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暑い。重い。苦しい。
何だこれ、絶対布団の重さじゃない。
「ぐ………げほっ!死ぬ!!」
「おはよう、ユウト君。よく眠れたかい?」
「………この状態でよく眠れたと思いますか。眠れましたけど。」
「それは良かった。」
俺の腹にはヒューの脚、首にはヒューの腕が乗り、ヒューがいるのと反対側の腕はファウストに抱きしめられていた。なんで俺が二人に挟まれてるんだよ、俺とヒューでファウスト挟んで寝ただろ。
一緒に寝ても良いとは言ったけどさ、8月だよ?真夏だよ?魔法の空調があるとはいえ、さすがに暑苦しいわ。
「よい、しょっと。ファウストが外れない………おはようございます、ハロルドさん。」
「助けてあげられなくてすまないね。離そうとはしたんだけど、ファウスト君の握力がすごくて。ヒューは何度戻してもそうなるし。
おや、ファウスト君も起きたかな?」
「んん………嫌ですぅ………」
何が。
「ん~?あ、おあよ、ござます。」
「おはよ。とりあえず腕放してくれる?」
「ふぇ?………わ、指の形に跡ついてますね。これ俺がやったんですか?すみません………」
コンコンガチャッ
「ユウト様っ!ヒュー様いらっしゃいます、か………?」
あ、ステラだ。ノックから扉開くまでに0.1秒もなかったよ、今。
緊迫したステラの表情が、部屋の中を見た途端にするすると抜けていく。
大方、寝起きが一番手強いヒューを最初に起こしに行ったらベッドがもぬけの殻で、慌てて他の皆の部屋を確認して回っていたんだろう。朝からお騒がせしました。
「おはよう、ステラ。」
「おはようございますぅ………何ですかこの状況。ハロルド様が弟ハーレムしたい、とかおっしゃったんですかね?」
「成程、私なら言いそうだね。」
弟ハーレムって何。
「また異世界に消えたのかと思いましたよぅ………昨日からヒュー様の部屋前の護衛いなくなってますし………」
そうなんだ?仕事が早いな、侯爵様。
「すみません、俺が昨日寝られなくて、ユウト達に一緒に寝てもらってたんです。」
「いえ、何事もないなら良かったですよぅ。身支度はそれぞれの部屋でなさいますよね?」
「ああ、そのつもりだが………ヒューはまだ起きないよね。」
「もうしばらく放置でいいと思いますぅ。ユウト様はひとまずヒュー様のお部屋でお召し物を」
「いや………今、起きた。おい、あの話はもう、したのか?」
「ヒュー様がご自分で起きた!?」
そんな、某車椅子少女が立ったみたいなリアクションしなくても。
「あの話って何だい?」
「えっと、対策本部の人達にも説明したいので、その時に一緒に聞いてもらえますか?」
「わかった、二度手間になるものね。………こらヒュー、二度寝しない。」
「………ええ、大丈夫よ。あなた達はいつでも抜けられるように組んであるわ。討伐の時もいきなりユウト君がファウスト君になっちゃったし。」
「その節はご迷惑おかけしました………」
「ファウスト君が頑張ってくれたから問題なかったわよ。
だから今回も大丈夫。強いて言うなら、調査の途中で抜けられるよりはじめからいない方がこちらの調整はし易いわね。」
「だったら、俺達はこの後すぐに行きますね。」
集合場所に集まった対策本部のメンバーに事情を説明した所だが、想像以上にあっさりOKされた。ちなみに侯爵様は用事があってここにはおらず、フレデリック王子とニールさんもまだ参加できないらしい。
「俺の世界のことで迷惑かけて、すみません………」
「あなたは私達に協力してくれてるじゃない、気にする必要ないわ。そもそもファウスト君のせいってわけじゃないんだし。
こういう事態に対応するのが私みたいな上司の仕事、どうとでもするから安心なさい。ヒューバートの実験申請の方がよっぽど心臓に悪いわ。」
研究室メンバーとハロルドさんは心当たりがあるのだろう、各人各様に納得の様相を呈している。俺はまだヒューの本気の大暴走は見ていないらしいから、相当なんだろうな。
「本当に突然行動しますからね、副室長………」
「弁明は、出来んな。いつも付き合わせてすまん、イアン。」
「謝るくらいならやめてあげなさいよ。っていうか、私への謝罪はないわけ?」
「………そういえば副室長、僕とも普通に話して下さるようになりました、よね。その、僕、ずっと避けられてるのかと思ってたんですけど………」
それ、俺も思ってたんだよな。俺が見た記憶ではほとんど手帳とメモの受け渡ししかしていなかった。
「それは、まぁ、避けていた、から、な………」
