リジェネレイター討伐戦
--- メナ倉庫街
街並みが夕焼けに染まり、夕食の支度、帰宅する人々、商店街の賑わいが、街を覆っている。いつも通りの日常である。
そのすぐ目と鼻の先で、死闘の準備が進んでいることなど誰も知らない。
精鋭部隊の面々は所定の位置に付き、未だ現れない運び屋を確保する為万全の状態で待機している。
それから二時後。街にすっかり宵闇が下りた頃、目標はついに動く。
≪こちらアルファ、ベータ各位。目標確認。 カーゴ車両1台≫
≪了解≫
倉庫街の一角にカーゴ車両1台が入っていく。
倉庫街を見下ろす高台で、クリエヴァが吐き捨てるように言った。
「まったく……お前の要求した特注弾、手配にどれだけ苦労すると思っているんだ?」
「それを承知で頼んでいる。 例の情報から有効だと思ってね」
「それにしてもリジェネレイターか――。 嫌な言葉だ。戦闘の前提が崩れ去る」
「ああ。禁忌技術を詰め込んだ歩く悪夢だ。何が起きてもおかしくない」
「副支長に無理を言わせて急がせている。交戦までに間に合えばいいが……」
「早めに頼む」
状況が動き始める。
≪こちらアルファより、ベータ各員。 目標確認。 おなじく。 カーゴ車両1台≫
「だ。そうだ。取引相手が来たな」
「向こうさんなりの合図なのか? それにしてもカーゴね」
「正確にはセミラミーデの合図だろう。 恐らく運び屋は、実験や餌にされていることは知らされていないさ」
同じく倉庫の中に、カーゴ車両1台が入っていく。
「餌は餌なりにか」
クリエヴァはそう漏らすと、広域通信回線に割り込んだ。
≪こちらデルタ。 各員。戦闘態勢を維持し、目標の建物へ微速前進。武器の使用は許可する。 生け捕りは考慮するな。 記憶媒体の確保と化け物掃討のみ優先しろ≫
バイザーメットには各部隊の配置が見える。
バイザーのヘッドアップディスプレイには、部隊のアイコンが整然と並んでいる。 大型カーゴの地点に赤く点滅する円、それを取り囲むように動く味方の青い三角。
リジェネレイターの事前情報を叩き込まれているため、隊員たちの足取りには独特の慎重さが漂っていた。
デルタ隊の本体は、まだ待機状態である。
「いつもなら真っ先に突っ込むお前が、随分と後方に控えてるじゃないか 」
キリヒがクリエヴァに視線をやる。
「お前が自重しろって言ったんだろ? 」
「覚えてくれていたんだな」
「まぁな。 いつもの敵と違うことぐらいわかる。初めての敵には慎重なぐらいが丁度いい」
≪ベータ1 目標倉庫 前ポイント地点到着。セントリーガン 設置完了。データを転送する。射線に入るなよ!≫
≪ベータ2 目標倉庫 裏ポイント地点 到着≫
≪ベータ3 目標倉庫 側面ポイント地点 到着≫
裏と側面からつつき出し、正面のセントリーガンを含めた最大火力で対応する気だろう。
≪デルタよりベータ2、3へ、榴弾を叩きこんでやれ! ≫
≪了解≫
後方と側面からロケット砲と手榴弾が投げ込まれ、凄まじい爆発が起きる。
≪デルタよりガンマへ、派手にかましてやれ! ≫
遠方よりガンシップの小型ミサイルが発射され倉庫正面から着弾する。 榴弾とは桁違いの質量と破壊力が倉庫の正面に叩きつけられ、衝撃波が街区を揺らした。
轟音とともに重厚な鉄扉が歪み、吹き飛ぶ。
「記憶媒体破壊したら、俺の報酬が60%削減されるんだけどな――」
「これくらいで殲滅できたのなら安いものだ。 それに……相手はあのセミラミーデだ。この程度の火力、織り込み済みに決まってる
暫く煤煙で倉庫の中が確認できない。暗視ゴーグルもサーモも周囲の熱や光で機能しないため、暫くノーマルでの監視になる。
安易に発砲して、マズルフラッシュにより位置を特定された場合、周囲の仲間を危険に晒しかねない。 発砲には細心の注意を払う。
その隙のない身ごなしを見て、キリヒが感嘆する。
「流石、特殊部隊だな」
「当たり前だ、私の部隊だぞ」
その時——ノイズ混じりの絶叫が通信を割った。
