決戦
夕暮れにはまだ早い。 昼から半時程回った頃合い。
データ強奪犯のグループが、目的地の「メトナ医療法人」へ向けて移動を開始したとの報が入った。
市街地の一角に設けられた仮設前線司令部で、クリエヴァが不敵に口角を上げる。
「昼間にドンパチか」
キリヒがつぶやく。
『昼間であれば、住民の避難も容易でしょう』
ブラウニーが冷静に追従した。
民間人に被害が出る前提のロジック。だが、それは正しい。リジェネレイターを相手にして、穏便な市街地戦などあり得ないのだ。 真昼間の開戦は、むしろ好条件といえる。
「私も同感だな。それに“ヤンサ暴動”は、夜半に複数個所で発生していたため被害が大きくなった経緯もある。 今回は運が良い」
クリエヴァ回答には、実体験が根底にあり、妙な説得力がある。
敵は、そこまでは考えていないと思うがね。
もちろん、彼女もそんなことはお見通しだろう。
≪ベータ3から ガンマへ。 目標確認。 装甲車2台。 ターゲット不明≫
「ターゲットが、乗車していない可能性は? 」
クリエヴァからキリヒに質問が飛ぶ。
「今までの状況から十分にあるだろうさ。 俺ならあれを囮にする」
「確かに……しかし、叩かないと分からないのも事実。 こちらも前線部隊で対応するまでだ」
≪ガンマから ベータ3へ 殲滅しろ≫
≪了解≫
直後に大きな爆発音が響き渡る。 ロケット砲で初撃を与えたのだろう。 爆発音の後に銃撃音も聞こえてくる。
「……周囲に被害を出さないといった方針はどうした? 」
「エリア一帯を更地にするような広域破壊がダメなだけだ。家の一、二軒吹き飛ぶくらいは誤差の範囲だろ」
(雑すぎるだろ……!)
キリヒは心の中で頭を抱えた。
少しの時間を置き、クリエヴァがセンサーの状況を確認する。
≪ベータ1。 センサーの状況は? ≫
≪検知なし。車内はもぬけの殻です≫
≪了解≫
「囮だったか? 」
「だろうな。 こちらの出方を見ている可能性の方が高い。 少なくともこちらは、囮に喰らいついた。 相手も行動に出てくるはずだ」
「我慢比べと言ったところか? 」
「おそらくな。 慎重な奴らだ。 万が一の高火力の奇襲を考えて装甲車の囮部隊だったのだろうが、その万が一が当たったわけだ。 多少、混乱も生じているだろう」
「万が一? 」
「昼間であっても市街地でロケット砲による奇襲だよ。 普通取らんぞこんな戦法」
間違いなく爆発音で公共の治安隊が出て来る案件。
「我々を侮ってもらってもこまるな。 いや侮ってもらっていたほうがよかったか」
クリエヴァが、悪い顔をキリヒに向けてくる。
(そうじゃないだろう……まー後始末は、彼女達の仕事であれば、今は触れないでおこう)
≪こちら。ベータ2。 不審なグループが、メトナ医療法人に向けて行動を確認。 データと座標を送ります≫
間髪入れずに無線が流れてくる。
≪ドローンの映像を転送。 護衛トークン2体と1体の人間、それと大きめの荷物を持ったトークンを確認≫
ようやく見つけたようだ。
≪荷物を持っているトークン以外の生死は問わん。 各員状況開始!≫
バイザーメットをつけて立ち上がる。
アサルトライフルを装備し、アームには劣化ウラン弾入りのカービン銃を装備させる。
「さてとアルファ隊。 お前達の出番だ」
クリエヴァがキリヒとブラウニーに視線を向ける。 彼らが奪還部隊に振り分けられている。
「それにしても、キリヒ。 お前のコンバットスーツ、アームが二本付いているとは、変っているな」
「試作モデルでね」
アルファ隊が仮設司令部から出て行く。
--- ヤンサの路地裏
細い裏路地を走っている一人と3体がいる。
“くっそー何なんだ奴ら! 白昼堂々、ロケット砲で装甲車を襲うのかよ! ”
“アーサの連中でしょう。この記憶媒体を余程取り返したいと見えますね”
“だいたい、今の時代にこんなデカい記憶媒体ってなんなんだよ! 持ち運び難くてしかたねー”
“それも、盗まれにくくする対策の一環なのでしょう”
“給金が良いからとおもったら、私設武装治安隊が出てくるわ、化け物は出てくるわ。戦争じゃねーか。何なんだ! ”
記憶媒体の所有のトークンは、彼の愚痴には回答せず、状況を逃れるすべのみ、人間側に伝える。
