を設けており、従来の制御プログラムを暫定版として使用している。各パーツには、セレンの稼働データを入力し終えている。
「筆頭。 取り敢えず出来ましたが、これいいのでしょうか? 」
代理筆頭であるが、何故が筆頭の役職名称で呼ばれるようになっている。
サナエさんが数値表を見ながら状況をチェックしていく。
「いいんじゃない? セレン。 最終調整お願い」
『了解です』
セレンが、その言葉を皮切りにコンソールに接続して、調整を開始する。
調整にはそれなりの時間がかかっている。 サナエさんは、ホットティーで一服している。 それでも多くの時間がかかっている。
『完了です。いけますね』
ウトウトしていのだろうか、その言葉でサナエさんの目が覚める。
と同時に、他の開発者も動きだす。
「おお……終わったの? 」
『はい』
「良いわね。早速、動かしましょう」
開発者の一人がサナエさんに話しかけて来る。
「筆頭。いきなりですか? 」
「そうよ。オブジェなのこれ? 」
「いえ。そう訳ではないですが、動画でご覧いただいているように、動きがぎこちない状況なのでまだ、試作運転をした方がよろしいかと思いまして」
「セレン。 どう思う? 」
『今回がその試作運転ですので問題ないでしょう』
「ということだから、みんな出てい行って。 これから装備するんだから。 それと警備トークンを50体ほど用意しておいて、それと演習用のカービン銃も」
奇妙な指示が飛ぶ。 開発者がぞろぞろと室外に出ていく。
開発室には、サナエさんとセレンだけになる。
「さぁ装備するわよー! セレン手伝いないさい」
『了解です』
*
棟の屋外では、開発者達が、出待ちの状況になっている。
警備トークン50体が並んでいる姿は、壮観である。
治安隊に無理を言って集めてきたようだ。
「おまたー」
新造のコンバットスーツ姿のサナエさんが、手を振って現れる。
“本当に着ているぞ!”
“普通に動いている”
開発者から多くの意見が飛び交っている。
屋外に出てバイザーメットを被るサナエさん
コンソール画面には、<戦闘モード> <通常モード> 映っている。
実験機らしく、様々なモードを設定する必要がある。
勿論これから実戦の試験をするため、戦闘モードを設定する。
軽い説明がバイザーメット内に流れ、AR画面に移行する。
「へー小洒落たギミックじゃない」
そんなことを呟きながら、トークン集団の前に立つ。
「じゃぁ最初は、集団で暴徒を抑え込む感じでお願い! 反対側の壁手に触れたら終了ねートークンへの指示は任せるわー」
サナエさんが、大きな声で指示を出している。
治安隊の管理者が“本気かあの研究員”との意見が出てくるが、 サナエさんの“問題なし”との意見に押し切られる。
まずは、集団での抑え込みの動作になる。武器を使わず取り押さえる動作になる。 合図のホーンが鳴ると、50体のトークンが次々とサナエさんに襲い掛かって来る。
それらの隙間を縫うように次から次へと躱し、反対側に駆け抜けていく。 速度、正確さの全てを従来のコンバットスーツの仕様を上回っている。
危なげなく反対側の壁に触れることで、最初の試運転が完了する。
「ゴール! 」
誰もが、その運動性能に唖然とする。 なめらかの動きと相手の動きを予測して躱す精度が非常に
「じゃぁ次ねー、格闘戦お願い。 最初は一体でお願―い」
次は一対一での格闘戦になる。 素人による格闘性能を確認するための試験になる。
トークンが一体出て来る。 両者が対峙する。 一種ひりついた雰囲気なるが、いざ組み手が始まるが見どころもなく、サナエさんの打撃で、警備トークンが故障することになる。
