アーサ・ブカブ社 西方方面治安部
アーサ・ブカブ社 西方方面治安部。 その名の通り、アーサブカブ社のイシュタル帝国の西方方面の治安部隊を預かる一大組織である。
その組織力、装備、攻撃力は状況によっては、イシュタル帝国の正規軍をも上回るとされている規模を誇る。
故にここの治安部門は、一つの部門で敷地と建物、訓練施設と様々な施設を所有している。
周囲は高い壁に囲まれており、さながら刑務所のようにも見える。 入口の守衛にローラさんのIDをチェックしてもらうと問題なく敷地内に入れることになる。
「やはり、本社人事の課長級の信頼は、大きいな」
「もうーいや! 」
さきほどの荒事で完全に凹んでいるローラさん。
『年俸が6割減になってしまいますが? 』
「なんでそんなこと言うの? 私。何か悪い事した? 一生懸命働いて結果も出したじゃない! 」
「この案件の結果を出せということだろう? 過去の結果は、過去の結果だろ? 」
キリヒが、辛辣な現実を突きつけてくる。 反論できない事実、ローラは、ため息で応じることしかできない。
カーゴのままゲートを通過して敷地内に入っていく。 それなりに広い敷地であるため、車両移動になる。
治安部の中はそれなりに広く、複数の建物があり装甲車のような移動車両もある。 敷地内を歩いている人間は誰もが大きく、サイボーグ化した者も多い。
武器こそ装備していないが、その見た目から一般人では勝ち目がないのは明らかだ。
「厳ついのが多いのね」
「荒事専門だからな」
「あんたは、そんな感じしないんだけど。サイボーグ化していないの? 」
「あれはメンテナンス費用もそれなりに掛かるからな。 特に戦闘用のは、一回の戦闘ごとにチェックが必要だから面倒なんだ」
「でも、それでも有り余るメリットがあるんでしょ? 」
ローラが質問してくる。
「たしかに、力や瞬発力は驚異的に上がる。 しかしメンテナンス不良が起きた場合、さらにそれが、戦闘中だった場合は目も当てられない。 それを目の前で見ちまうと、なかなか踏ん切りがつかないのも事実だな」
「へー。性能を維持するための小まめなメンテナスねー。 雑多の性格が多い 31部隊には、厳しそうね」
上空にはドローンも複数飛んでいる。兵器の実験でもしているのだろうか?
アサルトライフル装備を付けた四足歩行の動物を模造したトークンが、射撃訓練場で走り周り正確に的を射抜いている。
「随分と施設が、豊富ね」
「西部地区の最前線だから。 アーサ・ブカブ社の治安部の7割がここに配備されているらしい。 武器の実験場としても最適だとさ」
ひときわ大きな建物前にカーゴが止まる。 一見すると低層階型のオフィスビルの様でもある。
「ここが司令部があるオフィス棟だ。 戦闘にも事務方は必要だからな。装備・戦術や作戦・情報管理それらを行う場所だ。 治安部の部長がこちら側の総責任者になる。 いくぞ」
キリヒは、カーゴを降り、受付に向かう。 彼の後を追ってローラとブラウニーが、建物の中に入る。 中はぱっと見では、普通のオフィスになる。
受け付けでキリヒが、窓口の人間と何かを話している。 彼女達は、少し離れた場所で待機している感じである。
『ここはキリヒ氏の方が詳しいので、彼に従いった方がよろしいでしょう』
「そうね。――それにしても、もう少しこの辺りの治安は、何とかならないの? 命がいくつあっても足りないわよ。こんな状況」
『コンバットスーツを装備しますか? ここであれば調達できますよ。人事部課長級は、特権がそれなりにありますから』
「……借りていくわ。 ロケット弾に狙われたのは、人生初だもの」
キリヒ手招きをしている。どうやら、受け付けが終わったようだ。
