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休暇

--- アーサ・ブカブ街 散策


彼女が開発棟を出る。 まだ日が高い。 久々に何もしない自由時間だ。 

(久々に時間を持て余ましているわねー何をしようかしら? )


することが無いと、何かすること探すしかない。


(うーん。 今まで、時間はとにかく効率的に使うことばかりだったしーいざ、こうして時間があると使うのが難しいわねー)


そんなことを考えながらサナエさんは、どこに行くかも考えず歩き出し、何をしようか考える。

(優雅な時間な使い方……ねー)


お昼には早い。 マーケットに行ってショッピングという気分でもない。

「うーん」


暫く歩いていると、彼女の視界に走っている定期巡回旅客車両(バス)が、入ってくる。


「……そうね。 ここにきてアーサブカブ地域は、散策していないわね。 決まり! 今日は散策・冒険ね! 」


休日もオフィスに籠って案件を進めていため、出不精のサナエは、こちらに来てまだほとんど街を散策していない。 故にこの街のことをあまり知らない。


知らなければ知ればいい。おそらくそんな感じだろう。 しかし、この地域は本当に広い。 端まで行くには、やはり乗り物が必要になりそうだ。


「個人用もいいけど……やっぱり定期巡回旅客車両(バス)が良いわね」

道沿いを知らべて定期巡回旅客車両(バス)の停留所を探しだす。


「ちゃんとあるじゃない」

別に迷子になっても治安隊に料金を払えば、迎えに来てくれるようなので問題ない。


車両に乗って、散策を開始する。 車両内からの景色はどこも同じ風景であり、街路樹があって、長方体の棟が立っている。


所々にある停留所に留まると人の乗降が発生する。 ほとんどがスーツや作業服を着た人間が乗車降車をしている。 人も混沌の地(大都会)様なパンチの効いた人間はいない。


周囲の建物は、間隔が広い分、圧迫感はないが、面白みに欠ける。定期巡回旅客車両(バス)にゆられること(わず)か。 しばらく行くと住宅地が現れる。


1~2F建ての住宅が並んでいる。教育施設らしきものも見える。 サナエさんは社宅と仕事場の往復ばかりで、他のエリアの状況はまるで知らないため、その光景が新鮮に映る。


「なんか自治区みたいね」

彼女が(つぶ)く。 


因みに車両は完全自動化されており、車両専用のレーンが作られている。

「おっ、ここにもマーケットだ!! 」

<八番区マーケット>


の表示が見える。

「随分と展開しているのねー。 ナンバーマーケットっていくつまであるのかしら? 」


しばらく行くと結構な樹林帯が出てくる。


≪森林公園前・森林公園前≫

人工音声のアナウンスが流れる。


どーしようか? 終点まで行くか、ここで降りて森林浴を楽しむか?


公園と言うだけあって、中々面白そうだ。

車両が留まると、ちびっ子達が大勢乗ってきて降車のタイミングを逸してしまう。


園児だろうか? ワイワイ車両の中が賑やかになる。管理者の保母さんも忙しいそうだ。

「次で降りるわよー」


ちびっ子たちの元気の返事が車両内に響く。

≪東部住宅団地・東部住宅団地≫


(なるほど、屋外でのイベントか。 住宅地の幼稚園かしら)

一区間だけのちびっこが降車していく。


「この際だ。 終点まで行きましょうか」

更に定期巡回旅客車両(バス)ゆられることになる。 景色は徐々に建物が少なくなってくる。


街路樹から人の手が入っていいない樹林帯になって来る。しばらくするとその樹林帯を抜け、平原のような下草が多い土地に入る。 農地もあり、それなりに作物が植えてある。


「これだけの土地があるならもっと積極的に開墾しないと……勿体無いわねー」


≪終点:終端壁・終端壁≫

いかにも終点らしい名前だ。 ここまで来ると乗客はサナエさん一人になる。 少し不安になったものの、終点はロータリーになっており、待合室のような建物が併設されているのも見える。


