束の間の日々
--- 数日後
最新のコンバットスーツと大量のバグドローンが送られてくる。
<革新的な装甲の試作品>
と銘打ってある。メモ書きに続きがある。
形状記憶と弾性金属の合金で、弾丸を受けてもエネルギー供給により元の装甲に復元するモノらしい。
ただしエネルギー消費が多いので、エネルギーが切れたらただの装甲になるとのこと。
無敵ではないことに注意が必要である。
名称は蘇生装甲。といっても試作タイプであり、ボディ部分だけで腕部や脚部は通常装甲であるため要注意。
「支援部って何者だよ? 開発品がぶっ飛んでいるだろう」
キリヒがため息をつく。
「さぁ? 多くのポージングが可能な、メタリックフィギアを作りたいとの希望から金属研究を始め、そこから派生した技術ですね。サナエさんの管轄に入っていますからね、利用できる形に派生させたのでしょう」
ローラが、回答する。
「人形が金属である必要は、あるのか? 」
「突っ込みは止めてください。あそこの人達はセンスが独特すぎるんです」
人形の研究から蘇生装甲とか、突飛すぎる。
まぁ出てきたものを素直に使うのが吉だな。キリヒは届いた荷物の内容確認を行っている。
「ところで、セレン。 先日の報告を求められているのだけど、どうしよう? 」
ローラが、セレンに相談を持ちかけている。
『そうですね。事前に特殊な電波を検知したと報告する予定です。ブラウニーからの報告にもありました。 “不審な電波の場所に向かったら、実際にトークンと鉢合わせし、戦闘に突入した” としてはいかがでしょう? 』
「ああ。ブラウニーもそんなこと言っていたわね! 」
『ただ微弱案電波なため、再現性に関しては不明としております。 報告書のひな形は完成しています。確認なさいますか? 』
セレンが報告書を転送してくる。
「どれどれ~」
ローラが、タブレット型端末にデータを転送して読み込んでいる。
「唯一の手掛かりにしては、ダメ元感が強いけどー。 まっいいか! 怪しい通信があると危険ですよ程度で。送っちゃいましょう! 」
『了解です。 ただし、敵側も気づいている可能性もあるので、ダミーで使用される可能性も追記しておきますね』
「よく分からないけど。 おねがーい」
ブラウニーからの情報はセレンに既に上がっている。
恐らく次の戦場もおおよそ見当が付いている。
展開した情報に偽りはない。しかし、こちらの作戦遂行のための誤情報も含まれている。
各位の思惑も混じりながら、しばらくは平穏な日々が続く。
--- アーサ・ブカブ社 006研究室 執務室
サナエさんの久々の登場である。
セレンやローラもいない為、お茶入れから、片付けまで全部一人でやっているサナエさん。それはいいのだが、話し相手がいないのは困る。
1Fの支援部に行けば、姫扱いされ“訳の分かない衣装を着ること”をせがまれる。
そのため少し足が遠のいている。
「ハァ」
ため息しか出ない。
彼らの研究項目一覧には奇妙なものばかりだ、
・継ぎ目のないメタルフィギュアのポージング金属の開発
・並行世界への航行研究
・記憶のデジタル転写によるネットワーク内での永遠の命の研究
「よくもまぁ。 こんなものに金をかけるわね」
金属系に関しては何とか試作品の実施にこぎ着けているが、その他は、あまりにも……未知数過ぎる。
サナエさんの主要研究の方も着実に進んでおり、改良型の人工筋によるトークンの建造中である。テラ換算で3m程度になっており中々大きい。
支援部を中心に作業しているが、新しもの好きの彼らにとってみれば、絶好の玩具であろう。
「戦争用兵隊とか作る気はないんだけど」
天災もとい天才染みた連中による改良は、開発が大幅に伸びているが、性能が狂い始めている。“一体で一個小隊に匹敵する突破力がある”とセレンが言っていた
ロボットアニメを実現したいらしく、手始めにこのトークンでどこまで性能を上げられるか? そんな話もしていた。
「あーそう言えば、ローラからの要望があったわね」
固定の会話端末から連絡を入れる。
*** ☎ 通話中 ***
サナエさんが、掛けた相手が出る。
≪相も変わらず、君は私の時間を取ることに躊躇がないな≫
少しウンザリ感が受話器の向こうから聞こえてくる。
≪権利があるなら行使するだけよ。聞きたいことがあるんだけど≫
≪わかった。手短に≫
≪今の案件に関して、探し出した証拠って、その後どうなるの? ≫
つまりは、コールドスリープ状態の人間に関してのことである。
≪……≫
≪現場からの質問よ。まさか放置するっていうのは、無しよ。そんな報告したら作戦放棄される可能性すらあるわ ≫
≪同じマールス人でもこうも違うものとはね≫
≪何か? ≫
≪いや。 それでどうして欲しいんだ≫
≪それは――解凍して、再び人生を歩ませてあげたい訳よ≫
≪なるほど。 厄介ごとを持ち込むのもいつもの事か――≫
≪何よ。厄介ごとって≫
≪いやいい。 君の意に沿える解決策を考えておく ≫
≪後で返事頂戴ね≫
≪分かった≫
*** ☎ 通話終了 ***
これで何とかなる。次の連絡でローラに詰問されることもないだろう。
下から攻められ、上からは厄介がられ、いつの間にか中間管理職職になっている自分に気づく。
「あーなんか世知辛くない? 」
独り言を言っても誰も突っ込みがいない現実。寂しい。
「あー。調子狂いまくりよ! 」
広い執務室に彼女の怨嗟だけが響き渡る。
--- ティエンフー帝都心部 での一日
本日は休日。 両名はどのような休日をすごしているだろうか?