気まずそうにイアンから目を逸らしたヒューの声がどんどん小さくなっていくのに伴って、イアンの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「え………あああの、僕、何かしちゃってました?クビですか?えと、すみませんでした!解雇なら速やかにこの場を去りますけど、あの、その、僕は魔導しか取り柄がないので、魔導士組合での仕事干したりはしないでいただければ」
「待て待て待てどうしてそうなった。いや、俺のせいか?辞めたいというなら、残念だが………やはり俺のような変人の補佐は負担だったか………?」
「いえ、そんなことないですやり甲斐あって楽しいですし基本的に副室長お優しいですし!でもやっぱり僕ごときじゃ邪魔になってしまいますしすみません今まで僕なんかをそばに置いて下さってありがとうございました」
「待て待て待て、邪魔だと感じたことなど一度もないし解雇するつもりも今はないから………おい、泣くな!落ち着け!」
イアンの超絶ネガティブスイッチが入ってしまったらしい。息継ぎもなく喋り続けながら、どんどん悪い方へ想像を膨らませているようだ。一旦悪い方に考えちゃうと止まらないんだよね、わかる。
「今はってことはいずれはするつもりなんだぁ………」
「違う!!お互いの事情が変わって解雇という形で別れることにする可能性はあるから、明言しないために一応「今」とつけておいただけでだな、俺はお前がいないと困るんだ!」
わたわたと手を動かして必死にフォローしているヒューが可哀想になってきた。
「その………あまり親しげにすると、相手に迷惑だと思っていたんだ。俺と近しいということは、周囲には避けられるということだから。」
「………そんな風に考えていたのか、ヒュー。」
二人の会話を見守っていたハロルドさんが眉尻を下げる。
ヒューは何だかんだ人に気を遣うタイプだ。親しくなりたいと思う相手であればある程、その人を困らせたくなくて近づけなかったのだろう。俺も似たような理由で脇坂夫妻やカズ兄と距離を取っていた時期がある。
「そんなの気にしなくていーのにー!研究室なんて元々変人集団なんだから!」
「アディラ、それ自分が変人だって名乗ってるようなもんだぞ?」
「変人で何が悪いの?周りへの迷惑はちゃんと考えてるよ?」
「………副室長、少しはこいつの図太さを見習ってもいいと思うぞ。少しだけな。」
さすがアディラさん、ダイヤモンドメンタル。
「あれ、でも俺とは初めて会った時からいっぱい話してくれましたよね?ユウトとも。」
「異世界の人間には俺の事情なんて関係ないからな。あの時は好奇心の方が勝っていたというのもある。
………だがあれ以降、人と関わる抵抗感はかなり薄れた。そういう意味では、あの暴発事故にも感謝している。」
それは良かった。俺も皆に会えたという意味では感謝してるよ。死ぬほど痛かったけど。
「それにしても、俺は解雇した者の仕事を干すような人間だと思われているのか………?」
「大丈夫よヒューバート、それはイアンが今重度のネガティブモードなだけ。たまにこうなるのよね、この子。いじめ加減の見極めが難しくて。」
いじめ加減とは?まずいじめないでください?
何だろう、最近になって突然俺達の事情とか明かされて、心労かけちゃってたのかな。異世界の話は国家機密扱いになってるらしいし。
ネガティブ期は誰にでもにもあると思うけど、ここまでだと日常生活に支障が出そうだ。
「ぐずっ………ずみまぜ………」
「いや、その………あんなメモ書きのような指示書から俺の意図をよく汲んでくれて、本当にとても助かっている、から。お前さえよければ、これからもよろしく頼む、イアン。」
「はいっ………!」
少し気まずそうに目を逸らして毛先をくるくる弄るヒューと、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃなままへにゃりと笑うイアン。相性が良いような悪いような、何とも言えない絶妙なデコボコ具合で噛み合ってるよなこの二人。
「………あ、そういえば。」
「あらファウスト君。他にも何かあるの?」
「ユウト、忘れないうちに身体交代しときましょう。」
はっ、そうだった!
「いきますよ!」
ぱちん、と互いの右手を合わせて入れ替わる。
俺達は最近、入れ替わる時の合図を色々模索中だ。今は暫定的にハイタッチをしている。
「これでよし、と。」
「ユウト、腕のやつは俺が持ってていいですか?」
「うん、これどうやって外すの?」
「こことここの、二つの出っ張りを一緒に押すんです。着ける時はこう、腕に当てたら勝手に固定されます。」
意外と簡単だな………ん?
