追跡
~ 追跡 ~
ローラさん達は、飛行機に搭乗している。 時刻は夜のため、外の景色は暗闇である。
見るものが無いためか、飛行機のエンジン振動と音が、必要以上にリアルに聞き取れている。
飛行機マニアであれば絶賛だろうが、彼女にとってはそうではないようだ。
「……」
「……」
『……』
3名全員が、沈黙の中にいる。
(空気が冷たいですねー。さて皆さん。ここはどこでしょう? )
ローラさんの心の声が聞こえてくる。
本来であれば、シートに座り、飛行場に到着までのひと時を作戦前の緊張をほぐす時間と考えてた。
(作戦では、確かチーヌーへの先回りとして飛行機で移動ということでした。 そう、私も当初、飛行機での優雅までいかずともそこそこの空の旅を期待していました)
「3……2……1……GO! 」
カーゴ車が投下される。
軍人さん見たいな方が、レバーを引くとカーゴ車両が、暗い空に吸い込まれていく。 上空40,000フィール(1フィール=30cm:12,000m) からのダイブ
「次! 3……2……1……GO! 」
キリヒが、慣れた感じで空に消えていく。
先ほどの解答。 輸送機のような飛行機に乗せられ、彼女は、その機体の貨物室にいる。
そして、状況として夜中のスカイダイビングの最後の順番を待っている。流石に素人のローラさんには、夜間ダイブはきついので、サポートとしてブラウニーが付いている。
「あんた。これやったことあるの? 」
ローラさんが、恐る恐るブラウニーに聞いてみる。
(確かこのトークンこちらに来て、まだ日が浅い。スカイダイビングの経験何て無いはず? )
『大丈夫です。映像とデータで学びました』
あっけらかんとした回答が返ってきた。
この時点で引き返したい気持ちが、120%から300%まで上昇する。
(座学でスカイダイビング! なんなの! おかしいんでしょう? これに命を預けるの? )
「最後! 3……2……1……GO! 」
“うみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ”
悲鳴と共にブラウニーとローラが、漆黒の空に舞う。
何故にこうなった。おかしい。絶対おかしい。 同僚は今頃、ディナータイムか! デートか!
こっちは、チーヌーの上空から社内機密情報奪還のため闇夜のダイビングっておかしいだろうー。
あっ大地だ……夜の明かり綺麗……光の一つ一つに人がいるのねー。ロマンチック……んなわけねーだろう!
寒い寒い寒い! 暗い暗い暗い!
ローラさんの様々な感情が渋滞を起こす。
急に上に引き上げられる力が働く。パラシュートが開いたのだろう。
「あわわわわわ」
暗い中であるが、トークンには、分光レンズを通して赤外線マーカー点滅が見えている。 そのマーカーを目標にして落下傘を操作し、着地地点に向かっている。
徐々に地表らしきものが見える。 着地すると一気に力が抜け、腰も抜ける。
『着地です。 ほぼ定刻通り。 さすがですね』
「……」
地面に四つん這いになっているローラさんは、黙ったままだ。
「大丈夫か? 」
キリヒがローラに尋ねて来る。
「だ……大丈夫な様に……見える? 」
皮肉のように返事をするローラ。
「多少は衰弱しているように見えるが、概ね問題ないように見える。出血もないしな」
(問題の有無が、出血の有無なのはおかしいだろう! )
ようやくフラフラになって立ち上がる。
「チーヌーにも31部隊がいる。 先ずはそいつらと合流だ」
「ああ。 チーヌーの治安隊ね」
「支社もあるし、社長からの指示もある。問題ない。それに人事部もいる。あんたの権限は強いからな」
カーゴ車両に乗り、走り出す。僅か1時でチーヌー(副帝都)まで来ている、さすが航空機。
夜中の道路を走っていく。
荒野の道路であるため街灯などない。車両の明かりだけが頼りである。と言ってもトークンが運転しているため、意外に順調に走行している。
「あんた。 チーヌーに来たことは? 」