ならば、ここに来れば帰れそうだ。


社員証をリーダーにかざし車両を降りる。 その後、無人の定期巡回旅客車両(バス)は、円形のロータリーをぐるりと周り車両待合所の前に停車している。


「なーるほどねー」

サナエさんは周囲を見渡すと国境のようなゲートとその待機所が少し離れたところに見える。


周囲には、人家もなく、オフィスビルもない。

あるものは、壁・草原・車両の待合所、それとゲートがある。


「“終端壁”ね――なるほど」


取り敢えず、人のいるゲートの方に向かう。

ゲートまでの道は舗装されているため歩きやすい。 恐らくここも入口なのだろう。


ゲートには案の定、守衛がいる。ただし、コンバットスーツを着ているのが物々しい。

ドアをノックするとこちらに気づきドアを開ける。


「如何しましたか? 」

「まだここに来たばかりで、このへん散策中なんだけど。 ここら辺ってどうゆう場所かご存じ? 」


守衛はサナエさんのIDを見て、室内に招き入れ椅子を用意する。


「すみません。 勤務中でしてメットは取れなくて、お見苦しいかもしれませんがご容赦を」

守衛の頭部は、バイザーメットを被った状態でありよく見えない。


「別に気にしないわよ。 業務中ごめんねー。 でも知りたくて」


「ここはアウター(壁外)インナー(壁内)地区の境界線になります。そのー。 貴方様であれば自由に出入りができますが、如何(いかが)いたします? 」


「まー。歩きだしそこまでは考えていなかったんだけど。 アウターね。 おなじティエンフーでしょ? 」


「確かにそうなのですが、アーサ・ブカブ社の地域は特殊でして、独自に運営できる権限がありまして」


「あーそんなこと言っていたわね。 本当に街みたいよね。 教育機関から治安機関まで」

「はい」


「あなたもこの中に住んでいるの? 」

「ええ。治安隊は1級市民ですので住居を構えられるのです」


「へー……何級まであるの? 」

「基本的には、全部で5階級ですね。3級からが敷地内に居住権がもてるのです」


「へー」

なんか彼女(ヤール)もそんなこと言っていたけど、階級のことはいっていなかったような。


招待研究者待遇とか言っていた気がする。

取り敢えず、大概の場所は入れることと、興味があれば呼んでくださいとしか言っていなかったよーな? 


別にいっか。私は取り敢えず住めているから3級ぐらいかしら? まぁ臨時だしねー

「4級と5級はこの地域への通行許可ですね。5級は移動制限が課されています」


「ほー」

やっぱりディストピアっぽくない?


「後は何かございますか? 」

「コンバットスーツで武装して、ここはそんなに危険なの? 」


「そうですね。やはり不法侵入者が後を絶ちませんから」

「不法侵入? こんなに壁があっても」


「まぁこれだけ広いので全てを見るのは不可能ですし、やはり壁を越えてくるものもいますね」

「壁超えてどうするの? 職に就くとか? 職もIDが無いと就けないんでしょう」


「実際に野良IDが出回っているんですよ」

「野良ID? 」


「辞めた人のIDや 1つのIDを複数で使いまわしている場合です。 このインナー地区の人口もかなり増えてきましたから、治安隊だけでは手が足りないのも実情ですから」


「……」

「この周囲は、農業地域ですが、やはりインナー地区に比べれば所得格差が大きいので」


タツマの言葉を思い出す。

AIによる完全監視を実施すれば、完全な管理社会実現できるか……なるほどねー


「帝国が領土拡大時に土着住民を排除しているので、どうしても貧富の格差が出てしまうのです。 実際に侵入者は貧しい家の者ばかりになります。


とはいえ、我々も全てのIDを確認する訳にもいきません。 不法侵入であっても一生懸命働き、治安を乱さないかぎり状況によっては、5級市民権を与えられえる権利もあるんですよ」


