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最初のミッション

まずの成果を上げたことで、それなりの地位を得ることになったサナエさん。


現在は、お伴のセレン、秘書のローラ、実働体のキリヒ氏と更に新型コンバットスーツ開発部隊と支援部の多数による組織が出来上がっている。


まとめて006部隊などと称されており、人数も50名以上がいるが、ほぼ全員が研究職になる。 実行部隊は、キリヒとローラの2名だけである。


「組織が大きくなればいいというものではないのだけれど? 」

『サナエが組織に入るとどうなるかの証左でしょう。たいしたものですよ』


「商社プロメンテは、そんなことなかったけど? 」

『運輸部門だったからではないでしょうか。それに運転は、アルプ、タツマ、イーノに任せっきりと記録がありますが』


「乗っている方が面白いし」


そうではなくて、働いていないでしょと言うのを遠回しに言っているのだが、まるで意に介していない様子。


『……そうですか。で? 届いた内容がこれですか? 』


もっともセレンもそれを公言するほど、出来ていないトークンではない。 その内容を軽く流し、目下視線の先にある端末画面にくぎ付けになっている。


執務室には、サナエさんとセレンの2名だけである。2名でデータ固定端末の画面をのぞき込んでいる。


「そっ。 漠然としている命令よね。上の連中は、どこでもこんな言い方しかいないのかしら?」


<帝都ティエンフーの悪徳貴族を懲らしめてくれ>

まさに漠然としたメッセージが画面に映っている。


『悪徳貴族とは、具体的に誰なんでしょう? 』

「こっちが聞きたいわよ」


やがて、メッセージは自動で消去される。


「送信者は、スパイ映画の見過ぎじゃない? 」

『レコーダーが火を噴くより安全ではないでしょうか? 』


「ああ。確かに火事は、怖いものねー」


よくわからないやり取りをしていると、サナエさんが、椅子に座りながらぐるぐる回り始める。


「えー。なにこれー」

『もしかして、ティエンフーにいる帝国貴族を調べろとのことでしょうか? 』


「何人いるのよ。それに権力側なんだから、多かれ少なかれ悪い事をしてそうだけど? それに悪徳って何よ? 賄賂から人身売買、政府転覆までごまんとあるわよ。 政府転覆は見てみたいけど」


『全く。ここでは問題ないですが、公でその様な発言は慎んでください』


「最近の貴族関連の報道は? 」

『離婚問題・不倫問題・愛人問題・賄賂問題・脱税などなどですね』


「なんか下らないわね」

『逆に言えば、それだけ安定しているとも言えますが』


「物騒な情報とかは? 」

『少数民族への弾圧、拉致、暴動鎮圧、土地の収奪、などがありましたね』


「随分と極端ね。土地の収奪? 」

『ええ。土着民族からの土地の没収政策ですね』


「気が滅入りそうな単語ばかり」


回っていた椅子をぴたりと止め、セレンに指示を出す。

「普通にローラ呼び出して聞いた方が速いかも。ローラを呼び出して」


『了解です』


               *


暫くして、ドアがノックされる。


「どーぞー」

ドアが開き、ローラさんが現れる。

(早いわね)


『相変わらず早いですね』


「ただいま到着しました」

ローラの元気な声が、サナエさんの執務室に響く。


「支援部への依頼が来たんだけど? 」

「おお! 早速ですか! 何です? 内容はどんな感じです 」

彼女は興味津々といったところだろう。前のめりで質問してくる。


「“帝都ティエンフーの悪徳貴族を懲らしめてくれ”だって 」


「それだけですか? 」

「それだけ。でっ呼んだ理由は、悪徳貴族ってだれって話なわけ 」


「えー。 いきなり言われても。貴族なんて大概、悪い人ばかりですからね」

ローラさんも呆れ気味で返答する。


「初手から手詰まりとか、どうしたものかしら? 」

サナエさんもいきなりの手詰まり感が出ている。


「そもそも誰からのメッセージだったんですか? 」


『送信元は不明ですね。 アドレスは隠されていますが、社内ネットワークが使われているのは確かです。 我々の存在を知るかなり上の人間だと推測します』


(しかし、なぜ明確に指示しないのかが気になる。 犯人が分からない? どうだろう? 貴族と言っている以上目星は、ついているように思うんだけど……明確に出来ない? 