≪こちらアルファ、ベータ各員へ倉庫屋根側からの敵の出現を確認! 頭上注意! ≫
≪こちらデルタ! 全員上を向くな!! 副隊長確認しろ! 隊員は正面周囲を確認! 隊長は、隊をコントロールしろ!! ≫
クリエヴァの檄が飛ぶ。
倉庫の上部から現れたのは、約8フィール(1フィール=30cm:2.4m)を有に超える大柄の人間兵器が、各隊に対して3体、計9体現れることになる。
各員のバイザーメット上にマーカーが設定される。
コンバットスーツ内蔵の遠隔カメラで確認できるのは、大型の人間兵器が大量の武装を抱えている姿であり、背中には超大型のマガジンドラム、両手には多砲身のミニガンや重火器を軽々と保持している。
コンバットスーツを着ているが体のサイズに合っておらず、頭部もバイザーメットで覆われており、素顔を見ることはできない。
しかし、顎の部分は人間離れした、どちらと言えば狼のような犬歯が覗いている。
「——なんだありゃ……!」
副隊長がその外観に警戒心を持ち、隊長が部隊を後退させる。 理性を超えた生物的威圧感。 一目で「関わってはいけない存在」だと本能が告げていた。
次の瞬間、異形たちの喉から地響きのような威嚇音が轟く。
同時に、夜の闇を切り裂くような発砲音が炸裂する。
各隊から断片的な交戦状況が無線として報告されてくる。 コンバットスーツの隙間の地肌に弾丸が、受けているはずが気にせず応戦してくるとのこと。
≪なんなんだコイツらは! 弾が効かない!!≫
悲鳴のような交戦報告が乱れ飛ぶ。 各隊のコンバットスーツ内蔵のカメラより、映像が送られてくるが敵の異様さを物語っている。
大きな火煙が上がる。 隊員が射出したロケット弾が直撃したのだ。
爆炎が晴れる。 カメラに映る敵は、コンバットスーツも吹き飛んでおり、身体の左わきバラが大きく抉られ左腕も吹き飛んでいた。
「やったか!?」
追撃のトドメを刺そうとした瞬間、別の2体が突如として傷ついた個体の前に割り込み、巨体を肉の盾にして射線を遮った。
驚くべきことに、彼らには高度な連携戦術が叩き込まれている。
そして、庇われた個体の傷口で「それ」は起きた。
抉れた脇腹から、気味の悪い気泡とともに骨が猛スピードで伸びる。 骨の周囲に、真っ赤な筋肉の繊維、腱、血管がまるで粘菌のように泡立ちながら絡みつき、皮ふが瞬く間に傷口を覆っていく。
ほんの数秒。吹き飛んだはずの左腕が、何事もなかったかのように再生を終えていた。
「本物のリジェネレイター……」
クリエヴァが絶句する。
時代が違えば神の御業と言える。しかし、事実を知れば悪魔の所業以外の何物でもない。
≪各員。狼狽えるな、相手は想定通りのリジェネレイターだ。 しかし、不死身ではない。 撃破しがたいだけだ! 鉛玉でもてなしてやれ! ≫
彼女からすぐさま無線により情報が展開される。
しかし、奮起の激励も虚しく、相手からの反撃により、部隊が防戦に回ることになる。 相手の攻撃は、ミニガンで超高密度の弾幕を張りながらの突進。
突進に関しては、速度が車両並みの速度になる。
“突っ込んで来るぞ! 陣形を保て! 分断されるな! ”
しかし、敵の突進を回避するため、部隊の中央は容易に割られた。 部隊が別れ、少人数化されていく。
加えて弾幕を巻きながらの攻撃のため、メナの部隊のコンバットスーツにもダメージが入っていく。
回避が遅れた一人の隊員に、異形の突進がダイレクトに激突。 激突の瞬間、スーツの緊急回避プログラムが作動し、衝撃を逃がすためにバックスラスターが全開になる。
だが、それを上回る速度と怪力の一撃は、スーツの限界耐久値を一瞬で破砕した。
隊員の体に嫌な音が響き、隊員の体が空高く跳ね上げられ、意識はその瞬間なくなる。
衝撃で即座に意識を失った隊員を乗せ、スーツの自動救護スラスターが起動。 空中を旋回して戦線を離脱し、後方のデルタ医療班へと自動搬送されていく。
“一撃でスーツのフレームが持っていかれたぞ!?”