セレンの格闘プログラムのため、通常のトークンでは、歯が立つはずもない。
「まー差があり過ぎているわねー」
サナエさん自身は、物足りなさを感じている。 そして最後の大一番になる。
「最後―。 火器での対応ねー全員でお願い」
サナエさんが、振り向きながら言ってくる。
「ちょっと待ってください! 危険です」
開発者の一人が声を上げる。
「訓練用を準備したんでしょう? 」
「しかし」
「はやくー」
訓練用の威力を落とした実弾と銃火器が、警備トークンとサナエさんに渡される。
セレンが、サナエさんに近づき、片手用のカービン銃2丁を手渡す。
『サナエ。 本気ですか? 』
「威力も少ないし、本スーツの性能は把握済み」
『まったく。 危険であれば直ぐに中止します。 あなたにもしもの事があれば、私がタツマに分解されてしまいます』
「ふふふ。 大丈夫よ」
実戦が始まる。
警備トークンの一斉射を左右の高速移動で躱していく、跳躍・スピード・反射速度・射撃精度全てが既存トークンを圧倒している。
平地でありながら弾丸をかち合い弾で防ぎながら、警備トークンに攻撃を加えている。
勿論、威力を弱めた実弾であるため、装甲を破壊することはできない。銃弾に当たった回数で、疑似的な破壊判定になる。
サナエさんが続々と警備トークンを停止させていく。 しかし、多勢寡兵、数の暴力と平地という悪条件下では、勝利は難しい。
トークンの半数の破壊判定後、サナエさんも破壊判定になり、性能試験は終了となる。
「あーん。いけると思ったのに!! 」
バイザーメットを脱ぎ、悔しがるサナエさんであったが、その光景は異常である。
平地においてサナエさん1人で23体の破壊判定である。
誰もがその光景を目の当たりにして彼女の能力を認めざるを得なかった。
そして、その進捗は直ちに報告書として上層部に挙げられる。
*
先の実戦演習から数日が過ぎる。
ここは最初のサナエさんのオフィス。 相変わらずモノがない。
「何用よ」
そして今日は、客人が一人いる。
彼女の目の前には、あのイケメン社長だ。 来客用のソファーに座り寛いでいる。
セレンが、お茶をとリフレッシュメントを用意している。
『紅茶と本日は、五番区マーケットのチョコレートケーキです。 人気なんですよ。 果実蒸留酒による風味をご堪能ください』
「ありがとう。 頂こうか」
社長が一口、チョコレートケーキを口に運ぶ。
「おお! 果実酒の芳醇な香りはあるが、アルコールの嫌な酸っぱさはない、丁寧な造りだ。 それに、この香りに合うようなこのチョコレートスポンジとクリームの甘さは実に見事だ――凄いな。 五番区マーケットであっても、ここまでの味の探求ができるのか! 」
『ええ。製品開発者の努力の賜物ですね』
セレンと社長が和んでいる。完全にここの主がのけ者にされている。
「ちょっと! ここはカフェじゃないんだけど! 」
「そうだったかい? 有能な給仕がいるのでつい寛いでしまうよ。 空間が殺風景なのがマイナスだがな」
この前、社長のオフィスを倉庫にしたのを根に持っているのだろうか?
「それでキャミャエル博士。627号の研究は、もう終わりかい? 」
「あれで十分でしょう? 開発主任も戻して今まで通りよ。後は自分達で進めなさい」
「性能は見せてもらった、あの動きは目を見張る性能だよ」
「よかったじゃない。あれで残りの改修は、できるでしょう? 」
「稼働時間、機動力、性能面でまだ問題が山積している」
「ちゃんと動かしたんだから、要件は満足したはずよ。 後は、あそこにいる開発者でも対応できるわ。 それに彼らは、かなりの報酬をもらっているんでしょう?