「へー温情政策もあるのね 」


「ええ。 ただ、仲には荒くれモノや暴動者もいますから、我々のような武装部隊が、必要なんですよ。 実際ここで銃撃戦が起きたこともありましたし」


「なるほどねー。大変なのね。ありがとうためになったわ」

「それは良かったです」


サナエさんは立ち上がり、守衛所を後にする。

守衛も外に出て彼女を見送る。


日はまだまだ高い。


なるほどねー。管理する側も大変よね。

サナエさんはロータリーに向かって歩き出す。


風が涼しい草原からの香りも心が落ち着く。

「そうだ! 帰りに8番マーケットを寄ってみますか! それと森林公園もまだ行けそうね!」 


                *


≪ターゲットと接触。取り敢えず流しましたが、あれでよかったでしょうか? ≫

≪問題ない。役者になれそうだな。 ただし、茶を出さなかったのは減点だ≫


≪勘弁してくださいよー≫

≪冗談だ。最上級クラスだ。 ストレスを与えるなとのご命令だ。 彼らが現状を知る必要はない≫


≪本当に最上級クラスとは。あのID初めて見ましたよ≫

≪まぁな、経営者クラス待遇だからな。 扱いも慎重になるんだろ。 因みに制圧状況は?≫


≪ガキ10名の不法侵入を確認。 即時排除が完了しています≫


≪了解だ。こちらも30名の地下の不法侵入を排除している。最近多くなっている。反撃もかなりある。気をつけろよ≫


≪了解≫


階級は全部で7階級存在している。

一般に知らされているのは1~5級であり、その上の階級である。

上級・最上級は存在しないことになっている特殊なクラスになる。


上級は会社役員クラスであり、最上級は、招待研究・開発職・鋭敏な経営者など頭抜けた才能に与えられるクラスになる。


入れる場所、使用できるマーケット等、完全な階層化を形成している社会。 上層部は、下層部の気持ちは分からない。 それは事実だろう。 


なぜなら目に入ることすらないのだから。




---サナエさんのオフィス前

「やっと着いたー」


戻り際に、サナエさんは、森林公園やら<八番区マーケット>に立ち寄って来たようだ。

<五番区マーケット>より値段が安い。 


といっても内容が健康志向の<五番区マーケット>からよりジャンク系に偏っていることもあるのだろう。 しかし、サナエさん的にはそれが刺さったようだ。


「さーて。 さてさて、終わっているかなー」

サナエさんが研究棟に入っていく。


執務室に入るとケースに数十箱分が仕上がっている。


「さっすがセレン!! 」

『お帰りなさいませ。 どうでした久々の休暇は?  』


「いい気分転換になったわ! 」

『明日、これらを業者に取りに来させて運び出すのですね? 』


「そうよー。 社長とやらが資料寄越せって言って来たんだから送りつけてやるのよ。 そして資料はそのまま提供するわ」


『いやがらせですね』


「明日会議に来いっていうのもどうかと思うけどね……そうだ!! どうせなら社長室とかで話し合いたいものね」


『本当に資金が引っ張れなくなりますよ』


「だったらルベェリエ工機に流すだけよ、メッセージに返信してやる。 それにこっちは、恥ずかしいイメージ写真も提供しているんだから、このくらい許されるわよ」


サナエさんのいたずら心が爆発する。 返答は意外に早かった


「おお! 了解が得られたようね」

『まったく。 どうなっても知りませんよ』


「いいじゃない。 いいじゃない。 そうそう<八番区マーケット>でジャンク系のお惣菜買って来たの。 楽しみねー」


『そろそろ料理も覚えたらどうです? 』


「え~ 一人分でしょう余るだけよ。 ささ帰りましょう! 今日は何のプログラムを見ようかしら?  」


『よくもあんな大衆向けプログラムを見続けられますね』

「そう? 面白いと思うけど」


サナエさん達の一日が終わっていく。


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