第42話 創造不振(スランプ)! みんなを闇獣から助ける強くて優しいお花とは?
セラシアが綺麗だ――そう言う精霊達には、激しく同意だ。それでも、そこから受け取ったキラキラパワーの使いどころに関しては、全く同意出来ないのよ。
「お花なら、みんなを闇獣から助ける強くて優しいお花を咲かせて!」
勢い込んで捲し立てる。突然会話に割り込まれた精霊達が驚いたのはもちろん、近くに居たラファエルもギョッとさせてしまったが仕方ない。緊急事態なのよ。
『小さくて可愛いお花いっぱいは?』
『鮮やかな色のお花は?』
『柔らかくてフワフワなお花は?』
口々に守りにも攻撃にもならない花が咲いた可能性を匂わせる精霊達には、やはり任せなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「そんなのちっとも良くないわ! わたしの考えが一番なんだから、よく聞いてっ」
『わがままー』
『みがってー』
『じこちゅー』
ひときわ声を大きく張り上げたわたしに、精霊たちがわいわい騒ぎ立てるけど気にしない。だって、わたしは『我儘欲しがり義妹ルチル』なんだもの!
そしてわたしの夢見て創造する我儘は、わたしにだけ与えられた世界を救う力。だから、堂々と押し通すわ!!
「わたしたちに、闇獣からの脅威が無くなれば、とっても平穏な気持ちになって、生き生きして、嬉しくなって、もぉっとキラキラな気持ちが溢れるのよ」
両手に持った毒キノコを、マイクみたいに顔の前に掲げて周囲に溢れる精霊達に大声で伝える。
『『『『『それって素敵!!』』』』』
何体もの精霊の声がシンクロする。
その間にも、闇獣の壁は、わたしたちより先に学園内に青々と葉を茂らせた樹々に触れ、それらの生気を根こそぎ奪って迫り来る。
けれど我儘に振り切ったわたしには、不安なんてない。
「わたしなら、きっと出来るんだから!」
「精霊さんたち、一緒に思い浮かべましょう。この世界がキラキラな光に溢れる景色を。そしたら一緒に創れるわ、闇獣からの脅威の無い世界を! 我儘いっぱいに!」
我が儘、利己的、独善的。
それがわたしの本質ならそれで良い。そんなわたしだからこそ、出来ることをするまでだから。
『『『『 きゃっ ひゃぁーー! 』』』』
闇獣の群れが、押し寄せる。
『『『『素敵なキラキラいーっぱいにするよぉーー』』』』
わたしを囲むキノコ型精霊が声を揃え、セラシアの周囲に溢れる光の粒にしか見えない精霊らまでもが、同調して全身を弾ませる。
「ルチル!」
凛とした呼び掛けに振り向けば、天使の風貌に、らしくない「心配」の二文字を貼り付けたラファエルの顔が、視界いっぱいに飛び込んで来た。
「わたしなら、大丈夫よ!」
「聞けない」
わたし史上最高に凛々しく上げた声を、即座に否定した傍若無人天使だ。更には、わたしの言葉をまるっと無視し、大きく広げた両腕で横から両肩を抱え込む。
「ひゃっ⁉」
「ルチルは、ここで護られていて?」
「へ? ここ――って、天使様の腕の中?」
突然の天使の奇行に思考が停止して、間の抜けた言葉が零れる。間近に美麗天使、目の前には闇獣が群れ成す壁。そんな中の抱擁拘束。
何コレ⁉ どんな状況⁉
顔に集まる熱を意識するよりも、危機迫る状況に気が急く。けれど身体は、ラファエルの密着ホールドのせいで自由に動かせない。両手に持った毒キノコ精霊を投げようとしていたわたしの動きは、完全に封じられてしまった。
何とか首を巡らせて、ラファエルの表情を見上げれば、黄金に輝き始めた眼差しを闇獣の群れに向けて、瞳に太陽の文様を現し始めた集中モードだ。お姫様を守る騎士を想像せずにはいられない勇敢な佇まいに、浮かれた鼓動が胸の中で鳴り響く。
「って! わたしはヒロインじゃなければ、か弱くもないの。平穏無事安定のために創造して、キノちゃんたちの力で利己的に望みを叶える、おかあさんの物語とは一味違う存在。ラブ&ピースな、わがまま義妹ルチルよ!」
だから自由に動かせて、と両手に握り締めた毒キノコをブンブン振り回せば、ようやくラファエルが驚きの視線を向けて来る。
「一世一代のわがままなんだから、間違いなく、ちゃんと伝えたいの。ちゃんと伝えなきゃ、伝わらないの!」
精霊たちは、イメージを共有すれば何より心強い味方になってくれる。そうでなければ、とんでもなくバラバラな現象に変換されるだけ。それを伝えたつもりなのに。
「見えなかった勝ち筋が、君に見えるなんて——ルチルって、こんな時まで……本当に面白いよね」
何故かラファエルは、能力の発動を意味する太陽の模様が浮かび上がった瞳をわたしに向けて、場違いな言葉を繰り返す。
「面白いルチルは、何をする気かな?」
「ラフィ!? こんな時にまでふざけてないで! キノちゃんたちの、力を借りるの!」
「へぇ、面白そうだね」
危機迫る状況での軽口。頭の痛くなりそうな状況だけれど、ラファエルからの拘束は解かれて、両腕は自由に動かせるようになった。
ピタリと身半分寄り添った距離感は変わっていないけど、緊急事態だもの贅沢は言ってられない。
「キノちゃん! 精霊さんたち! みんなを闇獣から助ける強くて優しいお花で、世界を包むわよ!」
数は居る。目の前の闇獣たちはひと塊になって迫る。彼らの触れた場所は、美しさ瑞々しさのキラメキも、生命力も奪いつくされてしまうから、触れられるわけにはいかない。けど同じ精霊同士ならば、易々と生命力を奪われずに共存しているのだ。
だから、精霊たちに闇獣たちを押し遣ってもらう。そんな漠然としたイメージ。
目の前で、精霊たちが形を変え始める。
けれど、キノコから桜に、ヒマワリに、ユリにと、次々に姿を変えて行く精霊たちは長く伸びたり縮んだりと、形を定めず不安定に変化し続ける。
「ううっ、わたしの想像が固まっていないせいでっ」
呟く間にも闇獣が迫り、同時に焦る気持ちが押し寄せるから益々形が定まらない。精霊たちも歪に形を変えながら『どうする?』『こっち? それともこっち?』と困惑の声を上げ続けている。
何も、創造出来ないかも知れない!
ひやりと背筋が寒くなり、胃の底がズシンと重く沈んで唇をきつく噛み締めた。