ローラの精神的疲労も治まり、キリヒと雑談できる程度には回復したようだ。
「任務で何度かな。ティエンフーよりも規模こそ違え、同じもんだ。 人口自体はティエンフー以上だがね。 そうゆうお前は? 」
例の“ラクシュミ捕囚”時の移転の地としてチーヌー平原が選ばれており、少数民族のサラダボウル化している。人口規模だけなら帝国最大の地域になる。
チーヌー平原は、場所も広く移住者は農業を中心にコミュニティを作り、各々の文化に即した生活している。
帝国も文化面までの介入はしておらず、宗教・言語・文化はそのまま残っている。 しかし、自身たちの文化ではやはり、貧しいままである。
独自言語より統一言語の方が惑星規模で役立つ。
土着宗教でなくマジョリティの方が、寄付が受けやすい。
近代的な文化様式は、民族文化よりも娯楽性が高い。
人は楽しい方、有益な方に流れるもの。
帝国がどこまで意図していたが不明であるが、彼らの生活様式もまた徐々に平均化されていく傾向にある。
「新人の頃のアーサ・ブカブ社チーヌー支店への勤務の時以来かも。それなりゴタゴタ都市だったことぐらいかな。
犯罪率も帝国一だしね。都心の外に出るんじゃないと上司からよく釘を刺されたわ」
「まぁ、チーヌーのアウターは、素人一人ではきついかもな」
「でも、多民族都市だけあって、料理は豊富よね」
「それは言える」
車内での他愛もない会話が続く。 唯一の癒しの時間かもしれない。
暗闇に照らし出されたチーヌーの街並みが、ローラ達の視線に入って来る。 多くの業、欲望、を巻き込み巨大化するイシュタル大陸の最大都市。
目に映るのは物語に出てくる、悪い奴が住んでいる都の様だ。 故にこの不名誉な二つ名だろうか? “魔都 チーヌー”
--- 副帝都チーヌー アーサ・ブカブ社 チーヌー支店
魔都といってもイシュタル帝国の副帝都であるため、中心は都会であり、治安もしっかりしている。
近未来的な建築物と空を走るハイウェイと列車レール。 交通インフラも充実している。
そこに居を構えているアーサ・ブカブ社のチーヌー支店。 支店といってもイシュタル帝国西部を全て管轄化に置いてあるため、その組織は巨大であり、入居しているビルディングも巨大である。
ビルの中層部から上層部にかけてのアーサ・ブカブ社オフィスが存在している。
現在は日中であり、その一室で“西方方面統括部長”とローラさんが本案件に関して協議をしている。“西方方面統括部長”といっても地位は“専務取締役”である。
副帝都だけあって、部長であってもここでの地位は、相当高いものになる。 現在、ローラさんは、その西方方面統括部長のオフィスにいる。
オフィスにある大きな窓からの眺めは、素晴らしい。 一望まではいかないものの、高層からの眺めは自分がこの都市の主になったきにすら錯覚させるには十分な雰囲気がある。
そしてそのオフィス内で31部隊の命令権の借用の協議をしている。 といっても、社長からのメッセージを西方方面統括部長に渡しているだけである。
メッセージを読み終わったようで、部長はドキュメントから視線を上げ、ローラを見る。
「内容はわかりました。 社長名であれば西方方面の31部隊の命令権を貸し出しましょう」
「ありがとうございます」
ローラが、人事部モードに入っている。
「それにしても、本社の人事課長級が、自ら出張ってくるとはね。 かなりの力のいれようだね」
おおよそ、流れが確定したため、リラックスし様子で“西方面統括部長”は一口お茶に口を付ける。
「はい。 詳細は控えさせていただきますが、31部隊の借用との内容。 そこで察して頂けると助かります」
「なるほどね――ところで、ローラ殿。 オフレコで聞きたいことがあるのだが、その答えられる範囲で構わない」
「なんでしょう? 」
「シャヤクはどうしている? 最近。そのーおとなしくてな」
次期社長候補の一角がいなくなった。 そのことは、周囲の者を色めき立たせるには、十分である。