潜入捜査であっても、長期潜伏であるため、夜は寝て、休日だってある。
ドアをノックする音が聞こえる。
キリヒが寝床で半覚醒状態で、寝床からブラウニーに質問する。
「今日は休日だよなー。 何か緊急事態か? 」
ブラウニーは、彼の部屋の隅で立って待機している。
トークンなので特に横になる必要もない。
『いえ。緊急メッセージ、その他メッセージは一切受け取っていません……今受け取りました。 ローラさんからです。“早く起きてこい”だそうです』
(えー)
ドアのノックは激しくなっている。
(仕方ない、主様のご要望だ)
彼にとっては寝ることも楽しみの一つなのだが。
渋々寝床から出てドアノブに手をかけ扉を開ける。
「どうしたー? 今日は休みだろう」
ローラは、外出用の服装だ
「付き合いなさい! ショッピングよ! 」
「えーぇーぇー」
あからさまに嫌な顔をするキリヒであるが、今は彼女が彼の上司にあたる。 結局押し切られることになる。
--- 休日のティエンフー 繁華街
道中。 ローラの小言とも愚痴ともつかない、お喋りに付き合っている。 会社の待遇から、現在の仕事の内容などなど、不満の話題は、実に豊かだ。
「だいたいサナエさんもサナエさんですよ! 最初から案件の内容を教えてくれないなんて! 」
(まぁ、コールドスリープの先住民を探し出せは、正直、自分も戸惑ったがね)
「あんたはどうなのよ? 不満の一つもないの! 」
「まー俺の仕事からすればこんなもんだろう? というよりも、今回は恵まれているほうだな。 最新の武器やら相棒まで寄越しているんだ」
ブラウニーに目をやる。
『なんと! 相棒と見ていてくれたのですね! うれしいですねー』
「あんたの仕事に比べればねー。 私はただの人事なのよ! 」
商業区画に到着する。
「で? 今日は何のようなんだ? 」
「あんたもティエンフー中心に観光に行ったようだから、私もショッピングよ! 全く、訳の分からない業務やって、爺さんやおっさんたちに愛想笑い振りまいて、ストレスが溜まりまくよ! 今日はストレス発散のショッピング! 」
「買い物でストレスが、解消するのか? 」
「可愛い衣類とか欲しいの! あんたは、何か無いの? 」
キリヒは少し考えるが、給金の大半は――。
「特にないが? 秘書と言うことで、移動はスーツだしな。 食事もあるから欲しいものは、特に無いな」
「つまらない人生ねー。 とにかく付き合いなさい! 」
結局、中心部に引っ張られる。
休日だけあって中心部の賑わいは、平日を遥かに凌ぐ。
巨大モニターには、企業広告が流れ音声が周囲に響いているが、他の広告と交じり合い中々聞き取りにくい。
車道の状況はいつも通りであるが、人が多すぎる。
「すげー人混みだな」
「そうよ。これが休日のティエンフー」
「商業区画までまだ先なんだろう? 電車には乗らねーのか? 」
「徒歩よ! 徒歩。 まったく、ずっと引き籠っているから増えちゃったんだから」
(エクササイズ替わりかよ。まぁいいか)
彼女の後をついていく。
トークン連れもそれなりに見かける。
「トークン連れも結構いるな」
『荷物持ちやら、情報取得など重宝しますからね』
ブラウニーの情報量が増えている。
「まぁ確かに」
人混みを抜けていくと、更に人が多くなる。
商業地区だけあって活気が凄い。
「……どーするんだこれ? ここの中を突っ切るのかよ! 」
キリヒですら躊躇する人の波である。
「いいから行くわよ! 」
ローラさんは意に介さず人波に入っていく。
人波に揉まれながらも、確実にお目当てのショーケースにたどり着くのは、流石とか言いようがない。 事実キリヒも彼女に追いつくので精いっぱいである。
先に進んだローラさんが、立ち止まりお目当てのショーケースに飾られている品物を眺めている。