係の人間の後に付いていくらしい。
--- 会議室
それなりのソファーとローテーブルのいつもの応接セットになる。
出されるのは、香りがないお茶だけで、リフレッシュメントはない。
まぁ治安部は、こんなもんだろう。
暫くすると偉そうであるが、話しかけやすそうな人間が入って来る。
彼が西方方面治安部の部長になる。 簡単に言えば西側治安部隊のトップになる。
「おお! キリヒ。ようやく戻ってくる気になったか? 」
「勘弁してくれよ。内容は聞いているだろ? 」
「ヴェスパー社の奴らだろ? 」
「情報は? 」
「それなりに集めてある。それに“ラクシュミ地区統括責任者”からの強い要請もあった。支援するさ」
「それは助かる。でそれを含めて最近のこっちの情勢はどんな感じだ? 」
「いつも通りだな。自由と無法を履き違えしているやつらが混在しているのは、今も昔も変わらんさ。
ヴェスパーお抱えのマフィアもいつも通り、汚れ仕事に精を出している感じだ。
特に郊外に行けば、より自由度が増すのも今に始まったことじゃない」
「そうか」
無法地帯地に近い状況は、変わらずか。
「ああー変わったことと言えば、“メトナ運輸”って知っているか? 」
「いや」
「帝国お抱えの惑星間貿易商らしくてな。 そいつらが入ってきたことが、変わった内容だな」
「俺達の縄張りを荒しているのか? 」
「いや。 商人だから抗争とかはないが、すごい美人の幹部がいてな、こっちに武器を売りに来たよ」
「へー」
「ありゃマールス人だな。 そうそう。ただ、話がここで終わりにならいんだ。奴らがきてから、一時住民が消える事態が発生したんだ」
「ここじゃぁ日常茶飯事だろう? 」
「まぁな。 実際、それほど多くないため、政府治安隊も碌に捜査はしていなんだかがね。ただ、そこで流れた噂が、奴らの仕業じゃないかって噂があったんだ」
「住民の神隠しねー」
キリヒが受け答えしている中、ローラさんの表情が優れないでいる。
「……」
「でも、最近は、その神隠しも収まったようだがな」
「……あのーいいでしょうか? 」
ローラさんが、治安部の部長に質問する。
「ああ、本社人事部さんだね。こんなアウトローの世界にようこそ」
「ハハハ。 えーとそのすごい美人の人ってどんな感じでした」
「あー。サクラブロンドで、先ほどのマールス人の下りも耳に特徴があったのが根拠だ。もちろん、何処出身ですかはきかなかったがね」
ローラさんの眉間に皺が寄る。
「……名前とかは? 」
「あー。なんだっけ? セサミラード……」
「セミラミーデ・アクとか? 」
ローラさんが、恐る恐る確認する。
「ああ。それだ! まぁ随分前の話だし、今回の件とは関係ないがね。まぁこの周辺にも、惑星間貿易商のような大物が入ってきて、武器の供給が円滑になった程度の話さ。
おっと話しが大分それちまったな。 例の物が問題なんだろう? 」
話が脇道に反れたと思い込んだ、部長は本題に話題を戻し協議に入る。
「ああ。実は――」
キリヒが現状の説明をし、ブラウニーが、資料を投影している。
ローラさんの顔色はすぐれない。 彼女は、サナエさんの前のマールス人で、うちの会社を社内規定違反でクビになった人物である。
そして、サナエさんのように一時ローラが、彼女の世話をしていた経緯がある。
顔は良いが、頭のネジが飛んでいて、生命倫理を欠如が著しい。
あいつがまだ、ウェヌスにいる。
それも惑星間貿易商という、とんでもない地位に付いている。 意外な場所で、意外の人物の名を聞くことになった彼女にとっては、悪夢である。
キリヒの説明が終わりに近づく
「――ということだ。そこで盗人からマフィアに記録デバイスが渡る瞬間に奪還して両組織を破壊したい」
