ラストバトル
どのくらい仮眠を取ったのだろう。カーゴが動いているのが分かる。
「う……寝ていたか。移動しているとなると、信号が入ったか? 」
『ええ。各部隊に出撃命令が出ました。 我々は我々の目的に向かっています』
「了解だ」
1時をかけて、目的地である“第五事業所”に向かう。
「……」
正面警備員に停められるが、身分証と内部で起きたことを説明するとすんなり通してくれている。
「他の隊員は? 」
『第四と、本部に集中しています。ダミーを流すように設定していますが、“第五事業所”は、我々以外いませんね』
「はめられているのか? 」
『怪しまれている可能性は、あります』
「まあいい。 堂々と入れるのであれば、あのトークンと相打ちかそれとも――」
『行きましょう! 』
「応よ! 」
扉を開け中に入る。
警告信号が出たため、一同避難している。 そのため事業所の中は、沈黙し灯りだけがついて要る状況になる。
≪ホラー映画のような状況だな≫
『映画ではなく、現実なのがつらいところです』
造られた、緊張であるため多少の軽口も言える。 例の信号に沿って進んでいく。バイザーメットには、各信号強度が表示されているため、進路は順調だ。
『信号強度が強いセンサーを探して進んでください』
ブラウニーからの指示が飛ぶ。
≪了解≫
物陰に隠れながら、通路先を気にしながら進んでいく。 人感センサーが働き突然光が付くのもいつものことだ。
≪消すか、灯くか、どちらかにならないのか? ≫
『電気代の節約です』
しばらく進むと扉が出てくる。 そして、今まで以上に強い反応が出てくる。 バイザーメットのセンサーの表示は警告を出している。
扉の向こうのようだ。
≪行くか≫
『承知』
キリヒが扉を開けると例のトークンがいきなり現れる。
「茶番だが付き合ってもらうぞ」
バイザーメット内の発言のため、彼の声は外には聞こえない。
低威力弾のアサルトライフルが、発砲する。 害虫駆除用の球であるが、音と言い実弾に近い迫力がある。
キリヒとブラウニーと共に緋色目のトークンの追撃に移る。 対象発見の通信を入れるが、後方の警備員は、支援に出てこない。
≪俺達を試す気かね≫
『そのようで』
警備員が動かないため、こちらだけ先行していく。 ここの奴らの目的はおおよそ検討がついているが、それを回避する術はない。 今は目的のため歩を進める。
緋色目のトークンは持ち前の跳躍力と機動力を駆使して弾丸を回避していく。
相手からの発砲もあり、曲がり角に隠れつつ、追い詰めていく。
「行くぞ! 」
緋色目のトークンを追っていくように、進んでいくと例のエレベータ前に到着する。
エレベータは、下の階に降りているようでやがて停止する。
「以前はここで終了だったが、これからが未踏の場所か」
エレベータのスイッチにより、筐を呼び寄せる。
「監視カメラは? 」
『起動していますね』
「トークンが出たのに、いまだ無反応か……」
『中継を交えて高みの見物なのかもしれません。 それに怪しげな連中を合法的に葬れると考えれば、相手にとって怪しい我々が地下で蜂の巣になることは、やぶさかではないでしょう』
「いやな表現だな」
エレベータの扉が開き地下へと潜っていく。
『……最新の情報では、“第五事業所”への集合命令はありませんでした』
「世物の剣闘士かよ……」
『こちらが、トークン共々やられる想定かもしれません』
「いいだろ。 その期待を裏切って、こそのエンターテイナーだな。 目に物見せてやる」
電子音がなり扉が開く。
『付きましたね』
エレベータの脇に隠れる。 いきなりの発砲も考えられたが、何も起きない。
≪いくぞ≫
『承知』
ここから心拍数が一気にあがる。
薄暗く床面はグレーチング、天井にはケーブルが走っている典型的な地下通路である。
雑踏でのメモ書きの最後には、
<調査結果より、第五事業所が黒。番犬の守り手あり>
とあった。
(番犬ねー。絶対可愛くないやつが出てくるんだろうな)
廊下を進んでいく。通路の左右には扉があるが電源室らしくロックが掛かっている。
≪例のトークンは? ≫
≪先に行っていますね≫
