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「私も混ざりたい~!!」
世界の狭間に来て早々、シキにそう叫ばれた。四人仲良く並んで寝ているのを見ていたらしい。
屋内は見えないって前に言ってた気がするんだけど………あの部屋の窓大きいから、シキなら見ようと思えば見られるのか。良い月夜だからってカーテン閉めなかったし。
「何あれ羨ましい!私も引っ付きたい!」
「じゃあ俺が引っ付きます、えい!」
「ふぇ?鬱陶しいって言わないの?でも嬉しいからこのままにしておこ~。珍しいね、どしたの?」
今日のファウストは完全に子ども返りしてるから。甘えさせてあげて。
「………何かあったんだね。」
「あぁ、今日はかなり濃い一日だった。長話になるぞ。」
「シキ、そろそろ離してくれない?」
「やだ。」
「俺も嫌です。」
「何故俺まで………」
俺達は現在、ヒューから話を聞いたシキにまとめて抱きしめられている。三人同時は苦しいってば。
「私もカズマ君見たら………嫌でも親友を思い出すもの。狭間から見るのと実際に会うのじゃ全然違うねぇ。」
「シキの世界のカズ兄と親友なんだ。」
「そういうことにしとくよぉ。もう二度と会えないし。」
そう話すシキの声色はいつになく優しくて、寂しげだった。
………二度と会えない、か。
今まで聞いた話やシキの言い方からの想像だけど、会えないというのは親友とだけじゃないと思う。多分、シキの世界はもう。
「あ~………おっさん、来るタイミング悪かった?もうちょっといちゃついてていいわよ?」
あれ、ソテルさん。どうしてここに?
「いらっしゃ~い!折角だから、一緒にいちゃいちゃしよ~?」
「その返事は想定外だったわ………」
シキとソテルさんはノリが似てると思ってたけど、シキの方が変人度は上だったらしい。
「今日は君達にお願いがあってねぇ、仮面の兄ちゃんにこの時間に来るよう言われたの。話、聞いてもらえる?できればユウト君、君にお願いしたいことだ。」
先程までと同一人物とは思えない、真剣な表情だ。つられてこちらの背筋も伸びる。
「元テメノス内の住人達を守る手伝いをしてほしい。このままじゃ、悪い連中に良いように使われそうでね。
君には「ファウスト」として上層部と話すことを頼みたい。それと、できればテメノスの住人達に基本的人権の重要性も教えてほしい。」
あー、騙されちゃうってこと?でもなんで俺?
「テメノスの住人達、「そっちが襲って来なければいい」くらいしか言わないのよ。不平等な、穴のある契約をよくわからずに結んじゃうかもしれない。今は直接接触させないようにしてるけど、時間の問題だ。」
「平和に生活出来ればいいじゃないですか。好きに使える場所と水場くらいは欲しいですけど、他に何かいります?」
………成程、少なくともファウストじゃ駄目そうだ。
今のファウストの発言がテメノスの住人の考えなんだろう。向こうが敵対さえしないなら、あとは自分達で勝手に生活する、できると思っている。
あの中は自分を守るための力や知恵は必要だったけど、基本的には誰がどこで何をしても良かったから。必要なことは自分達で何とかしてきた。
テメノスの外は、おそらくもっと俺の世界に近い社会システム。新しい土地を使うにも許可がいるだろうし、お金も必要だろう。戸籍とかも必要かもしれない。
テメノスの中に住んでいた人達は、そういうことを知らない人がほとんどなんだと思う。実際、ファウストはお金の概念を知らなかったってカズ兄が言ってた。
根本的な考え方が違うし常識も知らないから、よくわからないうちに良いように利用される可能性がある。それはわかるんだけど。
「でも、俺も異世界の人間ですよ?そっちの法律も常識も知らないし、自分の世界でも学生です。力不足ですよ。」
「それがわかっているだけでも十分よ。ファウスト君はさっきの発言的に無理だろうし、ヒューバート君とユウト君ならおそらくユウト君の世界の方が社会制度はこちらに近い。」
まぁ、確かにヒューの国よりは社会制度進んでるか。国のあり方だけならテルミニシアは中世ヨーロッパだし。
「あ、勿論君一人に何かやらせるつもりじゃないよ。あと何人かの住人と一緒に、所長やおっさんに協力して欲しいの。下手に言質を取られるとまずい、っていう危機感があるとないとじゃ大違いなのよ。
あんの役人共、「当事者の意見を聞くべきだ」とかそれっぽく言っちゃって、言いくるめやすいだけだろ。ったく………」
「………ソテル殿、相当怒っているな。先のジュリア嬢くらいには魔力が乱れているぞ。」
「そんなに?」
