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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
第1章 悪役転生の舞台は、まさかの母親の夢小説!

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第6話 タグも認める『欲しがり義妹』の必殺技、毒キノコ!?


 ぷきゅぎゅぎゅぅぅーーーん!


 甲高い妙な音を響かせながら、毒キノコは扉に激突した。

 かと思いきや、音もなく吸い込まれた。


「へっ!?」


 素っ頓狂な声が漏れ出たわたしは、スローイングの格好のままポカンと口を開ける。そんなわたしの反応に、小窓を塞ぐ手を止めた使用人が、怪訝な視線をチラリと向けてきた。


「何をしてるの!? 早くなさい!」


 苛立つお母様の声に両肩を跳ねさせて、慌てて使用人が金槌を振り上げる。もう半分ほど板に打ち込まれている釘は、すぐに完全に打ち終えられちゃう!

 そう思えたけれど、釘はポロリと抜け落ちた。


「何やってるの!? さっさとおやり! こんな性悪にはキツイ仕置きが必要なんだから!! 」


 お母様の金切り声に、微かに首を傾げていた使用人は、慌てて釘を手にして作業を再開する。

 唯一の光源となる小窓を塞がれたら、地下に在る懲罰室は完全な黒一色に染まる。そんな恐ろしい環境に、まだうら若い娘を押し込むなんてやり過ぎだ。前世記憶があって、年齢プラスアルファの落ち着きのあるわたしだって、耐えられない!


 お義姉(ねえ)さまを守らなきゃ!!


 虐げられるヒロインは、おかあさんの書いたウェブ小説『キミウタ』の既定路線だ。だから、その世界観を無視してセラシアを守ろうとするのは原作を逸脱する行為なんだと思う。

 けど今更なのよ。だって、今のわたしはタグも認める『欲しがり義妹』! 我儘なルチルなんだもの!


 わたしに都合の良い展開を願う我儘をしたって、問題ないわ!!


 思った瞬間、再び小窓を塞ぐ板から、打ち込まれていた釘がポロポロと抜け落ちた。今度はひとつでなく、すっかり頭まで打ち込んだものも全て。

 金槌を構えたままの使用人が、足元で軽い音を立てて転がる釘の数々を呆然と見詰める。


 ごとん


 次いで大きく鈍い音がすると、使用人が板を添えた扉が、こちらに傾いで来た。


 どうやら、この懲罰室は、一時的に開口部を塞ぐ()()を拒否しだしたらしい。わたしの願いを聞き入れて。ここまでくると今目の前で起きている現象が偶然ではなく、超常現象の類だと、居合わせた一同は理解せざるを得ない。


「何なのぉぉぉお!? お前はっ! 腹立たしいっ!! 精霊力も持たぬ、役立たずではなかったの!?」

「えっ……!? あの、わたくし……えっ? えっ?」


 半狂乱のお母様と、突然思い掛けない方向に大きく開いた扉の前で、狼狽えるお義姉(ねえ)さま。使用人が取り敢えず間口を塞ごうとしても、扉は重さ以上の力を発揮して、床に張り付いて動こうとしない。

 理由は分からないけど、状況がルチルの我儘を叶えてくれようとしてる千載一遇のチャンスよね!


「お母様、これはお義姉(ねえ)さまの精霊力がもたらした現象なんですよ!」


 だから、そんなセラシアを虐げるなんてとんでもないと続ければ、精霊信仰の篤い、このヒュアツィンテ王国民であるお母様は怯んだ。


「えっ? えぇっ!? わたくしがっ?」


 相変わらずお義姉さまはキョドって居るけど、ここは謙遜せずに、わたしの話に乗って欲しいところよ。


「ですわよね、お義姉さまっ!」


 笑顔に圧を乗せてセラシアを見遣れば、倒れた扉の上で、さっき投げ付けた黄色い毒キノコが円を描いて飛び跳ね、陽気に伸縮していた。「ひゃっ」と、あらぬ声が出る異常さだ。けど誰もその姿に気付いていないのか、わたしに全員からの怪訝な視線が集中する。


 え? もしかして、今のってわたしのキノコのせい?


 そんな考えもチラリと過ったけれど、『キミハナ』にルチルが得体の知れない毒キノコを使うなんて設定は無かったし。とにかく今を切り抜けられれば良いやと、気付かなかったことにした。







 セラシアは、使用不能になった懲罰室から出されて、自室謹慎となった。使用人と変わらない、光源の乏しい狭い一室だけれど、あの暗くジメジメした所に押し込められるよりはマシだろう。


 そう、毒キノコが生えちゃうくらい湿っぽい部屋と比べれば——


「って、なんでわたしの部屋に毒キノコが生えてるのよっ!?」


 危機を脱した安堵でぐったりしながら、自室の扉を開けたわたしの目に飛び込んだのは、あの黄色い毒キノコだった。しかも、窓際に置かれた花瓶の大量の薔薇と共に、部屋奥の大窓から燦々と降り注ぐ日光で照らし出されて、どこかドラマチックな陰影を纏っている。


「ルチルお嬢様? 毒キノコ、とは?」


 背後に控えていた侍女が怪訝な表情で室内を見渡しているが、真正面に居座る毒キノコの辺りを視線が素通りしているから、やっぱり今回も見えていないのだろう。


「疲れたから……ちょっと一人にしてくれない?」


 声を掛けて、侍女が出て行った室内の扉を完全に閉める。すると待ち構えていたように、真正面の毒キノコが悠然とこちらを振り返った。




『礼が、欲しいにょ。ぱわぱわ乙女』

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