65 元討伐隊員side 調査準備中
~女性寮~
「ねーねー、セシリア!やっと本物の副室長と喋れたね!ちゃんと普通の男の子だったね!」
「その言い方は失礼ですよ、アディラ。
………ですが、そうですね。極度の人嫌いと伺っていましたが、あまりそうは見えませんでした。」
「それに、ユウト君とファウスト君もかわいかったー!特に副室長のこと話してる時のファウスト君、お兄ちゃん自慢してる弟みたいでさ!
ユウト君もかわいかったけど、もう少ししっかり者な雰囲気だったかな?あの子が前衛隊の四人を悪い笑顔であしらってたなんて思えないよ。コーディのことぶん投げてたから間違いないんだろうけど。」
「それぞれ性格は違うようでしたけど、並ぶと本当に兄弟のようですよね。それなのに、表情や仕草は少しずつ違って。魂は同じでも別の人、と室長が仰っていたのがよくわかります。」
「二人とも、副室長に似てるの顔だけだったもんねー。そもそも私、副室長があんなに喋ってるの初めて見たから性格よくわかんないかも。
セシリアの方が私よりここに勤めて長いじゃん?セシリアから見てどう?あの二人、性格も副室長に似てる?」
「どうでしょう………
あの事故以前だと一度だけ、副室長にお声をかけていただいたことがあります。落として散らばってしまった書類を魔法でまとめて拾っていただいたのですが、その時は、その………少し、ぶっきらぼうな印象で。今日の副室長とは全然違って驚いていたんです。ですから私も、副室長のことは何も知らないのだと思います。」
「そっかぁ。ま、直接喋ってくれるようになったみたいだし、これから仲良くなろ!ファウスト君ともね!」
「アディラ、随分ファウスト君のことを気に入ってますね?」
「だってかわいいんだもん!ユウト君の後ろにひっついてたのとか、うちの甥っ子思い出しちゃう。」
「副室長より少し若い、というか、幼い印象でしたね。異世界の同一人物とは言っても、産まれる時期が同じとは限らないとハロルド様も仰ってました。ハロルド様の同一人物は半年程年上だったとか。」
「だよねー、不思議だなぁ。
あの二人の世界には、私達の同一人物もいるんだよね?私より若かったり、年取ってたりするのかな?会ってみたくない?」
「………副室長みたいな大怪我しないと会えないなら、私は遠慮したいです。アディラも見たでしょう?バラバラになる寸前だった副室長の姿………」
「あー………うん、あれはさすがに死んだと思ったよね………
でもほら、ハロルド様は大怪我してないけど、異世界の自分に会ってるよ?魔力が多い人なら、異世界行けるかもなんでしょ?」
「そうでしたね。異世界との往き来はかなり危険だそうですが、もし会えたら楽しそうです。
………別の世界のマークは少し見てみたいですし。」
「え~、そこでマークの名前出てくる~?お熱いねぇ!」
「あ、ちが、あのっ、今のは………忘れてくださいっ………!」
~男性寮~
「イアン、これも入れとけ。ロープは何かと使えるから、持ってて損はねぇぞ。」
「ありがとうございますグレンさん。
野外での調査はあまり経験がないので、お二人が手伝ってくださってとても助かります。」
「そういや、イアンは研究員じゃなくてあくまでも副室長の助手だったよな。副室長、滅多に外行きそうにねぇしなぁ。」
「そうなのか。確かに、研究員にしては若いと思っていたが………」
「マークさんには言ってませんでしたっけ。
僕、学費の関係で学園は初等科までしか通ってなくて。でも魔術は好きだったし、魔力量にも恵まれましたので、学園の教授達の所で雑用仕事させてもらってたんです。そしたら室長に、面倒見てほしいのがいるって誘われました。」
「それが副室長だったってわけか。
………実際、副室長ってどんなやつなんだ?今日見た様子と、俺らが知ってる副室長が違い過ぎてよ。」
「えーと………僕も正直よくわかりません。普段は副室長から指示を書いたメモが渡されて、僕はそれに従うだけでしたから。あとはこちらから予定とか連絡事項を一方的に話すか、メモにして渡すかですかね。」
「助手とも喋らないのかあの人………」
「でも時々、頼まれた仕事を終えて戻ってくると机に『助かった、ありがとう』ってメモが置いてあったり、『休め』ってメモと一緒にお茶とお菓子が置いてあったりするんです。優しい人ですよ。」
「………直接言えよってツッコミはおいとくとして、まぁ悪いやつじゃないのは間違いなさそうだな。」
「そこは俺も同意見だが………メモや報告書の添削以外だと、廊下を走っていく副室長くらいしか知らないものでな………イメージが定まらない。」
「実験したいって暴走してないと、人前で部屋から出ることありませんでしたからね。そうか、皆さんが見る副室長って大抵暴走中なのか………」
「今日の様子見てると、思ってたより普通のやつだったな。むしろ周りに振り回されてるような。」
「というより、兄君が意外と曲者だった気がします。」
「それは、確かにな………
以前仕事で来られた時のハロルド様はもっと、貴公子然とした凛々しい雰囲気でおられたのだが………」
「まぁ副室長が魔術に関しちゃ頼りになるのは間違いないし、人柄はこれからちょっとずつ知っていきゃいいだろ。異世界の二人のことも。」