社内ネットワークでなければ流せないメッセージだ。 そうなると誰かに見られる可能性を考慮しているのか。 だとすれば偉い人間の検閲を恐れているのか? となると、上級職が出てくる。 そいつに、気づかれたくない? )


「ねーローラ。 聞いていいかしら? 」

「なんでしょう? 」


「帝都の貴族とアーサ・ブカブ社の上級役員で親しくしている人っているの? 」


「それは、役員の数だけいますー……止めましょうよ。 最初っから重すぎですよ。 もっとほら軽く痛快に行きましょう? 軽いスリリングなスパイ映画ぐらいに」

ローラさんが、軽めに解答してくる。


「どうなの? 」

「いますけど……」

ローラさんの目が泳ぎ始めてきている。 これは何か知っているようである。


「その中で目立っている。もしくは人事として目を付けているのがいるんじゃない? 」


「あー。もー。何なのこれ。こんなのが続くのー。いますよ! 悪さの証拠の尻尾は、全く掴めていません。 怪しいというだけです」


「ふーん。 誰? 」

「上級役員 シャヤク・メトワ ですね」


「具体的な内容は? 」

「少し長くなりますよ」


「構わないわ。 知っていることを話してちょうだい」


諦めて自白するローラさん。 入口近くのソファに腰を下ろす。 セレンが徐に給湯室に向かう。 おそらくお茶を煎れるのだろう。 


お茶はないが、ローラさんが話始める。

「イシュタル帝国は、イシュタル大陸を制圧するために、大陸内で多くの戦いを強いられてきました。 制圧するにあたっては、特に先住民族への対応が問題になったんですが、当初は温情と融和を掲げ、帝国臣民となれば土地保有の権利を与えるものでした」


給湯室から物音がし始める。 が、2名はあまり気にしていない。


「しかし、帝国勢力が拡大するに従い、征服した土地への入植者も徐々に増加していったんですが、その中で入植者に対する反発から、現地民による入植者への大量虐殺が起こってしまったんです」


「あり得そうな話ね」


「いくつかの入植コロニーが、先住民族によって壊滅させられて、従来の融和主義から排除主義に変わったところから潮目が変わってきました。


確かに過激な民族もいましたが、多く住民は融和的政策に従っていました。しかし、そのような部落まで攻撃を加えるようになったんです。


我々に属し土地を明け渡せと。 そして、彼らには新しい土地が用意され、強制的な移住が行われました。


特に酷かったのが、ラクシュミ地区と言われるイシュタル大陸の西側になり、“ラクシュミ捕囚”と言われています。 そして、あぶれたものが、このティエンフーに配置されることになる。 ティエンフーのここまでの人口爆発は、その影響もあるんです」


「……」


「もちろん反発はありましたが、ウェヌス(金星)最強の部隊です。 歯が立つわけもなく少数民族の規模は、イシュタル大陸の各都市に分散され縮小されていきました。


そうして広大な土地が余る訳で、その土地に帝国は、臣民を再度入植させるわけです」


「民族浄化――」


「ええ。 結果、多くの少数民族が消えることになりました。 さらに闇が深いのは、入植の際の土地に関連した“新天地開発計画”に かなりの金と人が動いたことが、一時問題になりました」


「お金はわかるけど、人? 」


「少数民族の人身売買です。といっても、人身売買に関しては推測の域ですが。情報が闇の中で全く分からないのが実情です」


「……」

土着住民の排除後の略奪の際にはよく起こりそうな問題だ。


実際、マールス(火星)でも大きな都市以外のコミュニティーレベルであれば、度々起きている問題でもある。


「その時の“新天地開発計画”に上級役員のメトワが出てきます。 メトワはアーサ・ブカブ社の力を使って多数の土地開発を成功させ、我が社の発展の一助になったと聞いています」