お早いことで。
大きな扉があり、スイッチを押すと開扉する。
(ロックを掛けないということは、入れってことか)
中は何かの工場のような飛行機のハンガーを思わせる作りになっている。
天井クレーンやら機器類が置いてある。
≪なんだ。ここ? ≫
奥に進んでいくと、建物を思わせる巨大なトークンがお目見えする。
(……3本アームの化け物ねーこいつが番犬か)
≪006部隊の試作モデルですね≫
≪あの、ねーちゃんのか? ≫
≪物はそうですが、彼女がこの件に関わっているとは思えません。 アーサ・ブカブ社の上層部が、今回の件の為に引っ張ってきたのでしょう≫
≪なるほどな。 貴族、ヴェースパー、アーサ・ブカブ社が、全て繋がってるということか? ≫
≪そんなところでしょう≫
巨大な体躯に、センサー体躯中央に設置してあり防護用のシースルーカバーが掛けられている。二脚と三腕の奇妙な形をしている。
センサーはまるで有機体の眼の様に生々しく、反応はかなり良い。
両腕には、ミニガンと大口径の機関砲15.7mmが装備されている。対人戦ではオーバーキル過ぎる。 そもそも室内戦で持ち出す代物ではないだろう。
そして、背中から生えている1腕は、シールドのような盾を装備している。
因みにトークンやロボットのような頭部的な部位はない。
全体に丸っこいイメージがあるが、その威圧感は異常である。
≪装甲は? ≫
『カテゴリー3ですね』
宇宙船より柔いか。結構!
≪どうする? 先制攻撃か? ≫
『では、電源を破壊しましょう。充電ケーブル接続されたままです。ここまで巨大でかつ重量物であれば電力消費量も莫大なはずです』
≪了解≫
攻撃しないと反撃しないタイプだろうか?
こちらが動くとこちらにセンサーが追従して追ってくる。 因みに銃口もこちらに合わせてくる。 15.7mm機関砲を向けられるのは気持ちの良いものではない。
ケーブルが見える位置まで移動する。
『銃を構えただけで発砲する可能性もあります。 不用意な行動は慎んでください』
≪どうするか? ≫
『まずは、挨拶では? 人間社会では、挨拶によって、危険人物か否かを判断すると聞きました 』
≪本当かよ……≫
「やぁ。調子はどうだい? 」
キリヒが手を挙げ気さくに声を掛ける。次の瞬間に相手からの発砲が始まる。
すぐさま横に飛びのき物陰に隠れるが15.7mm砲の威力はありすぎる。
≪お前! ふざけんなよ! 蜂の巣になりかけたぞ! ≫
すかさず、ブラウニーのロケットランチャーが充電ケーブルを破壊する。
≪ケーブル破壊! まぁセンシティブな人間もいますから。 これで少し人間を理解できました≫
続けざまにロケットランチャーの2射目が番犬(三腕ジャガーノートタイプ)に着弾する。番犬が大きくよろめく。 ダメージは通ったようだ。
しかし、すぐさま状態を立て直し、音を立てて飛び上がり、一瞬でキリヒとの間合いを詰められる。
しかし、ブラウニーの戦闘プログラムの予見による支援機構により、番犬の股下を通り、背後に回り込むことに成功する。
これでキリヒとブラウニーの背後からの十字砲火が可能になる。
一斉にキリヒとブラウニーのマグナムライフルを打ち込むが、すぐさまバックステップで躱され、片方の砲火は、番犬の三腕のシールドにより防がれている。
同時に足を水平にして球体を利用して、直ぐに前後を整える。
(でたらめすぎる。何なんだこいつ)
デカい奴は、移動と旋回能力が低いはず。 そんな常識を丸いボディで意図も簡単に克服してくる。
アサルトライフルのマガジンも実射用に変えて攻撃を加える。 デカい分当たり判定はあるが、装甲が固いのと三腕のシールドが正確に弾丸を防ぎすぎる。
一方の番犬側は、距離をとっても15.7mmの弾幕とオプションの小型ミサイルの攻撃により障害物を障害物でなくなしつつある。
隠れる場所が無くなれば、自身に有利との判断なのだろう。 そして、破壊した飛び散った障害物の破片だけでもコンバットスーツにダメージが入る。
≪冗談キツイぜ! ≫
キリヒが囮となり、マグナムライフルを発砲し、それを盾が防ぎその間に、ブラウニーのロケットランチャーが着弾させる連携を見せる。