“化け物め!”
夜空を飛び交う、負傷者を載せた緊急退避スラスターの光が、発生するようになる。
戦況は、ベータ1よりセントリーガンによる集中弾幕斉射により2体の撃破の報告が入ってくる。
ベータ(前線部隊)2 ベータ(前線部隊)3 は隊員の2割が医療班送りになっている。しかし、戦果は1体の撃破。
各部隊の交戦比率13人VS 3体 の戦闘。
13人の精鋭がかりで掛かっても、たった3体の異形を抑え込むのが限界。いや、一方的に削られているのはこちら側だった。
「クッソ! デルタ隊出るぞ! ベータ1の相手を殲滅し残り2部隊の支援に回る」
クリエヴァが、突撃体制に移行する。
「おい! それよりも例の弾丸はどうなっている! 」
キリヒが叫ぶ。
「あと少しで届く! だが、プレスカスタムで組み上げたせいで5発が精々とのことだ!」
「上出来だ。俺はその弾丸を待つ」
「了解だ。 私は部下を支援しに行く。 必ず来いよ」
「当然だ。なんせ給金が掛かっているからな」
クリエヴァの背部スラスターが青白い炎を吹き出し、6名のデルタ部隊が戦場に向かっていく。
医療班は、戦場からの負傷兵士の対応に忙しい。すでに10名近くが治療を受けている。
彼女と一緒に戦場に立つのは簡単なことだ、しかしあの敵は、通常弾では難しい。 そろそろ弾切れの隊員も出てくるだろう。とにかく、あの特殊弾丸がないと――
バイザーメット上に投影される情報から、クリエヴァのマーカーと敵が交戦に入ったようだ。 一体に対しての集中砲火。
指揮官が加わったことで士気も上がっているのがマーカーからでも分かる。
(熱くなりすぎるなよ)
一方でベータ2 ベータ3側の部隊が、崩壊の危機にある。
13名のいた部隊委員が半数になっている。
しかも徐々に追い詰められている。スラスターの燃料残量も少ないとの情報になっている。
あの怪物相手に生身に近い格闘戦を挑めば、待っているのは殺戮だけだ。
まさにそのタイミングで一台の車両がこちらに向かって来た。 車両からは副支長さんが下りて近づいて来る。 その手には、重厚な金属ケースが握られていた。
「お待たせしました! ご要望の『特注弾』です! 中身は重金属汚染のリスクがある高密度・劣化ウラン徹甲弾……! 運用には十分ご注意を!」
「感謝するよ、副支長!」
キリヒはコンバットスーツのマニピュレーターを作動させ、ケースから大きさに似合わない重量と質感を放つ弾丸をマガジンに入れていく。 そしてマガジンをカービンにセットする。
「……副支長、ベータ2、ベータ3の残弾と燃料が限界です。 クリエヴァに通信を入れて、補給の手配を! 俺はベータ3の救援に向かいます!」
「ご武運を」
目的地の距離は直線で約4000フィール(1フィール=30cm:1200m)。スラスタをふかし飛行し移動する。
キリヒは背部スラスターの出力を限界まで引き絞った。
不快な金属音とともにスラスターが爆発的な推進力を生み出し、彼の体を漆黒の夜空へと打ち上げる。
「待たせたな、化け物ども……お掃除の時間だ」




