第53話 わたしの我儘は、まだまだこれから先の未来に繋がって行くんだから!【最終話】
これにて本編完結です!
「アイスなんて作れますわよ?」
結果、セラシアはその場であっさりと即答してくれた。
もしかして、ラファエルには分かっていたのかもしれない。セラシアに聞くことによってアイスが異世界に行かなくても用意できるようになるって。そしたら、わたしが異世界行きを考え無くなるようになると考えて、わざと聞かせたのかしら?
――うん。有り得る。
傍にピタリと寄り添って立つラファエルを見れば、とても良い笑顔が返って来た。
勇者の眼、万能すぎるわね。
「けど冷蔵庫が無いですわよね? 冷やしつつ、延々かき混ぜなきゃいけませんから」
セラシアが、うーんと首を捻る。確かに、この世界には原始的な氷室はあっても、冷蔵庫はお目に掛ったことは無い。けど、神にも等しい奇跡の御業を起こせる精霊ならワンチャンあるかも?
「キノちゃん、出来る?」
『れーぞぉこ、を、つくるにゃ? 無理にょ』
あっさり断られた。けど待って、このパターンは以前に経験があるわ。猟犬の撃退を試みようとした、あの時のすれ違いよ。キノちゃんたちは、とんでもない力があるからこそ、言葉を思い掛けない方向で受け取ることがあるのよね。
「じゃなくて、冷え冷えに出来る? 長ーい時間。この小さい器の中だけ」
「お安い御用にゃ!」
聞き方を変えれば、やっぱり答えが変わって来た。わたしの精霊との付き合い方も、ちゃんと進歩しているみたいで嬉しいわ。
「よかったね、ルチル」
「ええ、ラフィー。アイスが出来たら、皆で木苺ジャムをたっぷり乗せたアイスを、一緒に食べましょうね!」
「うん、一緒に。――約束、できて良かった」
急に、ラフィーがガクリと項垂れた。膝を突くような不調を示す様子ではないけれど、何かとんでもなく脱力している原因が分からなくて、狼狽えることしかできない。
「ラフィー? ラフィー、大丈夫?」
「うん。うん……もっと、僕の名を呼んで?」
「え? はぁ? ラフィー?」
「良いなぁ。ルチルがそうやって僕の名を色んな調子で呼んでくれるの」
「ちょ、ラフィー⁉ 体調が悪い訳じゃ無いのね!」
むっと唇を尖らせれば、心底嬉し気に破顔したラファエルが両頬をむにりと包み込んで来る。
「次の約束を繋げられて、心底ほっとしたんだ。不安でどうしようもなかったから、安心したら力が抜けちゃっただけ」
いつもの隙の無い天使の微笑じゃなく、ほんの少し眉尻を下げた笑顔を浮かべたラファエルだ。初めて見る隙のある表情に、癒されるだけじゃなく、護りたい思いまでが込み上げて来る。
「ラフィーのそんな顔初めて見たわ」
「ルチルが側にいてくれるからだよ」
言いながら、頬を挟んだ両手を放す気配はない。
「ねえ、ルチル。これからも、一緒にいてくれる?」
囁く声音はとことん甘くて、特別な意味が込められているのは、鈍いわたしでも察することが出来るほどで。けど、この体勢で正解を踏んだら、わたしの心臓が保たないのも確実で。
けど、嘘は良くないよね。
うん、女は度胸よ。 “ ▓▓▓ ” だった前世を含めたら、わたしの年齢は軽くラファエルの倍は行ってるんだから、ここで怯む訳にはいかないわ!
決意して、大きく息を吸い込んで――
天使の顔面が、視界を覆った。
「――――っ!!!」
「ごめん、ルチル。返事を待ちきれなかった。けど、絶対に手放す気は無いから。ずっと一緒だよ」
勇者の眼の文様を光らせて微笑を浮かべたラファエルは、いつも通りの腹黒傍若無人天使に戻っている。
唇に残った柔らかな感触は、いつかの額に残った感触よりも、ずっと長いこと留まることは間違いない。だって、ルチルとして生きてきて、ここまで心臓が跳ねて踊って、バックバクいう経験なんてっ、初めてなんだからーーー!
「ラフィー! ちゃんと一緒にいるって言いたかったのに! 待ちなさいよ!!」
「待たないよ。僕だってルチルには負けないくらい、我儘なんだから」
ラファエルと先の約束を交わしてゆく。
穏やかじゃなく、賑やかで予想外の連続だけれど、こんな日々が平穏以上の幸せにつながるのかもしいれない。
思い通りじゃないからこそ、甘くて、面白くて、楽しい。
わがままが、わたしたちを幸せにする。
わたしの我儘は、まだまだこれから先の未来に繋がって行くんだから!
◇◇◇
「ねえ、キノちゃん。僕の言葉が分かったら、お願いをひとつ聞いて欲しいんだ」
ルチルがセラシアからアイスの作り方を聞いている。その間に、こっそりとキノちゃんに加減をした極上の笑顔を作って向ければ、嬉し気にこちらに近付いて来た。
キノちゃんは、僕がこれまで懸命に作り上げた、人の心を捉える『笑顔』や『振る舞い』に価値を感じるらしく、ソレを向けるとこうして嬉し気に側に寄って来てくれる。
ルチルには「精霊にキラキラの素を振る舞うのは、礼は返してくれるからラフィーの為にはなるけど。夢中になりすぎた精霊が取り過ぎると、ラフィーの害になっちゃうから気を付けてね」と注意をされている。けれど、今回はルチルからキノちゃんを引き離してお願いが出来る希少な機会だ。逃すことは出来ない。
目の前に浮かんだキノちゃんは、口をパクパク動かしてはいるけれど、やっぱり僕にはルチルの様に彼らの言葉を聞くことは出来ないみたいだ。
だから、これから僕が話す内容は、ちゃんと彼らに伝わる物なのかは分からない。けど、どうしても言っておきたいんだ。
「アイスの国へ行くことは無くなって、その力が残ることになったと思うんだけど……。その力は、取っておいて欲しいんだ。僕とルチルがこの世界で天寿を全うした後、生まれ変わることが在ったら、きっと同じ世界になるように魂を運んで欲しい――」
伝わっているのか、キノちゃんは柄を逸らしてく大きく笠を振り、そのままクルクル回って光る胞子を振り撒き出した。パクパクと口を動かしているあたり、歌い踊っているのかもしれない。
久し振りに僕から『キラキラの素』をあげたから、純粋に喜んでいる可能性の方が大きい気はする。けど。
「聞こえていなくても構わないんだ。凄い力のある、素敵な小さいレディに、お願い出来た事実が、僕にとってなによりのお守りになるから」
「聞いてくれて、ありがとう」
希望を携えることが出来たなら、どんな困難でも立ち向かえると思うから。
最後の我儘が、僕のものになることを信じて。
わがままで可愛い君と未来へ行こう。
わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~
― 完 ―
完結までお付き合いくださり、ありがとうございました!
ここまでお読みくださったあなたに、大きな感謝を込めて⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
このあと、閑話が2話続きます。




