抗議
--- 3F 案件番号不明の研究開発室
今、サナエさん達は、禁断の3Fの執務室にいる。 ローラが、危険な目に合って抗議の連絡を上の階に入れたのだが、その後音沙汰がまったくない。
自分の部下を危険に合わせることをしておいて、無視を決め込むその態度が頭に来ているようで、サナエさんが担当部署に乗り込み彼らの執務室に強制的に入り込んでいる状況だ。
この建物は必要なIDが無いと適切な階へのエレベータが動かない。 そこで、コンバットスーツの飛行モードで強制的に3Fに上がり怒鳴り込んでいるところである。
そして今問題の執務室内にいる。 サナエさんの目の前には担当開発主任がいる。
彼は、サナエさんの剣幕に腰が引けているが、ここの規則も存在する。 無暗に自分の開発の内容を外に漏らす訳も行かない。
「こ……このフロアは、許可なきものは、立ち入り禁止だぞ! 」
ソファーに陣取っている3名に対して、精一杯の抗議をする。
しかし、サナエさんにとって、この会社の規則など興味がない。 2回も危険な目にあって安全管理体制への詰問になる。
「部下が危険に晒されて、はいそうですかと引き下がると思ってんの? 以前も同じことあったわよね?
あんた達。 こちらを危険に晒して、何もなしって許される訳ないでしょう! 」
サナエさんは、声が執務室内に響く。
とは言え、3Fの開発主任も正直困っている。 治安部を呼ぼうにも、相手は筆頭。 社内力学でも不利になっている。
相手の言い分も理にかなっているため、例え治安部も呼んでも “両者で話合ってくれ” と言われて、問題を解決することなく帰られるだけであることは、容易に想像が付く。
加えて、こちらから詳細な説明が出来ない点も不利に働いている。 社内の最重要機密に属するナンバー案件。
筆頭以上か、社長クラスの許可を取らずに話せるはずがない。
故に彼も無視していたわけではない、ただ話せないのだ。 この部屋でおきたことを安易に話せば、機密漏洩違反で解雇も考えられる。
完全に板挟みになっている開発主任の姿がそこにはある。 サナエさんの一方的なまくし立てにただ、黙るのみ。
しばらくすると執務室のドアがノックされる。
一旦室階の会話が止まる。
「誰かね? 」
詰問を受けている開発主任が、ドアに向かって声を掛ける。
「パイクだ。 じゃじゃ馬が、お邪魔していると聞いてね。 困っていると思って訪ねてきた」
すぐさま開発主任は、席を立ちドアを開ける。
「社長。わざわざの御足労ありがとうございます」
「構わんさ。 情報の秘匿、下からの突き上げ、苦労しているな」
「……」
開発主任はかなり恐縮している。
「へーあんたが出張ってくるんだー。 でっ? うちのチームの安全はどうなる訳? 」
一方でサナエさんは、社長であってもこの態度。 ふてぶてしいにも程があるが、社員が危険な目に合っているのは事実だ。
「少し外してくれ。ここからは私が話す」
「ありがとうございます」
開発主任と入れ替わりで社長が、サナエさん達の対面に座る。
「お茶を貰えるかな? 」
クァドラットが、この部屋の事務用メイド・トークンに指示を出す。
『承知しました』
部屋のトークンは、社長の指示に従い、お茶の準備に入る。
「さてと、何が聞きたい? 」
改めて眼前の3名を見て、質問をしてくる。
「まず、2回もここの階からトークンが降ってきたんだけど! ここの安全管理はどうなっているの! 」
サナエさんの熱量は、社長の前でも落ちていない。
「それは済まないと思っている。 1回目は事故だが、正直今回は、我々のミスと言えばそうだが、ミスではないんだ」
「煮え切らないわね! どっちなのよ! 」
サナエさんが、勿体付ける社長にいら立つ。
「君達が目撃したのは……産業スパイだ」
「……はぁ? 」
「“セキュリティ対策は、どうなっているか!” と言われると苦しいが、あれは犯罪だ」
「……」
「故に、開発主任を責めたい気持ちは分かるが、責められるは、セキュリティ対策の総管理者である私だな。 申し訳ない」
社長が素直に謝罪する。 サナエさんも彼に素直に謝られたなら、引き下がるしかない。
それにスパイとなれば事故とは違い犯罪になるため、社内関係者に当たっても仕方がない。
「……わかったわよ。 以後起きないように対策をしてくれたらそれでいいわよ。そう言うことだけど。 ローラ。納得した? 」
サナエさんがローラに視線を向ける。
その最中にちょうど、紅茶が3セット。ローテーブルに置かれる。
「はい」
ローラも社長からの謝罪を受け入れる以外にない。 そもそも犯罪であれば、犯人に怒りを向けるべきであって、会社に怒りを向けるのはお門違いになる。
彼女が、出された紅茶のカップに手を付ける。 サナエさんも、紅茶のカップに手を付けようとしたときに、社長が話しかける。
「ところで、キャミャエル博士。 ここが何の研究をしているのか知っているかい? 」
「新型トークンの開発でしょう? 」
「簡単に言えば、有機AIに人の人格をコピーする実験だ」
「またヘンテコな開発しているのね」
「ヘンテコとは、手厳しい」
「有機AIから有機AIだって厳しいんだから」
「さすが、検証済みか。 君の先進性には常に驚かされるよ。 でも出来たら? 」
「……」
社長が紅茶のカップに手を付ける。一口飲む。
「案件番号トリプルゼロ“000”が、この開発室の番号だ」
「やけに洒落た名前ね」
「洒落ているか――君らしい感想だ」
社長が呟く。
「それで? 」
「盗まれたデータを取り返して欲しい」
「無理じゃない? データならすぐにコピーして、バラまかれて終わりよ」
「あの媒体は、データを容易にコピーはできないように、映像暗号によるロックが掛かっている。 まず解除は不可能だ」
「じゃぁ放っておけば? 」
「ただし、読み出しロックは解除された状況で盗まれている」
「何なのそれ」
「作業用トークンが、タイミングを狙って持ち出したんだ」
「ピンポイントのタイミングを狙っていたってこと? 」
「我々は、その様に考えている」
「じゃぁ。直ぐに読み出せるの? 」
「いや。 特殊な機械。 磁気共鳴機を用いて強磁界を印加して読み出す仕組みになっている」
「面倒くさ! 」
思わず毒づくサナエさん。
「ああ、それだけの機密性の高い開発だ。そして対象者は恐らく陸路での移動だろう? 」
「陸路? 目的がどこだが知らないけど、航空機があるでしょう? こんな広い大陸を陸路で移動する? 」
「航空機を利用すれば、我々のネットワークに感知される可能性がるからね。それに持ち物検査もある」
「あなた達。結構えぐいのね」
「よく分からないが、監視はしているからな」
「で足跡を追って行けと? 」
「ああ」
サナエさんが、黙る。
「……」
そして、チラリとローラさんを見る。
「……」
チラッ……チラッ・チラッ
「またですか? 」
イヤーな顔をするローラさん。
「またですね」
解答するサナエさん。
「君は6等級だ。より会社に貢献することが求められる」
社長からの一押しがある。
ローラさんが天井を見上げる。
「あー。 昇進。 引き受けなければ良かったー」
物凄く後悔しているようである。
「で? 移動手段は準備してくれるの? 」
「ああ。それに相手も犯罪者。 反撃も考えられる」
ここでクァドラットが、改め真剣な表情を作る。
「006部隊にオーダーを出す。トリプルゼロの実験結果を取り返して欲しい」