「そうですね………ユウトさんは何となく副室長に似てると思いますよ。そんなにたくさん話したわけでは、ないんですが………」
「そういやユウトってやつ、イアンにだけ「おととい会ったね」とか言ってたな。あいつ、一昨日もここ来てたのか?」
「はい。えっと………まだ調査中なので子細は伏せますが、ユウトさんは軍支給の剣でドラゴンのブレスを斬った、らしいです。」
「「はぁ!?」」
「おいおい………そんな芸当、金級冒険者でも上位一握りくらいしかできねぇだろ………」
「さらっと無茶苦茶なことをやってのけるあたり、副室長っぽいな、と。
ユウトさんはそれで足首と腕に酷い火傷を負ったり、副室長も転移を連発して脳疲労で倒れたりしてました。無理をする所も似てますね。」
「あの人の行動が無茶苦茶なのは、魂の性なのか………?」
「まぁ、行動が少しアレなだけで、基本的には全員素直なお人好しって感じだな。
………いや、ファウストは討伐で容赦の無さも見てるから何とも言えねぇか。何の躊躇いもなく無表情でリザードの眼球抉ってたからなあいつ。」
「あとの二人も、ただのお人好しではないだろう。ユウト殿は前衛隊の四人をまとめて相手していたんだし、副室長にも『死の影』なんて異名があるんだぞ。」
「何ですかその物騒な異名!?僕初めて聞いたんですけど!?」
「あー………とにかく、副室長に関してはまだまだ知らない部分だらけってことはわかったな。
今日は兄貴と異世界の自分達がいたからか副室長の年相応な所も見られて、副室長には悪いが正直面白かったぜ。」
「面白がってたらさすがに怒られそうですが………
………いずれ僕にもああいう風に接してくれたらいいな、なんて、不出来な部下の身で思うのは我が儘でしょうか………」
「うん?イアン、最後何つった?」
「いえ何でもありません独り言です。………えっと、あ、準備!明日の準備、進めましょう!」
ばたばたばた………
「………副室長もだが、イアンも大概人付き合いに奥手過ぎるよなぁ。不出来なんかじゃねぇっつの。」
「しっかり聞こえてたんじゃないか、グレン………」
~武器・装備保管庫~
「あれ………」
「どうしたんだ?」
「いや、なんか、防具がきつくなった気が………」
「太ったんじゃねぇか~?」
「なら鍛練のメニューを増やすか、ヘイズ?」
「うわ隊長!太ったのは俺じゃないっす、デックっすよ!」
「ラッセルか………それは太ったのではない。ここ最近、目に見えて筋力が上がっている。」
「そ、そうですか?………へへっ、隊長にそう言ってもらえると自信持てますね。」
「自主トレーニングを増やしたのか。無理な鍛練は身体を痛めるぞ。」
「いえ、以前ヒュー隊長に………初めて会った日だから、あの時はユウトさんだったんでしたか。効率的な筋力トレーニングの方法教えてもらったんですよ。運動そのものじゃなくてやるタイミングとか、筋肉育てる食事とか。」
「食事………タイミング………」
「はい。そんなんで筋力上がるならやるだけやってみるか、くらいの気持ちで試してみてたんですけど、想像してたより効きますよこれ。トレーニング量も少しずつ増やせるようになってきてます。」
「何だよそれ、俺はそんなの聞いてないぞ!?デックだけずりぃ!」
「お前も何か教わってただろ?違うこと言われたのか?」
「俺か?俺はあの時、肩の可動域を広げる運動ってのを教えてもらったぜ!
騙されたと思ってとりあえず毎日やっとけって言われたからやってるけど………やり方うろ覚えだからちょっと自信ない。次会った日にもう一回教えてくれって頼んだら、そんなの知らないって言われたし。」
「そりゃそん時はもうファウストさんになってたはずだからな。」
「………。」
「隊長?あ、隊長にも教えるっすから拗ねないでくださいよ!………いだだだだ」
「うわ出た隊長のアイアンクロー」
「拗ねてなどいない。
………ラッセル、お前の身軽さは強みだが、実戦では攻撃の軽さが課題だった。ヘイズは筋力に問題はないが、柔軟性が足りない。」
「! それって………」
「何だよデック?どういうことだよ。」
「俺がそれにはっきり気づけたのは討伐が始まってからだったのだが、ユウトはあの時の組み手だけでそれを見抜いた上、助言までしていたということだ。」
「やっぱとんでもないな、ユウトさん………。
しかもヒュー隊長と魂が同じってことは、魔力量もとんでもないってことですよね?最強じゃん。」
「魔法は使えないと言っていたが、戦闘で頼りになるのは間違いないだろう。彼がこの世界にいるうちに、できるだけ彼の技術や知識を教わっておきたいものだ。」
「頼んだら普通に教えてくれそうですよね。………空いてる時間に指導をお願いしてみるかな。」
「俺も!俺も知りたい!」
「………熱心なのはいいが、ユウトの迷惑にならん程度にな。」
「ファウストさんとも久々に組み手したいですね。思ってたより小柄だったし年下だったしで驚きましたけど、あれであんだけ戦えるんだもんなぁ。」
「な、ユウトさんとファウストさんの組み手も見てみたくねぇ?それも一緒に頼んでみようぜ!」
「………さっきも言ったが、迷惑にならん程度にな。」
「いいじゃないすか、隊長だって見たくてウズウズしてるくせに………いだだだだ」