≪固すぎだろう! 何発はいっているんだ! ≫
『すでに4発です。残弾2! 』
≪本当にレベル3装甲か! レベル5装甲の間違いじゃないのか! ≫
『装甲下に防弾性装甲と人工筋が見えます。 骨格となると機械部分は、おそらく、さらにその奥。 近隣場所に着弾させ骨格を破壊しないと起動性能を落すは難しいです』
≪くっそ。多層構造とは恐れ入ったな! 了解だ ≫
ここで愚痴をこぼしても、状況に変化はおきないだろう。
まずは弾丸を打ち込み時代の打開を目指す。
反撃は苛烈を極める。
生々しい光学センサー素子は、徐々にキリヒの動きに着いて来ている。
(しまった)
一瞬のミスでミサイルがキリヒの近くに着弾して、枯葉の様に飛ばされる。
コンバットスーツを着ていても、呼吸が出来ない。
衝撃が緩衝しきれない。
バイザーメットには、各装甲のダメージ量が転送される
頭部60%
腕部50%
胴部70%
脚部60%
どれも危険水域に達している。間違いなくヤバい状況である。
ブラウニーのロケットランチャーの残弾もなくなり、マグナムライフルでの射撃であるが、シールドで防がれる
(息が……でっきない)
番犬が、迫ってくる。 キリヒが、とどめを刺されそうになった瞬間に、爆発音と伴に大きく番犬の体が大きく揺らぐ。
ここで例の緋色目のトークンが割って入ってくる。
希望が繋がる。 キリヒは直ぐにその場から退避する。
緋色目のトークンとブラウニーとの連携により、シールドの陽動は、ブラウニーが実施する。
緋色目のトークンは、番犬のケーブル接続付近の傷口近くで手榴弾による爆発攻撃を実施する。
表面での火力は通り難いので傷口に弾幕を集中させる。 その間に、キリヒは安全圏までまずは逃げることになる。
(くっそ。化け物かよ)
マグナムライフルのマガジンは既に空になっている。
「クッソ。アサルトライフルとグレネードだけか」
愚痴っていても、死を待つだけの状況である。 キリヒは少し間、休憩し蘇生装甲の回復を待っている。
その間も緋色目のトークンとブラウニーが、共同戦線を敷いてい交戦している。
≪ブラウニー状況は! ≫
≪緋色目がケーブル接続付近の傷口を攻撃中! ≫
≪了解! ブラウニーは、敵の陽動を頼む! 緋色に盾の破壊を優先させろ! ≫
≪キリヒは何を! ≫
≪相手の開いた傷口にグレネードを仕掛ける! ≫
≪無茶です! ≫
≪無茶は承知! 内部で破壊を起こせば効果が出るはずだ! 陽動が生命線だ! カウント開始 3……≫
キリヒの飛び出しカウントダウンが始まる。 その作戦は直ぐに緋色の眼に伝わったのだろう、一旦攻撃が緩くなる。
≪2……1……0≫
キリヒが番犬の後方に飛び出す。 と同時にトークン達の集中砲火が始まる。盾を構えた瞬間に緋色のロケット砲が炸裂する。
大きく体勢が揺らいた瞬間、傷口にグレネードを放り込みそのまま化け物から離脱する。 数秒の後大きな爆発により明らかに機動力と反応が鈍くなる。
と同時に先ほどのロケット砲の一撃でシールドに大きなひびが入り砕けることになる。 同時に大きく番犬の体勢が崩れる。
≪これで盾はない! 機動力も落ちた! ブラウニー! センサーを集中攻撃だ! 緋色は、武器破壊に移れ! ≫
≪承知>≫
足元がおぼつかない状況であり、シールドも使えない。
キリヒ達が、ここぞとばかりに7.62mm弾を視覚センサー場所に打ち込んでいる。
一方で緋色の眼トークンは、腕部への攻撃を集中している。 そして装甲がはじけ、内部の火器に引火して左腕の15.6mmの機関砲が大きく棄損する。
センサーも徐々に潰えている。
突如としてガードの体勢に入る番犬。
何かがおかしい。
≪全員退避してください。内部に熱源反応が大きくなっています≫
ブラウニーからの指示が飛ぶ。
≪自爆かよ! ≫
戦闘エリア中央ホールかから退避する間もなく、巨大な爆発風と圧力が、部屋全体に伝わる。
部屋全体を振るわせる衝撃、コンバットスーツを着ているからこそ耐えられる爆発音。 静かになると天井の照明灯が一部落ちてくる。