ローラさんが立ち止まった店舗は、シンプルな佇まいであるが、その雰囲気からキリヒですら高級店とわかる。
サンプルとして飾られている衣装は、既にコーディネイトされており、素人目にも目を引くものがある。
(これがウィンドウショッピングってやつか? 女性ものの衣類は分からないが、これが今の流行なのか? )
そんなことを考えながら、キリヒはウィンドウケースを覗き込み値札をみると、彼の予想以上の金額が記載してある。
「……おい。 これを買うのか? 」
キリヒがローラに尋ねる。
「まさか。流行の色合いやコーディネイトを確認して、手の届きやすい服で似た感じにするのよ」
彼女も久々のショッピングを楽しんでいるようだ。
(なるほど。いい考えだ)
それから、バックやらアクセサリーやらの店舗を見て回っている。特に宝石店の前のケースには、普通の年収分ぐらいの金額が提示されている。
「それにしても、ここら辺の店舗の金額はおかしくないか? 一般人が手に届く金額とは思えないぞ」
「まーここは高級地区になるからねー。上流階級やらが貴族達がメインの客層かもね」
(……ここの1つの商品だけで、あいつらが何人救えるんだ)
「さてと、本命の場所に行きましょうか? 」
ローラさんは、更に進んでいく。 キリヒも彼女の後をついていく。 人混みと騒音。 騒がしい休日になっている。
しかし、キリヒは、朝食抜きで駆り出されているため、流石に空腹になって来る。
「なーどこかのキッチンカーで食事を取らねーか? いきなり朝連れ出されて流石に俺もキツイんだが」
ローラに進言すると、周囲を見まわし適当な移動販売車を見つけて、軽く軽食を取ることになる。
朝からかなり歩いている為、小休止として良い時間になる。
移動販売車が準備したであろう、ダイニングセットに座り両名が飲食を開始する。
ローラは、喉の渇きを潤す為だろうか、アイスティーを頼んだようだ。
キリヒは、ブレッドに加工肉を挟んであるどこにでも食品と炭酸系の飲料、根菜類を油で揚げたものを注文している。
食事を取りながら、ローラが尋ねる。
「あんたの給金であれば、あの程度、楽に購入できるんじゃない? 」
そんなことを言いながら、キリヒの根菜類の揚げ物を勝手につまんでいく。
まったく手癖が悪いなとキリヒが思うが、揚げ物の量もそれなりにあるため、取り敢えず、つまみ食いの行動は流す。
「まぁな。でも買う気はないし、興味もない。 俺としては、こっちのテラ風のホットドックの方がよっぽど購入意欲が上がるね」
腸詰めの加工肉が思いの外太く、かぶりつくと肉汁が口の中に広がる。ブレッドも通常の白い色ではなく、色がついている。
恐らく生地にハーブか何かを混ぜ込んでいるようで、ブレッド単体であっても風味がする。
激戦区のティエンフー中心のキッチンカーであれば、周囲の同じ物を売っていては、商売にならない。
それゆえの工夫した、美味い物が多いと言ったところだろうか。
「――旨いな。これ」
その創意工夫に感心しているキリヒ。
その姿を何となく見ているローラが、口を開く。
「あんた。なんで31部隊に配属届を出したの? 危険極まりない部隊でしょう? 仲間とも呼べるか、怪しい連中しかいないし」
「前も言ったが給金がいいからな」
「ふーん。もう、私の生涯年収分くらい稼いでいるでしょう? 辞めないの? 」
「まだだな。まだ足りないんだ」
キリヒは、残ったホットドックを頬張り、甘い炭酸系を一気に飲み干す。
「ふー中々の一品だった。 さてと、これからどこに行くんだ? 」
「通常のショッピング街よ。高級ブランド街は見るだけー」
まだ続くのかと思いながら、上司の御機嫌取りも仕事の内として自分の中で納得させる。
引き続き、休日が平穏に過ぎていく。