「あー、もう、入れ替わってるのか?」
「喋り方を変えてるわけでは、ないんですよね………?」
「しっかり中身が入れ替わっているぞ。」
あぁ、説明はしたけど目の前で入れ替わるのは初めてか。見た目じゃわかんないよね。
「むちゃくちゃっすね、魔導隊長………達?」
「確かに、三人ともむちゃくちゃだな。」
ひどくない?好きでこうなったわけじゃないんだよ?
「ユウト、右腕のがソテルさんの言ってたリングです。結晶の方の穴に着いたら、近くの人に見せてください。ソテルさんを呼んでもらえます。」
「これだね。」
銀色で、ダミアさんが着けていたのとほぼ同じもの………うわ、魔力通したら画面が出てきた。
「あとは………入り口近くにイースがよくいるんですけど、こう、手を出してきたら同じように合わせてください。じゃないと、俺の偽者だと思われてもう一回戦い仕掛けられるかもしれません。」
そう言って拳をこちらに突き出してきた。あれか、フィストバンプってやつか。
とりあえずファウストと拳を合わせてみる。
「こんな感じ?ってかイースって誰?」
「あ、名前言ってなかったですね。俺の世界のハロルドさんとカズマさんです。
仲良くなってから初めてされた時、とりあえず手を開いて出したらしょんぼりされて。挨拶らしいです。」
「あの世界の私にも会ったのかい?」
「はい、すっごい無口なんですよ。」
ハロルドさんもカズ兄もどちらかといえばお喋りだから、無口って想像できないな。
「何かとすぐに踊りだすんですけど、イースが住んでた所ではそれも言葉の一部だって言ってました。」
「踊………?」
真顔で激しく踊るカズ兄を想像してしまった。
多分そうじゃない。
今から行くのはテメノスの外だけど、中は中で文化も言語もめちゃくちゃだからな………覚悟だけはしておこう。
「俺も一緒ですから、まずいことになりそうだったらユウトは俺が助けます!だから大丈夫です!」
「ありがとう、よろしくな。」
「こちらの調査が一段落したら、俺もそちらに向かう。いつも通り、連絡は夢で取ろう。気を付けるんだぞユウト、ファウスト。」
「はい!頑張りましょうね、ユウト!」
「あんまり自信はないけど………うん、頑張るよ。
皆さん、こちらの調査はお願いします。あっちの用事が早く終われば戻ってくるつもりなので。」
「行ってらっしゃ~い、気をつけてね~!」
「お別れムードの所悪いけれど、私達も今から結晶の調査に行くんだからそこまでは一緒なのよ?」
あ………
ヒューが張った多重結界の一番内側の縁、穴まで約十数mの所までやってきた。
ちなみに、道中出た魔物は全て瞬殺だった。さすが元魔物討伐部隊。
「じゃあ改めて。行ってらっしゃい、二人とも。」
「はい、行ってき」
「アールシュ、下がれ!」
「隊長っ!!」
!?
「全員、退避だっ!ぐ………っ」
突然、穴の方向に強い力で引っ張られる。
ほとんどのメンバーは周りの木や岩に掴まれたが、穴の一番近くにいて掴まるものがなかったアールシュと、それを助けようと飛び出した………名前忘れた。元不良Cが吸い込まれそうだ。
………アールシュは剣、元不良Cは槍を地面に突き立てて何とか耐えているが、それでもあれだけ進むのか。このまま世界の狭間に放り出されたら二人が危ない。シキがいるとは限らないし。
「ヒュー!あの二人、狭間行っただけでもまずい!?」
「少しの間ならおそらく問題ないが!?」
「それ、目安何分!?」
「む………5分程度は確実に大丈夫だ!」
だったら………!
木に掴まっていた手を放す。穴まで2mをきっている二人をひっ掴み、吸い込まれる勢いのまま穴に飛び込んだ。
「あぁっ、俺の槍!何するんすかファウストさ………違ぇ、これユウトさんだ!」
「二人とも落ち着いて、自分の魔力を意識的に感知しててね。
………まだ結構引っ張られるなぁ。戻るのは厳しそうだから、一旦ファウストの世界に行こう。ここには長居できないんだ。ここで俺とはぐれたら多分死んじゃうから、手は離さないでね。」
「死っ………!まじすか!」
だからって抱きつかれても困るよ。
シキは………こんな時に限っていないな。危なかった。
二人だけで放り出されるよりは、俺が捕まえて一緒にどこかの世界に入る方が生存率が高いと思ったんだけど、この先はどうしようか………。
ストックが切れるので失踪します。
ここまでご覧くださり、ありがとうございました。




