社長提案
---社長室
それなりに広いオフィスに重役がずらりと顔を揃えている。 本来であれば威圧的に見えるはずが、どこかあたふたしている。
「それでキャミャエル博士? これは? 」
クァドラットが怪訝そうに質問してくる。
「社長さんご要望の資料一式よ! メッセージに記載があったじゃない。 ありがたく受け取りなさい! 」
「……」
クァドラットの指示であれば、重役達は何も言えない。
それなりの広さのオフィスのはずが、運びこまれるケースで倉庫のようになっている。
「私のオフィスは、倉庫ではなのだがね? 」
クァドラットの整った顔のが、歪む。
「そうなの? いいんじゃないこれを機に倉庫にしちゃえば」
イケメンの顔が、さらに引きつっている。
「一式寄越せって言って来たのは、そっちだから! 」
サナエさんが反論する。
「出資者に対してその態度はどうかな? 」
「じゃぁ。ルベェリエ工機に流すだけだけど? 」
破天荒との想像はしていたが、顔に似合わず悪戯が過ぎる。
「わかった。 会議室に移動しよう」
ここまでされたらクァドラットも継ぐ言葉が無い。 諦めて別の場所での会議を提案する。
「ケースの上に座ればいいでしょう? さっ何が聞きたいの」
そう言って、サナエさんは運ばれてきたケースの上に腰を下ろす。 役員達はあたふたしている。
社長は、一瞬ためらったが諦めたようにケースに座る。
「わかった。 続けよう」
全員がケースに腰を下ろす。 ケースで周囲が埋まり、各員の距離が近い状況での会議になっている。
出席者全員が、文字通り膝を突き合わせてサナエさんのプレゼンテーションを聞くことになる。 そして、距離が近い為、マールス人らしい美貌が際立つ。
しかし、彼女の特徴はその貌ではなく、能力。 技術的な質問に対して簡潔に答えているさまを見る限り、ケース内の資料内容は理解しているのだろう。
オフィスを倉庫にするぐらいの情報量が、彼女の頭の中に入っていることが分る。
(天は二物を与えた典型例――実力は本物か)
クァドラットもそのプレゼンテーションを聞きながら彼の脳裏を過る。
自律時の運用方法、改良型人工筋駆動系による性能向上率、稼働時間などなど
セレンの支援もありつつ、おおよそが解答されていく。
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朝からの会議は、日が傾きかけたころ終了した。 全員が昼抜きの通しでのプレゼンテーションになる。
全員がかなりの疲労感があり、終わると誰も発言がなく、沈黙が下りるが、その沈黙もクァドラットの発言で霧散する。
「……さすがだな」
重役達も疲労していながらも彼女の情報量に舌を巻くだけである。
「どうも。 それでどうするの? 」
サナエさんは、特に変化がない。 何気に体力はある。
「ところで、今我々の別部門で “次世代高機動装甲殻構想”の案件を勧めていてね。 簡単に言ってしまえば新型のコンバットスーツ開発をしている」
重役達が、一斉に社長を見る。どうやら重要な情報らしい。
「へー。それで? 」
「本研究と “次世代高機動装甲殻構想”をまとめて対応して欲しい」
「社……社長。あの計画はその“ナンバー案件”です。外部の者に……」
役員の一人から諫言が入る。
「任せられないか……進捗はかなり遅れているのは承知している。 別に責任者を責めるつもりはない。 能力がなければ進捗が遅くなるのも道理だ。 そして今の我々の現状を示している」
「……」
「私はその開発を進めて欲しい。 故にキャミャエル博士。 この原案に我々のプロジェクトの支援込みで7000億ヴィールを提示する。 研究開発をまとめて対応して欲しい。 秘書も付けよう」
「その遅れているプロジェクトの状況を見てからね。現状を確認せずに進むのは危険だし」
「分かった。いいだろう。後日研究室を見せてやってほしい」
社長からの指示で担当役員、は承知したようだ。
サナエさんが、すかさず返答する。
「ダメなら断るわよ」
「かまわない」
「へー潔いのね」
「伊達に社長はやっていない」
彼女が驚いた様な顔するが、その表情は笑みに代わり、手を叩く。
「じゃぁ。お開きでいいかな? 」
サナエさんが提案する。
「ああ」
「じゃぁねー」
