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研究所での日常

--- 数日が経過する。


「いやー。胃痛のする業務から解放されるってサイコーねー」

かなりの上機嫌で、ローラさんは、知能転移 研究所 の扉をくぐる。


「だから、最近、夜の飲み歩きが多いのか? 」

キリヒが、呆れている。


「いいじゃない! セレンの仕事は、通常業務を行うこと。 こっちの仕事は、会議でウダウダを聞くことなんだから! ストレスは発散させないと! 


それになんだか帝都の雑踏でもそれなりにいいお店あるし! 住めば都よねー」


さわやかな朝もしょうもない話をしながら出社する。


入退ゲートを通り、ちょっとした休憩スペースがある。そこにローラが座り、

「さぁ! カフェオレ買ってきなさい! 」


いつものようにキリヒに指示を出す。


「まったく毎日毎日……まぁ仕事だからな。 従うよ。 了解した」

ここでコーヒーを待つのが、恒例になっている。


ここで朝、優雅にソファに体を委ねるのが、彼女の日課である。


キリヒが離れ、暫く出入り口のロビーにあるソファーでリラックスをしていると所長が出てくる。


「ローラ博士。 あの画像の復元。 流石です」


「何とかですわ」

余裕のあるところを見せるローラ。


「最初は、君を侮っていた事を謝罪したい。 ついては、あるデータの解析も頼めるだろうか? 後で送付しておく」


「分かりました。 努力いたします」

笑顔のローラさんに対して、所長が神妙な顔つきで去っていく。


「ローラ。 買ってきたぞ! ほれ」

要望の紙コップに吐いたカフェオレを彼女に渡す。 と同時に所長の存在にも気づく。


「アレ例の所長じゃないか? 何かあったのか? 」

「なんか次のデータを解析でいないかって」

カフェオレを飲みつつその質問に答える。


ローラ仕様のカフェオレは、砂糖が入っている。 一口飲むと幸せが口いっぱいに広がる。 コーヒーの苦みをミルクで抑え、糖分の刺激が心地いい。 朝のひと時を満喫するローラさん。


「ふー朝のリラックスタイムね。さてと行きますか! 」

「そうだな、 セレンも待っているし」


オフィスの扉を開けるとセレンが椅子に座ったまま停止している。

「セレーン。 朝よー」


ローラさんがカメラ前で手を振ると起動が掛かる。

『これは、良い朝のようで。 キリヒも変わりなく』

「まぁな」


「ところで毎晩何をしているの? 」


「怪しいことはしておりません。この研究所の事業所、業務内容、研究開発成果を確認していました」


「……大丈夫なの? ってか怒られる私なんだけど」


『興味本位と言っていただければ大丈夫でしょう。 それにルールは守っておりますので、怪しまれることもありませんよ』


端末の電子音が鳴る。 どうやら所長からデータが来たようだ。


「さてさてと業務開始よ! 椅子だけは3脚あるから、座って座って」

「俺もか? 」


「当たり前でしょう! あそこの来客用ソファーで毎日くつろでいるんだから! 案件を手伝ってもらわないと! 」


といってもキリヒにできることには、あまりないものの、とりあえずローラの横に座わる。

セレンが端末を操作し始める。 


セレンが、何か黒い画面に打ち込んでいる横でキリヒがローラに話しかける。

「なんか当初の感じと、かなり異なっているんだがな。 ボディーガードだろ? 」

「ここは研究所よ。 ずっとドンパチの訳ないでしょう! 」


メッセージボックスを開き、先ほど来たメッセージを確認する。

「これじゃない? 」

ローラが指さす。


メッセージ欄の頭に所長からのメッセージがある。添付ファイルもついている。 これが、解析して欲しい画像だろうか?


『所長からのメッセージですね。 対応開始します』

セレンが添付ファイルのデータをダウンロードして先日のスクリプトに流し込む。


画像再生ソフトが起動する。今回は、色が付いている。


「なんか、建物内? 目線が高いので大人って感じね」

暢気(のんき)なローラさんに対して、その画像の異変に気づくキリヒ。


「いや。 おかしい。こいつアサルトライフルを構えている――何かを追っているのか? 」

画面が動く、何やら走っている感じにも見える。


仲間と合流し何か話しているが、音声はない。 仲間の姿は、コンバットスーツになっている。

となるとこの視点の主もコンバットスーツを着こんでいるのだろうか? 


「コンバットスーツ装備。 随分と物騒だな」

「ホラー映画みたいですよ。 なんか怖いです」


視点は、左右前後と動いている。 何を探しているだろうか?