「気持ちの良いものではないのはわかるけど。 排除する意味はあるの? 会社は潤っているのでしょう? 」


「そうなんですけどー。 問題は、土地からの収益が、メトワにも入っているところなんですよ」


「収益? 」


「ええ。地代はそのままアーサ・ブカブ社に入るのではなく、一旦、上級役員配下の土地開発会社を経由して入る仕組みになっています。 簡単に言えば中抜きですかね。


それが発生しているんです。 その資金の力が強くて、取締り役会も四苦八苦らしいです」


「へーとなると、これを出したのは、社内でそのメトワを疎ましく思っている奴からメッセージなの? 」


「うーん。 どうでしょう? 」

「なに社内の派閥抗争を手伝えって話? 」


サナエさんの機嫌が悪くなる。 会社の活動に勧善懲悪を求める気もないが、内部のごたごたに付き合えは別である。 そんなのは関係者にまかせれば良いだけの話。


しかし、ローラさんは、サナエさんの派閥抗争の指摘にを否定する。

「間接的にはそうなりますね。 でも指示は、貴族の方ですよね」

「ああ、確かに」


「その上級役員が仲良くしている貴族さんですが、宰相派なんです」

聞きなれない言葉が出て来る。


「何よ。宰相派って? 」


「いまイシュタル帝国の最終意思決定は皇帝になるのですが、次期皇帝候補に宰相のサハリ候 と 皇太子のタンバレイン太子 がいるんです」


「皇太子が、後を継ぐんじゃないの? 」


「他の惑星はそうかもしれませんが、イシュタル帝国は血縁にはこだわらないのです。有能なものが次期皇帝を継ぐのが常道で、次期皇帝も投票で決められるのです。


そしてアーサ・ブカブ社は皇太子派についているんです」


「そこまでは知らなかった。アーサ・ブカブは皇太子を推しているのに勝手に宰相を推されては困ると? 」


「です。メトワの勝手な行動で会社の地位も危うくなる可能性があります。 帝国はどっちつかず相手への信頼は最も低くなりますので」


「面倒くさいわねー取り敢えず、上級役員と貴族をぶっ飛ばせばいいの? 」


「それも少し違う感じですね。 どちらかと言うと社会的に抹殺することが目的ですね」


(なんかこの娘えぐいこと言っているわね)


ローラは続ける。

「悪事に手を染めていいても、やはり権力をもっていますからね。 安易に暗殺しても面倒ごとが増えるだけなんです。


生かしたまま、権力を奪うか、傀儡にしたいところですね。 だから“懲らしめる”という言葉を使っているのかもしれません。意味的には、表舞台からの排除ですかね」


「なるほどー弱みを握って、表舞台から引きずり降すのが目的ね。でっどうするの? 」

「まずは、現状の情報を整理して持ってきます。明日までお待ちください」


彼女の執務室からローラが出ていく。


『企業が金を掛ける以上、完全な正義とはいかないですが、やりますか? 恐らく闇の部分に触れることになりますよ? 』


「仕方ないでしょう。タツマの為よ」

『それにしては、ちゃんと思いを伝えてないですよねー』


「そ……そういうのは、男からでしょう! だいたいリングまで、はめておいて一言もないのは、おかしいでしょう! 」


『まぁ。彼も男性ばかりの中でしたし――何気に照れ屋ですからね』


「こっちの気持ちも知っているのに、答えないのが余計に頭にくるのよ! それに気絶間際のあんな告白認めないから! 」


『両方ともシャイなのが、困ったさんですね』

「何か言った? 」


サナエさんがセレンを睨みつける。


『いいえ。で? これから何をするんですか』


「ローラからの情報が挙がってくるまでは何もしないわ。引き続き研究よ。そっちが本業だしね」


『了解です』


サナエさんは、端末に向かい始め作業を開始する。 広い執務室の中には端末を操作する音だけが響く。




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