給料分は働いてもらわないと。 こっちは“ルベェリエ工機”の臨時職員なのよ。バックヤード並みの給料で、給料以上の成果を期待されても困るわ」
因みに、ルベェリエ工機も技術役員級の椅子を用意して懇願したものの、在籍して欲しいなら臨時職員以外受け付けないとの強固な意志により突っぱねられた経緯がある。
「そこが分からない。 君ならもっと好待遇を提示できるだろう」
「べっつにー。 余計ものがあると判断が鈍るんで、最低限を心がけているの。 足るを知るってやつよ」
ハングリー精神は、満足した環境からでは生まれないとの持論だろうか?
「……理解できないな。 しかし、627号には戻って貰いたい」
「開発主任がいるでしょう? 」
「では彼を――」
「悪いけど彼の後釜とか興味ないの。それこそ、こちらから願いさげよ」
「まいったね。 是非とも君にあの開発を任せたいのだけど」
「私のオーダーは、人工筋の改良と軽量型パワードスーツの開発。それに“新しいトークンの開発”。あのときコンバットスーツへの対応は、支援のはずよ。 動かせないものを動かしたのだから、要件は満足したはずよ」
「確かにその通りだ……。 ところで相談があるんだがいいかな? 」
「? 」
「イシュタル帝国は、文字通り帝国だ。 君のマールスの都市国家のような民意が反映される政治システムではないんだ」
「別に全部の国が民主主義って訳じゃないしね。 それにあの制度もどうかと思うけどね? 民衆の意思一つで、無謀な戦争を始めちゃった例もあるし」
「でも、民意による政治は、ウェヌスよりは多いはずだ。 それに治安機構は少なからず、国家権力の監視にはなっているだろう? 」
「まぁ。なんとなくは、なっているわね。怪しい都市国家もあるけど」
「帝国はそれが無くてね。 色々困っているんだよ」
「……ちょっとまって。何をさせる気なの? なんか危ない橋を渡れと、言っている気がしてらないんだけど? 」
「あの新造コンバットスーツを用いれば、治安隊が捜査できない、権力者の闇の部分を暴けると思っているんだ」
「どういう理屈よ」
「正攻法では捜査出来ない奴らの違法な所業を白日の下に晒し出す」
「……」
「そのためにも、あのコンバットスーツは必要なんだ。拡張性は言うまでもないだろう」
「……」
「まぁ、君にそんなことを言っても綺麗ごとと言われるのは分かっている。 しかし、可能なのも事実だ。 我が社も彼らの行為には、手を焼いるんだ」
「この会社の規模なら何でもできるでしょう? 」
「対峙する相手が、同じ規模かそれ以上ならどうだろうか? 」
「……」
「別に小物相手ならこんな新造兵器を持ち出す必要はないさ。 そう大物なんだよ。 帝国の中枢だ」
「……何よ。 世直しでもさせよっていうの? 」
「まさか! 私がそれほど清廉潔白に見えるかい? 我が社のいざこざの解消が目的だよ。ただ、まぁ世直し効果もあるのも事実だがね」
「……」
「考えておいてくれたまえ。もちろん君を前線に送ることはしないさ。それに、断っても問題ない。例の“過酷環境下 可動トークン構想”への資金は提供する。
コンバットスーツに対する支援内容にも満足しているからね。そうだな、“過酷環境下 可動トークン構想”の案件番号は、ちょうど空いた案件番号があるんだ。“006”だ。頼んだよ」
社長はそう言ってサナエさんのオフィスを出ていく。
サナエさんの執務室は、大物が抜けた後のリラックスムードが流れる。
「ふーようやく出て行ったわね……ところで、これだけ大きな会社で案件が1000以下なの? 」
サナエさんからセレンに質問が飛ぶ。
『重要な開発のみ番号が割り振られるようです。 この社内ではナンバー案件と呼ばれるらしいですよ』
「どこでそんなことを……盗み聞きね。全くアルプと同じ耳癖が悪いんだから」
『生き残るために“情報は命”である。それがヒルベルト商会の社訓なので』
「……同意ね。前言撤回。ありがとう。セレン。これからも情報収集をお願い」
『了解です』




