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わがまま義妹ルチルの悪役離脱計画!~転生先は、おかあさんの夢小説~  作者: 弥生 知枝(やよい ちえ)
第3章 小説から覚める時――今世の家族と前世の家族

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第44話 アイスがもたらす大騒動。天使と精霊の新たな一面⁉


 木苺ジャムよりも、天使の笑顔が一番甘い。




 そんな、とんでもない事実に気付いて「ひゅ」と息を呑む。


 何かの見間違えかと、大きく目を見開いて硬直していれば、柔らかな金髪に彩られた超高偏差値顔面が笑みを深め、甘くてトロトロ纏わり付く水飴よりも、更に強烈な粘度をもって気持ちを絡め取りに来る。


 ヤバいと慄く気持ちに反して、こちらを惹き付けて止まない吸引力は、流石ヒーローだ。けれど、ここで腹黒天使の表面に絆されれば、折角手に入れかけている脅威回避後の『平凡平穏』を投げ捨てる結果になるに決まっている。


 だって、この美麗天使は、Web原作ヒーローで、断罪王子で、勇者の眼を引き継いだ正当なる王子様なんだから。

 そんなスペシャル要素モリモリの相手と関わって、平坦無難な人生が送れるわけがないし。


「逃げるしかないわね」

「え? 世界中どこにいても見付けだすけど」


 ポツリと呟けば、嘗ての勇者と同じ太陽の紋を瞳に輝かせて、ラファエルが即答する。いつか感じた「天使の執着」を再び実感する日が来るとは思わなかった。しかも世界規模で逃げ場を塞がれるなんてヤバすぎる……。


『アイスも付けるにゃ』


 慄くわたしの気持ちなどお構いなしで、キノちゃんは更にリクエストを追加して来る。こちらは傍若無人とは別ベクトルで我が道を往く、無敵な精霊ね。

 って、待って? 今、キノちゃん何て言った?


「キノちゃん? アイス……って、公爵家のわたしでも食べたことないんだけど。この世界にはアイスがあるの?」

『無いにょ。けど今回はキラキラがいーーーーーーっぱい溜まったから、 “ ▓▓▓ ” の世界から取り寄せられるにゃ』


 んんんん???

 何か今、とんでもないことを聞いた気がするんですけどぉぉぉお⁉


「取り寄せられるってどう云うこと!? 向こうの世界の誰かが、運んできてくれるってこと?」

『そんなわけないにょ』


 言いながら、キノちゃんは目の前にふわりと浮かび上がって「エヘン」と柄を逸らす。


『わっちらが自分で運ぶにゃ。前に行ったのは、向こうの世界に行ってたキラキラ乙女たちの魂を、迎えに行く時だったにょ。

 その時に、最初のキラキラ乙女がくれた力を使い切ったから、アイスを食べるのは久し振りにゃー』


 キラキラを溜めた精霊の力が凄すぎるわ!

 プロペラを生やして変化するだけじゃなく、世界を「おかあさん」の小説に沿うよう誘導したり、とんでもない力だとは思ってたけど!


「まさか、そこまでだなんて……」

「小さなレディは、何て? 僕には聞こえないけど、なんとなく嫌な予感がするのは気のせいかな」


 呟くわたしの視界に、ラファエルが割り込んでくる。いつも通りの穏やかな声に、衝撃の事実に思考を占領されていたわたしは、彼の表情を完全に見落としていた。


「ラフィー……。キノちゃんって、ラフィー以上に見た目詐欺だったみたい。想像以上に凄い存在なのかもしれないわ。異世界転生や、異世界転移まで出来ちゃうみたい……。向こうに戻れば、アイスや平穏な自由が、やっと手に入るかも」


 転生転移は、ファンタジー小説の『神』のみに許される領域だと思っていた。だからこそ、信じられない想いと、感動で、つい口走ってしまったのだけれど――


「――は?」


 思いがけなく低い、地を這う声が頭上から降って来た。

 近すぎる位置からの想像もしなかった声に、反射的にその発生源を仰ぎ見れば、天使から微笑の仮面が剥がれ落ちている。


 え? 何? わたし、何かとんでもない地雷でも踏んだ?


 駆け寄って来たエリオッツが、ラファエルを見て青ざめながら必死でわたしにジェスチャーを送ってるけど、意味が分かんないし。

 何? サムズアップが指ハートになって、万歳から大きく外に腕を広げて平泳ぎ??


 いやそれよりラファエルの無表情が!

 怖い、怖い怖いこわいっ! 怖いからぁぁっ!


「ルチル、君の平穏に、僕の居場所は――無いの?」


 狼狽えるわたしとエリオッツを余所に、瞳から光の消えたラファエルが悪夢に魘される様に言葉を漏らす。その声に、抑揚は無い。

 視線は、ぴたりとわたしに合っているはずなのに、二つの眼孔は光を吸い込む虚無の深淵にしか見えなくて。


 闇落ち


 そんな言葉が脳裏を掠める。


「ら、ららららららら……ラフィーさん?」


 慌てて呼び掛けたけど! これって、ヤバい展開じゃないんでしょうか、原作者様(おかあさん)っ⁉

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