しばらく2人で歩くと前方に倒れているコンバットスーツがある。


視点の主が、駆け足で近寄り起こすが、コンバットスーツの胸に大きな穴が開いている。 素人目にも即死と分かる。


「ひー。ちょっと待って! 何これ!」

ローラが悲鳴を上げる。


抱き起こした視点が、仲間に何か言うためか後ろを見ると、突如として仲間が視線から消える。 何かに上から襲われ、馬のりになっている。


下のコンバットスーツは暴れているが、馬乗り側の相手が何をするとコンバットスーツの挙動が止まる。


「こいつ。 この隊員を始末したんだ」

キリヒから言葉が洩れる。


「あわわわわ」


目線の主も唖然とはせず、直ちに行動に移る。まずは立ち上がり、銃を構えて発砲するが、それよりも速く、対象が視界から消える。


2体の死体が要るホールで周囲を見回している。心拍の音まで感じ取れる緊張感。 消えた何かを探し、周囲を見渡しても何も見えない。 徐々に壁に寄ろうとしているかのように動いている。


刹那、急に現れた一目カメラのトークンに襲われるところで映像は終わっている。


「……」

「……」

『……』


ローラのオフィスは、しばらく沈黙に包まれる。 そしてその沈黙を破ったのはここの主であるローラであった。


「正直言います。降りましょうこの仕事。なんですか? ホラー映画ですか? 」


『映画ならよいのですが』

「ああ。俺もそう思う。 映像からしてこれは、本物だろう」


「これどうするんですか? 」

「提出するしかないだろう? 」


『提出前に少しいいですか? 画像をより解析します』


セレンが、スローで見ている。


変哲のない壁と柱、前回の白黒よりも、今回は色が付いている分、画質が良い。

コンバットスーツの隊員が合流して、一瞬だけ何かが映る。


セレンが拡大していく。

『ドリンクサーバー? ですかね』


「ああ……。おい! このマーク。ここの研究所のマークに似てないか? 画像が荒くてよくみえないが」


『たしかに。良く気付きましたね』

「毎朝、買わされているからな」


「あわわわわ」


映像をスロー再生を開始すると、キリヒから直ぐに停止が掛かる。

「ちょっと止めろ! ここに時計がある。発生時間は夜中だな」

『たしかに――私もこの時間は、停止していますからね……部屋に入ってこない限り気づきませんでした』


引き続き再生をスローで進めていく。死体派遣後の一名の強襲、そして最終攻撃フェーズ。 トークンが映し出される。飛び掛かる瞬間で停止される。


「どうした」

『ここに製造コード確認できます――アーサ・ブカブ社製ですね』


「なんてことを……」

ローラが頭を抱える。


『まーこれは些細な問題ですよ。 装甲だけの可能性もあります』


セレンは、特に重要視していない様だが、問題は急に現れるトークンの方に興味があるようだ。何回も襲われるシーンが流れる。


すでにローラさんは、椅子から立ち上がり、ソファに向かって歩きそこで横になっている。

気分がすぐれないのだろう。


それをよそ眼にキリヒが、セレンに質問する。

「どう思う? 」


『わかりません。 短時間で周囲に気づかれず近寄っている。 そして急に現れるのが解せませんね』


「そうなんだ。 この武装守備隊員だって無能じゃないはずだ。 それに装備からしてかなり上物だぞ」

『同意します』


「かわらんなー 」


これ以上考えても何も思い浮かばない。


『これ以上何もでないですね。 ローラ。 映像データを所長に送ります』


ソファーで横になっているローラに了解を取ると手を上げて応える。

“送信しろ”とのことなのだろう。


セレンのタイピングの音が室内に響き、メッセージが送られる。


そろそろランチタイムになる。

「ローラ? めしどうする? 」


キリヒからの問いに、ローラは素っ気なく回答する。

「いらない――ってかアンタよくあんなの見て食欲があるわね」


空腹よりも不安の方がいっぱいで、何も食べられそうにない。


「わかったよ。サンド系のランチでも買ってくる。あの現場を探しに、研究所内をうろついて来る。そこで待っていろ」


情報集めだろうか? キリヒがオフィスから出ていった。


ローラはセレンと2人きりのオフィスで叫ぶ。

「ぁーぁーーあーーああーーあああーーーどうしてこうなった! 」


(気が重い。殺人現場の証拠映像何てモノを見せれらて……治安隊とかきていたのかな? 来ていない気がする……いや止めよう。なにかとんでもないことに巻き込まれている感じしかない)