“目的地のメトナ医療法人の敷地内に入れば、我々に手出しはできません”
“それ本当だろうな! ”
“ええ。詳細は省きますが、間違いありません”
“クッソこっちは、コンバットスーツもなく、ハンドガンだけだぞ! ”
“前衛の防衛トークンの防御と武装に掛けましょう”
“目的地までの距離は! ”
“10,000フィール(1フィール=30cm:3.0km)です”
“なっげーな”
その直後、護衛トークンから警告が発せられる。
“妨害者。来ます! ”
「そこ! 動くな! 」
銃を構えたアーサブカブ社の治安隊の人間が行く手を塞ぐ。
(こんなところまで私設武装治安隊か!)
男が感じた直後に防衛トークンが、すぐさまスモークをはる。
“こちらです”
男達は、護衛トークンに促されるままに脇道に入り、メトナ医療法人へ向かっていく。
「向こう側だー。周りこめー」
遠方より声が聞こえる。無線ではなく、聞こえるような音声により連絡し合っている。
こちらへの威嚇も兼ねているのだろう。
“くっそ。 先回りの速度が速い! ここまでか! ”
“救援を要請しましょう――”
暫くして、大きな音が響く。
“なんだ”
“こちらの味方ですよ。巨人による足止めです。急ぎますよ! ”
“巨人って。あの“メナ”のカーゴに入っていた奴か! ”
“ええ。これでこちらも少しは有利になるというものです”
このトークン。他のトークンと違い流ちょうに話す。
エージェントから裏切り防止と護衛との名目で借りたものだが、中々使える。
キリヒ達からは、かなり離れている場所から、20フィール(1フィール=30cm:6m)の巨人が、建物の陰から現れる。2階建ての家屋が動いているようなものである。
クリエヴァから無線通信で情報が流れる。
≪パーティーの主役がお出ましだ! 巨人2体。リジェネレイターの可能性あり。装甲車は、放置しておけ! ≫
切り札を切ってきたか!
スラスタ―をふかした隊員が続々と集まってくる。 その様子がバイザーメットのマーカーで確認できる。
「なんて大きさだ」
司令部の一人がモニターを確認したが呟く。
巨人とは、30,000フィール(1フィール=30cm:9km)程度の距離がある。
丁度、メトナ医療法人を守る形で動いているようにも見える。
≪こちらガンマ(司令部)そちらに合流する。ベータ(前線部隊)班は、私に続け。
それとアルファ隊必ず奪還しろよ!≫
≪了解だ≫
キリヒからの返答がある。
≪さて、ヤローども。弔い合戦だ! 続け! ≫
クリエヴァの檄を中心に司令部の部隊が飛び去っていく。
*
アルファ隊は、2名になる。キリヒとブラウニーのコンビで動いている。
コンバットスーツのスラスターで、バイザーメットにマーカーの光点に向かって飛行している。 マーカーの位置も巨人の方角だ。
対象者もメトナ医療法人に近づいている。
≪さてさて。いよいよご対面だ。 一般人とトークンの組み合わせか。本体の撃破は楽そうだな≫
『気を抜かないくださいよ』
≪安心しろ。 行くぞ! ブラウニー(戦闘型トークン)≫
『承知! 』
両陣営がメトナ医療法人の近隣に集結することになる。
キリヒが現場に着く前に、ベータ隊が、巨人たちと交戦が始まったようである。
今度は特注の外部装甲があり、防衛用の巨人のようにも見える。
30 vs 2 なら大いに有利そうではあるが、巨人側も相応の武装があるようだ。
こちらにもロケット弾の流れ弾が飛んでくる。
進行方向で爆発が起きる。
≪派手にやっていますね≫
巨人は四つん這いになり、住宅街をロケット砲を躱すように疾走する。
その動き軽快さと移動によって、周囲の平屋建て程度の家屋は、容易に破壊されて行く。
所々にある5階建て程度の建物は、巨人のアーマーの接触でダメージを追っている。
≪怪獣映画かよ≫
≪映画なら娯楽で済むのですが≫
キリヒ達の目的は、巨人の討伐ではなく、データの奪取であるため、横目で暴れている様子を見ながらバイザーメットの対象に近づいていく。
≪対象者! 目視できました! ≫
4名のグループが走っているのが見える。
メトナ医療法人の敷地まで1000フィール(1フィール=30cm:300m)ぐらいだろう.