サナエさんが、立ち上がり社長室を出ようとすると社長からの呼び止めの声が掛かる。
「少し本題から外れる質問があるが、いいかな?」
「何かしら? 」
「これだけの提案を実施に対して、君は緊張しなかったのかい? 」
「ないわね。 いつも通りよ」
サナエさん達は、社長室から颯爽と去っていく。
扉が閉まり。誰もが黙っている。
急に社長が笑い出し、役員がおろおろしだす。
「どうかされましたか? 」
「いや、久々に面白い人材に出会えたものだと思ってな」
「……それとどうしましょう? 」
「どうしましょうとは? 」
「いえ。この書類です」
社長室を埋め尽くすファイルがある。 協議に集中したあまり、途中から気にしなかったが、このままでは自身の業務スペースがなくなっている。
「……人員をかき集めて、これら資料を会議室に移動させてくれ」
「承知いたしました」
そこから数日経過する。 日々の研究開発と新しいプロジェクトの詳細を作り上げていたサナエさんのところにヤールがやって来る。
「627号開発室? 」
執務室には、サナエさんとセレンがいる。
そして、ヤールから伝えられた業務に対して、サナエさんが、疑問を呈するとこから彼女でのアーサ・ブカブ社の第二幕が上がることになる。
「はい。 まずは|次世代高機動装甲殻構想《コンバットスーツ開発》の開発になります」
「“トークン構想”はどうなっているのよ? 」
「あれだけの規模の予算となると、書類やら役員会の了承を得る必要がありまして、先に進んでいる業務を対応して欲しいとのことです」
新規に起案を起こすのと既に進んでいる業務。 確かに、先に進んでいる方から手を付けて欲しいとの要望は分からなくもない。
「まーそっち関連の問題かー。 わかったわ。 進めていてくれいるのであれば、問題なしよ」
秘書には、例の人事部の女性のヤールさんが宛がわれた。
顔も知っているし、見ず知らずの人間を当てが割れるよりも良いと判断し、了承した。
「それにしても627号開発室ねー」
ヤールから渡された書類を見ながら怪訝な表情になる。
「どうかしました? 」
「いや。 ここには、中央研究所とかいう、それっぽいところかと思ったんだけど……なんか、|次世代高機動装甲殻構想《コンバットスーツ開発》って重要なプロジェクトなのでしょう? 」
「ああ。 あそこは、生活家電の耐久力を検査する場所ですね。 確認したのであればいつでも入れますが? どうします」
「いつでも? へー。 でもその……」
「627号開発室ですか? 」
「そうそう、そこにいきましょうか。それにしても変な番号ね? 」
「まぁ開発室の名称はプロジェクト番号で管理されていますので、いわゆる機密漏洩対策ですね」
「ほー」
(それだけの仕組みを用いているのに中央研究所とやらはいつでも入れと言うのも奇妙ね )
とはいえ、まずは自分とは関係ない場所なのでその場は流し、彼女に従い、627号開発室へ向かうことになる。
彼女が、運転するカートで敷地内を“627号開発室”に向かって行く。
「キャミャエル博士は、<5番区マーケット>をメインに使っているんですか? 」
「そうよ。 それとキャミャエル博士でなく、サナエで結構よ」
「本当ですか!! 嬉しいです!! じゃあ私も“ローラ”でお願いします」
「わかったわ」
「これから行く場所は、<3番区マーケット>もありますから、お値段も味も品質も高水準で取り揃えてありますので、楽しみにしてくださいね」
「でも社宅から遠くなるのが、かったるいわね」
「ご希望があれば朝は、お送りいたしますよ。帰りは不定期ですので、厳しいですが」
「本当! 助かる――」
『サナエ。 歩きましょう。 最近あなた、デスクワークで体動かしていないでしょう』
「そうはいっても……」
『ダメです。ローラ様ご提案ありがとうございます。 しかし、サナエの健康を考えれば、歩かせます』
「はいはい。分かりましたよ」
『それに増えていますよ』
「歩きましょう。やっぱり運動よね!! 」
カートは進んでいく。
暫くすると周囲の緑は街路樹しかなく、建物ばかりが目に付く。ここは確かに居住エリアでないものの、少し癒しも欲しい気がする。
「この辺りは、開発研究施設群でして、アーサブカブ社の中枢……テクノロジーの中枢になりますね」
