第41話 闇獣跋扈! 最終兵器わがままルチル発進⁉
『 きぃ ひゃっ きゃ きゃきゃ 』
陽気に禍々しく戯ける闇獣らが、空中を我が物顔で飛び交い、ルチルとセラシアの元に集まる光の粒たちを蹴散らして、高笑いを放つ。
『 わ れ の も のぉぉー 』
『 キ ラ キ ラ あ げ な い 』
『 ひ と り じ め 』
陽気に紡がれる言葉は、どれもが身勝手なものばかり。どの精霊よりも多くキラキラの素を取り込んで、自我と能力をひたすら求めた利己的な存在だからこそ、闇獣に堕ちてしまったモノたちだ——当然と言えば当然なのだけれど、我儘を自認するわたしでも、彼らの身勝手な言葉には醜悪さを感じる。
気付けば、精霊の言葉を聞けないはずの、ラファエルをはじめ、セラシアたちまでもが眉を顰めていた。
どうやら、貪欲にキラキラの素を集めた闇獣らの姿や声は、教師はもちろん、この場に居合わせた全ての人たちにハッキリと伝わっているみたいだ。
『恩知らずが集まって来てるにょ。多すぎるにゃっ』
キノちゃんが頭をブルブル激しく震わせて胞子……いや、光の粉を振り撒く。すると、仄かな光でしかなかったものはそれぞれがキノちゃんとお揃いの黄色い毒キノコ……いや、キノコ型精霊の姿となってふわりと宙に舞う。
わたしの周囲は、あっという間に宙に浮かぶ黄色いキノコに包まれた。
「こっ……これって、まさか」
戦慄くわたしの脳裏に浮かぶのは、前世で観たロボットアニメの遠隔攻撃装置だ。いや、こちらのは何処からどう見ても毒キノコだけど。
『可愛いキノに任せるにゃ!』
言いながら、わたしの頭上に着地するのはどう云う意図? このまま頭上のキノちゃんに操られてロボットみたいに攻撃することになるのかしら?
シュールすぎる光景を想像して、振り払おうと素早く左右に首を振る。
『おっこちるにゃ! ひと休みさせるにゃ』
すかさず抗議の声が降って来た。
よかった。ただの休憩場所になっていただけみたいね。
「ルチル、大丈夫? ここは僕に任せて安全なところにいて欲しいんだけど」
「大丈夫、武者震いです!」
すかさず声を掛けて来たラファエルに向けて、勢い良く両拳を握って応えれば、天使な彼から「ぶふぉ」と有り得ない音が飛び出す。
「ふふっ、やっぱりルチルは面白いね」
「ソレって褒め言葉じゃないですよね」
「いいや? 最上級の賛辞だよ」
もう何度言われたか分からない馴染みのセリフだ。悪びれもなく、煌めく笑顔でサラリと放たれた攻撃力は高い。
くぅっ、コレだからメインヒーローはっ!
「面白い、が、乙女への称賛だと仰るなんて奇特なお方ですねー」
勝手に頬に上る熱を誤魔化すために、両頬をむにりと引っ張って視線を逸らす。
「誰にでも言う訳じゃないよ。ルチルは特別だから」
「んなっ」
不意打ちの追撃で、わたしのほっぺ引っ張りガードからポロリと両手が滑り落ちた。取り繕う言葉も出なくて、はくはくと唇を開け締めすることしかできない。
多分、真っ赤になった頬がノーガードで晒されているだろう。
けど……
見てしまった。いつもと寸分変わらない柔らかな微笑の形を取る天使の顔面。完璧に整えられた中に、ひっそりと隠れた瞳の奥の優しい光と、頬に微かに色付く薔薇色の気配を。
お父さんと良い、この人も大概のものだ——
「よく、不器用だって言われません?」
「面白い事を言うね。そんな事を言うのはルチルくらいだよ?」
「じゃあ、なんて言われるんですか?」
「完璧。天使。王子様」
前言撤回。この人は、お父さんとは全く違う。属性は似ているけれど、基盤が傍若無人腹黒天使なんだもの。生粋叩き上げの不器用男なお父さんとは、似て非なる高偏差値ヒーローだった。
『 きゃっ ひゃぁーー! 』
不器用でも甘い口撃の余韻に浸る間もなく、異形の叫びに意識が切り替わる。
一際強い奇声を上げた闇獣が、真っ直ぐセラシア向けて急降下してきた。それに呼応し、上空を漂っていた闇獣らまでもが、追随して彼女に群がろうと動き出す。
『 き ら き ら ぜ ん ぶ、 よ こ せー 』
身勝手な言葉を吐きながら、夥しい数の闇獣で形成された壁が迫り来る。
「させないんだから!!」
叫んで、真っ直ぐ伸ばした人差し指を、びしりと闇獣に向ける。無計画だけど、じっとしているつもりはない。とにかく何か攻撃手段を、と考えて目に留まったのは、わたしの周りに無数に浮かぶ毒キノコたちだった。だから、わたしは両手に一つづつそのキノコを引っ掴んで、投擲の姿勢を取ろうと身構えた。
セラシアは、周囲に漂う光の玉たちに視線を走らせると「今世でもきっと出来るはず」と呟いて、集中するように目を閉じ、大きく一度深呼吸した。
長く、力強い呼吸音がピタリと止んだ次の瞬間、静かに目を見開いたセラシアは、両腕を大きくゆるゆると動かし、迷いない足取りでステップを踏む。ゆっくりとした動きながら、凛として張り詰めた身の熟しは前世で観た巫女の神楽を彷彿させる。ふわり、ふわりと舞いながら、セラシアはかそけき声で歌を紡ぎ出した。
「天地に息衝き、草木に宿り、花虹に戯る精霊たちよ。我が意を叶え光り輝け。闇を誘い天へと還せ。混沌を祓い花咲かせ給え」
シャラン……
——と、聞こえないはずの神楽鈴の幻聴が脳内に響く。
舞い続けるセラシアは、神々しくも麗しい。溢れ出す美しさは、精霊らを喜ばせ強化するキラキラの素となる。
舞えば舞うほど、彼女の周囲にはキラキラ輝く光の粒が飛び交い、精霊たちのお喋りの花が咲く。
『綺麗ねー』
『礼返しも綺麗にするのー』
『お花かな』
『混沌祓いって言ったよ』
『お花も言ったよ』
『両方言ったね』
『じゃあ、好きな方〜』
「ちょおっと待ったぁ!!」
思わず精霊たちに割って入った。