コンバットスーツでなければ間違いなくあの世なぐらいの色々な鉄片が飛んできている。
バイザーメットには、各装甲のダメージ量が転送される
頭部90%
腕部100%……機能停止
胴部100%……機能停止
脚部90%
コンバットスーツが、全くの重りになった瞬間である。
「地下で自爆か? どんな機能だよ」
『エネルギーパックの暴走ですかね。グレネードが内部で爆発したことで不安定化したものと思われます』
「お前らがいなければ終わりだった。 助かった」
一瞬緊張の糸が切れ、キリヒは、その場でへたり込む。
突如として緋色目のトークンはこちらに銃を向けている。
そして徐々にエレベータ側に後退していく。
(ああ、そんな段取りだったな)
ある程度、距離が離れたところで走って去っていった。
『追いますか? 』
≪武器もなし。 コンバットスーツは、使いものにならない。 この状態でどうしろと? ≫
『確かに』
≪さてと、中心部に行くか≫
『ええ。我々は満身創痍。今のアレには勝てませんからね』
室内の天井のクレーンは崩れ落ちている。 火事になっていないが、爆発の大きさが分かる。 消火剤も散布されたためか、泡や鉄くずなどで室内は散らかり放題になっている。
(派手に散っていったな)
奥の扉を残っているグレネードで破壊し、扉を開く。
暗闇にうすぼんやりとパイプ状のものが見える。
「なるほどね」
目が慣れて来る。 巨大な空間にぎっしりとシリンダーに納められて寝ている人達がいる。
ブラウニーが端末に接続する。 ロックが掛かっているが、彼の能力で強制的に解除することになる。
『……』
「どうだ? 」
『1000人では済みませんね。1万近くいます』
「だろうな。天井が見えないほど大きな空間に、これだけの人数がいるんだ。証拠は? 」
『申し分なく。映像データから何から何まで引っ張り出します』
「ここからでは地上に出る方法はあるか? できれば来た道は使いたくない」
『その勘は正しいですね。 表に機動部隊が集まってきています。 武装警備隊の上のクラスになりますね。 バグドローンのネットワークを仕込んでいてよかったです』
「手を挙げれば許してくれそうかね? 」
『マグナムライフルのコンバットスーツ装備です。そしてこの秘密を守る部隊ですから。 どうでしょうか? 』
「おーこわ。 まいったね。 策は? 」
『もちろんありますよ。 全ての緊急システムを稼働させます。 まずは、防火壁を降ろします』
防火壁のアイコンが光る。
『続いて火器管制をフルオートに固定します』
武器管制のライトが、全て緑色になっていく。
「怖いねー俺らが、緋色目のトークンと交戦時には何もなかったのが、幸いだったな……本当に剣闘を見たかっただけか? これだけの秘密が洩れるかもしれないのに? 」
『確かに、そこが不思議です。 何者かが妨害した可能性があります。 我々とあの番犬との力試しが見たかったのでしょうか? 不明です 』
「趣味が悪いな」
『妨害が無くて助かったと考えれば、いい条件だったと思います。 さてと、第二ゲートから出ましょうか? これらの人数を運び出すには、入ってきたエレベータ一基では無理です』
裏口のパスワードも既に解除されている。
貨物用だろうか? 大型のエレベータに乗り込み地上に向かう。
「またコンバットスーツをボロボロにしちまった」
『蘇生装甲で助かりましたね。 使用不能といえ、あれだけの破片を浴びてまだ原型を留めているとは、大したものです』
大型エレベータには、2名がだけが乗っている。広いエレベータはまるで部屋のようだ。
しばらくして、地上に出る。もちろん、こちら側には誰もいない。
「……多少の交戦も考えていたが、あの“機動部隊”ってなんなの? 初めて聞いたんだけど」
『関連会社全体で整備されている、武力部隊でしょう。 管理しているものがモノですからね』
「確かにな」
門の近づくと高級車が一台停車している。ブラウニーが前面に出る。
武装も僅か、あるのは接近戦用のナイフとハンドガン程度しかない。
「やぁ。お疲れ様」
暗闇ではっきりと顔が見えないが、やたらと声が通る男性のようだ。
