第52話 にょっきり黄金に輝く超巨大毒キノコ! 精霊は使うモノではありません
親子の会話としては短かすぎる言葉の交流だけれど、視線を交わしたお陰で言葉以上に通じるものがあったらしい。
この父子も大概交流が足りていないわ。うちも、まぁ大概だけど。
再び沸き上がる苛立ちに、現父、元父に鋭めな視線を送っておく。揃ってわたしを蚊帳の外にしつつ話し合いをしていたとは、ちょっと後で一言言わないと気が済まないもの。
わたしに苦笑を向けた国王が、話を再開する。
「ただの町娘や貴族令嬢なら、簡単に事は済ませられたのだがな。セラシア嬢から、ルチル・グランフィルドもまた精霊使いと聞いた」
不穏すぎる一言だ。王族のラファエルを幽閉し続けた国王が、秘匿したい王子に関わり過ぎた『ただの町娘や貴族令嬢』をどうするか。幽閉ならまだ良いけれど、下手をすると、わたしが回避に奔走した断罪並みの災難が、再び襲い掛かる危機だったのかもしれないわね。セラシアの言葉で思い止まってくれたのは有り難い。
けど、これだけは言っておかないといけないわ。
「精霊は、使いません」
『礼にゃ。礼返しにょ』
精霊は、使役するモノではなく、感情を持った超常の存在だ。ファンタジーな神の領域の奇跡を起こす精霊を、人間が意のままに使うとするのは危険すぎる。だから解釈違いを強めに主張すれば、キノちゃんも頭上で国王の間違いに憤慨した声を上げる。
途端、光り輝く巨大キノコが、会議テーブルの中央からニョッキリ姿を表した。
全員の視線を釘付けにする、黄金の胞子振り撒く5歳児サイズの毒キノコは、どうやらこの場に集う全ての立場の人達にもしっかり見えているらしい。
毒キノコを囲む席に着いた面々は勿論、部屋の隅でひっそり空気と化していた騎士までが「ひっ」「き、茸⁉」などと揃って驚愕の声を上げている。
『キラキラ乙女にくっついてる子も力が入ったみたいにゃ』
「だからって、お義姉さまの時はお花が多いのに、なんでわたしの時はいつも毒キノコなのよぉ」
『失礼にゃ! 木苺も出来るにょっ!!』
キノちゃんが宣言するや、目の前の超巨大輝く胞子振り撒く毒キノコは、一瞬で四散して消え失せる。弾け飛んだ毒キノコは、千々の光の欠片となって部屋中の壁に貼り付き、黄金に光る蔓に変化して生い茂り、真っ赤な木苺の実を付ける。
「う、うむ……。確かに、その力……凄まじいな」
相変わらずキノちゃんの姿は、勇者の眼を持つラファエル以外には見えていない様だ。わたしの頭上に視線が来ない事にはホッとする。
けれど、キラキラ大増量で力を増したセラシアに侍る精霊らの力は甚大で、誰もが目にすることの出来る異変を引き起こしている。
結果として、わたしと、エリオッツは、それぞれがグランフィルド以外の公爵家の養子となる事が告げられた。王国を支える三大公爵家の力の均衡を取るためだとか、政治的な配慮を加味しての決定らしいけれど、わたしはそれに従うことにした。
力を認められたわたしの現状、異を唱えることも出来るだろうし、異世界へ去る事だって出来る。
けれどわたしは、ここに留まることにした。再会した家族や、新たな家族、そしてルチルとして新たな関係を結びたいと思う相手――ラファエルとの日々を続けたいと思ったから。
今回の決定は、希求した『平穏』を即座に手に入れるものじゃない。心に深く根付いて切り捨てられなくなっていた、平穏ではないけれど心が温かい『ラファエルと共に過ごす日常』を続けるための布石だ。
ここから先、ルチルの人生はまだまだ続くはず。
だってわたしはまだ王都礼法学園の四年生で、15歳でしかないんだから。この先の人生がどう転がっていくかなんて分からない。
10代の若者が辿る人生が、どんな結果を生むのか、花開くのか、夢破れて新たな道を探すのか……。そんなこと、どの世界であっても見通すことなんて不可能に決まっていて、生きる限り延々足掻き続けることは同じでしかない訳で。
だから、わたしは決めた。
より良い未来を掴み取るために、今信じられる掛け替えのない人たちと寄り添い、手を取り合ってこの先の未来を切り拓いて行こうって。
そしてわたしは、養子となった公爵家の名でラファエルの婚約者となり、わたしたち以外で最も精霊との付き合いに慣れたエリオッツは、宰相の元で王子二人を支える修行を始めることになった。
見えない未来に、誰もが希望をもって自らの足で歩み始める。
おかあさんや、お父さん。お母様に、お父様。そしてラファエルと、キノちゃん。
手を貸し、背中を押し、時に寄り添って共に進んでくれる掛け替えのない存在。それは、見えない未来の安定よりも、ずっと得難いものなんじゃないだろうか。
おかあさんの夢小説に書かれていた『わがまま義妹ルチル』の運命は、断罪される概要が付いていたっけ。
けどごめんね、実際の娘のわたしはルチルよりもっと我儘で、おかあさんの作りたかった物語通りに生きることなんて出来ないの。
思春期をこじらせて、お父さんとぶつかりまくった娘は、今もまだ変わらず親の希望に沿う気は無くって、まだまだ思い通りの未来を掴みに奔走するつもりよ。
わがまま義妹ルチルは、これからも我儘を続けるわ!
勇者の眼を持つラファエルには、わたしよりもちょっと遠い未来が見えてはいるみたいだけれど――。
その彼が、会合が終わるなりわたしにふと思い付いたみたいに言い出したのよ。
「アイスの件、セラシア嬢にも相談してみたらどうかな? ルチルは、キノちゃんにお礼返しでアイスをあげたいんだよね。けど異世界へ行く手段はとっておきたい……と。なら同じ別世界を知ってるセラシアが、いい知恵を持っているかもしれないよ」
わたしの異世界行きを嫌がって、闇落ちまで仕掛けた当人が、どんな風の吹き回しか異世界の話題を自ら口にするなんてね?