俺には怒りの程度まではわからないが、ソテルさんはさっきから眉間の皺を擦りまくっている。赤くなってますよ。
本当に、心から怒ってくれてるんだな。今までちょっと胡散臭いとか思っててごめんなさい。
「事情はわかりました。ヒュー、ファウスト、結晶の調査任せていい?」
「ユウト一人で行くのは駄目です!無茶しないように俺が見張ります!」
「何だよ見張るって、無茶なんかしないよ。」
「そんなこと言って、大トカゲに燃やされかけてたの忘れてないんですからね!!」
ファウストが俺の腕をぎゅうっと掴んで睨み付けてくる。手首と足首くらいしか焼けてなかったんだけど、ファウスト視点だと結構な衝撃映像だったのかな、あれ。
「そうだな。こちらは俺だけでも充分だろう、ファウストも行ってこい。しばらくの間、ユウトを頼む。」
「はい!ユウトは俺が守ります!!」
そう言って、ふんすふんすと鼻息を荒げる。自分の世界のことより、俺を守るということに対してやる気満々なのはどうなんだろう。
………見張ってなきゃいけないと思われていることについては納得いかないけど、ファウストがちょっとでも暮らしやすい世界になるように、俺にできることがあるのなら。よし、俺も俄然やる気出てきた。
「室長は俺達を調査の主戦力にはしないと言っていた。抜けても問題はないはずだ。
ファウストだけでなく、あの村の者達のためにも必要なことだ。ついでに向こうの結晶の様子も知らせてくれ。手が空いたら俺もそちらに合流する。」
「ありがとう、しばらくそっちは頼むなヒュー。」
「………一旦、ストップ。」
?
「頼んでおいてなんだけどさぁ、君達そんなにほいほい人の頼み事聞いてちゃ駄目よ?嫌だったらちゃんと断んなさいよ?特にユウト君。」
「え、また俺名指し?」
「君あれでしょ、頼まれたらとりあえず全部引き受けるタイプでしょ。」
あー………否定できないかも。もし頼まれた事そのものが無理でも、頼ってくれたんだから何かしらしなきゃって思っちゃうんだよね。
「若いからって、体力も気力も無限じゃないんだからね?
んじゃ改めて聞くよ、協力お願いしてもほんとに大丈夫?」
………今、日本には榊原一家がいて、テルミニシアでの調査にはヒューとローレンさん、元討伐部隊が参加してくれる。俺がいなくても誰かに極端な負担はかからない、よね。
「大丈夫です、行きます。
ファウスト、行く時は一応身体を交代してからにしていい?」
「そうですね、俺もその方が良いと思います。」
「身体を、交代?」
あ、ソテルさんはまだ知らないのか。
「俺達、身体入れ替われるんです。俺としてユウトに来てほしいなら、見た目は俺にしといた方が良いってことですよね?」
「あぁ、そういえばゲンさんがちらっとそんなこと言ってた気がするわ………
顔はほぼ同じだし、服装変えて髪を少しくるっとさせればいけるかと思ってたんだけど。」
「さすがにその程度じゃ誤魔化せないですよ………」
俺とファウストじゃ少し身長差があるし、大きめの上着で目立たないだけでファウストは俺と比べるとかなり細身で華奢。実は瞳の色も違う。
「後は大人の仕事、とか格好つけといて悪いね。
そういえば、ユウト君の世界は大丈夫なのかい、仮面君よ。」
「カズマ君の話では、あそこの術師集団が調査頑張ってくれるって。今の所はまだ何もないよ。何かあったらちゃんと知らせるから安心してね、ユウト君。」
「うん、お願いします。
そうだヒュー、國本さんのことも頼んでいい?帰るってなった時に俺がいなかったら、日本に帰してあげてほしいんだけど。」
「クニモト………あぁ、レイラ嬢か!わかった、そちらも任せておけ。」
テルミニシアであと俺がやっとかないといけないこと、何かあったかな………あれ?
「どうしたのファウスト、まだ何か心配なことある?」
「いえ、その、えと………自分の世界のことなのに、俺何の役にも立ててないなぁって思って………今までもヒューとユウトに助けてもらってばっかりですし………」
「そうかな。」
テメノスの仕掛け突破の時はファウストがMVPだったじゃん。俺とか走り回っただけだよ、踊り子衣装で。
「テメノスの外では強いだけじゃ駄目だって、もっと勉強しないと嫌なことされても抵抗できないよって、ソテルさんに言われたんです。」
「厳しいこと言うようだけど事実だからねぇ。
少年にならおっさんがいくらでも勉強教えてあげるけど、今はちょっと急ぎなのよ。知恵つけないうちに話を進めちゃおうとでも思ってんだろうが、そうはさせないってね。」
口調は軽いままだけど、だんだんソテルさんが格好良く見えてきた。第一印象とのギャップのせい?