「誰だ。あんたは? 」
キリヒが、護身用のハンドガンを構える。
「そうゆう反応になるか。 と言っても給料を払っている人間ぐらい覚えていて欲しいものだね」
声の主は徐々にこちらに歩いて来る。 街灯の灯りでその貌が闇夜に浮かび上がる。
『アーサ・ブカブの社長になります』
ブラウニーが回答を出してくる。
「ブラウニーさん。 情報を貰おうか? 」
『了解です』
今までと反応が違う。 キリヒが戸惑っていると社長が回答を出してくる。
「我が社で調整を実施しているんだ。 特定の人物の命令を優先的に実行するプログラムが入っている」
「あそこのコールドスリープの彼らをどうする気だ! 」
キリヒが強めの口調で発言する。
社長は、その問いに回答する。
「全くあのじゃじゃ馬さんにも困ったものだ。 厄介な難題を突き付けてくれたものさ」
「……」
キリヒは、黙っている。
「安心して欲しい。キャミャエル博士から対象者を全員自由にさせろとのお達しだ。 要望は聞き届けるよ」
やれやれとの反応だ。
「できるのか? 」
「いきなり全員とは無理だが、徐々に実行できるようにしてある。安心しろ」
「そうか」
道路には、もう一台の車両がやってくる。
「あれでアーサ・ブカブ街に帰投してくれ。 残務は、こちらの仕事だ。006部隊初仕事完了おめでとう」
「……」
「君はこのままアーサ・ブカブ街まで戻ってくれ。それと、ローラはこちらで回収する」
「分かった。ブラウニーいくぞ」
『承知』
社長の脇を通り車両に乗り、夜中の住宅街に一台の車両が消えていく。
一連の騒動の幕は下りた。
「社長。よろしかったのですか? 」
研究所の総務の内偵社員が車両から降りてくる。
「かまわんさ。 何れにせよ。 これでシャヤクの暴走を抑えられる。 例の貴族も我々のいいなりだろう。 ミッションのご要望通り、懲らしめたといったところか? 」
暗闇でも僅かに口角が上がっているのが分かる。
「その先住民一万人の解放は、大丈夫なのでしょうか? 」
「ああ。問題ない。役員の中にも奇特な奴らが何名かいるからな。今回の件もその中の誰かだろう。 うちの博愛主義者達は、何かと有能だからな。
あいつらへの貸し作りと思えば問題ない。優秀かつ権力への欲望も少ない。多少は要望を聞いておかないとな」
「……」
内偵社員は黙って聞いている。徐々に反対側が騒がしくなってきている。
事業所の防衛機構の破壊に手間取っているようだ。
負傷者もでている。自分達が仕掛けたシステムに叩きのめされているとは、哀れでもある。
「それに、この程度の出費も問題ない。メディア向けに慈善事業としての良い番組も作れるだろうさ。 誰を立てるかは別にして」
「しかし、実験体の減少は――」
「まだ9万人近くいるんだ。当分実験体には不自由しないさ。それにあの実験が失敗だったら、解凍して新たな労働力として組み入れるだけだ。問題ない」
「承知しました」
それにしても、シャヤクが、あの試作機を持ち出したと聞いた時は、流石に冷汗だったが――私の戦力勝ちだな。これで奴には決定的な弱みができた。
まぁ奴にも今後とも私のために働いてもらうとしよう。
それにしてもマールス人のあの006案件の出来は、とんでもないものだな。
最新の装甲を付けた最強兵士、天才調整のトークンでようやくか。
あれでまだ、開発中らしいが、完成体が実に興味深い。
--- 式典会場
一部では、内々的にパニックになっている。 が、サナエさんとローラさんはそんなことを知り由もない。
「だいらいですねー。 人をこき使い過ぎなんですよー。 わたひわーただの一般人なんれすよー。 馬鹿じゃないんですかー」
アルコールも手伝ってかサナエさんに絡みまくっている。
「ちょっと、飲みすぎでしょう」
「そんなことありみゃへん。 だいたい、サナエさんもその相貌をいかして、歌でも歌ってくれればもっと人気ができるですよー。 どうです? 歌手デビューしません。 女優もいけるでしょう」
「私に演技なんてできる訳ないでしょう」
各人の運命が大きく動いた夜も彼女達は、通常通りの日常を送っていた。