≪交戦! ≫
『承知! 』
アサルトライフルが発光しながら、対象者との距離を詰める。
こちらからの初撃で2体のトークンを破壊する。
箱持ちトークンには、銃口は向けられない。
銃声と倒れたトークンに人間は、一瞬たじろぎ、移動速度が遅くなる。
その瞬間を見逃す訳もなく、間一髪で対象者とメトナ医療法人の敷地の間に着陸する。
「よう! 盗人! ようやく追いついたぜ」
「くっ」
相手の男は、悔しそうな顔をしている。
右手にはハンドガンを所持しているが、向こうが構える前にこちらが、アサルトライフルを向ける。
「トークンが持っている記憶媒体を返してもらおうか? 」
銃を構えながら対象者に近づく。
「俺はあんたに興味はない。大人しく記憶媒体を返せばどこへなりとも行けばいい。ただし、反抗するのであれば状況は変わるぞ。言っている意味は分かるな? 」
記憶媒体を渡せば、無罪放免にすると言っている。
相手の男にすれば、この窮地であればまたとない提案になる。
一方で、ブラウニー(戦闘型トークン)と箱持ちトークンは、にらみ合ったままだ。
「さぁ命令しろ。この場に箱を降ろせと」
急に襲って箱を破壊されては溜まったのものではないからな。
「ちっ。おいその箱を――」
男が命令を使用としたとき、キリヒのコンバットスーツがロックされる。
「っ――なんだ! 」
キリヒが、急なロックにより動揺する。
『さぁ行ってください。そちらの男性もどうぞ。ハンドガンをこちらに向けなければ、そのまま入れますよ』
ブラウニーから思わぬ指示が飛ぶ。
「何のつもりだ! 」
キリヒはブラウニーに怒鳴る。
しかし、トークンの返答はあっさりしたものだった。
『現状の通りです。さぁ行ってください』
男と箱持ちトークンは、そのままメトナ医療法人の敷地内に入って行ってしまった。
ロックが解け、キリヒがブラウニーに詰め寄る。
「何を考えている! ここまで来るのに多くの血が流れているんだぞ! 」
『ええ。知っていますよ』
何事もないように回答するブラウニー。
ここでこいつに自爆命令を出して処分しようかとも考える。
「……」
(落ち着け……こいつの独自の判断ではないはず。 ブラウニーに何かしらの横やりが入った? 誰が……)
考え込んでいると、近くでミサイルが爆発する。
巨人がガンシップのミサイルを叩き落して、こちらに流れ弾が来たようだ。
『常に、私はあなたの味方である。その事実は変わりません』
トークンは嘘が付けない。 故にあの行為も何らかの意図があるのだろうか?
ここは戦場の真ん中だ。 バイザーメットで確認すると味方の人数も半数になっている。 巨人は一体も倒せていない。ブラウニーに詰問している時間もない。
考えることを止め戦闘態勢に移るキリヒ。
「いいだろう。 納得いく説明はあるんだろうな! 」
『ええ。 間違いなく朗報になると思いますよ』
(朗報?)
「着いてこい。 巨人を撃破を支援だ」
『承知』
二人のスラスターが発光し戦場へと向かっていく。