妙に言い淀んだのが多少気になるが、それほど重要でもないので流す。 カートはしばらくすると、一棟の面白味もない3階建ての古ぼけた建物前に着く。
それなりの横幅もあり規模もありそうだ。
ローラが、出入り口わきのカードリーダにIDを通す。電子音とともにドアが開く。
「さっ行きましょう」
ローラが中に入ってく。 最新の研究所は、天井が高く居住性も高いイメージがあるが、ここは天井が低く、古い建物独特のにおいがある。
いうなれば真逆を行く場所だ。 天井も軽く落ちている。
建物が分からない素人でも、耐用年数を超えている感じがうかがえる。 とはいえ、監視カメラに各部屋へのカードリーダなど、セキュリティはそれなりに施してあるようだ。
ローラに先導されながら目的地に向かう。階段でフロアを上がり、いくつかセキュリティが掛かったドアの前を通り過ぎる。 ドアの前には番号のみが掲げられている。
数字の規則は、ランダムであり。 一見すると適当に付けたようにさえ見える。
(これも機密を守るためなのかしら? )
ローラの足が止まる。
「この部屋です」
“627号”の表札が掲げられた分厚そうなドアの前で止まる。
カードリーダを通すと、ロックが解除された音が響く。扉を手前に引く。
風除室などはなくそのまま、開発室内の様子が見える。
サナエさん達一行はそのまま、開発室内に入ると、部屋の中央に吊り下げられている開発中であろうコンバットスーツが視界に入る。
「あれが新型? 」
サナエさんから声が洩れる。 自身が来ていたものより一回り大きい。 明らかに動き難そうである。
その声によりにサナエさん達に気づいた、研究員の一人の中年男性が、話しかけてくる。
「これは、新人さんですね。役員から指示が来ております。ようこそ627号開発へ」
「こちらが、この開発業務の開発主任さんです」
ローラさんが、説明してくれる。
「どうも、指示を受けた、キャミャエル・サナエよ」
まずは、自己紹介から入る。
(初めの印象は大切にしないとねー)
「あなたが、どんな人が知りませんが、本プロジェクトの責任者は私になります。故にここで働く気があるのであれば、私の命令に従ってもらいますよ。
まったく筆頭から急遽、君への対応をしてくれとのお達しが来てね。こちらも迷惑しているんですよ」
(……いきなり喧嘩腰なんだけど)
サナエさんはローラに視線を送る。 彼女も困った表情をしている。 開発主任と呼ばれる男性は後ろのトークンを値踏みするように見る。
「それと後ろのトークンの本開発室への出入りは禁止です。見苦しいのでお止めいただきたい」
「……」
(あーこうゆう奴かー 自分が一番偉いと考えて、知識がない奴をいじめるタイプ。 無能な人間ほど自分の場所が取られそうと考えると、そういう行動に出るんだよねー)
相手からの先制口撃であったが、主任の言葉を無視して奥に入っていく。
セレンもサナエさんからの指示がないため、そのまま彼女に従い、研究室に入る。
セレンが従うのは、サナエさんであって、このぽっと出の開発主任と呼ばれる男も命令ではないからだ。
「お……おい貴様!! 」
彼が制止させるような命令口調で話してくる。 しかし、逆にサナエさんの鋭い視線が向けられる。
「私は社長命令で動いているの。 貴方は社長以上なの? 」
サナエさんかの真っすぐな疑問が、投げかけられる。
「……」
開発主任と呼ばれるその男の言動が止まる。 サナエさんとしては、権威をかざすのは信条に合わないが、有象無象を黙らせるにはちょうどいい。
彼女達は、新型と呼ばれるコンバットスーツに近づく。
センサーや測定器の配線が接続されている。
「稼働中の映像とかないの? 」
室内には十名程度の研究者達がいる。 そのうちの一人が映像を映し出す。
映像が流れる。
人が中に入っているのだろ。しかし、動きが上半身と下半身の動きがいびつだ。
腕の動きもぎこちない。
無理矢理動かしている感じがある。
しかし、重りを持ち上げる映像では、地球単位換算で500kgを持ち上げている映像になる。
「パワーは2倍以上になっているのね」
サナエさんが呟く。
映像を見終わる。周囲の研究者たちは、訪れた異なる惑星の研究者に視線を送る。
「セレン。どう思う? 」
しかし、そこはサナエさん。 いつも奇異の目で見られている為、視線程度では動揺しない。 セレンにいつも通り意見を求める。
