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幕間:仕掛ける黒幕

--- とある場所のとある一室


広い部屋の中で高級なソファーにもたれ掛かり、モニターを見ているサクラブロンドの髪が特徴の女性が一人。 


部屋着のまま足を組み、グラスを傾ける姿は、まるで退屈な映画でも鑑賞しているかのようだ。


映像に映し出されているのは、チーヌー廃工場での戦闘記録。

「へー。考えたものね。 毒ガス攻撃かー。心臓を2個用意した人造仕様に対して、神経伝達信号そのもの攻撃とはねー」


部隊への統率もされており、弾幕を突っ切てくる相手にも、動揺せず対応しているところを見ると相当の精鋭だろう。


最終的には見事な連携でこちらを追い込み、神経兵器の一撃で沈黙させている。 


「隊長さんは相当の手練れね。それに……」

発言の主は、薄い唇を持ち上げた。


「こちらの記憶漂白部隊が出てくることまで最初から読んでいたような装備の選択。 ふーん……この作戦、こちらに私がいるって勘づいているアーサ・ブカブ社の人間が関与してるのかしら?」


映像を見ながらポツリと漏らした言葉に、甘い毒が混じる。 


部屋の主は、セミラミーデである。 アフロディアの出張先から戻って来たところであり、現在進行中の実験の結果を見ているところである。


「ただ単に突っ込んでくる馬鹿は、いないということねーふふふ、面白い」


(誰だろう? すごく興味がわく。 裏の参謀は、サナエかな? だとすれば嬉しい限りだけど、しかし奴は、この程度は動いてこないわよねー)


これまでに接点を持った人間の顔をいくつか思い浮かべるが、どれも決め手に欠ける。


ともあれ、自分の存在を嗅ぎつけ、先のヤンサ暴動から繋げて今回の装備を整えてきたのは確かだ。


アーサ・ブカブ社側は、最初から襲撃を予見し、これが実験であることまで見抜いている節がある。



「足掻いて見せるってわけね。いいわぁ……仕組まれた地獄だと知っていながら抜け出せない状況って、見ている分にはゾクゾクしちゃう」


吐息まじりの笑みがこぼれる。ここまで自分を楽しませてくれる玩具は、久々だった。


事の始まりは、イシュタル帝国軍部からの打診であった。“恐怖や痛みを恐れない部隊”が作れないか――単純に考えれば、トークン部隊になるが、如何せん価格が高い。


そこで、いなくなってもどうでもいい人間を利用し戦況を有利に進めることを考えていたらしく、使い捨ての兵士を製造しようと考えに至ったようである。


ヤンサ暴動で娯楽気味に作った仕組みを帝国軍部に売り込んだところ、上層部のニーズとマッチングがとれ、そのまま莫大な研究費を投資されることになった。


そして今回の戦闘で、試作型の試作型としての成果は十分に確認できた。実験としては大成功と言っていい。


もっとも、こんなものは彼女の本業(メインテーマ)の副産物に過ぎないのだが。


「おもちゃの兵隊か。こんなもので喜んでいる軍上層部もイカレているわね」


録画映像が終わり、欠伸をしながらタブレットを覗き込む。 内容は彼女の研究内容一覧とフローリストになっている。


「まっ。ともあれ、突撃、自爆攻撃への恐怖は、これで完全に克服できたようね。 上出来な成果ねー」

上機嫌でタブレットで何かを書き込む。


「次はー。強制進化型の投入と行きますかー」

タブレットで別のフォルダを閲覧しに行く。


「まーだ不安定さが拭えないけど、あっちの精鋭部隊が相手なら絶好のデータが取れそうだしね。 十分な対戦相手になってくれるでしょう」


これでまた、軍上層部への報告書が作成できる。論文が書ける。


とはいえ、主要のパトロンにこんなものを見せたところで、メインテーマはどうなっていると言われるだけだろうが。


「あーあ。 2か所から研究資金何て貰わなければ良かったー。面倒くさーい。 足るを知るかーその言葉を知るのが、ちょっと遅かったわよねー」


天井を見上げ、愚痴を垂れる。

とはいえ、実際には、彼女は両者の要求を完璧すぎる精度で満たし続けている。


リビングのドアがノックされる。


「どうぞー」

入ってきたのは、黒いスーツを隙なく着こなした彼女の部下だった。


「ボス。サハリ候からご連絡がありました」


もう一人の出資者でセミラミーデの主要パトロン。 帝国宰相“ウルツ 候 サハリ”になる。


「えー。あの人、ちょっと暗いんだよねー。 あまり乗り気がしないわー」

ソファーに座り、顔だけ部下を見ながら返事をする。


「……」


「返事なしー?」

「私の身分でその質問への回答は、差し控えさせてください」


「ちぇえー。つまんないのー」


彼もまた、ウェヌス(金星)のティエンフー出身。 肩書への呪縛に縛られているタイプである。 それもこの国で生きてきたら仕方のない事。


宰相からの呼び出し。 恐らくはメインテーマの進捗度合いを聞きたいのだろう。

肉体と自我の融合は上手くいっているんだけど、後は中身の純度になる。


出来れば、アーサ・ブカブ社の今運ばれている、ボックスの中身を見たいところ。 再びタブレットを開く。


予定表を見れば、ここからティエンフーに行って戻って来るに、到着する程度の日程である。


「まぁ次回にまわしてもいいか……」

独り言を洩らしながら、一考する。


「いいわ! 研究成果と報告書もできているし」

彼女はソファからゆっくり体を起こし、部下の方へ歩き出す。


「呼び出し? それとも遠隔会議? 」

「呼び出しになります。 と言ってもいつもの如く帝国宮でのレポート説明と――」


「あー。あっちの状況確認ね。 確かに。 研究室への入場は、私の権限なく皇帝ですらできないものね」


「はい。そちらが本命でしょう」

「はいはい。 いいですよ。 成果もまとめてあるから問題ないでしょう」


再びタブレットに目を落し、内容を確認する。


顔を上げるとビジネスモードになる。


「支度を整えた後、アショーカ宮に向かいます。航空機の準備をしなさい。 それとサハリ候のアポイントを急ぎなさい」


「承知しました」


深々と頭を下げて退出していく部下の背中を見送るとセミラミーデはクローゼットの方に歩き出す。


(気持ちは分かるけどね。眠り姫が目を覚ますことを心待ちにしているのね――気持ち悪い)



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