不安解消なのだろうか? 声を上げている。手足をばたつかせて暴れている。

暫くして、ドアがノックされる。


『どうぞー』

セレンが回答する。


キリヒかと思えば、所長が入ってきた。

暴れ疲れたローラと目が合う。


「すまない。 ショッキングな映像で動揺させてしまったね。まさか君が、ここまで優秀だとは思わなくて。 本当にやってのけるとは思わなかった」


「動揺? ふざけるなー! あんた何ていうもん見せてくれたんだよ! それに殺人だぞ! 公共治安隊どうした! 捜査はどうした! こっちはそんな奴ら見てないぞ! 」


ローラさんの言葉がおかしいが、気迫もすごい。

「……私の口から詳細は言えないのだ。すまない」


ローラが、所長にかみつく寸前まで行っている。

ここで押し問答しても、彼の口からこれ以上の情報は得られない。


セレンが強制的に会話の主導権を奪取する。

『ここに来られたのは、御用があっての事でしょう? 』


「ああ。端的に言おう。 映像のトークンを捉える手伝いをして欲しい」


『コンバットスーツの武装守備隊を倒す相手に? 我々はただの一般職員ですよ』


「トークン相手には、その道もプロの協力を得るもの、間違っていないと考えている。 現に君の様な優秀なトークンを調整し運用している」


所長は、ソファーにうつ伏せで寝ているローラさんに視線を送る。


『具体的な計画はおありで? 』

「わからない。しかし、ローラ博士の技術があればうまくいくと思うのだ。それを提案しにきた」


『だそうですよ。ローラ博士』

「……」


『すっかり、落ち込んでしまいましたね。しばらくそっとしておいてください。私から一ついいですか? 』


「ああ」


『今回の映像。死者の脳細胞からの直接の映像と言うことでよろしいでしょうか』

「……」


『今回の映像を見ただけでも、カメラ映像ではないことは、一目瞭然。 隠蔽してもあまり意味があるとは思えませんが? 』


「――ああ。そうだな。さすが天才が調整したトークンだ。 死者の脳を仮死状態で生存させそこから、記録を引き出す事前処理だ」


『なるほど。ご自身で行わなかったのは? 』


「やはり怖かったのと、私ではあそこまでの鮮明な画像処理が出来なかった。 加えて、内容が内容だけに、部下にやらす訳にもいかないからな。 契約で縛られている外部の人間のほうが、信頼出来ると考えたからだ」


『簡単に言えば、我々の方が利用しやすいと、いったところですか? それと今回比較的長い映像だったのは、死亡してから時間が経っていなかったから』


「その通りだよ。惨劇場所も検討がついているのだろ? 」


『ええ。恐らくこの施設で起きた惨劇だろう程度は。 博士も言っていましたが、治安隊に報告はしていないのですね』


「私の一存ではどうにもならいこともある。それだけだ――人事部の能力を見る目は確かだな。また来る」


所長がオフィスから出ていく。


「う……うう。酷い。何故にこんなことに」

『スリリングな人生になってきたじゃないですか? 』


「恋愛の駆け引きぐらいのスリリングがいい! 命の駆け引きって何なのよ!」

彼女にオフィスに感情が響く。


                    *


ランチタイムが終わり、だいぶ時が経過したがした後にドアがノックされる。

『どーぞー』


キリヒが現れる。 ソファーにバタリとうつ伏せのローさんが目に入る。

「まだ、復帰できていないのか?」


『素人の方に殺人現場の目撃はショックです。それを昼休み間で復活しろとは、酷だと思いますよ』


「ふーん。ほれサンド系の食材ブレッドだ。それと柑橘系の飲み物。甘くて美味いぞ」


キリヒは、サンドイッチとジュースを来客用のローテーブルに置き、その後、執務デスク近くある、椅子に腰を下ろす。


「研究所内でそれとなく色々聞いて来たよ。 もちろん殺人云々は言っていないから安心してくれ」

キリヒが、セレンに話しかける。


『聞きましょう』


「先日の夜中。 ある区画が立ち入り禁止になったことがあったらしい。 夜中だからな。残っている社員も少なく、死体を見た人間は聞いた中ではいなかったよ」


『なるほど』

「その後、治安隊の出入りは確認されていないようだ」


『完全に隠蔽ですか』


「多分な。 ただ、何名かの職員が、血の付いたトークンが、守備隊に追いかけれている状況を目撃したようだ。 そこからトークンが殺人を犯したんじゃないかって噂も流れてたが、それも直ぐに消えたようだがね」