ローラは、それを聞き、おもむろに席を立ちあがる。 出されている紅茶を手に取り、窓側に向かい、外の景色を眺める。
「……ただの独り言です」
紅茶を一口、口に含む。
「……」
部長は何も言わず、彼女の後ろ姿だけを見ている。
「なにやらある件に関して社長に弱みを握られたのでしょうか? 今は、完全に社長の管理下に入っているように思えます。
次期社長候補の最有力候補が、今は社長側に付いている。いや、子飼いにされているといってもいい。 最初のレースの脱落者と言ったところでしょうか? 」
彼女がガラスの反射を利用して後ろを見ると、“西方面統括部長”は、緊張した面持ちで彼女を見ているようだ。
「事実、本社の上級クラスの方々が、にわかに騒がしくなっているのは、私の耳にも入っています。 といっても、パイク社長も自身の影響力を及ぼしながらも次期社長を探す必要がある」
「……」
「今回の情報漏洩の件。 社長は非常に気にかけておられます。 我々を遣わしたのがその証左となるでしょう」
「……」
「私としては、この案件。 積極的に支援などで忠誠心を示すには絶好の機会と考えます。 特に社長は、窮地に手を差し伸べた人材に関して、決してお忘れになりません」
「……」
紅茶のカップを持ち席に着く。
「美しい景色ですね」
「ああ」
「何か、お聞きになりました? 」
「いや……」
「では、これから31部隊のオフィスに向かいますので」
残りの紅茶を一気に飲み干し、席を立ちオフィスのドアに向かう。
「ああ。ローラ殿。 その何かあったら私に連絡して欲しい。 貴殿らへの助力は、最大限取り計らおう」
「ありがとうございます。 もちろん、我々への助力は、しかと報告いたしますのでご安心を」
笑顔を振りまき、オフィスを退出する。
(ふー。これで支援を確保できた。 そもそも社長の考えなんか分るかっつーの! メトナだってどうなっているか知らないし。
私に上級職の動きなんて分かる訳ないじゃん。 まぁ報告書は書かないといけないから、関係者の名前は列記するし、嘘は言っていないし問題なしね)
何気にメンタルタフネスのローラさん。誰かの影響だろうか。
そんなボヤキを心の中でつぶやきながら部長のオフィスをでる。 白い壁にドアがあり部署名が吊り下げされている一般的な社内の風景である。
ここの支店は、新人の時来た以来である。 3年ほど、ここで外回りをやらされて、本社人事部に異動になった。
良い感じに土地開発計画に潜り込んで契約を取ってきたのに、その成果を上司に取られ本社人事部への移動となっている。当の本人は交換条件とでも思っていたのだろうか?
アーサ・ブカブの本社勤務は、治安が良いので少し嬉しかったが、外回りは適当に仕事してサボれたのに、常時内勤の人事部への移動は、面倒だと当時は考えていた。
そんな過去を思い出しながら、久々のチーヌー支店の社内を進む。 社内の作りは変わっていない。 清掃が行き届いた綺麗なオフィスである。
同僚と談話をしていたドリンクサーバーも機種が違うが今もある。 懐かしさもあり、取り敢えず2つ購入していく。
オフィスから出て1Fに降りると、ビルディングのロビーにコンバットスーツ装備のキリヒとブラウニーが、待っている。
「はい」
コーヒーカップをキリヒに渡す。
「おう。ありがとな。 でっ、どうだった? 」
「助力は、取り付けたわよ。 おそらくこちらの提案は問題なく通るはず」
ローラが自慢げに宣言する。
「さすが、交渉上手だな」
「まーねー」
場所をロビーから地下駐車場に移動し、3名はカーゴに乗り込む。
「31部隊の事務所の場所は分かるの? 」
「ああ、何度か行ったことがある。まぁ治安部の事務所内に構えているだけだ」
「へー」
車輌がチーヌー支店の地下駐車場から出発する。
ハイウェイから街の風景が流れる。 ティエンフーとさほど変わり映えはしない。 カーゴ車両は、街中から郊外に進んでいく。