「伝達速度や関節の同期が、全くあっていませんね。 かなり無理をして動かしています。しかし、それでもこの出力は、大したものです」
「はっ。そんなことは、わかっている。それを開発しているんだ! 」
開発主任が発言する
「無駄な処理が多いんじゃない? 」
「無駄だと! 必要条件をすべて出して対応させているんだ! 私の制御フローは完璧だ! 」
その言葉に思わず、苦笑が出てしまう。
「何だ! 貴様。さっきから。」
「ごめんなさいねー科学者が完璧とか言っちゃっているからついねー」
「なんだと――小娘が――」
開発主任に怒りの表情が、見て取れる。
それを無視してサナエさんのターンは続く。
「“完璧”とか、それ以上求めないし探さない。 そんな思考は、幼稚以外の何物でもないのと思わない? 自分の思考停止を高らかに宣言するとはあまりの器の小ささについね」
「お前ら!! 出ていけ!! いくら筆頭や社長の頼みでもお前らのような無礼な奴らと一緒に仕事ができるか!! 」
「あまり協力的でないんだけど。どうすればいいの? 」
周囲の人間が見ている前で、秘書に相談する。
「サナエさんは筆頭ですので、権限で開発主任の移動は可能ですよ」
流石に敵意むき出しの彼の行動は、ローラさんも問題と考えたようである。
「じゃぁ移動させる」
「しかし、理由は必要です。 開発に混乱させるような、高圧的な権利の乱用は、後々問題になりますから」
「うーん開発者の相互信頼関係を崩す輩は、開発の進捗に悪影響を及ぼすため一度頭を冷やしてもらいましょう。ことが落ち着いたら元に戻すわ」
「結構です。どこに移動させます? 」
「お勧めは?」
「中央研究所は、如何でしょうか? 」
(……そういう使い方……エグイわねー)
「じゃぁそこで」
多少の憐みの感情もあったが、サナエさんは、あっさり決断する。
「承知しました。 手続きを行います」
「な……何を考えている。私がいなけば……」
急転直下のやり取りに、開発主任がうろたえ出す。
ローラさんが端末を弄っている。
「申請完了です。 社長直轄の指示であり、今のキャミャエル博士は、代理筆頭のクラスになります。 開発主任では太刀打ちできませんよ」
彼女からの感情のない言葉が飛ぶ。
「大丈夫よ。 直ぐ戻してあげるから。 じゃーねー」
しかし、サナエさんの方は何気に、気楽に接しながら、彼を送り出す。
ローラさんが、警備トークンを呼んで外に出て行ってもらう。
開発室内はかなりの動揺している。 そんな中、開発者に向けてサナエさんが、話しかける。
「さてと!! 新参者の仕切りで不愉快かもしれないけど、こっちもこれをぱっぱと終わりにしていつもの生活に戻りたいの。協力してくれれば元の生活に早く戻れるわよ」
開発者たちは急の異質な者が入ってきた戸惑いがあるものの、社長命令の通達は来ているため、黙って従うようである。
「さてと、誰かこの開発品の詳細を説明してくれる? 」
サナエさんがハンガーにぶら下がっている、コンバットスーツを叩きながら指示を出す。
一人の男性開発者が前に出てきて説明する。
「新型のコンバットスーツのコンセプトは、人工筋による性能向上を図る計画ですが、駆動部と人工筋の連携が上手くいかず、映像のような状況になります」
「制御フローは、完璧と言っていたけど? 」
「条件の洗い出しを全ての項目を監視制御していますので過不足なく対応しているはずです」
「制御はどうしているの? 」
「集中制御です。各駆動部のセンサーからの情報を中央で処理して対応させる仕組みを取っています」
「なるほど、人工筋の運動制御も加わり処理が上手くいっていないと? 」
「その通りです」
「ふーん、じゃぁ。集中制御を止めましょう」
「えっ」
「だって上手くいっていなんでしょう? じゃあ止めましょう」
「では制御系は? 」
「各身体パーツで行わせて」
「それぞれが独立しての稼働は、全体の制御が破綻します」
「大丈夫よ。やって」
突然の管理者の交代とともに告げられる大胆な工程変更。
続いてサナエさんは、セレンにも指示を出す。
「セレン。 今までの戦闘データあるわよね? あれを各腕や脚のパーツモジュールに分解しておいて。 制御量の基準データとして制御しましょう」
『了解です』
作業は進む