『あの画像は、その噂の証拠となるわけですか』


「そうなるな。 ここの連中も噂程度にしかとらえていない様だ。 事実、完全武装の守備隊を3名も殺めて無傷のような脱出は、無理だとのことらしい」


『なるほど。 ただの質の悪い噂といったところですか』


「それに、トークンを見たからと言って殺人に結び付けるのも馬鹿らしいというところさ。 実際に夜だ。その血濡れてをはっきり見たわけじゃないしな」


『なるほど……そころでその無傷との判断は、どこからでしょう? 』

「あの境界の柵を飛び越えたようだ。 それは、見た人間がいたよ。 何がかがあの柵を飛び越えたとね」


『なるほど。 それであれば無傷かもしれませんね』


「ああ、それとここの研究は、記憶データの解析との触れ込みだ。一般的には、生者からヘッドギアを付けた方法で、トークンやドローンの遠隔操作を実現する計画の末端を担っているとの内容になっているが、幾つかの事例では死体から記憶データも抜き取っているようだ」


『死体とは穏やかではないですね』


「検死が終わった、“行旅死亡人”を集めてデータを得ているようで、社内では公然の秘密らしい。まぁ。パンフレットにある人の脳の電子解析は、表面上のスローガンだな」


『なるほど』


「そしてな。 こいつも噂なんだが。 “生きている人間”を探しているトークンがいるとかの噂が流れているんだ」


『ふむ。この研究所は、複数の事業所を構えていますからね』

セレンがしばらく黙る。


「どうした? 」

『先ほど所長が来て支援して欲しいと』


「あのなー俺達は一般職員だぜ。 武装守備隊でもなければ用心棒でもない――そんなのは、ここの連中に任せておけばいいだろう? ここの研究は胸糞わるいし。 それに生きているってのもよく分からないし」


『そうなのですが、こう考えてはどうでしょう。 荒事を超えれば信頼を得られると。そうすれば、よりこの施設の真相に踏み込めます』


「……なるほどねー。そうゆう考えもあるか。 あんた。 頭いいな」

『トークンですから』


「そう言えば、何を探すのか聞いていなかったな。 1000名近くの奴隷のリストかその記録を奪取すればいいのか? 」


『コールドスリープ状態の先住民です』

「……はっ?」

キリヒが思わず声を出す。そして、セレンのその言葉にうつ伏せのローラさんも反応する。


「あー。もー。やだ。絶対はめられたわ。ギルティだよ。サナエさんギルティだ。ブラックを通り越している。闇だね。闇」


久々に口を開いたローラは、引き続きソファーの上でくだを巻きながら唸っている。


「あのトークンは、それらを探しているのか? 」

『おそらく』


「わかった。協力しよう。あんたの指示に従う」


「ちょっと。わかっているの? マジの闇案件よ。これ! 」

キリヒの了承案を聞き飛び上がる。


「俺は金が要る。成功するためには、そのトークンを追っていけば同時にここの闇を暴ける。そうであれば話が早い。手がかりがあるんだ」


『理解が早くて助かります。ローラさんもいいですかね? 』

「あー。もー。分かりましたーやりますよ」



ローラさんがローテーブルのジュースを飲み始める。

ショックを受けても喉は乾く。


「で! 実際どうするのよ! 」

「奴が向かいそうな場所に先回りして適当に暴れて状況によっては、逃がす」


「逃がす!! 正気? 殺人トークンよ! 」


「そのコールドスリープの先住民がいないと我々の目的である糾弾ができないのだろう? コールドスリープが出てくるまで暴れる逃すを繰り返すしかないだろ? 」


「……こちらに被害が無ければいいんだけど」


「先住民がいる場所が分かればそれを――」

キリヒは、セレンの方に目線を動かす。次の案が浮かんでこない。


『人事部あてに送付します』


「なるほど。弱みを握る訳か」

『ええ』


「証拠を見つけることが、第一目標だ。トークンの対応はそもそも俺達の範囲外だ。そっちは治安隊の領分。 関わる気はない」


『緋色目のトークンを利用するだけで、放置ですか? 』

「ああ。もちろん、こちらに攻撃してきた場合は、その限りじゃないがな」


キリヒが言い切る。


『いいでしょう。本作戦の目的は証拠の確保であって、緋色目のトークンの確保ではないですし』

「お前、結構、話がわかるな」


『優秀ですから』


(あー碌なことが起きないことが目に見えて分かる。 預言者だ。 今私は預言者になりました。 巻き込まれ系預言者でーす)


『さて方針も決まりました。 そろそろ終業時刻です。業務の方もおおよそ、片付いていますので、帰宅いたしましょう』


「終わりだ。終わりー。マーケットで何か買って帰ろうぜ」

「あんたの神経どうなっているの? あー最悪。もう出社したくない」


また一日が過ぎてい行く。


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