「なるほどね。噂に聞いたがことがあるが、あのナンバー案件のデータか。 どうりで本社から31部隊が派遣される訳だ」
治安部の部長が納得している。
「追加の成功報酬に関しては、人事部から別途送られているはずだ」
「ああ。来ているよ。ただな、この報酬。 多すぎるんだ」
「報酬は人事部の案件だから、俺は知らないがそうなのか?」
「ああ。お前さんの説明を疑っちゃいない。しかし、会社側の説明は怪しい」
「あーそっちかー」
「そうだ。これ裏があるんじゃないか。そっちの人事さん何か知らねーか」
急に治安部の部長から話しが振られるローラさん。
「え? 何も――」
つい考え事をして話をよく聞いておらず、少し慌てる。
部長は彼女を見ているが、少したって自身の考えを改める。
「まぁ知っている人間を寄越すことも無いか」
「あのー裏って何ですか? 」
ローラが聞き返す。
「簡単に言えば、会社にとって都合の悪いことを隠していることだ。荒事においては安全確保のため、案件情報の共有は不可欠。
情報を隠したことによる情報不足から案件の危険度が、上がることが多い。 任務に就く以上、情報は絶対だが、同時に複数の人に特定の情報が知れ渡ることになる。
それを阻止するために情報伏せる。裏返すって意味で“裏”だ。そして、そんな時は、報酬が高くなる傾向があるんだ」
「彼女は課長級になったばかりの見習いだ。 恐らくそこまでの闇は見てないはずだ」
ここでキリヒのフォローが入る。
「分かった……部隊の指揮は、キリヒお前に任せる。 知れた奴らで構成してやる。 それと気を付けろ。情報の欠落は、まずい案件なことが多い」
「ああ。分かっている。 取り敢えず、準備を頼む。 ゲストルームと眠れる場所は? 」
「とってあるさ。イチャイチャは、外部のホテルでしてくれよ 」
部長さんがニヤニヤしながら、セクハラをしてくる。
「ここでそんなことしねーよ。 助かる」
「気にするな。 お互い様だ」
会議室から出ると両名は、ゲストルームに向かう。
「あの? 」
「なんだ」
「直感としてメトナ運輸の部隊が関わってくる気がします」
「惑星間貿易商ねー。 となれば武力組織程度はあるか――理由は? 」
「……」
「了解だ。 ブラウニーメトナの情報を集めてくれ」
『了解しました』
「理由。 聞かないんですか? 」
「俺は、あんたを信じている。 それに、あんたは器用なタイプじゃない。 それだけ十分だ」
各人は、準備されたゲストルームに入っていく。
--- キリヒのゲストルーム
『よろしいのですか? ローラに理由を聞かなくても』
室内に入った早々ブラウニーからの質問がある。
「問題ない。 まず、ローラは隠し事が苦手だ。 故に彼女の発言に裏はない。 そして、詰問しても根拠が薄いためおそらく何も答えられないだろう。つまり、先ほどの発言は勘だ」
『……勘ですか』
「ああ。 ここでローラを詰問するのは容易だ。 しかし、次回から思い付きの提案が、出てこないのはまずい」
『人事部からの情報。 たしかに、会社内部の情報に接している人間の思い付きは、他の情報より価値がある。そういうことですね』
「ああ。 ローラからの情報の遮断は、多様性を低下させる行為だ。 それは控えたい。 故に黙って調査するのが吉と言うことだ」
『なるほど。キリヒは、どう思います? 』
「惑星間貿易商が、こんなところで何をしているかは気になるところだな。 それに老舗の惑星間貿易商じゃないだろう? 」
『ええ。 出来て5年程度ですね』
「なら余計に調査だな。 頼めるかい? あとは、セミラミーデとかいう奴も。 彼女が気になっている要点のはずだ」
『承知』
ローラの直感を信じ、事件の裏を探っていく。