「ん?な~によ、おっさんに惚れちゃった?火傷するわよ?」
「はい、格好良いと思います。」
「おぅふ………純粋さがおっさんの汚れた心に突き刺さる………」
ふざけてなければ、だけどね。
「じゃあ、明日行けばいいですか?向こうの人への説明の時間は欲しいんですけど。」
「そんなにすぐじゃなくていいよ、そっちの都合もあるでしょ。リングを見せればおっさんのトコに連絡が来る手筈になってるから、いつでも来てちょーだい。ま、早い方が嬉しいけどね。」
「リング?」
「明日ユウトにも見せます。」
「何で明日………あそっか、今の君達は魂だけで、身体は寝てるんだっけ。寝間着姿とかにはならないのね。」
そういえば気にしたことなかったけど、ここでの俺はいつも白の長袖シャツに紺のズボン。高校の制服だな。
ヒューは魔導士のローブで、ファウストは最近もらったという新しい服。少し前までは裏地にワイヤー仕込んでたあの上着だった。
「自分が一番馴染みのある姿になるみたいだよ~。事例が少ないから理由とかは知らないけど。具体的にイメージしやすいからかなぁ?」
ヒューがたまにここで使っている懐中時計も、あくまでヒューの想像の産物らしい。いつも持っているものだからここでも持っていられるのだそうだ。
イメージだから正確とは限らないよ、と言うのでシキにその時計を見せてみると、しばらく自分の計測器と見比べて、「正確過ぎてヒューバート君が怖い」と返された。
「じゃあ少年、おっさんがあげた服気に入ってくれてるの?嬉しいねぇ~。」
「軽いし丈夫だしうるさくないし、気に入ってます!コウも居心地良いって言ってましたよ。」
前の上着は動くとカサカサ音がするタイプだったからね。隠れての行動が得意なファウストとは相性が悪かった。
「そういえば、コウのこと忘れてました。ヨシチカさんに預けてるんですけど、あんまり放っておくと多分拗ねちゃいます。」
「コウと義親さんは仲良くやってるんだね。良かっ」
ピピピピピピピピピ………
!?
「な、何の音ですか!?」
シキはここで世界同士の距離測ってるって言ってたし………もしかしてまた世界が近づいてる!?
「はいはい、今止めるよぉ~………ぽちっ。」
シキが浮いている機械の一つに触れると、すぐに音は止まった。シキとソテルさんには特に焦る様子がない。
「なんか今回短くなぁい?」
「だってソテルさんしょっちゅう来るんだもん、短めにしといたんだよぅ。今のペースでここ来てたら、そのうち廃人になっちゃうよ?いくら魔力操作が上手くても、魔力量は上の下くらいなんだからね?」
「廃………軽いテンションで恐ろしいこと言わないでよ仮面君、おっさんビビりなのよ?」
「だってほんとだも~ん。」
本当なら余計軽いテンションじゃ駄目だろ。
でも、とりあえず緊急事態とかではなさそうだ。
「大丈夫だよ皆、これただのタイマー。うっかり喋り続けないように設定したの。そろそろ帰ろうか。」
「りょーかい。確かにおっさん、ちょっとしんどくなってきたわ。ん?ヒューバート君どした?………あぁそれは知ってる、大丈夫よ。
そうだ、ユウト君に協力頼むことはカズマ君とシヅルちゃん通じてアキツグ君?にも伝えてあるからね。本人が引き受けるなら、安全確保した上で連れてって~って言われた。」
ん?その口振りだと、静流さんとは直接話したのかな。
「ソテルさん、シヅルさんとも会ったんですか?」
「今日の昼間、ちょ~っとだけね。
魔力が知られてないのにあの技術力、すごいよねぇ。落ち着いたらあの世界にも行ってみたいもんだ。」
「とりあえずカズマ君とシヅルさんで、交互にここに来ることにするってさ。」
良かった、静流さんもちゃんとここに来られたみたいだな。二人交代でここに来られるなら、それぞれの負担も減らせる。
………あれ、ヒューはソテルさんに何を言ったんだ?俺の痛覚が鈍い件とかかな。
「はー、おっさんそろそろ限界かも、帰るわ。ファウスト君、ユウト君、来るのは都合がついたらで良いからね。」
「あ、はい、わかりました。」
「俺達も帰ろう。シキも疲れているようだ。」
「今日は魔導具を何度も使ったからちょっとねぇ。じゃあお開きってことで。また明日~。」
シキが彼方に消えて行くのは久々に見たな。………いつもどこに行ってるんだろ。




